東アジア、オセアニアにおける生活習慣病対策推進のための学際的研究

文献情報

文献番号
201403003A
報告書区分
総括
研究課題名
東アジア、オセアニアにおける生活習慣病対策推進のための学際的研究
課題番号
H24-地球規模-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
青山 温子(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 八谷 寛(藤田保健衛生大学 医学部)
  • 本庄 かおり(大阪大学 グローバルコラボレーションセンター)
  • 三田 貴(大阪大学 未来戦略機構・グローバルコラボレーションセンター)
  • 崔 仁哲(大阪大学 大学院医学系研究科)
  •  江 啓発 (コウ ケイハツ) (名古屋大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,208,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究全体の目的は、東アジア、オセアニア島嶼地域における生活習慣病の実態と、生活習慣・社会的因子等の危険因子を、調査対象地 (中国、パラオ) での疫学調査及び社会学調査、及び既存データに基づき解明し、各国の社会文化的背景に適合した有効な生活習慣病対策を提言することである。平成26年度 (第3年度) は、中国疫学調査を実施し、日本で国際セミナーを開催した。また、これまでの調査結果及び既存データの分析を進め、国際セミナーでの議論とあわせて、生活習慣病対策への提言をまとめた。
研究方法
中国では、北京大学と共同で、北京市房山区地域住民1,000人を対象として、改定した質問票による調査、身体測定、血液検査を実施した。大阪で開催した国際セミナーには、パラオ、中国に加えて、タイ、バングラデシュ、オーストラリアから、生活習慣病の疫学や予防対策の専門家を招聘して、調査結果を報告し各国の状況について議論した。また、パラオ疫学調査結果の分析を進め、保健省と共同で英文論文を作成した。パラオ、中国での社会学調査結果の、質的分析を進めた。
結果と考察
以下の課題と社会文化的背景要因が抽出された。
(a) アジア・オセアニア共通: (1) 生活習慣病は主要健康問題であると、政府も認識している。(2) アジアの低所得国では高血圧が主要課題であるが、アジアの高所得国では高コレステロール血症が主要課題である。オセアニア島嶼地域では、著しい肥満と高血圧、高血糖が主要課題である。(3) 人々の健康意識は高まりつつあるが、正しい知識は不足している。(4) タバコ、食塩・脂肪の多い加工食品、加糖清涼飲料水の、生産・流通・価格等を規制するには、保健医療セクターを越えた対応が必要である。 (b) パラオ: (1) 肥満、高血圧、高血糖の有病率が、若年者から高い。(2) 肉類缶詰等の摂取が多く、野菜・果物摂取が少ない。(3) 噛みタバコ使用が、とくに女性に多い。(4) 運動習慣のない人が多い。(5) 定期的健康診断の仕組がない。(6) 生活習慣病の問題の深刻さが理解されておらず、知識が乏しいため対処できない。(7) 伝統的地域社会の繋がりは比較的強いが、リーダーの統制力は弱くなっている。 (c) 中国: (1) 経済発展に伴い、肥満が増加している。(2) 食塩摂取が多く、高血圧の有病率が高い。(3) 喫煙・飲酒の習慣のある男性が多い。(4) 運動習慣のある人は比較的多い。(5) 地域コミュニティの繋がりは、比較的強い。
抽出された課題と社会文化的背景要因を考慮して、以下のような提言をまとめた。
パラオ: (1) 行政関係者等の意識向上; (2) 学生・地域住民の健康意識向上; (3) 学校・地域での実践的栄養教育; (4) 定期的健康診断の導入; (5) 運動しやすい環境整備; (6) タバコの有害性の広報強化; (7) 企業との連携; (8) 野菜・果物の流通促進と価格補助; (9) タバコ、肉類缶詰、加糖清涼飲料水等への課税強化。中国: (1) ソーシャルキャピタルを活用した生活習慣改善活動; (2) 情報メディアを活用した健康教育; (3) 地域での健診と保健指導。
結論
パラオ、中国での、疫学調査、社会学調査、及び既存データの分析結果に基づいて、各国の社会文化的背景を考慮した生活習慣病対策を提言した。パラオについては、保健省と協議しながら、予防対策の具体的な活動内容を作成していきたいと考えている。中国については、北京大学の研究協力者が、今後の予防対策の進み方についてフォローアップする予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-04-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-04-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201403003B
報告書区分
総合
研究課題名
東アジア、オセアニアにおける生活習慣病対策推進のための学際的研究
課題番号
H24-地球規模-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
青山 温子(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 八谷 寛(藤田保健衛生大学 医学部)
  • 本庄かおり(大阪大学 グローバルコラボレーションセンター)
  • 三田 貴(大阪大学 未来戦略機構・グローバルコラボレーションセンター)
