結紮を必要としない微細縫合糸の開発に関する前臨床試験

文献情報

文献番号
201408009A
報告書区分
総括
研究課題名
結紮を必要としない微細縫合糸の開発に関する前臨床試験
課題番号
H25-医療機器-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小野 稔(東京大学医学部附属病院 心臓外科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐久間 一郎(東京大学大学院生体医工学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
冠動脈バイパス手術(CABG)は、虚血性心疾患に対する治療として重要な位置を占めており、本邦では年間約2万例行われている。本邦では、胸部正中切開での人工心肺を使用しない心拍動下CABGが主流であるが、欧米では小切開下手術やロボット手術なども実施されている。しかし冠動脈やグラフト血管は小口径で、血管吻合には高度の技術を要するため、小切開下狭小スペースや内視鏡下でCABGを行うのは困難を極める。低侵襲手術の利点としては、手術侵襲を軽減し日常生活への早期復帰を促進することが挙げられる。しかしながら技術的制約のためにCABGでは低侵襲手術が定着しにくい。われわれは、狭小スペースや内視鏡下での小口径血管吻合を簡便にする目的で、新しい冠動脈末梢側吻合用デバイスを開発した。
 我々が開発したデバイスは、市販のポリプロピレン糸の自由端に小さなステンレス製の固定具を圧着した単純な構造をしている。最大の利点は結紮を要さないことであり、連続吻合の後に固定具に設けられた溝に糸を滑り込ませて、持針器で固定具をつまむと溝が圧着されて糸が固定される。結節縫合のみならず、吻合の一部または全周にわたる連続縫合も可能で、結紮が困難な心嚢深部における吻合、さらには内視鏡やロボット補助下の吻合も容易にする可能性を有している。直視下での前実験では、デバイスの有効性、安全性をブタ冠動脈バイパスモデルによる長期埋め込み実験より評価した。結果、吻合時間、吻合後の血液流量においてデバイスの従来の縫合糸に対する非劣性が示され、病理評価による炎症所見について安全性が示された。
 本研究では、鏡視下手術でのデバイスの有効性、安全性をウサギ頸動脈バイパスモデルによる実験により評価した。16羽のニュージーランドホワイトラビットを用いた。全例、全身麻酔下に右側頸静脈を採取し、それを同側の頸動脈にブリッジ状に吻合した。7羽はデバイスを用い、9羽にはコントロールとして従来の縫合糸を用いた。急性期の評価項目として、吻合時間、手術時間、血液流量を測定した。

