線維筋痛症をモデルとした慢性疼痛機序の解明と治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201323004A
報告書区分
総括
研究課題名
線維筋痛症をモデルとした慢性疼痛機序の解明と治療法の確立に関する研究
課題番号
H23-痛み-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松本 美富士(東京医科大学 医学部医学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 植田 弘師(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子薬理学)
  • 中島 利博(東京医科大学医学総合研究所運動器右門)
  • 岡 寛(東京医科大学八王子医療センターリウマチ性疾患治療センター)
  • 行岡 正雄(行岡病院整形外科)
  • 宮岡 等(北里大学医学部精神医学)
  • 横田 俊平(横浜市立大学大学院医学研究科発生生育小児医療学)
  • 臼井 千恵(順天堂大学練馬病院精神科)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
  • 長田 賢一(聖マリアンナ医科大学医学部精神神経科)
  • 倉恒 弘彦(関西福祉科学大学健康福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,683,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
線維筋痛症(FM)の病因・病態は不明で、治療・ケアを含めた診療体制が未だ整っていない。本研究では臨床研究→病態解明→病因究明という3つのステップからなり、包括的アプローチを行い、最終年度として研究プラットフォームをベースに病因・病態解明、診断・病型バイオマーカー、治療薬の開発とその臨床応用、さらに慢性疼痛の分子機構・神経回路を中心とした病因を検討する。
研究方法
1)病因解明:モデル動物及びFM患者の脳内における疾患の責任領域と責任分子の同定とバイオマーカー探索、および分子イメージングを含む神経化学的分子機構の解析を行う。
2)病態解明:臨床バンクとDNAを含む検体バンクからなる研究プラットフォームの構築、このプラットフォームの利用モデルとして検体データバンクのリンパ球を用いて痛みの分子情報伝達系の解析、血清資料によるバイオマーカーを検討する。
3) 治療研究:FM患者の漢方製剤による治療、精神医学的評価、小児FM患者の臨床特性に基づいたケアの検討、鍼灸治療院に受療中の慢性疼痛患者の実態調査を実施した。
結果と考察
1)病因
FMを合併した慢性疲労症候群(CFS)患者で脳内のミクログリアの活性化を特異的リガンドによるPET解析で脳幹部(間脳、中脳、橋)、海馬、扁桃体、帯状回にリガンド結合能が高く、神経炎症が存在することを確認し、疼痛の程度とリガンド結合能は視床において極めて強い相関がみられる部位が存在した。FDG-PET解析で上前頭回、中前頭回、下前頭回、島、角回での代謝の明らかな上昇が認められた。FMモデル動物による従来薬の脳内投与により中脳水道灰白室(PAG)におけるSERT遺伝子の発現上昇が観察され、SERT-siRNAをPAGへ脳局所投与により疼痛閾値の上昇が観察された。
2)病態解析
 研究プラットフォームとして、症例・検体のデータバンクを構築することにより、標準化された研究が可能となった。病態研究のために疼痛の主要シグナルの一つであるカルシウムシグナルを司る小胞体のE3ユビキチンリガーゼ/シノビオリンの遺伝子改変動物が完成し、FM患者において抗VGKC複合体抗体が高頻度に認められた。FMの臨床的バイオマーカーなることが示された。疼痛の定量的評価のためにPainVision®を用いることの妥当性とFM患者の疼痛の性状が明らかになった。FMでは自律神経の異常が存在し、夜間睡眠中においても交感神経が過緊張している。アメリカリウマチ学会FM診断予備基準(2010年基準)、Wolfeらの改定基準(2011年基準)の本邦人への適応の妥当性を多施設症例で検証し、2010年基準の診断感度は67.7%、特異度は78.1%である、2011年基準では感度:71.7%、特異度:78.1%といずれも低い値であった。一方、FMと密接な関連のあるCFSの合併頻度について検討を行った。CFSのCDC基準(1994)では39.9%、本邦旧厚生省基準(1995):32.1%,カナダ基準(2003):32.1%、日本疲労学会基準(2007):36.9%であった。FMでCFS合併例は疲労強度、休養日数、微熱、咽頭痛、頸部リンパ節腫大、筋痛ないし不快感あるいは頭痛の出現頻度が、より顕著な症例であった。
