化学物質の安全性と発がん性リスク評価のための短・中期バイオアッセイ系の開発

文献情報

文献番号
201329017A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の安全性と発がん性リスク評価のための短・中期バイオアッセイ系の開発
課題番号
H23-化学-指定-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉見 直己(琉球大学大学院医学研究科腫瘍病理学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 智(名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学)
  • 塚本 徹哉(藤田保健衛生大学医学部病理診断科)
  • 久野 壽也(名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学)
  • 魏 民(大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学)
  • 横平 政直(香川大学医学部腫瘍病理学)
  • 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター病理部実験病理学)
  • 戸塚 ゆ加里(国立がん研究センター研究所発がんシステム研究分野)
  • 伊吹 裕子(静岡県立大学環境科学研究所環境毒性学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,100,000円
研究者交替、所属機関変更
分担研究者、久野壽也の所属が、岐阜大学大学院医学研究科腫瘍病理学から、平成25年10月に名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学に異動・変更されました。

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究で、短・中期発がん予測バイオアッセイ系を検討し、動物代替法の一つとして、そのガイドライン設定の方向性を示すことを目的とした。既にヨーロッパ・ユーロ圏の諸国での研究施設では、特に化粧品関連物質に関しては、法的に動物実験系ができなくなるため、代替実験法の開発が急がれ、最近では動物愛護の観点から動物発がん性から培養細胞を利用する代替法が開発されつつある。しかし、培養細胞の性質から生体での変化を確認することはなかなか困難である。そのため、特に発がん性に関しては,動物モデルでの評価法は未だに必要不可欠であると考えられるものの、国際的に動物試験に対する3R(代替法活用、使用数削減、苦痛軽減)の原則は考慮されねばならない。今回、使用数削減、苦痛軽減を目指し、ヒトでの病理診断での早期発見の基盤であり、腫瘍形成を正確に判定し得る病理組織学的な評価を基盤とした短・中期発がん性試験としてのバイオアッセイ系を検討した。実際、ヒトにおける生検標本での病理診断技術の発達は、胃や膀胱等内視鏡的にも病変を認めない場合でも、ランダム生検により、病理組織学的に異型細胞の存在は重要な診断価値があり、その後の精査の対象となっている。未知物質の発がん性試験には長期動物実験による肉眼的な腫瘍形成を指標としており、その観察される腫瘤の病理組織学的な検索はあくまでも腫瘍形成を確定するためのものであった。一方,動物実験においても従前より前がん病変として種々の早期に発現する病巣の研究がなされてきた。それら早期病変に関する多くの研究は腫瘍発生機序解明の視点でのものであった。このため、本研究では、前がん病変とされてきたもののうち、病理組織学的に腫瘍の可能性を有すると認識できるものは、その肉眼的な腫瘍形成状況に関わらず、腫瘍として認める発がん性試験法の開発を目指すことにした。
研究方法
主に臓器別に中・短期バイオアッセイ系の確立と新規in vitro発がん性予測試験を実施した。具体的には、大腸・胃・肝臓・肺臓・膀胱・前立腺のそれぞれに対して、特異的な発癌物質投与モデルを利用した。それぞれに組織学的な検索を用い、20週までに発現してくる病変を顕微鏡的ないし免疫組織化学的に特異的な前がん病変を観察した。また、新規in vitro発がん性予測試験として、網羅的なDNA付加体解析法とヒストン修飾を指標とした解析法を用いて新規マーカー検索を実施した。
結果と考察
大腸モデルでは、前がん病変であると認識されているaberrant crypt foci (ACF)とmucin-depleted foci (MDF)の二つ病変の組織学的観察・診断により、5週目の採取標本において、大腸粘膜表面の観察にてACFの出現を確認し、腫瘍性(腺腫)47.4%、過形成病変26.7%、炎症性病変21.1%、病変特定不可15.8%であった。MDFでは、腫瘍性(腺腫)20%、過形成病変33.3%、炎症性病変20%、病変特定不可26.3%であった。10週において、ACFでは腫瘍性(腺腫)54.5%、過形成病変18.1%、炎症性病変9%、病変特定不可18.1%であった。MDFでは、腫瘍性(腺腫)77.7%、腫瘍性(癌腫)16.6%、過形成病変5.5%、炎症性病変0%であった。以上から、前がん性病変と考えられているACFやMDFでも早期腫瘍性病変として病理組織診断が可能であると考えられた。肺臓モデルでは、種々の発癌物質で20週までに形成される過形成性病変のうち、検討した7種類のマーカー候補抗体のうち、NapsinAの発現が炎症性による過形成とは異なり、腫瘍性過形成としてのマーカーとなり得ると考えられた。肝臓モデルでは、gpt deltaラットを利用し、ラット肝前がん病変マーカーであるGST-P陽性細胞巣を検討し、2-acetylaminofluorene (2-AAF)の肝発がん促進作用が認められた。また、gptアッセイとSpi-アッセイでは対照群に比較して2-AAF投与群で点突然変異頻度および欠失変異頻度の有意な増加が認められた。ヒストン修飾を指標とした解析法でマーカー酵素となったγ-H2AXに関して、胃、膀胱、前立腺で検討され、散在性に腫瘍病変に陽性像を認め、今後、有用なマーカー候補と考えられた。
結論
今回の研究期間での結論として,従来の伊東法における肝臓での病変観察に加えて,大腸における肉眼的に観察されるACF・MDFの前がん病変とされてきた病変の病理組織診断での確認と,肺臓でのNapsinAのマーカーとする病変の免疫組織化学的観察により,中短期での発がん性試験への代替が可能と考えられた。他の臓器の早期病変の観察に関しては、今後の検討を要する。