研究方法
ニュージーランドホワイトラビットをケタラール100mg、キシラジン40mgの筋注により麻酔導入した呼吸は自発呼吸を維持し、マスクにて3~6 L/分の酸素を吸入させた。頸部正中を切開し、右側頸動脈を露出した。次に、同側の頸静脈を剥離し、ヘパリン1000単位を耳介に確保した静脈ルートから静注した。1.5~2.0cm程度の間隔をおいて結紮し、その間を切断して遊離グラフトとした。7羽はデバイスを用い(D群)、コントロールとして残りの9羽には従来の縫合糸を用い(C群)吻合を行った。
頸動脈の中枢側と末梢側をブルドック鉗子でクランプし、中枢側を切開し、1.25mmのシャントを挿入した。中枢側と末梢側に2点支持を行った。2点支持までは直視下に行い、連続吻合直前に内視鏡外科手術用トレーニングボックスの上半分のポート部分を術野に被せ、そのポートからフレキシブル硬性鏡を挿入し、鏡視下手術を再現した。また、鏡視下吻合には、専用の持針器と鑷子を用いて行った。
この環境で頸静脈による頸動脈バイパスを作成した。2吻合間の頸動脈は結紮した。吻合時間(中枢側と末梢側)と総手術時間、およびグラフト流量を測定した。
結果と考察
吻合時間(中枢側と末梢側)と総手術時間はいずれもD群で短く、グラフト流量は有意にD群に有意に多かった。疑似内視鏡環境下ではあるが、術野が限定的で内視鏡による血管吻合においては、市販の通常縫合糸よりもわれわれが開発した錨型かしめ縫合デバイスが容易に吻合を可能にすることが示された。吻合開始時に錨型デバイスがストッパーとして機能し、かつ吻合完了時に糸結びを不要とする本デバイスの特徴が、内視鏡環境下などの術野が限定された場合に有効に発揮されていた。
結論
術野が限定的である内視鏡による血管吻合においては、市販の通常縫合糸よりもわれわれが開発した錨型かしめ縫合デバイスが容易に吻合を可能にすることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201408009B
報告書区分
総合
研究課題名
結紮を必要としない微細縫合糸の開発に関する前臨床試験
課題番号
H25-医療機器-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小野 稔(東京大学医学部附属病院 心臓外科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐久間 一郎(東京大学大学院生体医工学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
冠動脈バイパス手術(CABG)は、虚血性心疾患に対する治療として重要な位置を占めており、本邦では年間約2万例行われている。本邦では、胸部正中切開での人工心肺を使用しない心拍動下CABGが主流であるが、欧米では小切開下手術やロボット手術なども実施されている。しかし冠動脈やグラフト血管は小口径で、血管吻合には高度の技術を要するため、小切開下狭小スペースや内視鏡下でCABGを行うのは困難を極める。低侵襲手術の利点としては、手術侵襲を軽減し日常生活への早期復帰を促進することが挙げられる。しかしながら技術的制約のためにCABGでは低侵襲手術が定着しにくい。われわれは、狭小スペースや内視鏡下での小口径血管吻合を簡便にする目的で、新しい冠動脈末梢側吻合用デバイスを開発した。
 我々が開発したデバイスは、市販のポリプロピレン糸の自由端に小さな生体適合性ステンレス製の錨型固定具を圧着した単純な構造をしている。最大の利点は結紮を要さないことであり、連続吻合の後に固定具に設けられた溝に糸を滑り込ませて、持針器で固定具をつまむと溝が圧着されて糸が固定される。結節縫合のみならず、吻合の一部または全周にわたる連続縫合も可能で、結紮が困難な心嚢深部における吻合、内視鏡やロボット補助下の吻合も容易にする可能性がある。
 本研究では、われわれが開発した錨型かしめ縫合デバイスが、長期生体内への埋植において通常縫合糸と比較して安全性と有効性が同等であり、かつ内視鏡環境下などの術野が限られた空間における血管吻合で通常縫合糸よりも優位性があることを示すことを目的とした。
研究方法
 本研究では、分担研究として工学系研究科でデバイスの力学的安定性を研究した。前臨床試験として、ブタ冠動脈バイパスモデルによる長期埋め込み実験によって開胸下におけるデバイス有効性と安全性を、またウサギ頸動脈バイパス長期実験によって内視鏡手術下における有効性と安全性を評価した。ブタ冠動脈バイパスモデルでは、全身麻酔下に左右内胸動脈をそれぞれ、左前下行枝および右冠動脈に心拍動下で吻合した。デバイス使用吻合と従来の縫合糸吻合における吻合時間およびグラフト血流量を計測し、術直後に血管造影によって吻合部を評価した。ブタ冠動脈バイパス慢性実験では、1ヵ月、3ヶ月、6ヵ月に安楽死させ、吻合部の病理評価を行った。続いて、ウサギ頸静脈による同側頸動脈バイパスを内視鏡トレーニングボックスによる疑似内視鏡環境下でデバイス吻合と通常縫合糸吻合を行い、安全性と有効性を比較した。
結果と考察
 デバイスの力学的安定性については、通常の冠動脈用微細縫合糸に要求される破断強度を十分に有していることが示された。これは、「組織結紮デバイス」(特許出願番号:2014-109480)として特許出願を行った。
ブタ冠動脈バイパスモデル急性期評価では、吻合時間、バイパス血液量については両群に有意差を認めなかった。1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の遠隔期評価においては、実験動物は1頭も死亡しなかった。遠隔期グラフト開存率は両群とも100%であり、吻合部狭窄もなかった。病理学的評価では、デバイス周囲に細胞浸潤、線維増生、内膜肥厚などの炎症が起こるが、3ヶ月、6ヵ月の経過で炎症反応は沈静化していた。両群間に炎症の強度の差は見られず、デバイスによる血管損傷などの組織侵襲性もまったく見られなかった。
