ストレス関連疾患に対する統合医療の有用性と科学的根拠の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201325024A
報告書区分
総括
研究課題名
ストレス関連疾患に対する統合医療の有用性と科学的根拠の確立に関する研究
課題番号
H24-医療-一般-025
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岡 孝和(九州大学大学院 医学研究院心身医学)
研究分担者(所属機関)
  • 金光 芳郎(福岡歯科大学 総合医学講座 心療内科学分野)
  • 守口 善也(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部 心身医学・脳機能画像学)
  • 松下 智子(九州大学健康科学センター臨床心理学・学生相談・心理健康学(九州大学基幹教育院))
  • 有村 達之(九州ルーテル学院大学 人文学部 心理臨床学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,260,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ストレス関連疾患に対する統合医療(現代医学的治療とヨーガ療法、自律訓練法といったCAM心身相関療法を統合した治療)の有用性、安全性、経済性、およびその奏効機序について検討することを目的とする。
研究方法
研究実施施設での倫理委員会で承認を得た後、4つの研究を行った。【研究1】①ストレス関連疾患の一つである慢性疲労症候群(Chronic fatigue syndrome, CFS)に対する現代医学療法とヨーガ療法併用療法の安全性、有用性についてランダム化比較試験(RCT)によって検討した。②ストレス関連疾患に対する現代医学療法と自律訓練法(autogenic training, AT)の併用療法の安全性、有用性を検討した。【研究2】AT、ヨーガなどの心身相関療法で重視される身体感覚を意識する意義について、両手に注意を向けたときの脳活動を磁気共鳴機能画像法を用いて検討し、また心電図(心拍変動)を同時測定することで、そのような意識の変化が自律神経系の変化とどう結びついているか、健康な被験者27名で検討した。【研究3】ヨーガによって生じる有害事象の内容、重症度、頻度に関する全国規模の調査を行った。【研究4】ヨーガの安全性、有用性、経済性に関する国内外の文献を調べてまとめた。
結果と考察
【研究1】①現代医学的な治療を6ケ月以上行なっても十分な改善が得られなかったCFS患者11名に対して、現代医学療法とアイソメトリックヨーガの併用療法を8週間行なった群(ヨーガ群)と現代医学療法のみ8週間行なった群(コントロール群)との間で疲労の程度を比較したところ、ヨーガ群でのみチャルダー疲労スケール得点が低下(疲労が改善)した。さらにヨーガ併用は疲労だけでなく、疼痛の訴えや日常生活機能を改善することが示された。ヨーガを練習した11名中1名で、初回の練習後、一過性の気分不良を訴えたが、2回目以降の練習では有害事象は生じなかった。他の10名では有害事象なく実施できた。20分間のヨーガ練習後、プロラクチン値が低下傾向を示したことから、ヨーガによってドーパミン神経系の機能が賦活する可能性が示唆された。治療抵抗性のCFSに対してヨーガ併用療法は安全で有用な治療法と考えられた。②治療開始4週以上経過したストレス関連疾患患者10名に対して、ATと現代医学的治療の併用を4-8週行なったところ、自覚症状の強さ、SDS(抑うつ)得点、自律神経機能検査でのLF/HF(交感神経機能)が低下した。ATにより約半数の患者は、ふらつきや、ほてり感などの症状を訴えたが、練習を中断するほどではなかった。【研究2】健康な被験者が両手に注意を向けると体性感覚野と前部島皮質の優位な活動がみられた。また、心拍変動のうち、副交感神経に関わる成分と腹内側前頭皮質の活動とが相関していた。腹内側前頭皮質(自律神経系のコントロールを司る領域)の活動と、前部島皮質(身体の気づきに関わる)活動の被験者ごとの関連性を検討したところ、正の相関関係がみられた。自分自身の身体に注意を向けると、内受容感覚の処理の中心である前部島皮質が活動するが、内受容感覚に注意を向けやすい個人は、自律神経系(副交感神経機能)の脳内でのコントロールもうまく機能している可能性が示唆された。【研究3】ヨーガ教室受講者2508名を対象として、ヨーガ実習中に生じた有害事象について調査した。何らかの好ましくない症状を報告した者は687名(28%)であった。筋肉痛などの筋骨格系の症状が297件と最も多かったが、ほとんどは軽微なものであり、実習に支障をきたすものではなかった。その一方でヨーガの実習を即刻中止せざるを得なかった者は、有害事象を訴えた者の1.9%でみられた。持病があること、その日の体調が悪いこと、実習を精神的にきついと感じた者で有害事象発生のオッズ比が高かった。【研究4】PubMedを用いて、ヨーガの種類、対象疾患、有用性、安全性についてまとめた。とくに医学的有用性に関してはRCTの結果を中心にまとめインターネット上で概略を公開した。
結論
今回の研究で、我々は、ストレス関連疾患に対して、現代医学にヨーガ、ATを併用する統合医療が、おおむね安全であり、有用性が認められることを報告した。さらに、その脳内機序の一端についても明らかにした。しかしながら、統合医療の有用性、安全性に関してはさらなる検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201325024B