  • 崔 仁哲(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 江 啓発 (コウ ケイハツ)(名古屋大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、東アジア、オセアニア島嶼地域における生活習慣病 (Non-communicable diseases: NCD) の実態と生活習慣・社会的因子等の危険因子を、調査対象地 (中国、パラオ) での疫学・社会学調査及び既存データの分析に基づき解明し、各国の社会文化的背景に適合した有効な生活習慣病対策を提言することである。
研究方法
平成24年度 (第1年度) は、パラオにおいて、社会学調査、保健医療状況調査と学校保健既存データ分析を行った。社会学調査については、台風被災のため8ヵ月延期して実施し、健康・運動・食に関する価値観や生活様式等についての質的情報を収集した。平成25年度 (第2年度) は、パラオ疫学調査、及び中国社会学調査を実施した。パラオ疫学調査については、25~64歳を対象とした保健省とWHOによる生活習慣病危険因子調査 (STEPS) が実施されていたため、本研究では18~24歳を対象として、STEPSに準じた調査方法で実施した。中国社会学調査については、北京市房山区にて、キー・インフォーマント・インタビューと、年齢層別のフォーカス・グループ・インタビューを行った。平成26年度 (第3年度) は、中国疫学調査を実施し、大阪で国際セミナーを開催した。中国疫学調査については、北京大学と共同で、北京市房山区の地域住民1,000人を対象とし、社会学調査結果等に基づき改定した質問票による調査、身体測定、血液検査を行った。あわせて、既存データを用いて、アジア、オセアニアの生活習慣病危険因子の状況を解析した。これらの研究成果に基づいて、生活習慣病対策への提言をまとめた。
結果と考察
パラオにおいては、本研究による18~24歳を対象とした疫学調査及びSTEPSのデータを、パラオ保健省の研究協力者とともに分析した結果、肥満、高血圧症、高血糖の有病率が、若年から予想を超えて高いことが明らかとなった。タバコ使用者が多く、野菜果物をほとんど摂取しない者や身体活動が乏しい者も多かった。社会学調査により、缶詰等の輸入食品、酒・加糖清涼飲料水の消費が増えており、よくないと認識しているが対処方法がわからないこと、伝統的リーダー及びコミュニティの結束力の弱体化により、リスク行動を避けるように教育することが困難になってきたこと等が明らかとなった。中国社会学調査の結果、漬物を多く食べるため塩分摂取が多いこと、食事量は増加しており体重も増加傾向にあること、特に60歳以上で健康意識が高く運動習慣のある人も多いこと等がわかった。また、東アジア、東南アジア、オセアニア諸国における既存データを収集し、階層的クラスター分析した。その結果、高血圧が主体で、肥満、高血糖、高コレステロール血症の少ない「低所得アジア型」、高コレステロール血症を特徴とし、肥満、高血圧、高血糖は軽度である「高所得アジア型」、著しい肥満、高血圧、高血糖が認められ、高コレステロール血症の少ない「オセアニア島嶼型」の、3つのパターンに分類することができた。国際セミナーには、パラオ、中国に加えて、タイ、バングラデシュ、オーストラリアから、生活習慣病の疫学や予防対策の専門家を招聘した。パラオ、中国での調査結果を報告し、各国の生活習慣病やその対策の状況について意見交換した。
結論
これらの調査結果や既存データの分析結果、国際セミナーでの議論等に基づき、パラオ、中国における、社会文化的背景を考慮した効果的な生活習慣病予防対策について、次のような提言をまとめた。パラオ: (1) 行政関係者等の意識向上; (2) 学生・地域住民の健康意識向上; (3) 学校・地域での実践的栄養教育; (4) 定期的健康診断の導入; (5) 運動しやすい環境整備; (6) タバコの有害性の広報強化; (7) 企業との連携; (8) 野菜・果物の流通促進と価格補助; (9) タバコ、肉類缶詰、加糖清涼飲料水等への課税強化。中国: (1) ソーシャルキャピタルを活用した生活習慣改善活動; (2) 情報メディアを活用した健康教育; (3) 地域での健診と保健指導。今後は、提言の実施に向けたフォローアップが必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-04-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201403003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
パラオ、中国での、疫学・社会学調査により、生活習慣病とその危険因子の実態の数値的根拠と、その背景にある社会文化的要因が示された。例えば、パラオにおいて肥満、高血圧、高血糖の有病率が予想を超えて極めて高く、若年層からすでに高いことや、伝統的コミュニティの結束が弱くなり行動規範を示しにくくなっていることなどがあげられる。この調査結果をもとに、予防対策についての提言をまとめた。
臨床的観点からの成果
疫学調査により、パラオにおいて、肥満、高血圧、高血糖の有病率が予想を超えて極めて高く、若年層からすでに高いこと、噛みタバコの使用が多いこと、中国において、高血圧の有病率が高く、男性の喫煙、飲酒の多いことが示された。
ガイドライン等の開発
調査結果をもとに、生活習慣病予防対策についての提言をまとめた。引き続きパラオ保健省と協力して具体的施策を開発している。2018年には、保健省主催「NCD Update Workshop」が開催され、保健省関係者や地域の代表者らが、NCD予防のための数値目標を定めた行動計画について議論を進めた。