3)治療およびその関連
「線維筋痛症診療ガイドライン2011」の改定版として「線維筋痛症診療ガイドライン2013」を刊行し、小児のFMはガイドラインに沿って診断を進め、環境分離入院により治癒を目指す環境が整った。FMと密接な関連のあるCFSのプライマリケア医の認知度は決して低くはないが、FMと同様CFSの診療経験がないことが確認された。慢性疼痛患者の精神医学的評価では詳細な病歴聴取を行い、そのケースに適切な方法を検討することが重要である。FM治療の代替補完医療として抑肝散が睡眠障害を改善し、さらに疼痛を含む臨床症状全般を改善することが確認され、状態不安の減少を認められた。一方、鍼灸治療施設におけるFM患者の割合を把握したところ、9.9%であり、多くのFM患者が鍼灸治療院に受療していた。
結論
最終年度の研究成果としてFMの疼痛の脳内分子機序が明らかにされ、研究プラットフォームとして症例・検体のデータバンクを構築、疼痛の主要シグナルを司る遺伝子改変動物の完成、臨床的バイオマーカーとして抗VGKC複合体抗体の可能性、疼痛の定量的評価のためにPainVision®の妥当性、交感神経の過緊張が確認、アメリカリウマチ学会診断予備基準、改定基準の本邦人への検証、FMと密接な関連のあるCFSの合併頻度の検討、線維筋痛症診療ガイドライン2013の刊行、小児例はケアでは環境分離入院が重要であり、代替医療として抑肝散の有用性、鍼灸治療施設におけるFM患者の実態などが明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
2014-08-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2014-08-25
更新日
-

文献情報

文献番号
201323004B
報告書区分
総合
研究課題名
線維筋痛症をモデルとした慢性疼痛機序の解明と治療法の確立に関する研究
課題番号
H23-痛み-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松本 美富士(東京医科大学 医学部医学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 植田 弘師(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子薬理学)
  • 中島 利博(東京医科大学医学総合研究所運動器部門)
  • 岡 寛(東京医科大学八王子医療センターリウマチ性疾患治療センター)
  • 行岡 正雄(行岡病院整形外科)
  • 宮岡 等(北里大学医学部精神医学)
  • 横田 俊平(横浜市立大学大学院医学研究科発生生育小児医療学)
  • 臼井 千恵(順天堂大学練馬病院精神科)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
  • 長田 賢一(聖マリアンナ医科大学医学部精神神経科)
  • 倉恒 弘彦(関西福祉科学大学健康福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦線維筋痛症(FM)患者は200万人と推計され、その病因・病態は不明で、治療・ケアなど診療体制が未だ整っていない。本研究班は臨床研究→病態解明→病因究明という3つのステップからなり、病因解明、病態解明、治療研究の3分科会よりなり、包括的アプローチを行う。目標は病因・病態解明、全国的なリエゾン診療ケア体制の確立、臨床データのデータベース化、プライマリケア医を対象とした診断基準の提唱、治療・ケアの均てん化のためにガイドラインの改訂、治療薬の開発と評価法の確立である。
研究方法
病因解明:モデル動物の作成を行い、モデル動物を用いた病因・病態解析、FM患者にPET-CT解析を用いて脳内責任領域の同定、分子イメージングによる脳内神経炎症を検討する。
