多施設ヒト幹細胞臨床研究による3次元再生皮下軟骨の有効性確認

文献情報

文献番号
201406005A
報告書区分
総括
研究課題名
多施設ヒト幹細胞臨床研究による3次元再生皮下軟骨の有効性確認
課題番号
H24-再生-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
高戸 毅(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 大友  邦(東京大学 医学部附属病院 )
  • 星  和人(東京大学 医学部附属病院 )
  • 荒川 義弘(東京大学 医学部附属病院 )
  • 鈴木 友人(東京大学 医学部附属病院 )
  • 岡崎  睦(東京医科歯科大学 大学院)
  • 飯野 光喜(山形大学 医学部)
  • 新田 尚隆((独)産業技術総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
31,968,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
われわれは世界に先駆けて力学強度と3次元形態を有する3次元皮下再生軟骨を開発した。現在、東京大学医学部附属病院において、口唇口蓋裂の鼻変形患者に3次元皮下再生軟骨を移植するヒト幹細胞臨床研究を実施している。今回の臨床研究を通じて、治験実施に向けての3つ課題、有効性エビデンスを補強すること、多施設研究が未実施であること、製造プロセスと品質管理法が煩雑であることが明らかとなった。本研究では3つの課題を解決し、治験実施に資する臨床データを作成し、速やかに治験に移行することを目的としている。
研究方法
1.有効性評価法の確立
昨年度までの検討で、再生軟骨をヌードラット皮下に移植し動物実験用MRI装置(Bruker社Biospec Avance、2T)にてT1値、T2値、D値などを、高分解能X線装置(産総研にて試作、分解能40μm)にて吸収係数分布などを計測した。また、II型コラーゲン、GAGなどを定量解析し、組織学的評価と併せて相関係数を算出した。東大放射線科と得られたデータを解析し、再生軟骨成熟度の評価法として、MRI(D値、T2)を選定した。軟骨成熟時と等価な値を持つファントムを、超音波用ファントムにGd造影剤を添加して作製した。2施設3機種のMRIでT2値及びADC値を測定して値の比較を行い、機種ごとの違いを評価した。また、神経毒を有するアクリルアミド濃度を測定し、安全性を確認した。
2.多施設臨床研究の実施
多施設ヒト幹細胞臨床研究を実施する予定であったが、再生医療に関わる法制度が整い、またPMDA薬事戦略相談により効率よく治験準備が出来るようになったため、長期保存型再生軟骨のfirst-in-human trialをヒト幹細胞臨床研究ではなく、医師主導治験として実施することとなった。
3.製造検査の効率化
現在のヒト幹細胞臨床研究では、移植時の破損に備え再生軟骨を2本作製することとなっているが、移植時破損を回避する再生軟骨投与機(アプリケーター)があれば非常に有用である。試作機について高温高圧滅菌の耐性テストを行うとともに、ヌードラットやビーグルでの自家3次元皮下再生軟骨移植実験を行い、アプリケーターの性能を確認した。
4.改定版ヒト幹細胞臨床研究の申請書作成
長期保存型再生軟骨のfirst-in-human trialをヒト幹細胞臨床研究ではなく医師主導治験として実施することとなった。厚生労働科学研究費委託費(再生医療実用化研究事業、研究代表者:高戸毅)にて、プロトコールの作成を進めた。
結果と考察
1.有効性評価法の確立
ファントム作製直後、産総研の2.0T機では、T2値は0.107s、ADC値は1.566 x10-3mm2/sであった。東大の1.5T及び3.0T機では、T2値は0.090-0.098s、ADC値は1.49x10-3-1. 68 x10-3mm2/sであった。設計値からのずれはT2では-3.0-10.0%のずれ、ADC値では1.0-12.0%となるが、このずれは、測定温度が2℃異なっていたことに起因するとも考えられることから、測定時の温度管理の重要性が示唆された。機種による測定値に有意な差は見られなかった。
2.多施設臨床研究の実施
本プロジェクトに関しては、多施設ヒト幹細胞臨床研究を実施するよりも、医師主導治験を実施する方が、治験レベルのデータが蓄積するメリットがあると考えた。医師主導治験に関しては、平成27年3月31日に治験届を提出しており、平成27年度は治験実施を開始する予定である。
3.製造検査の効率化
再生軟骨アプリケーターの素材、構造、物性を検討し、可能な限り再生軟骨の実寸に近いもの作製した。試作機について高温高圧滅菌の耐性テストをおこなったところ、明らかな変形や変色をみることなく、少なくとも数十回使用可能であった。ヌードラットやビーグル犬での3次元皮下再生軟骨移植実験において、試作品を導入したところ、再生軟骨を破損することなくスムースな皮下への移植が可能であった。
4. 改定版ヒト幹細胞臨床研究の申請書作成
当初予定していたヒト幹細胞臨床研究は実施しないこととなったが、東京大学医学部附属病院で実施する医師主導治験、並びに富士ソフトが実施する企業治験におけるプロトコール作成に、本プロジェクトの知見を反映させることが出来た。
結論
これまで動物実験で使用してきた産総研のMRIと東大の臨床機MRIの値は、ほぼ同等となることから、軟骨成熟に関する動物実験のデータを指標とすることが可能になると思われる。
再生軟骨の産業化への道筋を再評価し、多施設臨床研究ではなく医師主導治験を実施することとなった。将来実施予定の企業治験と同じ評価指標及び評価方法で実施するため、将来的にデータを有効に活用することができると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201406005B
報告書区分
総合
研究課題名
多施設ヒト幹細胞臨床研究による3次元再生皮下軟骨の有効性確認
課題番号
H24-再生-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
高戸 毅(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 大友 邦(東京大学 医学部附属病院)
  • 星 和人(東京大学 医学部附属病院)
  • 荒川 義弘(東京大学 医学部附属病院)
  • 鈴木 友人(東京大学 医学部附属病院)
  • 岡崎 睦(東京医科歯科大学大学院)
