文献情報
文献番号
201321006A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルスにおける糖鎖の機能解析と医用応用技術の実用化へ
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
成松 久(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 伊藤 清顕(学校法人愛知医科大学 医学部 内科学講座(消化器内科))
- 是永 匡紹(独立行政法人国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
- 飯島 沙幸(公立大学法人名古屋市立大学大学院 医学研究科)
- 米田 政志(学校法人愛知医科大学 医学部 内科学講座(消化器内科))
- 田尻 和人(国立大学法人富山大学附属病院 第三内科診療部門)
- 伊藤 浩美(公立大学法人福島県立医科大学 生化学講座)
- 溝上 雅史(独立行政法人国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
- 梶 裕之(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
- 千葉 靖典(独立行政法人産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門)
- 久野 敦(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
- 栂谷内 晶(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
- 佐藤 隆(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
- 舘野 浩章(独立行政法人産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター)
- 安形 清彦(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 B型肝炎創薬実用化等研究経費
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
80,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染過程における糖鎖の役割を明らかにし、他研究課題と連携しB型肝炎の新規治療薬の開発を目指す事である。本研究では、肝疾患やHBV作製・感染実験の専門家とグライコプロテオミクス技術などの糖鎖機能解析技術を開発・実用化して来た糖鎖生物学者との協力体制(医工連携体制)により、HBV感染における糖鎖の機能を解析し、HBVに対する創薬実用化を図る。
研究方法
本年度は、
1) HBV(HBs抗原)の糖鎖解析:多数の検体からHBV(HBs抗原)を調製し、レクチンアレイ技術を応用した解析法の開発や、質量分析によるHBs抗原と糖鎖の構造解析を行った。
2) HBV感染可能細胞の糖鎖解析:産総研独自のグライコプロテオミクス技術を用いHBV感染可能細胞と非感染可能細胞の糖鎖プロファイリング、次世代シーケンサー等を用いた糖鎖遺伝子の発現解析を行った。
3) HBV-宿主細胞における糖鎖の役割:感染に関わる分子探索のために肝細胞に発現する内在性レクチンをクローニングし、HBV糖鎖との結合を解析した。
4) 糖鎖改変のHBVの増殖・感染能への影響:HBVを産生する肝細胞の糖鎖合成系を阻害し、HBV粒子の形成・分泌能を解析した。また、糖鎖遺伝子siRNAを用いスクリーニングを行った。
5) 糖鎖修飾を受けたHBs抗原の大量精製:糖鎖を有するL-HBs抗原を発現する酵母を作製し、大量精製のための条件検討を行った。
1) HBV(HBs抗原)の糖鎖解析:多数の検体からHBV(HBs抗原)を調製し、レクチンアレイ技術を応用した解析法の開発や、質量分析によるHBs抗原と糖鎖の構造解析を行った。
2) HBV感染可能細胞の糖鎖解析:産総研独自のグライコプロテオミクス技術を用いHBV感染可能細胞と非感染可能細胞の糖鎖プロファイリング、次世代シーケンサー等を用いた糖鎖遺伝子の発現解析を行った。
3) HBV-宿主細胞における糖鎖の役割:感染に関わる分子探索のために肝細胞に発現する内在性レクチンをクローニングし、HBV糖鎖との結合を解析した。
4) 糖鎖改変のHBVの増殖・感染能への影響:HBVを産生する肝細胞の糖鎖合成系を阻害し、HBV粒子の形成・分泌能を解析した。また、糖鎖遺伝子siRNAを用いスクリーニングを行った。
5) 糖鎖修飾を受けたHBs抗原の大量精製:糖鎖を有するL-HBs抗原を発現する酵母を作製し、大量精製のための条件検討を行った。
結果と考察
(1) N型糖鎖修飾がPre-S1とPre-S2のN末側にある事が確認された。3種のHBs(S、M、L)の糖鎖付加はほぼ50%であり、S領域のN型糖鎖修飾の割合に依存しており、ウイルス粒子内における配向性との関連が考えられる。また、開発した技術によって異なる背景肝について多数サンプルの糖鎖構造を分析・比較していく事が可能になった。HBV感染と肝線維化や肝がん発症とのマーカー開発に繋がれば治療の効率化に繋がると考えられる。