疑似内視鏡環境下におけるウサギ頸動脈バイパス術のおいては、吻合時間や総手術時間は有意にデバイス群で短縮され、内視鏡環境下における優位性が示された。
結論
以上より、われわれが開発した縫合デバイスは、市販縫合糸と同等の微細血管吻合における安全性を有し、かつ、内視鏡環境下などの術野の限られた空間における微細吻合においては市販の縫合糸より優れた機能性を有していることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201408009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまでに多くの結紮を不要とする縫合デバイスが開発され、その中で一部は臨床応用されてきた。しかしコストがかなり高くつくために、現在では世界で1種類しか臨床使用されていない。日本ではこのデバイスは導入されていない。本研究で研究した縫合デバイスはこれまでに前例のない設計思想に基づいており、すでに特許出願済で、長期埋植においても安定性があり、コストパフォーマンスがかなり優れたデバイスである。つまり縫合デバイスに対して新たなコンセプトを提示している。
臨床的観点からの成果
消化器外科、婦人科、泌尿器科、呼吸器外科を中心に内視鏡手術、あるいはロボット補助手術が急速に普及してきている。心臓血管外科においても内視鏡手術が導入されつつあるが、縫合・結紮の煩雑さなどが障害となり普及するには至っていない。この度開発した縫合デバイスは、内視鏡下のように限定された手術空間において縫合や結紮操作を著しく容易にすることを可能にした。この縫合デバイス技術は、心臓のみならず、他の内視鏡手術にも応用が可能であり、内視鏡手術における縫合操作全般に大きな変革を与える可能性がある。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
現在、わが国の医療機器は極端な輸入超過の状態にある。この度開発されたデバイスは、世界で広く普及している内視鏡下心臓手術、さらには内視鏡手術全般における縫合操作を簡略化することを可能とする。したがって、わが国発の医療機器として広く輸出することができる可能性を秘めている。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
組織結紮デバイス
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-109480
発明者名: 東京大学大学院医学系研究科心臓外科 小野 稔、東京大学大学院工学系研究科 佐久間 一郎
権利者名: 東京大学産学連携本部
出願年月日: 20140527
国内外の別: 国内
特許の名称
Anatomical-structure-ligating device
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2015/065288
発明者名: 東京大学大学院医学系研究科心臓外科 小野 稔、東京大学大学院工学系研究科 佐久間 一郎
権利者名: 東京大学産学連携本部
出願年月日: 20161128
国内外の別: 米国、欧州

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Itoda Y, Panthee N, Tanaka T, et al
Development of a suturing device for anastomosis for small caliber arteries
Journal of Artificial Organs , 17 (1) , 88-94  (2014)
10.1007/s10047-013-0749-6
原著論文2
Itoda Y, Panthee N, Tanaka T, Ando T, Sakuma I, Ono M
Novel Anastomotic Device for Distal Coronary Anastomosis: Preclinical Results From Swine Off-Pump Coronary Artery Bypass Model.
Annals of Thoracic Surgery , 101 (2) , 736-741  (2016)
10.1016/j.athoracsur.2015.09.082.
原著論文3
Kondo R, Itoda Y, Panthee N, Inui A, Ashiba H, Ando T, Kobayashi E, Sakuma I, Ono M
A New Suturing Device for Small Arteries
International Heart Journal , 57 (3) , 323-326  (2016)
https://doi.org/10.1536/ihj.15-412

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201408009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
26,000,000円
(2)補助金確定額
26,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 10,841,428円
人件費・謝金 4,173,622円
旅費 2,060,013円
その他 3,209,314円
間接経費 6,000,000円
合計 26,284,377円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
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