文献情報
文献番号
201324072A
報告書区分
総括
研究課題名
胎児・新生児肺低形成の診断・治療実態に関する調査研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-034
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
臼井 規朗(大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 田口 智章(九州大学 大学院医学研究院 小児外科学分野)
- 左合 治彦(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター)
- 黒田 達夫(慶應義塾大学 外科学・小児外科)
- 北川 博昭(聖マリアンナ医科大学 小児外科)
- 鈴木 貞夫(名古屋市立大学院 医学研究科 公衆衛生学分野)
- 前田 貢作(自治医科大学 医学部外科学講座 小児外科学部門)
- 奥山 宏臣(兵庫医科大学 小児外科)
- 田中 守(聖マリアンナ医科大学 産婦人科)
- 西島 栄治(神戸大学大学院 外科学講座 小児外科分野)
- 早川 昌弘(名古屋大学医学部附属病院 総合周産期母子医療センター 新生児科)
- 金森 豊(国立成育医療研究センター 臓器運動器病態外科部)
- 立浪 忍(聖マリアンナ医科大学 医学教育文化部門)
- 稲村 昇(大阪府立母子保健総合医療センター 小児循環器科)
- 中村 知夫(国立成育医療研究センター 周産期センター 新生児科)
- 五石 圭司(国立成育医療研究センター 周産期センター 新生児科)
- 広部 誠一(東京都立小児総合医療センター 外科)
- 渕本 康史(国立成育医療研究センター 臓器運動器病態外科部)
- 高橋 雄一郎(国立病院機構長良医療センター 産科)
- 松岡 健太郎(国立成育医療研究センター 病理診断部)
- 石井 桂介(大阪府立母子保健総合医療センター 産科)
- 湯元 康夫(九州大学病院 総合周産期母子医療センター)
- 吉田 英生(千葉大学大学院 医学研究院 小児外科)
- 増本 幸二(筑波大学 医学医療系小児外科)
- 川瀧 元良(神奈川県立こども医療センター 新生児科)
- 漆原 直人(静岡県立こども病院 小児外科)
- 木村 修(京都府立医科大学 大学院小児外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
27,554,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
二次的に発症する胎児・新生児肺低形成(以下本症)は、先天性横隔膜ヘルニア、先天性嚢胞性肺疾患、胎児胸水、胎児尿路閉塞性疾患などに随伴して発症する呼吸器系の希少難治性疾患群を形成している。すなわち、これらの肺低形成では胎児期に何らか別の異常が原因となり肺の発達・発育が阻害された状態を示す。本調査研究の目的は、本症(先天性横隔膜ヘルニア・先天性嚢胞性肺疾患・胎児胸水・胎児尿路閉塞性疾患)の診断と治療の実態を明らかにしたうえで、各疾患における胎児治療の適応基準を定めるとともに、今後胎児治療を推進していくための基礎的データを集積することである。
研究方法
先天性横隔膜ヘルニア、先天性嚢胞性肺疾患、胎児胸水、胎児尿路閉塞性疾患について、多施設共同研究あるいは全国調査によって後方視的コホート観察研究を行った。先天性横隔膜ヘルニアについては平成23年度に作成したデータベースを利用した。他の3疾患は、共通のデータセンターを設置して疾患ごとに作成した症例調査票を用いて症例データを収集した。子宮内胎児死亡、生後30日の生死、合併症のない退院などをアウトカムとし、出生前診断所見、胎児治療、出生に関連した所見、呼吸及び循環に関する所見、手術や治療法、合併症に関する所見を検討した。
結果と考察
先天性横隔膜ヘルニアは、二次調査にて614症例が調査された。重篤な先天性奇形合併例を含む全症例の生存率は75.4%であり、合併奇形を有さないIsolated症例の生存率は84.0%であった。また多施設共同研究によって、182例の長期フォローアップ調査が行われた。Isolated症例169例中、10.7%に術後ヘルニア再発、13.5%に術後腸閉塞、22.4%に胃食道逆流症、9.6%に漏斗胸、13.0%脊椎側弯症の発症が認められた。精神運動発達遅延は16-20%の症例に認められた。本研究からわが国における先天性横隔膜ヘルニアの生命予後が近年急速に向上していることが明らかとなった。しかし、治療方針にはまだ施設間でばらつきがあるため、今後科学的根拠に基づいた診療ガイドラインに加えて統一治療プロトコールを作成することが望ましいと考えられた。また、長期フォローアップ調査では後遺症や障害を有する症例が予想以上に多いことが明らかとなった。生命予後改善による重症救命例の増加に伴い、かかる症例は今後いっそう増加することが考えられるため、医療政策において小児慢性特定疾患指定などを通じて、本症患児を経済的・社会的に保護する必要があると考えられた。