(2) HBV感染機構における肝細胞側の糖鎖の役割は全く分かっておらず、宿主肝細胞の糖鎖合成系がHBV上の糖鎖構造にどのように影響を及ぼすかは不明である。これまでに5種の肝がん細胞とヒト肝細胞の次世代シーケンサーによる解析を終了しており、糖鎖関連遺伝子の発現における差が明らかになったので、HBV感染との関係をより詳細に解析していく必要がある。
(3) (2)の解析を基に同定したHBV糖鎖受容体候補分子と血清より精製したHBs抗原との結合を解析した。候補分子の過剰発現細胞やノックダウン細胞を用い、HBV粒子との結合、肝臓内局在やNTCP分子との関連を検証中であり、HBV感染促進効果や糖鎖-受容体の阻害剤のスクリーニングへと繋げる必要が考えられる。
(4) 幾つかの糖鎖合成系阻害剤でHBs抗原のN型糖鎖の付加と分泌を抑制する事が確認された。糖鎖合成系の阻害剤の場合は、副作用を起こさない濃度あるいは感染細胞のみへのドラッグデリバリーなどの技術と共に開発する必要がある。siRNAスクリーニングにより得られた候補糖鎖遺伝子について、HBVの複製・分泌への影響や機構を詳しく解析する事が重要である。
(5) 現行のHBVワクチンは、酵母で発現された糖鎖を持たないS-HBs抗原であり、実際にヒトに免疫して得られたクローン抗体は糖鎖の有るHBs抗原を認識しなかった。現在のワクチンは実際に有効であるが、HBV粒子中の糖鎖の無いHBs抗原に作用していると考えられ、糖鎖を有するHBs抗原で免疫する事によりさらに効率良く抗ウイルス効果が得られる可能性がある。PreS1やPreS2の抗体誘導率が高い事が示唆されており、調製中のL-HBs抗原を免疫し現行ワクチンと比較する事が必要である。
(2) HBV感染機構における肝細胞側の糖鎖の役割は全く分かっておらず、宿主肝細胞の糖鎖合成系がHBV上の糖鎖構造にどのように影響を及ぼすかは不明である。これまでに5種の肝がん細胞とヒト肝細胞の次世代シーケンサーによる解析を終了しており、糖鎖関連遺伝子の発現における差が明らかになったので、HBV感染との関係をより詳細に解析していく必要がある。
(3) (2)の解析を基に同定したHBV糖鎖受容体候補分子と血清より精製したHBs抗原との結合を解析した。候補分子の過剰発現細胞やノックダウン細胞を用い、HBV粒子との結合、肝臓内局在やNTCP分子との関連を検証中であり、HBV感染促進効果や糖鎖-受容体の阻害剤のスクリーニングへと繋げる必要が考えられる。
(4) 幾つかの糖鎖合成系阻害剤でHBs抗原のN型糖鎖の付加と分泌を抑制する事が確認された。糖鎖合成系の阻害剤の場合は、副作用を起こさない濃度あるいは感染細胞のみへのドラッグデリバリーなどの技術と共に開発する必要がある。siRNAスクリーニングにより得られた候補糖鎖遺伝子について、HBVの複製・分泌への影響や機構を詳しく解析する事が重要である。
(5) 現行のHBVワクチンは、酵母で発現された糖鎖を持たないS-HBs抗原であり、実際にヒトに免疫して得られたクローン抗体は糖鎖の有るHBs抗原を認識しなかった。現在のワクチンは実際に有効であるが、HBV粒子中の糖鎖の無いHBs抗原に作用していると考えられ、糖鎖を有するHBs抗原で免疫する事によりさらに効率良く抗ウイルス効果が得られる可能性がある。PreS1やPreS2の抗体誘導率が高い事が示唆されており、調製中のL-HBs抗原を免疫し現行ワクチンと比較する事が必要である。
結論
HBV感染・複製における糖鎖の役割は殆ど解析されていなかったが、HBVあるいは宿主肝細胞の糖鎖関連分子を標的とした創薬のシーズとなる可能性が考えられた。
(1) HBs抗原のグライコプロテオミクス解析からHBVの簡易検出系の開発へと進んだ。現在臨床サンプルでの基礎データを収集中であり、HBV感染や治療に因る肝臓の変化を簡便に診断できる技術の開発・臨床応用へと進展させる。
(2) 内在性レクチンがHBV上の糖鎖と結合する事が示され、HBVの感染に関与している可能性が考えられた。また糖鎖遺伝子のHBV分泌への重要性も示唆された事から、HBV粒子形成や分泌を阻害する新規ターゲットとして検討して行く。
(3) 糖鎖を有するL-HBs抗原の発現に成功し精製法の検討を行ったが、L-HBs抗原の大量精製を実施し現行ワクチンと免疫実験を行い比較する必要がある。現行のワクチンに加え有効な新規ワクチンの開発やワクチン治療への応用などに繋げたい。
(1) HBs抗原のグライコプロテオミクス解析からHBVの簡易検出系の開発へと進んだ。現在臨床サンプルでの基礎データを収集中であり、HBV感染や治療に因る肝臓の変化を簡便に診断できる技術の開発・臨床応用へと進展させる。
(2) 内在性レクチンがHBV上の糖鎖と結合する事が示され、HBVの感染に関与している可能性が考えられた。また糖鎖遺伝子のHBV分泌への重要性も示唆された事から、HBV粒子形成や分泌を阻害する新規ターゲットとして検討して行く。
(3) 糖鎖を有するL-HBs抗原の発現に成功し精製法の検討を行ったが、L-HBs抗原の大量精製を実施し現行ワクチンと免疫実験を行い比較する必要がある。現行のワクチンに加え有効な新規ワクチンの開発やワクチン治療への応用などに繋げたい。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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