食品安全行政における政策立案、政策評価に資する食品由来疾患の疫学的推計手法に関する研究

文献情報

文献番号
201327042A
報告書区分
総括
研究課題名
食品安全行政における政策立案、政策評価に資する食品由来疾患の疫学的推計手法に関する研究
課題番号
H23-食品-指定-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 百瀬 愛佳(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 大西 俊郎(九州大学経済学研究院)
  • 宮川 昭二(国立感染症研究所国際協力室)
  • 大田 えりか(伊東 えりか)(成育医療研究センター研究所)
  • Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 西浦 博(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品安全行政では、食品衛生法に基づいて集計される食中毒統計、および感染症法に基づいて集計される感染症情報等をもとに食品安全確保対策を講じているが、他の疾患や障害等との比較可能な疾病負担という概念を用いた施策の立案・評価は十分であるとは言えない。本研究の目的は、我が国の食品由来疾患の負担を包括的に推計することである。
研究方法
平成25年度は、平成23年度、24年度の活動を更に進展させ、全国規模の電話調査により得られた国民の医療機関受診率及び検便検査実施率を追加し、食品由来疾患の急性胃腸炎患者数の推計の精度を高めるとともに、20年度、23年度のカンピロバクター属菌、サルモネラ属菌及び腸管出血性大腸菌(EHEC)の負担(障害調整生存年、disability-adjusted life years: DALYs)を推計した。さらに、DALYsを政策評価指標として活用することによる食品由来疾患の疾病負荷についての異なる疾病間での比較、及び個々の予防策(その費用対効果も含め)についての比較の実現可能性を検討するための予備的研究として、食肉へのHACCP導入による細菌性食中毒の予防効果の推定ならびに費用対効果の推定研究を行った。
結果と考察
平成25年8月、平成26年3月に研究班会議を開催し、研究成果を確認するとともに、各分担研究者間の連携を図った。
 平成25年度は、大西、スチュアートは全国電話調査による医療機関受診率及び検便検査実施率を推計するとともに、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌、及び腸管出血性大腸菌による食品由来の急性胃腸炎の実被害患者から、その続発性疾患の実被害患者数を求め、それぞれの病原因子の食品由来疾患の負担(DALYs)を包括的に推計した。大田、百瀬は、系統的レビュー手法を解説し、コクラン系統的レビューの研究手法に基づいた系統的レビュー実施のための留意点として、系統的レビューは、網羅的な検索と、データの抽出、研究のバイアスの評価、分析という一連の流れがあり、検索などは専門家の力を借りながら、一人でやらないことがエラーを防ぐ上で重要であること、日本からのレビューではEmbaseをいれていないことが多いが、データベースに偏りがないことも重要であることを抽出した。西浦は、コンパートメント型モデルを用いて感受性を有する者が一定の感染ハザードを経験することを仮定し、カンピロバクター属菌とサルモネラ属菌の両方の感染が起こるモデルを構築し、HACCPによって食鳥の汚染リスクが下がることによる食中毒予防の費用対効果をDALYsを用いて検討した。宮川は、東京電力福島第一原子力発電所事故への食品安全行政の対応について、食品中の放射性物質モニタリング調査のうち、海産魚類に関するモニタリングに着目し、コモンカスベなど規制値を超える放射性セシウムが検出された魚類は出荷制限がかけられており、国民の通常の食生活に伴うリスクに直接結び付くものではないことを確認した。更に、代表研究者の渋谷は、3月にWHOに出張し、日本の活動状況について報告し、WHO/FERGの活動に貢献した。こうした当研究班の試みは国別パイロットスタディーにおいて、WHOや参加国からも高い評価を受けた。
結論
食品由来疾患の負担(DALYs)を包括的に推計するという試みは世界的にもまだ少なく、本研究が日本での最初の試みである。包括的な食品由来疾患の負担の推計は、日本の食品安全行政システムの全体像を把握すると共に、食品安全行政の施策の科学的データに基づいた評価を可能にし、今後の施策策定のための基盤整備に資するものである。今後の取組として、より信頼性の高いDALYs推計及び食品寄与率推計のための根拠データの収集体制において、都道府県等のデータ及び他の研究班の成果などを活用することができる体制を整備するとともに、DALYsを活用した食品由来疾患の疾病負荷を異なる疾病間で比較、個々の予防策(その費用対効果も含め)の比較に関する予備的研究を踏まえ、食品安全行政の政策効果を検証することが可能であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201327042B
報告書区分
総合
研究課題名
食品安全行政における政策立案、政策評価に資する食品由来疾患の疫学的推計手法に関する研究
課題番号
H23-食品-指定-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 百瀬 愛佳(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部)
  • 大西 俊郎(九州大学経済学研究院)
  • 宮川 昭二(国立感染症研究所国際協力室)
  • 大田 えりか(伊東 えりか)(成育医療研究センター研究所)
  • Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 西浦 博(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品安全行政では、食品衛生法に基づいて集計される食中毒統計、および感染症法に基づいて集計される感染症情報等をもとに食品安全確保対策を講じているが、他の疾患や障害等との比較可能な疾病負担という概念を用いた施策の立案・評価は十分であるとは言えない。本研究では、行政統計や科学論文を対象に食品由来の健康被害実態について情報収集・整理を行い、疫学的推計手法を用いてDALYsを算出し、施策立案における優先順位決定・政策評価の指標として用いる可能性を検証する。
研究方法