  • 飯野 光喜(山形大学 医学部)
  • 新田 尚隆((独)産業技術総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
われわれは、東京大学医学部附属病院において、口唇口蓋裂の鼻変形患者に3次元皮下再生軟骨を移植するヒト幹細胞臨床研究を実施している。臨床研究を通じて、治験実施に向けての3つ課題、有効性エビデンスを補強すること、多施設研究が未実施であること、製造プロセスと品質管理法が煩雑であることが明らかとなった。本研究では3つの課題を解決し、治験実施に資する臨床データを作成し、速やかに治験に移行することを目的としている。
研究方法
1.有効性評価法の確立
線維芽細胞や細胞生存性が低下した軟骨細胞の混入を想定し、ヒト耳介軟骨細胞、線維芽細胞、55℃処理ヒト耳介軟骨細胞を用いて再生軟骨を作製した。ヌードラット背部皮下へ移植後、2週と8週で産総研に搬送し、超音波、CT、MRI、血流測定などを用いて、再生軟骨組織の力学的、生化学的特性を非侵襲的に評価した。その後、ヌードラットから再生軟骨組織を摘出し、トルイジンブルー染色やHE染色などによる組織学的評価、ならびにGAGやCOL2 ELISAなどによる生化学的評価を行った。
2.多施設臨床研究の実施
再生軟骨組織を作製し、富士ソフト社と東京大学が共同開発した保存方法を用いて、東京医科歯科大学および山形大学にヒト再生軟骨組織を輸送し、各施設でヌードラットの背部皮下へ移植した。移植後8週に再生軟骨組織を摘出し、組織学的、生化学的に評価した。
3.製造検査の効率化
現在のヒト幹細胞臨床研究では、移植時の破損に備え再生軟骨を2本作製することとなっているが、移植時破損を回避する再生軟骨投与機(アプリケーター)があれば非常に有用である。試作機についてヌードラットやビーグルでの自家3次元皮下再生軟骨移植実験を行い、アプリケーターの性能を確認した。
4.改定版ヒト幹細胞臨床研究の申請書作成
長期保存型再生軟骨のfirst-in-human trialをヒト幹細胞臨床研究ではなく医師主導治験として実施することとなった。厚生労働科学研究費委託費(再生医療実用化研究事業、研究代表者:高戸毅)にて、プロトコールの作成を進めた。
結果と考察
1.有効性評価法の確立
100%ヒト耳介軟骨細胞を使用した移植組織では、移植後2週から8週にかけて成熟が進行し、良好な軟骨成熟が観察された。一方、線維芽細胞が混入している再生軟骨では、ほとんど軟骨再生が認められなかった。熱処理を行って細胞生存性を低下させた細胞を用いた再生軟骨組織では、軟骨基質の蓄積は認められたものの、その程度は低かった。TB面積, GAG, COL2 ELISAなどの軟骨基質蓄積のマーカーは、MRI(T2、D値)と高い正の相関を示すことが明らかとなった。動物実験用のMRIと臨床機において、T2, D値の値がほぼ同等となることが示され、動物実験で得られた値が、臨床においても指標となる値となることが示唆された。
2.多施設臨床研究の実施
東京医科歯科大学および山形大学において移植した再生軟骨組織は、組織学的、生化学的に良好な軟骨成熟を示した。組織の搬出入に伴う影響は殆どないこと、開発した長期保存法や搬送法が有効であることが示唆された。
3.製造検査の効率化
再生軟骨アプリケーター試作機について高温高圧滅菌の耐性テストをおこなったところ、明らかな変形や変色をみることなく、少なくとも数十回使用可能であった。ヌードラットやビーグル犬での3次元皮下再生軟骨移植実験において、試作品を導入したところ、再生軟骨を破損することなくスムースな皮下への移植が可能であった。
4. 改定版ヒト幹細胞臨床研究の申請書作成
当初予定していたヒト幹細胞臨床研究は実施しないこととなったが、東京大学医学部附属病院で実施する医師主導治験、並びに富士ソフトが実施する企業治験におけるプロトコール作成に、本プロジェクトの知見を反映させることが出来た。
結論
インプラント型再生軟骨の有効性評価法を確立する一助として、ヌードラットに移植した再生軟骨組織を超音波診断装置、MRI・CTなどによる非侵襲的指標で評価した後、GAGやII型コラーゲンの定量解析や組織学的評価を行った。両者の相関から再生軟骨組織の成熟度を測定する評価項目として、MRI(T2, D値)を選定した。これらの評価項目は、臨床機で撮影することも可能であった。
また、治験において再生軟骨の作製場所となる富士ソフト社のCPCを利用した検討を行い、同施設におけるインプラント型再生軟骨の作製と、医療施設への組織搬出入技術が有効であることが示唆された。
再生軟骨の産業化への道筋を再評価し、多施設臨床研究ではなく医師主導治験を実施することとなった。本プロジェクトで得られた知見を、治験プロトコールに反映させることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201406005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
再生軟骨の有効性を評価するためには、移植された再生軟骨の成熟度を非侵襲的に測定する必要がある。われわれは、実験動物に移植した再生軟骨を超音波、CT、MRIなどで非侵襲的に計測し、その後に摘出した組織片の組織学的、生化学的評価との相関から、MRI(T2, D値)が再生軟骨の成熟度を反映する指標となることを明らかにした。更に動物実験用のMRIと臨床機において、T2, D値の値がほぼ同等となることが示され、動物実験で得られた値が、臨床においても指標となる値となることが示唆された。
臨床的観点からの成果
再生医療の臨床応用に関する法整備のもと、多施設臨床研究は実施せず、東京大学医学部附属病院での医師主導治験にて安全性ならびに有効性を確認し、企業治験のデータ蓄積につなげることとなった。本プロジェクトで得られた知見をもとに治験プロトコールを作成し、平成27年3月25日にIRBで承認を受けた。平成27年3月31日にPMDAに治験計画届書を提出し、平成27年度から医師主導治験を開始し、予定していた2例への移植を終え、経過を観察している。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
【新聞掲載】 
1.髙戸毅:動き出す再生医療③ 軟骨を培養、耳や鼻修復へ.2014年9月25日, 読売新聞 夕刊
2.髙戸毅:再生医療の製品化 加速 安全性確保など2法施行.2014年11月26日,朝日新聞 朝刊
3. 星和人:口やあごの病気とその最新治療,第44回東京大学医師会 公開講座,2019年3月12日