報告書区分
総合
研究課題名
ストレス関連疾患に対する統合医療の有用性と科学的根拠の確立に関する研究
課題番号
H24-医療-一般-025
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岡 孝和(九州大学大学院 医学研究院心身医学)
研究分担者(所属機関)
  • 金光 芳郎(福岡歯科大学 総合医学講座 心療内科学分野)
  • 守口 善也(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部 心身医学・脳機能画像学)
  • 松下 智子(九州大学健康科学センター臨床心理学・学生相談・心理健康学(九州大学基幹教育院))
  • 有村 達之(九州ルーテル学院大学・人文学部・心理臨床学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ストレス関連疾患に対する統合医療(現代医学的治療とヨーガ療法、自律訓練法(AT)といったCAM心身相関療法を統合した治療)の有用性、安全性、経済性、およびその奏効機序について検討すること。
研究方法
【研究1】①通常の治療を6ヶ月以上行なっても十分な改善の得られない慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome, CFS)30名に対する8週間の現代医学療法とヨーガ療法併用療法の安全性、有用性、医療経済的効果をランダム化比較試験(RCT)によって検討した。②ストレス関連疾患に対する現代医学療法とATの併用療法の安全性、有用性を検討した。【研究2】①AT、ヨーガなどの心身相関療法で重視される身体感覚を意識する意義について磁気共鳴機能画像法を用いて検討し、また意識の変化が自律神経系の変化とどう結びついているかを検討した。②禅、東洋の瞑想、マインドフルネスで強調される、不快情動刺激に対するメタ認知的対処の特徴について検討した。つまり不快情動刺激を加えたときの対処法として、不快な感情を抑制するという方法と、メタ認知、つまり自分の感情や考えていることを意識しながらも、客観的に観察するという対処を行なう時の脳活動の違いについて検討した。【研究3】ヨーガ教室受講者2508名を対象として、ヨーガによって生じる有害事象の内容、重症度、頻度について調べた。【研究4:文献研究】ヨーガの安全性、有用性、経済性に関して、国内外の文献を調べてまとめた。
結果と考察
【研究1】①現代医学療法とアイソメトリックヨーガの併用療法を行なった群(ヨーガ群)と現代医学療法のみ行なった群(コントロール群)との間で疲労の程度を比較したところ、ヨーガ群でのみチャルダー疲労スケール得点が低下した。ヨーガ併用は疲労を改善するだけでなく、疼痛の訴えや日常生活機能を改善した。15名中1名で、初回の練習後、一過性の気分不良を訴えたが、2回目以降の練習では有害事象は生じなかった。他の14名では有害事象なく実施できた。20分のヨーガ練習によりヨーガによって副交感神経機能が亢進した。またドーパミン神経系の機能が亢進する可能性も示唆された。アイソメトリックヨーガの併用療法は、治療抵抗性のCFSに対して、安全で有用な新たな治療法になりうる。② 治療開始4週以上経過したストレス関連疾患患者10名に対して、ATと現代医学的治療の併用を4-8週行なったところ、自覚症状の強さ、SDS(抑うつ)得点、自律神経機能検査でのLF/HF(交感神経機能)が低下した。ATにより約半数の患者は、ふらつきや、ほてり感などの症状を訴えたが、練習を中断するほどではなかった。【研究2】①健康な被験者が両手に注意を向けると体性感覚野と前部島皮質の優位な活動がみられた。また、心拍変動のうち、副交感神経に関わる成分と腹内側前頭皮質の活動とが相関していた。腹内側前頭皮質の活動と、前部島皮質の活動の被験者ごとの関連性を検討したところ、正の相関関係がみられた。つまり自分自身の身体に注意を向けると、内受容感覚の処理の中心である前部島皮質が活動するが、そうした内受容感覚に注意を向けやすい個人は、自律神経系(副交感神経機能)の脳内でのコントロールもうまく機能している可能性が示唆された。②不快情動に対するメタ認知的対処を行うと前部島皮質が活動し、それに伴い扁桃体の活動を制御することが確認された。東洋で強調される、身体に意識を向けること、さらに情動刺激に対して客観的に観察するということの両面において、前部島皮質が関与していることを明らかにした。【研究3】何らかの有害事象を報告した者は28%であった。筋肉痛などの筋骨格系の症状が最も多かったが、ほとんどは軽微なものであり、実習に支障をきたすものではなかった。持病があること、その日の体調が悪いこと、実習を精神的にきついと感じた者で有害事象発生のオッズ比が高かった。【研究4】インターネット上で結果の概略を公開した。
結論
今回の研究で、我々はストレス関連疾患に対しする現代医学にヨーガ、ATを併用する統合医療が、おおむね安全であり、有用性が認められることを報告した。また脳内機序の一端についても明らかにした。さらに今回の研究をもとに、「ストレス関連疾患患者に対するヨーガ利用ガイド」(医療従事者用)(患者用)を作成し、インターネット上で公開した(http://okat.web.fc2.com/)。統合医療の有用性、安全性、経済性に関しては今後さらなる検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201325024C

収支報告書

文献番号
201325024Z