公開日・更新日

公開日
2014-08-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2014-08-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201329017B
報告書区分
総合
研究課題名
化学物質の安全性と発がん性リスク評価のための短・中期バイオアッセイ系の開発
課題番号
H23-化学-指定-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉見 直己(琉球大学大学院医学研究科腫瘍病理学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 智(名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学)
  • 塚本 徹哉(藤田保健衛生大学医学部病理診断科)
  • 久野 壽也(名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学)
  • 魏 民(大阪市立大学大学院医学研究科分子病理学)
  • 横平 政直(香川大学医学部腫瘍病理学)
  • 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター病理部実験病理学)
  • 戸塚 ゆ加里(国立がん研究センター研究所発がんシステム研究分野)
  • 伊吹 裕子(静岡県立大学環境科学研究所環境毒性学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
分担研究者、久野壽也の所属が、岐阜大学大学院医学研究科腫瘍病理学から、平成25年10月に名古屋市立大学大学院医学研究科実験病態病理学に異動・変更されました。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究で、短・中期発がん予測バイオアッセイ系を検討し、動物代替法の一つとして、そのガイドライン設定の方向性を示すことを目的とした。既にヨーロッパ・ユーロ圏の諸国での研究施設では、特に化粧品関連物質に関しては、法的に動物実験系ができなくなるため、代替実験法の開発が急がれ、最近では動物愛護の観点から動物発がん性から培養細胞を利用する代替法が開発されつつある。しかし、培養細胞の性質から生体での変化を確認することはなかなか困難である。そのため、特に発がん性に関しては,動物モデルでの評価法は未だに必要不可欠であると考えられるものの、国際的に動物試験に対する3R(代替法活用、使用数削減、苦痛軽減)の原則は考慮されねばならない。今回、使用数削減、苦痛軽減を目指し、ヒトでの病理診断での早期発見の基盤であり、腫瘍形成を正確に判定し得る病理組織学的な評価を基盤とした短・中期発がん性試験としてのバイオアッセイ系を検討した。実際、ヒトにおける生検標本での病理診断技術の発達は、胃や膀胱等内視鏡的にも病変を認めない場合でも、ランダム生検により、病理組織学的に異型細胞の存在は重要な診断価値があり、その後の精査の対象となっている。未知物質の発がん性試験には長期動物実験による肉眼的な腫瘍形成を指標としており、その観察される腫瘤の病理組織学的な検索はあくまでも腫瘍形成を確定するためのものであった。一方,動物実験においても従前より前がん病変として種々の早期に発現する病巣の研究がなされてきた。それら早期病変に関する多くの研究は腫瘍発生機序解明の視点でのものであった。このため、本研究では、前がん病変とされてきたもののうち、病理組織学的に腫瘍の可能性を有すると認識できるものは、その肉眼的な腫瘍形成状況に関わらず、腫瘍として認める発がん性試験法検討・開発を目指した。
