皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究 

文献情報

文献番号
201324076A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究 
課題番号
H24-難治等(難)-一般-038
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 隆(久留米大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 金澤 伸雄(和歌山県立医科大学 医学部)
  • 森脇 真一(大阪医科大学 医学部)
  • 米田 耕造(香川大学 医学部)
  • 宇谷 厚志(長崎大学 医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究目的:水疱性類天疱瘡、ヘイリーヘイリー病・ダリエ病、自己炎症性症候群、早老症、角化症、弾力線維性仮性黄色腫の6疾患について研究を進める。この6疾患はいずれも生命予後やQOLの観点から重要な皮膚疾患であり、患者数の増加とともに研究の推進が必要である。また検討する5名の班員は、いずれも各疾患において我が国の皮膚科のリーダーとして活躍している。
研究方法
研究方法:主として遺伝関連性皮膚疾患の研究を行うが、異なった領域をカバーしているため、研究代表者が5名の班員の異なった施設の研究を総括する。研究代表者の施設、久留米大学皮膚科では類天疱瘡とヘイリーヘイリー病・ダリエ病の研究を、それぞれ異なった研究協力者体制で進める。自己炎症性疾患、早老症、角化症、弾性線維性仮性黄色腫に関しては、それぞれ和歌山県立医科大学、大阪医科大学、香川大学、長崎大学で、研究分担者がその施設の研究協力者と研究を進める。その経過を研究代表者とe-mailや電話で密に連絡を取りながら進め、年に1回の班会議で総会を行い、その検討をもとに最終的な目的を達成する。
結果と考察
結果と考察:1.水疱性類天疱瘡とその類縁疾患:類天疱瘡疾患についての自己抗原・抗体を同定・検出し、診断法の確立と類天疱瘡の分類を作成する研究の一環として、BP180C末端部ELISA 法の開発と有用性の検討を行った。BP180C末端部-ELISA法はMMPの診断および病勢の客観的指標として用いることができることを示唆した。ジューリング疱疹状皮膚炎については、病変部皮膚でIgAとeTGが真皮乳頭でcolocalizeしていた。tTGとIgAのcolocalizationは認められなかった。 2.ヘイリーヘイリー病・ダリエ病:ヘイリーヘイリー病の培養表皮細胞においていくつかのカルシウム結合蛋白質の遺伝子発現と角化関連遺伝子の発現がコントロールより増強していたことを示した。ダリエ病10例においても、ATP2A2遺伝子に9個の変異を同定することができた。 3.自己炎症性症候群:発熱・皮疹など炎症症状が持続する成人例に対して3週間おきにトシリズマブを半年間投与する臨床研究を行い、筋痛などの自覚症状の軽快を認め継続投与している。さらに、難治性疣贅を主症状とする原発性免疫不全症例のエキソーム解析にてLIG4新規変異を見出したのを契機に、NNSが疑われながらPSMB8など既知の関連遺伝子に変異のない2症例についてもエキソーム解析を進めている。 4.早老症:CSモデルマウス(XPG-null)を使用してMBP、CC1、Olig2の発現を組織学的に検討したところ、大脳皮質でのみオリゴデンドロサイトの分化、ミエリン形成が障害されていた。オリゴデンドロサイトの脳への遊走能には異常はみられなかった。 5.角化症:CBO-P11あるいはJE-11をPD153035と組み合わせることによりロリクリンが原因となっている掌蹠角化症のモデル細胞であるVL-5細胞の増殖が顕著に抑制されることを見つけた。 6.弾性線維性仮性黄色腫:実態調査を継続して行い、現時点で約170例のPXE患者の詳しい臨床データを収集し、皮膚障害、視力障害、虚血性疾患などの情報を収集し、重症度、他臓器障害有病率等を検討した。
結論
結論:1.水疱性類天疱瘡とその類縁疾患:類天疱瘡疾患群の診断システムの開発のため、新しい診断法を開発するとともに未知の抗原の同定のためさまざまな研究を進めた。ジューリング疱疹状皮膚炎発症メカニズムに関しては、欧米症例と本邦症例であまり大きな違いがないことが判明した。しかし、遺伝学的背景は病気の発症メカニズムではなく、臨床像、特に腸症有無に大きく関与していることが推測された。2.ヘイリーヘイリー病・ダリエ病:カルシウムポンプの異常で起こる疾患であるが、種々の遺伝子変異により異なるメカニズムで症状が引き起こされている可能性が示唆された。3.自己炎症性症候群:本研究により、NNSの国際的な認知度が増したが、PSMB8変異疾患を包括するものというよりは、本邦独自の変異に基づく病態という位置づけが確立しつつある。4.早老症:昨年度から遺伝子変異を同定したCS患者では過去の報告通りCSA、CSBともに表現型・遺伝型にパラドックス関連を認めた。5.角化症:エクジソン誘導発現の系を用いて、掌蹠角化症モデル細胞を樹立することに成功した。このモデル細胞においては、種々のシグナル伝達の変化が観察され、この変化は掌蹠角化症の病態に深く関与しているものと考えられた。6.弾性線維性仮性黄色:皮膚科、眼科、循環器科医師が臨床疫学調査の結果を専門医の立場から検討し、結果の統計学的解析をふまえ、それに遺伝子診断も加えた診断基準を作成した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324076B
報告書区分
総合
研究課題名
皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究 
