プリオン病に対する低分子シャペロン治療薬の開発

文献情報

文献番号
201324042A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病に対する低分子シャペロン治療薬の開発
課題番号
H24-難治等(難)-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
桑田 一夫(国立大学法人岐阜大学 大学院連合創薬医療情報研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 水澤 英洋(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科神経病態学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
245,765,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プリオンは、UCSFのスタンリー・B・プルシナー教授(1997年ノーベル賞)により発見されたプリオン病を伝達する蛋白性感染粒子すなわち病原性タンパク質そのものである。治療候補物質探索が行われているが、既発表の化合物の効果は低く、脳内に移行しにくい、という共通の問題点があり、現時点においてプリオン病の確立された治療法はない。最終的に得られたP092の抗プリオン効果は現時点において世界で最も強く、脳内にも確実に移行することがPET イメージングにより確認された。また、プリオンに感染したマウスにP092を末梢投与(腹腔内)すると、有意な寿命の延長効果があることが見出された。本研究の目的は、プリオンの立体構造を直接制御することにより、従来の酵素阻害剤よりも遥かに副作用の少ない低分子化合物(低分子シャペロン)であるP092をプリオン病治療薬として実用化するため、非臨床安全性試験(GLP)を本格的に行い、医師主導治験を実施するための基盤を築くところにある。
研究方法
プリオン異常化反応を抑制する低分子化合物P092塩の有機合成(委託:治験GMP施設内合成)、非臨床安全性試験(GLP)を実施し、医師主導治験のプロトコール(GCP)を作成する。ヒト初回投与試験の安全性を確保し(薬食審査発0402第1号)、第1相臨床試験の安全を確保するために必要な項目を実施する。これらの非臨床試験結果を踏まえ、医師主導治験プロトコールを作成する。希少疾患であることから、オールジャパン体制で治験体制を整えるとともに、海外の医療機関とも連携する。また当該研究は、アカデミックにおいてFirst in Human において医師主導治験を行う、貴重な試金石となり得る。このため、GMPに準拠した有機合成、GLPに準拠した非臨床試験、GCPに準拠した医師主導治験に精通した、次代の創薬を担える若手研究者を育成することが重要である。非臨床試験、及びオールジャパンの治験体制を整える中で、若手研究者を結集し、レギュラトリーサイエンスのノウハウを集積できる組織作りを行う。
結果と考察
塩の種類の決定、P092塩の合成ルート(4ステップからなる)の確立、及び規格(案)の作成を行った。P092のGMP合成のためのSOPの作成を開始した。また、カニクイサルに経口投与、静脈投与試験を行い、血中濃度を調べた。P092塩の経口投与(250 mg/Kg)では、Cmax=10.7 ng/mL、AUC=86.2 ng.h/mLであった。一方、10 mg/Kg の静脈内投与では、AUC=434 ng.h/mL であった。プリオン感染マウスに対して延命効果が認められた用量(腹腔内投与 10mg/Kg/Day, 28 days)と等しい条件における血漿内濃度、及び脳脊髄液内濃度を調べた結果、おおよそ10 ng/mLであると考えられた。投与経路、及び動物実験での有効用量が確認されたことから、治験までに必要な非臨床試験を確定し、開発へのロードマップを策定した。カニクイサル及びマウスを用いた薬理薬効試験を開始した。医師主導治験を本格的に実施するためのプロトコール作成のための準備として、JACOPを中心として、自然暦調査を開始した。PMDAに対する対面助言を実施し、機構の見解を得た。
結論
プリオン病は、100万人に1人の希少疾患ではあるが、感染性があり、国民の誰もが感染する可能性を否定できない。感染して一旦、神経症状が出ると、典型的には4ヶ月程度で無動無言状態に至る。現在、症状の進行を抑える薬は皆無である。プリオン病に効果のある薬剤が臨床現場で使用できるようになれば、その意義は大きい。抗プリオン化合物の実用化に成功すれば、今後の研究の発展に大きなインパクトを与える、と考えられる。
当該研究において実用化しようとしているP092は、論理的創薬法により開発されたものである。標的蛋白質の構造生物学的情報が詳細に理解されていれば、量子化学的手法を駆使して、新規薬剤を理論的に創製し、かつ実用化することが可能である。
 P092に関する医師主導治験プロトコールを研究期間内に作り上げ、治験相談を実施する。治験が開始されれば、本プロトコールに沿って、プリオン病の治療に向けた臨床現場でのP092の活用が事実上開始される。JACOPの構築により、治験に応用可能な自然歴調査のプロトコールの作成ができ、さらに調査体制、試料保存体制も整備でき、自然歴調査を開始することができた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2018-08-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201324042Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
319,494,000円
(2)補助金確定額
319,494,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 114,378,717円
人件費・謝金 25,888,563円
旅費 2,367,189円
その他 103,130,531円
間接経費 73,729,000円
合計 319,494,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
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