平成23年度は、主として、FERGのpilot studyの準備を行う。全体班会議を6月に開催し、今年度の研究目標と成果物の確認を行う。包括的な下記の3つの実証分析のために、既存データの有無についてレビューを開始する:1)日本にとって最重要と思われる食品由来疾患のDALY推計、2)日本の食品安全行政システムとそれを支援する科学に関する状況分析、3)食品寄与率推定のために専門家の意見を総合する推計手法の開発を行う。さらに、食品由来疾患の続発性疾患についての系統的レビューを実施する。
平成24年度は、3年計画の2年目として、FERGのpilot studyを実施する。全体班会議を6月・10月・3月に開催し、今年度の研究目標と成果物の確認を行う。主要な食品由来疾患に関してDALYsを算出するとともに、専門家調査を実施し、その結果を分析して食品寄与率の推計を行う。更に、日本の食品安全行政システム等を分析し、我が国の食品安全確保対策におけるDALYsの利用可能性について検証する。
 25年度は、最終年として、分析対象疾患を拡大し、研究成果をまとめる。全体班会議を6月・3月に開催し、今年度の研究目標と成果物の確認を行う。具体的には、全国電話調査を実施し、医療機関受診率、検便検査実施率を推定し、それらの結果を食品由来の急性下痢症患者数の推計に活用するとともに、主要な食品由来疾患に関して被害実態(DALYs)を算出する。また、DALYsを活用した食肉へのHACCP導入による細菌性食中毒の予防効果の推定ならびに費用対効果の推定に関する予備的研究を行う。更に、日本の食品安全行政システム等を分析し、我が国の食品安全確保対策におけるDALYsの利用可能性について検証する。
結果と考察
平成23年度は、日本の食品安全行政システムならびに科学的知見の伝達手法に関する状況分析を行うと共に、疫学的推計手法を用いて「食品由来疾患の負担(障害調整生存年、disability-adjusted life years: DALYs)」を算出するプロトコールの検証を行い、既存データの検証と疾患のアウトカムについての系統的レビューを実施した。平成24年度は、初年度の活動を更に進展させ、カンピロバクター属菌による食品由来の急性胃腸炎の実被害患者から、その続発性疾患の実被害患者数を求め、カンピロバクター属菌による被害実態をDALYsを用いて推計した。さらに、食品由来疾患の原因のうち、サルモネラ属菌ならびに志賀毒素産生性大腸菌に焦点を当て、文献調査を行った。食品由来疾患の実被害患者数を推計するために必要な病原因子毎の感染源寄与率(source attribution)及び食品安全行政の施策立案の優先順位付けにおける1つの指標である病原因子毎の食品寄与率(food attribution)について、当該分野の専門家から意見を統計学的に解析し集約する我が国で初めての試みを行った。平成25年度は、平成23年、24年度の活動を更に進展させ、全国規模の電話調査により得られた国民の医療機関受診率及び検便検査実施率を追加し、食品由来疾患の急性胃腸炎患者数の推計の精度を高めるとともに、20年度、23年度のカンピロバクター属菌、サルモネラ属菌及び腸管出血性大腸菌(EHEC)の被害実態(DALYs)を推計した。
結論
食品由来疾患によるDALYsを求めるという試みは世界的にもまだ少なく、本研究が日本での最初の試みである。包括的な食品由来疾患の負担の推計は、日本の食品安全行政システムの全体像を把握すると共に、食品安全行政の施策の科学的データに基づいた評価を可能にし、今後の施策策定のための基盤整備に資するものである。今後の取組として、より信頼性の高いDALYs推計及び食品寄与率推計のための根拠データの収集体制において、都道府県等のデータ及び他の研究班の成果などを活用することができる体制を整備するとともに、DALYsを活用した食品由来疾患の疾病負荷を異なる疾病間で比較、個々の予防策(その費用対効果も含め)の比較に関する予備的研究を踏まえ、食品安全行政の政策効果を検証することが可能であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201327042C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品由来疾患によるDALYsを求めるという試みは世界的にもまだ少なく、本研究が日本での最初の試みである。包括的な食品由来疾患の負担の推計は、日本の食品安全行政システムの全体像を把握すると共に、食品安全行政の施策の科学的データに基づいた評価を可能にし、今後の施策策定のための基盤整備に資するものである。
臨床的観点からの成果
より信頼性の高いDALYs推計及び食品寄与率推計のための根拠データの収集体制において、都道府県等のデータ及び他の研究班の成果などを活用することができる体制を整備するとともに、DALYsを活用した食品由来疾患の疾病負荷を異なる疾病間で比較、個々の予防策(その費用対効果も含め)の比較に関する予備的研究を踏まえ、食品安全行政の政策効果を検証することが可能であることが示唆された。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発はおこなわれていない。
その他行政的観点からの成果
カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌及び腸管出血性大腸菌(EHEC)の被害実態(DALYs)を推計した。さらに、DALYsを政策評価指標として活用することによる食品由来疾患の疾病負荷についての異なる疾病間での比較、及び個々の予防策(その費用対効果も含め)についての比較の実現可能性を検討するための予備的研究として、食肉へのHACCP導入による細菌性食中毒の予防効果の推定ならびに費用対効果の推定研究を行った。
その他のインパクト
世界保健機関(WHO)は、食品由来疾患の予防及び管理が公衆衛生上も重要な問題であるとの認識を示しており、食品由来疾患リファレンスグループ(FERG)では、疫学的見地からDALYsの食品由来疾患への活用を検討するためのプロトコールを作成し、実効性を検証している。本研究の実施はWHOの科学的活動との連携を通して、世界的な食品安全にも貢献するものである。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
渋谷健司・熊谷裕子
食品由来疾患疫学リファレンスグループ(WHO/FERG) の取り組みについて
食品衛生研究 ,  (63) , 15-24  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
2018-07-03

収支報告書

文献番号
201327042Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 249,967円
人件費・謝金 0円
旅費 3,034,333円
その他 1,715,700円
間接経費 1,500,000円
合計 6,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-