新生児マススクリーニングのコホート体制、支援体制、および精度向上に関する研究

文献情報

文献番号
201410004A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児マススクリーニングのコホート体制、支援体制、および精度向上に関する研究
課題番号
H26-健やか-指定-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
山口 清次(国立大学法人島根大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 重松 陽介(福井大学 医学部)
  • 原田正平((独法)国立成育医療研究センター研究所)
  • 松原洋一(国立成育医療研究センター)
  • 大浦敏博(東北大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 タンデムマス(TMS)スクリーニングが2014年度から全国に導入された。これを機に、スムーズな運用、従来の新生児マススクリーニング(NBS)で浮かび上がった特殊ミルク安定供給等の諸問題の解決、および次世代のNBSの在り方に関する提言を目的として研究を行った。
研究方法
 1)稀少疾患に対するコンサルテーション体制の構築:TMSスクリーニング対象疾患は超稀少疾患が多いため、陽性者が出ると現場では戸惑うこともある。中央にコンサルテーション窓口を設置して、必要に応じて専門家のネットワークにアクセスできる体制を作り、質問に対する回答をブラッシュアップした。
 2)TMS導入後の各地区の状況の調査:TMS導入後の各地区の課題を調査した。
 3)患者登録コホート体制の構築:従来、自治体から厚労省に年間患者数が報告されていた。これに加えて、研究班から患者登録、コホートに向けた調査体制を検討した。
 4)新しい診断指標の開発:偽陽性、偽陰性を減らすための疾患の診断指標を検討した。
 5)2次検査法の開発:NBS用の血液ろ紙を検体として代謝疾患マーカーを分離・定量分析する系を開発した。
 6)TMSスクリーニングのための精度管理体制の確立:技能試験(PT)と、精度試験(QC)を行う体制を作った。
 7)次世代のNBSの在り方に関する研究:海外で新たに検討されている対象疾患の情報収集、および次世代シーケンサのNBSへの応用について検討した。
 8)治療用特殊ミルクの安定供給に関する研究:諸外国の状況、わが国の状況を調査した。さらに特殊ミルクの安定供給体制の構築に必要な事柄について検討した。
結果と考察
 1)稀少疾患に対するコンサルテーション体制:TMSスクリーニングで陽性が出た時、全国のどこからでもアクセスできるコンサルテーション窓口を開設した(03-3376-2550)。1年目(平成26年度)113件の相談があり、対応マニュアル作成とその内容のブラッシュアップを進めた。
 2)TMS導入後の各地区の状況調査:主な問題点として、(1)精査機関の地理的な偏り、(2)メール等による連携体制構築上の問題、(3)特定の医療機関に特定の偽陽性例多発例の存在などが挙げられた。
 3)患者登録コホート体制:TMSで発見された患者についてICを省略できる疫学研究とした。悉皆性を優先して、必要最小限の調査項目を作り、自治体を対象とした調査、およびそれを受けて診断した医療機関への調査も開始した。
 4)新しい診断指標の開発:(C16+C18:1)/C2の診断指標を設定することによってCPT2欠損症の見逃しを著しく減らせることを明らかにした。
 5)2次検査法の開発:マルチモードクロマトグラフィーを用いて通常の系では判別が難しいアミノ酸類やアシルカルニチン類の異性体判別が可能な系を開発した。
 6)精度管理体制の確立:技能試験(PT)と、精度試験(QC)のための検体を作成した。年3回のPT試験、年1回のQC試験を行った。これにより全国検査機関の標準化と、自己チェックに役立つと思われる。
 7)次世代のNBSの在り方に関する研究:新しく検討すべき対象疾患として、海外では原発性免疫不全症やリソソーム病などが検討されている。また次世代シーケンサー(NGS)の応用も検討すべきである。NGSの1,070名分のゲノム参照パネルを用いて、変異予測ソフトによるPKUの保因者数から患者頻度を算出した。予測値は4.5万人に1人となり、実際のパイロットスタディーの結果の5.3万人に1人に近い値が得られた。同じ手法で頻度予測をすれば、NBSにおける偽陰性、偽陽性の頻度が予測できると思われる。
 8)治療用特殊ミルクの安定供給に関する研究:欧州では多くの国で特殊ミルクは公費負担か償還制度がとられている。さらに特殊ミルクの法的整備、成分の再検討、災害時等の危機管理体制も整備すべきである。
結論
 今年度の成果は以下のように要約される。(1)稀少疾患に対するコンサルテーション体制を構築した。(2)患者登録コホート体制の確立を目指しているが1年目の現時点の自治体参加率は41/47(87%)で、次年度は100%をめざし悉皆性のある体制をめざす。(3)乳児突然死の多いCPT2欠損症の見逃しの少ない診断指標を開発した。1次疾患にすべきである。(4)TMSスクリーニングのための精度管理体制の確立を目指し、PT検体、QC検体を作成して全国の検査機関を対象に動き始めた。(5)次世代のNBSの在り方として遺伝子検査、NGS導入も考慮すべき時期に来ている。(6)治療用特殊ミルクの安定供給について、欧州の多くの国では供給体制が確立している。さらに我が国では成人後の安定供給、大災害等における供給体制を用意する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201410004Z