研究方法
主に臓器別に中・短期バイオアッセイ系の確立と新規in vitro発がん性予測試験を実施した。具体的には、大腸・胃・肝臓・肺臓・膀胱・前立腺のそれぞれに対して、特異的な発癌物質投与モデルを利用した。それぞれに組織学的な検索を用い、20週までに発現してくる病変を顕微鏡的ないし免疫組織化学的に特異的な前がん病変を観察した。また、新規in vitro発がん性予測試験として、網羅的なDNA付加体解析法とヒストン修飾を指標とした解析法を用いて新規マーカー検索を実施した。
結果と考察
大腸モデルでは、前がん病変であると認識されているaberrant crypt foci (ACF)とmucin-depleted foci (MDF)の二つ病変の組織学的観察・診断により、5週目の採取標本において、大腸粘膜表面の観察にてACFの出現を確認し、腫瘍性(腺腫)47.4%、過形成病変26.7%、炎症性病変21.1%、病変特定不可15.8%であった。MDFでは、腫瘍性(腺腫)20%、過形成病変33.3%、炎症性病変20%、病変特定不可26.3%であった。10週において、ACFでは腫瘍性(腺腫)54.5%、過形成病変18.1%、炎症性病変9%、病変特定不可18.1%であった。MDFでは、腫瘍性(腺腫)77.7%、腫瘍性(癌腫)16.6%、過形成病変5.5%、炎症性病変0%であった。以上から、前がん性病変と考えられているACFやMDFでも早期腫瘍性病変として病理組織診断が可能であると考えられた。肺臓モデルでは、種々の発癌物質で20週までに形成される過形成性病変のうち、検討した7種類のマーカー候補抗体のうち、NapsinAの発現が炎症性による過形成とは異なり、腫瘍性過形成としてのマーカーとなり得ると考えられた。肝臓モデルでは、gpt deltaラットを利用し、ラット肝前がん病変マーカーであるGST-P陽性細胞巣を検討し、2-acetylaminofluorene (2-AAF)の肝発がん促進作用が認められた。また、gptアッセイとSpi-アッセイでは対照群に比較して2-AAF投与群で点突然変異頻度および欠失変異頻度の有意な増加が認められた。ヒストン修飾を指標とした解析法でマーカー酵素となったγ-H2AXに関して、胃、膀胱、前立腺で検討され、散在性に腫瘍病変に陽性像を認め、今後、有用なマーカー候補と考えられた。
結論
今回の研究期間での結論として,従来の伊東法における肝臓に加えて、大腸における肉眼的に観察されるACF・MDFの前がん病変とされてきた病変の病理組織診断での確認と,肺臓でのNapsinAのマーカーとする病変の免疫組織化学的観察により,中短期での発がん性試験への代替が可能と考えられた。他の臓器の早期病変の観察に関しては、今後の検討を要する。

公開日・更新日

公開日
2014-08-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201329017C

収支報告書

文献番号
201329017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,928,000円
(2)補助金確定額
20,928,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 14,184,209円
人件費・謝金 0円
旅費 910,180円
その他 1,005,716円
間接経費 4,828,000円
合計 20,928,105円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-08-14
更新日
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