【公開シンポジウム】
これからの再生臓器組織開発.日本再生医療公開フォーラム エピローグ「これからの再生医療」 2014年9月28日 国際フォーラム,東京

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Misawa M, Nitta N, Shirasaki Y et al
Characteristic X-ray Absorptiometry Applied to the Assessment of Tissue-Engineered Cartilage Development
J Xray Sci Technol , 23 (4) , 489-502  (2015)
10.3233/XST-150504
原著論文2
Takato T, Mori Y, Fujihara Y et al
Preclinical and clinical research on bone and cartilage regenerative medicine in oral and maxillofacial region
Oral Sci Int , 11 (2) , 45-51  (2014)
10.1016/S1348-8643(14)00008-1
原著論文3
Fujihara Y, Takato T, Hoshi K
Macrophage-inducing fasl on chondrocytes forms immune privilege in cartilage tissue engineering, enhancing in vivo regeneration
Stem Cells , 32 (5) , 1208-1219  (2014)
10.1002/stem.1636
原著論文4
Fujihara Y, Nitta N, Misawa M et al
T2 and Apparent Diffusion Coefficient of MRI Reflect Maturation of Tissue-Engineered Auricular Cartilage Subcutaneously Transplanted in Rats
Tissue Eng Part C Methods , 22 (5) , 429-438  (2015)
10.1089/ten.TEC
原著論文5
Hoshi K, Fujihara Y, Saijo H et al.
Three-dimensional changes of noses af ter transplantation of implant-type tiss ue-engineered carti lage for secondary correction of cleft li p-nose patients
Regen Ther , 7 , 72-79  (2017)
10.101 6/j.reth.201 7.09.001.
原著論文6
Hoshi K, Fujihara Y, Saijo H et al.
Implant-type Tissue -engineered Cartila ge for Secondary C orrection of Cleft Li p-nose Patients
J Clin Trials , 7 , 1000315-  (2017)
10.4172/21 67-0870.10 00315
原著論文7
Hoshi K, Fujihara Y, Yamawaki T et al.
Biological aspects of tissue-engineered cartilage
Histochem Cell Biol , 149 (4) , 375-381  (2018)
10.1007/s00418-018-1652-2
原著論文8
Inaki R, Fujihara Y, Kudo A et al.
Periostin contributes to the maturation and shape retention of tissue-engineered cartilage
Sci Rep , 8 (1) , 11210-  (2018)
10.1038/s41598-018-29228-6
原著論文9
Fujihara Y, Hikita A, Takato T et al.
Roles of macrophage migration inhibitory factor in cartilage tissue engineering
J Cell Physiol , 223 (2) , 1490-1499  (2018)
10.1002/jcp.26036

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-06-03

収支報告書

文献番号
201406005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
41,592,722円
(2)補助金確定額
41,592,722円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 13,846,777円
人件費・謝金 14,800,072円
旅費 2,093,670円
その他 1,262,203円
間接経費 9,590,000円
合計 41,592,722円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-