文献情報
文献番号
201330018A
報告書区分
総括
研究課題名
水道における水質リスク評価および管理に関する総合研究
課題番号
H25-健危-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松井 佳彦(北海道大学 大学院工学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
- 浅見 真理(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 泉山 信司(国立感染症研究所 寄生動物部)
- 伊藤 禎彦(京都大学 大学院工学研究科)
- 越後 信哉(京都大学 大学院工学研究科)
- 大野 浩一(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 片山 浩之(東京大学 大学院工学系研究科都市工学専攻)
- 門上 希和夫(北九州市立大学 国際環境工学部)
- 川元 達彦(兵庫県立健康生活科学研究所 健康科学部)
- 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 鈴木 俊也(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部)
- 西村 哲治(帝京平成大学 薬学部)
- 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
- 平田 睦子(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
- 松下 拓(北海道大学大学院 工学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
40,127,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
水道水質基準の逐次見直しなどに資すべき化学物質や消毒副生成物,設備からの溶出物質,病原生物等を調査し,着目すべき項目に関してそれらの存在状況,監視,低減化技術,分析法,暴露評価とリスク評価に関する研究を行う.
研究方法
原水や水道水質の状況,浄水技術について調査研究を行うため,研究分担者11名の他に43もの水道事業体や研究機関などから82名の研究協力者の参画を得て,各研究分担者所属の施設のみならず様々な浄水場などのフィールドにおける実態調査を行った.水質項目は多岐にわたるため,上述の研究目的に沿って5課題群に分けて,研究分科会(微生物分科会,化学物質・農薬分科会,消毒副生成物分科会,リスク評価管理分科会,水質分析分科会)を構成し,全体会議などを通じて相互に連携をとりながら並行的に研究を実施した.
結果と考察
レジオネラ属菌の汚染実態調査では,家庭内の未使用蛇口や風呂水から培養陽性であった.クリプトスポリジウム等の濃縮を目的とした粉体ろ過を改良するとともに,細菌にも応用しても紛体は培養を阻害せず,回収率はフィルター単独の半分程度からほぼ10割に向上することがわかった.MS2ファージはポリオウイルスと凝集沈殿ろ過挙動が異なり,指標にならないことが判明した.クリプトスポリジウム検出にデジタルPCRを適用したところ,18S rRNAコピー数などからみて実用可能性が期待された.
農薬の出荷量は減少し続けていたが,剤によっては増加に転じている.農薬の検出状況は過去に比べ低い値となっており,稲作水管理の改善の効果と思われた.一方で,検出が増加している農薬もあった.水道統計では,農薬の年間測定回数と検出率に関連が見られた.(畑地出荷量/ADI/降水量)と(水田出荷量×10スコアA+スコアB-6)/ADI/降水量)の地域最高値の組み合わせを用いた場合が最も効率よく監視農薬を選定できることが分かった.新規農薬のブロマシルは降雨量と検出濃度に一定の関係が,テブコナゾールは調査の全地点で調査期間を通じて継続的検出された.これまで水質事故の原因となった化学物質についてリスト化を行った.
ヘキサメチレンテトラミンのオゾン処理における反応生成物として,ヘキサメチレンテトラミンN-オキシドを同定した.全国12浄水場系統の給水栓水中のジクロロベンゾキノンの実態調査を行った結果,11箇所の給水栓水から検出(約10~50 ng/L)した.トリクロラミンの粉末活性炭による除去機構について検討した結果,窒素ガスとしての還元であることが示された.新たなカルキ臭評価指標としての揮発性窒素の測定方法について,還元剤の選定やヘンリー定数の温度依存性の精査等基礎的知見の収集を行った.
突発的事故等による水質異常時の際には,米国,英国等で実施されている給水停止を回避するというような柔軟な対応は日本では取りにくいという課題が示された.水道汚染物質に関する急性/亜急性評価値を試算した.カルバメート系農薬13種を例としてHazard index法及びRelative potency factor法による複合曝露評価を行った.長鎖パーフルオロカルボン酸類の炭素鎖依存的な毒性強度の違いには,薬物動態学的な要因が関与している可能性が示唆された.複数曝露経路を考慮に入れた曝露量評価では,水質基準値に一致する0.06 mg/Lのクロロホルム濃度の水道水を2L/日飲用し,生活用水に使用した場合でも,経口換算総曝露量がTDIを上回る確率は低く,用量とTDIとの間には十分なマージンがあることが示された.