その他行政的観点からの成果
疫学調査、社会学調査の実施を通して、パラオ保健省のキャパシティビルデイングや、調査対象となった人々の生活習慣病に対するアウェアネスを向上させた。パラオ・コミュニティ・カレッジにてワークショップを開催し、若年層向け健康教育モジュールを開発した。保健省職員など社会人の多い公衆衛生専攻学生を対象として、ピア・エデュケーター研修を実施した。
その他のインパクト
パラオでの調査開始時には、現地の新聞で報道された。パラオ、中国、バングラデシュ、タイ、オーストラリアから、生活習慣病の疫学・予防対策の専門家を招聘して、大阪で国際セミナーを開催した。パラオにて、大統領、保健大臣、及び関係各省庁・伝統首長代表・学識経験者等から構成されるパラオ政府NCD対策委員会メンバーが参加して、シンポジウムを開催し、疫学・社会学調査結果を広報してNCD予防対策について提言し、討論した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Chiang C, Singeo ST, Yatsuya H, et al
Profile of Non-communicable Disease Risk Factors Among Young People in Palau
J Epidemiol , 25 (5) , 392-397  (2015)
doi:10.2188/jea.JE20140156
原著論文2
Watson BM, Chiang C, Ikerdeu E, et al
Profile of non-communicable disease risk factors among adults in the Republic of Palau: findings of a national STEPS survey.
Nagoya Journal of Medical Science , 77 (4) , 609-619  (2015)
原著論文3
Zhang Y, Hilawe EH, Kawazoe N, et al
Patterns of risk factors related to non-communicable diseases (NCDs) in Asian and Oceania countries by using cluster analysis.
Journal of International Health , 29 (4) , 257-265  (2014)
原著論文4
Zhang Y, Ma D, Cui R,et al
Facilitators and barriers of adopting healthy lifestyle in rural China: a qualitative analysis through social capital perspectives.
Nagoya Journal of Medical Science , 78 (2) , 163-173  (2016)
原著論文5
Hilawe EH, Chiang C, Yatsuya H, et al
Prevalence and predictors of prediabetes and diabetes among adults in Palau: population-based national STEPS survey.
Nagoya Journal of Medical Science , 78 (4) , 475-483  (2016)
原著論文6
Wang C, Chiang C, Yatsuya H, et al
Descriptive epidemiology of hypertension and its association with obesity: based on the WHO STEPwise Approach to Surveillance in Palau.
Asia Pacific Journal of Public Health  (2017)
doi: 10.1177/1010539517704042
原著論文7
Osako A, Chiang C, Ito K, et al
Disparity in metabolic risk factors of non-communicable diseases between Palauans and Filipinos living in Palau.
Nagoya Journal of Medical Science , 79 (2) , 157-165  (2017)
原著論文8
Cui M, Chiang C, Cui R, et al
Prevalence and correlates of dyslipidemia among men and women in Palau: findings of the Palau STEPS survey.
J Epidemiol , 29 (3) , 97-103  (2019)
原著論文9
72. Gebremariam LW, Hirakawa Y, Rayna SE, et al
Pilot peer health education for noncommunicable disease prevention in Bangladesh, Ethiopia, and Palau.
Journal of Global Health Reports ,  -  (2018)
doi: 10.29392/joghr.2.e2018039

公開日・更新日

公開日
2015-04-08
更新日
2019-06-04

収支報告書

文献番号
201403003Z