先天性嚢胞性肺疾患は二次調査が行われた443例中、347例(うち出生前診断157例、出生後診断190例)について解析が行われた。出生前診断例、出生後診断例を含め、発がんを伴った症例は認められなかった。出生前診断例では、約20%の症例に胎児水腫徴候を認めたが、出生後に死亡した最重症例は約10%であった。本研究により先天性嚢胞性肺疾患の出生後診断例、出生前診断例について、今回わが国で初めて全国的規模の実態調査が行われた上で、診断・治療実態が明らかにされたことは極めて有意義であった。
胎児胸水は二次調査にて441例が集計され、その内訳は原発性胎児胸水287例、ダウン症による続発性胎児胸水91例、肺分画症による続発性胎児胸水12例、合併奇形を有する続発性胎児胸水症51例であった。胎児水腫徴候の合併例は予後不良であった。胎児胸腔-羊水腔シャント術は、原発性胎児胸水に対する有効性が示されたが、ダウン症による続発性胎児胸水に対する有効性は示されなかった。今回初めて行われた大規模全国調査により、胎児水腫を合併した原発性胎児胸水に対する胸腔-羊水腔シャント術の有用性が立証された点で有意義であった。
胎児尿路閉塞性疾患は二次調査にて63症例が集計された。このうち胎児治療が行われた9例と、胎児治療が行われずに出生後に呼吸障害が認められた31例とを比較したところ、統計学的有意差は認めなかったものの、非胎児治療症例の死亡率55%(17/31例)に対し、胎児治療症例の死亡率33%(3/9例)の方が低い傾向を示した。胎児尿路閉塞性疾患については、統計学的有意差は認められなかったものの、胎児治療が奏功した可能性が示唆された。
先天性嚢胞性肺疾患は二次調査が行われた443例中、347例(うち出生前診断157例、出生後診断190例)について解析が行われた。出生前診断例、出生後診断例を含め、発がんを伴った症例は認められなかった。出生前診断例では、約20%の症例に胎児水腫徴候を認めたが、出生後に死亡した最重症例は約10%であった。本研究により先天性嚢胞性肺疾患の出生後診断例、出生前診断例について、今回わが国で初めて全国的規模の実態調査が行われた上で、診断・治療実態が明らかにされたことは極めて有意義であった。
胎児胸水は二次調査にて441例が集計され、その内訳は原発性胎児胸水287例、ダウン症による続発性胎児胸水91例、肺分画症による続発性胎児胸水12例、合併奇形を有する続発性胎児胸水症51例であった。胎児水腫徴候の合併例は予後不良であった。胎児胸腔-羊水腔シャント術は、原発性胎児胸水に対する有効性が示されたが、ダウン症による続発性胎児胸水に対する有効性は示されなかった。今回初めて行われた大規模全国調査により、胎児水腫を合併した原発性胎児胸水に対する胸腔-羊水腔シャント術の有用性が立証された点で有意義であった。
胎児尿路閉塞性疾患は二次調査にて63症例が集計された。このうち胎児治療が行われた9例と、胎児治療が行われずに出生後に呼吸障害が認められた31例とを比較したところ、統計学的有意差は認めなかったものの、非胎児治療症例の死亡率55%(17/31例)に対し、胎児治療症例の死亡率33%(3/9例)の方が低い傾向を示した。胎児尿路閉塞性疾患については、統計学的有意差は認められなかったものの、胎児治療が奏功した可能性が示唆された。
結論
胎児・新生児肺低形成を随伴しうる疾患、すなわち先天性横隔膜ヘルニア、先天性嚢胞性肺疾患、胎児胸水、胎児尿路閉塞性疾患について後方視的コホート観察研究を行い、各疾患における、胎児・新生児肺低形成の発生頻度、およびその診断と治療の実態が明らかとなった。今後診療ガイドラインなどを通じて、治療レベルの更なる向上が見込まれると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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