水質分析法に関する成果としては,農薬のLC/MS/MSによる一斉分析法(別添方法20)の適用範囲を拡大し,標準検査法が定められていない3成分の分析条件を設定した.GC/MSにより分析されているホルムアルデヒドについて,DNPH誘導体化後にHPLC/UVまたはHPLC/MSで定量する分析法を開発した:分析時間がより短く,アセトアルデヒドも同時に分析可能であった.さらに,過塩素酸,臭素酸,および塩素酸のLC/MS/MSによる高感度同時分析法と,六価クロムと三価クロムのポストカラム付イオンクロマトグラフによる形態別分離分析法を開発した.網羅分析法については,種依存無く確実に未知物質を同定できるGC/MS向けの汎用全自動同定システムを開発した.
農薬の出荷量は減少し続けていたが,剤によっては増加に転じている.農薬の検出状況は過去に比べ低い値となっており,稲作水管理の改善の効果と思われた.一方で,検出が増加している農薬もあった.水道統計では,農薬の年間測定回数と検出率に関連が見られた.(畑地出荷量/ADI/降水量)と(水田出荷量×10スコアA+スコアB-6)/ADI/降水量)の地域最高値の組み合わせを用いた場合が最も効率よく監視農薬を選定できることが分かった.新規農薬のブロマシルは降雨量と検出濃度に一定の関係が,テブコナゾールは調査の全地点で調査期間を通じて継続的検出された.これまで水質事故の原因となった化学物質についてリスト化を行った.
ヘキサメチレンテトラミンのオゾン処理における反応生成物として,ヘキサメチレンテトラミンN-オキシドを同定した.全国12浄水場系統の給水栓水中のジクロロベンゾキノンの実態調査を行った結果,11箇所の給水栓水から検出(約10~50 ng/L)した.トリクロラミンの粉末活性炭による除去機構について検討した結果,窒素ガスとしての還元であることが示された.新たなカルキ臭評価指標としての揮発性窒素の測定方法について,還元剤の選定やヘンリー定数の温度依存性の精査等基礎的知見の収集を行った.
突発的事故等による水質異常時の際には,米国,英国等で実施されている給水停止を回避するというような柔軟な対応は日本では取りにくいという課題が示された.水道汚染物質に関する急性/亜急性評価値を試算した.カルバメート系農薬13種を例としてHazard index法及びRelative potency factor法による複合曝露評価を行った.長鎖パーフルオロカルボン酸類の炭素鎖依存的な毒性強度の違いには,薬物動態学的な要因が関与している可能性が示唆された.複数曝露経路を考慮に入れた曝露量評価では,水質基準値に一致する0.06 mg/Lのクロロホルム濃度の水道水を2L/日飲用し,生活用水に使用した場合でも,経口換算総曝露量がTDIを上回る確率は低く,用量とTDIとの間には十分なマージンがあることが示された.
水質分析法に関する成果としては,農薬のLC/MS/MSによる一斉分析法(別添方法20)の適用範囲を拡大し,標準検査法が定められていない3成分の分析条件を設定した.GC/MSにより分析されているホルムアルデヒドについて,DNPH誘導体化後にHPLC/UVまたはHPLC/MSで定量する分析法を開発した:分析時間がより短く,アセトアルデヒドも同時に分析可能であった.さらに,過塩素酸,臭素酸,および塩素酸のLC/MS/MSによる高感度同時分析法と,六価クロムと三価クロムのポストカラム付イオンクロマトグラフによる形態別分離分析法を開発した.網羅分析法については,種依存無く確実に未知物質を同定できるGC/MS向けの汎用全自動同定システムを開発した.
結論
水道原水の状況,水道水に含まれる物質の検出方法,浄水過程における低減化法,毒性情報,暴露量への寄与など水道水質基準の基礎となる多数の知見が得られた。主要な知見は「結果と考察」のとおりである.これらの成果は論文により公表されるとともに厚生労働省令や告示等や水質基準逐次改正検討会資料に資された.
公開日・更新日
公開日
2018-06-05
更新日
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