課題番号
H24-難治等(難)-一般-038
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 隆(久留米大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 金澤 伸雄(和歌山県立医科大学 医学部)
  • 森脇 真一(大阪医科大学 医学部)
  • 米田 耕造(香川大学 医学部)
  • 宇谷 厚志(長崎大学 医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究目的:水疱性類天疱瘡、ヘイリーヘイリー病・ダリエ病、自己炎症性症候群、早老症、角化症に焦点をしぼり、H24、25年度の2年間、研究を進める。H25年度より弾力線維性仮性黄色腫を加えた6疾患について研究を進める。この6疾患はいずれも生命予後やQOLの観点から重要な皮膚疾患であり、患者数の増加とともに研究の推進が必要である。また検討する5名の班員は、いずれも各疾患において我が国の皮膚科のリーダーとして活躍している。
研究方法
研究方法:主として遺伝関連性皮膚疾患の研究を行うが、異なった領域をカバーしているため、研究代表者が5名の班員の異なった施設の研究を総括する。研究代表者の施設、久留米大学皮膚科では類天疱瘡とヘイリーヘイリー病・ダリエ病の研究を、それぞれ異なった研究協力者体制で進める。自己炎症性疾患、早老症、角化症、弾性線維性仮性黄色腫に関しては、それぞれ和歌山県立医科大学、大阪医科大学、香川大学、長崎大学で、研究分担者がその施設の研究協力者と研究を進める。その経過を密に連絡を取りながら進め、年に1回の班会議で総会を行い、その検討をもとに最終的な目的を達成する。初年度は診断基準(案)を作成し、その原因遺伝子・細胞内シグナル伝達・病因自己抗体・自己抗原解析などの基礎研究を、2年目は、それぞれの疾患の新しい診断法を完成し、その病態を解明し新しい治療法を開発する。
結果と考察
結果と考察:1.水疱性類天疱瘡とその類縁疾患:類天疱瘡疾患群の診断システムをほぼ確立した。特に、抗BP180型粘膜類天疱瘡の標的抗原であるBP180C末端リコンビナント蛋白のELISA法を確立し、このELISA法は本疾患の診断と病勢把握に有用であった。ジューリング疱疹状皮膚炎については、病変部皮膚でIgAとeTGが真皮乳頭でcolocalizeしていた。tTGとIgAのcolocalizationは認められなかった。2.ヘイリーヘイリー病・ダリエ病:ヘイリーヘイリー病(HHD)の遺伝子検査を行い、5種のATP2C1変異を同定し、変異の種類と病因分子の発現との関連を調べた。HHDの培養表皮細胞を用いたマイクロアレイで、数種のカルシウム結合蛋白質と角化関連蛋白遺伝子の関与を示した。ダリエ病10例においても9個のATP2A2遺伝子変異を同定した。3.自己炎症性症候群:遺伝子解析にて、9歳男児の新規中條-西村症候群(NNS)症例を診断し、トシリズマブが有効であった。汎発性膿庖性乾癬症例にIL36RN変異を見出した。4.早老症:コケイン症候群(CS)診断センターで、9症例のCS I型3例(2例は新規変異)を確定診断し、表現型・遺伝型パラドキシカル関連を確認した。CS遺伝子(CSA、CSB)のノックダウン細胞では酸化ストレス処理後の紫外線感受性が亢進した。5.角化症:エクジソン誘導発現ベクターであるpINDベクターに野生型および変異ロリクリンgDNAを挿入後、RXRとエクジソン受容体を恒常的に発現しているHaCaT細胞にこれらのベクターをトランスフェクションし、安定トランスフォーマントを得た。6.弾性線維性仮性黄色腫:実態調査を継続して行い、現時点で約170例のPXE患者の詳しい臨床データを収集し、皮膚障害、視力障害、虚血性疾患などの情報を収集し、重症度、他臓器障害有病率等を検討した。
結論
結論:1.水疱性類天疱瘡とその類縁疾患:類天疱瘡疾患群の診断システムの開発のため、新しい診断法を開発するとともに未知の抗原の同定のためさまざまな研究を進めた。ジューリング疱疹状皮膚炎発症メカニズムに関しては、欧米症例と本邦症例であまり大きな違いがないことが判明した。しかし、遺伝学的背景は病気の発症メカニズムではなく、臨床像、特に腸症有無に大きく関与していることが推測された。2.ヘイリーヘイリー病・ダリエ病:カルシウムポンプの異常で起こる疾患であるが、種々の遺伝子変異により異なるメカニズムで症状が引き起こされている可能性が示唆された。3.自己炎症性症候群:本研究により、NNSの国際的な認知度が増したが、PSMB8変異疾患を包括するものというよりは、本邦独自の変異に基づく病態という位置づけが確立しつつある。4.早老症:昨年度から遺伝子変異を同定したCS患者では過去の報告通りCSA、CSBともに表現型・遺伝型にパラドックス関連を認めた。5.角化症:エクジソン誘導発現の系を用いて、掌蹠角化症モデル細胞を樹立することに成功した。このモデル細胞においては、種々のシグナル伝達の変化が観察され、この変化は掌蹠角化症の病態に深く関与しているものと考えられた。6.弾性線維性仮性黄色:皮膚科、眼科、循環器科医師が臨床疫学調査の結果を専門医の立場から検討し、結果の統計学的解析をふまえ、それに遺伝子診断も加えた診断基準を作成した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-03-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324076C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多くの遺伝性皮膚疾患および免疫遺伝学的検索により、ほぼすべての疾患、特に疱疹状皮膚炎、ヘイリー・ヘイリー病、ダリエー病、中條-西村症候群、コケイン症候群、掌蹠角化症、弾性線維性仮性黄色腫で、多くの遺伝子診断を施行し、新規遺伝子変異が検出され、免疫遺伝学的背景が明らかとなった。また、各種の細胞・マウスの疾患モデルを利用して、多くの疾患の病態の解明が進んだ。類天疱瘡疾患群では各種の生化学的・分子生物学的診断システムがほぼ確立した。ヘイリー・ヘイリー病、コケイン症候群が指定難病に選定された。
