印刷労働者にみられる胆管癌発症の疫学的解明と原因追究

文献情報

文献番号
201326023A
報告書区分
総括
研究課題名
印刷労働者にみられる胆管癌発症の疫学的解明と原因追究
課題番号
H25-労働-指定-013
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
圓藤 吟史(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河田 則文(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 久保 正二(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 河野 公一(公益社団法人 関西労働衛生技術センター)
  • 祖父江友孝(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 津熊 秀明(大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 久保田昌詞(大阪労災病院勤労者予防医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 大阪府の印刷会社(A社)オフセット校正印刷部門の元従業員および現従業員において、高頻度の胆管がん罹患および死亡が報告された。本研究では、A社を含め、印刷労働者にみられる胆管がん発症の実態を明らかにし、疫学的解明を行うとともに原因追究を行うことを目的とする。
研究方法
 A社労働者において使用洗浄剤を考慮した従事期間別に標準化罹患比(SIR)を計算した。A社労働者ならびに全国の職業性胆管がん症例において診断前の臨床経過および臨床病理学的検討を行った。A社のオフセット校正印刷部門の元および現従業員で胆管がんとの診断を受けていない者を対象に胆管がん検診を実施した。労災病院病職歴データベースから胆管がんと病職歴との関連を解析した。大阪府における胆管がん罹患の地理的集積性を検討した。ジクロロメタン(DCM)取扱事業所における作業環境測定結果を検討した。動物実験で1,2-ジクロロプロパン(DCP)の遺伝毒性およびDCMとの複合影響について検討した。
結果と考察
 A社オフセット校正印刷部門の従事者コホート全体(胆管がん罹患17例)のSIRは1153(95%信頼区間672-1847)であった。潜伏期間5年とした場合、DCM曝露がなくDCP曝露のある群でのSIRは2024(95%信頼区間743-4404)、DCM・DCPの混合曝露群のSIRは1446(95%信頼区間722-2587)であった。また、1993年から2000年までを開始年とするコホートのSIRが3500以上と他の暦年よりも高い傾向にあった。
 A社の職業性胆管がん2例を解析した結果、胆管診断前の臨床検査値や画像所見の推移は胆管がん発症、進展に関連していると考えられた。A社以外の全国での職業性胆管がん9例は、全例が男性で年齢が31歳から57歳で、DCPあるいはDCMの曝露を受けていた。A社の症例の特徴であったγ-GTP高値、がんによる胆管狭窄を伴わない限局性肝内胆管拡張、前がん病変や早期がん病変が多く認められた。
 A社の元および現従業員を対象とした胆管がん検診では、第1回(平成25年7月~10月)に受診した62名、第2回(平成26年1月~3月)に受診した51名において積極的に胆管がんを疑う所見は認められなかった。ハイリスクの者に絞って継続して検診を実施することが求められた。また、健康状況調査票を回収できた130名には胆管がんの有病は認められなかった。
 労災病院の入院患者病職歴データベースを活用して検討したところ、有機溶剤使用(推測)製造業および飲酒量が多いほど、若年化がみられること、胆管がんの腫瘍占拠部位については肝内が肝外に比して発症年齢が若かったこと、が認められた。
 大阪府2004-2007年診断患者における胆管がん罹患の地理的集積性の検討では、A事業所付近に統計的有意な胆管がん罹患の集積はみられなかった。
 A事業場では、現在、ブランケットの洗浄の際は、シクロへキサン50~60%、プロピレングリコールモノメチルエーテル20~30%、エタノール10~20%、残り炭化水素10%のものを使っている。作業環境は第2管理区分相当であったことから循環式空調システムを取り止め、オール外気取入、オール排気のシステムとするともに、開放式プッシュプル型換気装置を設置し、第1管理区分相当に改善された。A事業場以外のDCM取扱事業所9か所の作業環境測定を実施しところ、第2管理区分は1事業所、第3管理区分は2事業所であった。局所排気装置あるいは密閉装置を用いていない事業所は5事業場でそのうち2事業場はオフセット印刷作業に伴い行われるローラーの払拭を行っていた。
 DCP 投与ラット肝についても、胆管上皮細胞にはγ-H2AXの陽性像は観察されなかったが、肝細胞に対しては陽性像の増加傾向がみられ、軽度ながらDNA 二重鎖切断を誘導する可能性が示唆された。
結論
 A社のコホート研究からはDCPが原因物質である可能性が示唆された。一方1993-2000年の間での短期間曝露でのリスク増加の可能性も示唆された。胆管がん発症例での検討では、臨床検査値や画像所見の推移は胆管がん発症、進展に関連しており、肝機能検査や画像診断所見の推移を観察することが重要と考えられた。胆管がん検診では新たな胆管がん発症は認められなかった。今後健康管理手帳への移行を指導する。労災病院病職歴データベースによる検討では、若年化がみられること、肝内胆管がんは肝外に比して発症年齢が若く、今後の検討が必要であった。大阪府における胆管がん罹患の地理的集積性ではA社の近隣への環境曝露の影響はみられなかった。DCM取扱作業場では、不適切な作業環境管理の事業場が散見した。
DCP はラット肝細胞に対して、軽度ながらDNA 二重鎖切断を誘導する可能性が示唆されている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201326023Z