病態解明:臨床バンクとDNAを含む検体バンクからなる研究プラットフォームの構築と利用モデルとしてリンパ球を用いた痛みの分子情報伝達系の解析、診断バイオマーカーの検索を行う。
治療研究:患者のリエゾン的ケアネットワークの確立、本症の従来薬による医療保険への適応の評価、非薬物療法として鍼灸治療の疫学調査、小児のFMの治療法の確立、FMと極めて密接な関連のある慢性疲労症候群(CFS)の認知度、合併率の調査、診療ガイドラインの改定を試みる。
結果と考察
病因:モデルマウスにプレガバリン、ミルタザピン、ピロカルピン、ドネペジルの脳内、腹腔内単回、反復投与は全身性の疼痛抑制、持続的な潜時の回復、治療標的が脳内の存在、脳内の疼痛関連領域の遺伝子発現解析で中脳水道周辺灰白質のセロトニントランスポーター、視床下部のアドレナリンα2受容体遺伝子が慢性疼痛原因候補遺伝子と示唆された。FDG-PET-CT 解析によりFMの責任脳内局在として上前頭回、中前頭回、下前頭回、島、角回での糖代謝の上昇、前帯状回、上中頭回での糖代謝の低下が認めら、CFS研究班との共同研究でFMを合併したCFS症例でPET-CT(脳内炎症マーカーである活性型ミクログリアに発現するTranslocator proteinのリガンドを使用)解析で視床、中脳、橋などの脳幹部や帯状回、扁桃体、海馬などに神経炎症が存在し、神経炎症の程度と疲労、痛み、認知機能の障害などと相関がみられ、特に視床での神経炎症の程度と痛みは極めて高い相関がみられており、CFSとFMを併発した患者における全身の激しい痛みはこのような神経炎症の関与が推測された。
病態解析:研究プラットフォームとして、症例・検体のデータバンクを構築、標準化された研究が可能となった。病態研究のために疼痛の主要シグナルの一つであるカルシウムシグナルを司る小胞体の遺伝子改変動物が完成した。検体バンクから抗VGKC複合体抗体が高頻度に認められ、臨床的バイオマーカー、病因・病態と関連性、疼痛の定量的評価のためにPainVision®を用いることの妥当性とFM患者の疼痛の性状を解明、FM患者では夜間睡眠中においても交感神経の過緊張、アメリカリウマチ学会FM診断予備基準(2010)、Wolfeらの改定基準(2011)の本邦人への適応の妥当性を多施設症例で検証を行い、2010年、2011年基準の診断感度は67.7%、71.1%、特異度は78.1%、78.1%であった。FMと密接な関連のあるCFSの合併頻度は、CFSの各種診断基準を用いても32.1~39.9%であり、CFS合併例はCFSの中核症状のより顕著な症例であり、CFS患者を対象にFMの2010年基準を用いたFM併存は72.8%と極めて高率にみられ、FM併発CFS患者は痛みだけでなく種々の身体的徴候も重篤であることが確認された。
治療とその関連:線維筋痛症診療ガイドライン2011の改定版として2013年版を刊行した。小児のFMはガイドラインに沿って診断を進め、環境分離入院により治癒を目指す環境が整った。CFSのプライマリケア医の認知度は決して低くはないが、FMと同様CFSの診療経験がない。慢性疼痛患者の精神医学的評価では詳細な病歴聴取を行い、ケースに適切な方法を検討することが重要である。FM治療の代替医療として漢方製剤:抑肝散がFMの睡眠障害、疼痛を含む臨床症状全般を改善、状態不安の減少を認めた。一方、鍼灸治療施設の調査ではFMが9.9%にみられた。
結論
FMの発症病態として脳内神経炎症の関与とその責任領域の同定、モデル動物による治療薬の局在、関連遺伝子の同定、研究プラットフォームの構築と研究への応用、バイオマーカーの同定、痛みの客観的定量的評価法の確立、自律神経異常、FM/CFSの併発頻度と、併発例の臨床像の解明、診療ガイドラインの改定、小児FMの治療法の確立と代替医療の実態を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2014-08-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
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研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2014-08-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201323004C

収支報告書

文献番号
201323004Z