臨床的観点からの成果
ほぼすべての疾患は非常にまれな疾患であるが、全国的なアンケートなどにより、多くの新しい症例が渉猟され、臨床的知見が蓄積された。自己炎症性症候群ではトシリズマブの有効性が示唆され、掌蹠角化症の疾患モデルにより各種成長因子阻害薬の有効性が示唆された。さらに、各種の疾患モデルの所見から、患者に現れる臨床症状の発症機序が推定された。さらに、類天疱瘡とジューリング疱疹状皮膚炎では、新しい免疫学的知見が得られ、診断に有効と思われる。
ガイドライン等の開発
本研究班で検討した疾患のうち、水疱症類天疱瘡とその類縁疾患、中條-西村症候群および掌蹠角化症に関しては、ガイドラインを策定中である。しかし、ヘイリー・ヘイリー病・ダリエー病、コケイン症候群および弾性線維性仮性黄色腫に関しては、ガイドラインは未策定である。 ガイドライン策定については平成26年度「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究」は進行中である。
その他行政的観点からの成果
本研究班の研究者全員による総会が開催され、活発な討議が行われた。また、本研究班の研究代表者は、希少難治性皮膚疾患の研究班の研究分担者であり、天疱瘡や魚鱗癬様紅皮症などの疾患およびそれらの疾患の社会への啓発部門で行政施策反映に関係した。類天疱瘡の診断薬は現在薬価掲載の申請中である。今後、本研究の研究成果も特定疾患認定を中心に審議会等の参考や行政施策の反映に利用されると思われる。その成果は、本研究の継続である平成26年度「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究」に記す。
その他のインパクト
天疱瘡・類天疱瘡の患者会がマスコミに取り上げられ、これらの疾患について新聞に長期連載された。中條-西村症候群の責任遺伝子の発見はPNAS誌に掲載されマスコミに取り上げられた。また、市民公開講座において、多くの疾患について、わかりやすい講演を行った。久留米大学皮膚細胞生物学研究所主催の公開国際シンポジウムを久留米市において開催し活発な討議を行った。

発表件数

原著論文(和文)
65件
原著論文(英文等)
160件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
153件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fukuda S, Hamada T, Ishii N,et al.
Novel adenosine triphosphate (ATP)-binding cassette, subfamily A, member 12 (ABCA12) mutations associated with congenital ichthyosiform erythroderma.
British Journal of Dermatology , 166 (1) , 218-221  (2012)
原著論文2
Ohata C, Ishii N, Hamada T,et al.
Distinct characteristics in Japanese dermatitis herpetiformis: a review of all 91 Japanese patients over the last 35 years.
Clinical and Developmental Immunology , 2012  (2012)
原著論文3
Shigeta M, Saiki M, Tsuruta D,et al.
Two Japanese cases of dermatitis herpetiformis associated each with lung cancer and autoimmune pancreatitis but showing no intestinal symptom or circulating immunoglobulin A antibodies to any known antigens.
The Journal of Dermatology , 39 (12) , 1002-1005  (2012)
原著論文4
Hamada T, Tsuruta D, Fukuda S,et al.
How do keratinizing disorders and blistering disorders overlap?
Experimental Dermatology , 22 (2) , 83-87  (2013)
原著論文5
Ueo D, Hamada T, Hashimoto T,et al.
Late-onset Darier's disease due to a novel missense mutation in the ATP2A2 gene: a different missense mutation affecting the same codon has been previously reported in acrokeratosis verruciformis.
The Journal of Dermatology , 40 (4) , 280-281  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324076Z