新たな薬剤耐性菌の耐性機構の解明及び薬剤耐性菌のサーベイランスに関する研究

文献情報

文献番号
201318032A
報告書区分
総括
研究課題名
新たな薬剤耐性菌の耐性機構の解明及び薬剤耐性菌のサーベイランスに関する研究
課題番号
H24-新興-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川 宜親(名古屋大学 大学院 医学系研究科)
  • 飯沼 由嗣(金沢医科大学 臨床感染症学講座)
  • 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 北島 博之(地方行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター 新生児科)
  • 切替 照雄(独立行政法人 国立国際医療センター研究所 感染制御研究部)
  • 黒崎 博雅(熊本大学大学院 生命科学研究部)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 鈴木 里和(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 舘田 一博(東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座 )
  • 富田 治芳(群馬大学大学院 医学系研究科)
  • 長沢 光章(東北大学医学部附属病院 診療技術部)
  • 藤本 修平(学校法人 東海大学 医学部 基礎医学系)
  • 松本 智成(一般財団法人 大阪府結核予防会 大阪病院 検査部)
  • 山根 一和(川崎医科 大学 公衆衛生学)
  • 山本 友子(千葉大学大学院 薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
39,058,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 世界では新たな薬剤耐性菌が次々と出現し、拡散している。最近ではNDM型、KPC型やOXA-48型などのカルバペネマーゼ産生菌が途上国を中心に世界中に拡散している。この研究は、国内の医療現場において、海外からの新型耐性菌の流入や新型耐性菌の出現を捕捉し、その耐性機構を分子生物学的手法により解明するとともに、現在どのような耐性メカニズムの耐性菌がどれくらい存在するのかを調べ、日本における薬剤耐性菌の実態を分子疫学的に明らかにすることを目的とする。またそれらの検出法、分子疫学解析法を開発し、自治体や医療機関の検査室での普及を図り、耐性菌感染症対策に貢献することを目的とする。それととともに、薬剤耐性菌サーベイランスをより充実させて、国内での薬剤耐性菌の実態を疫学的に把握するとともに医療現場において感染対策の策定のためにより活用しやすい情報を提供することを目的としている。薬剤耐性メカニズムに立脚して新薬開発も視野に入れている。疫学と基礎が連携して、重要な耐性菌を適切に把握しつつ、その感染症対策に資する技術や情報を提供する点が特徴である。
研究方法
 国内の医療機関で分離されたカルバペネム耐性菌や、多剤耐性菌を収集し、外国からの新型耐性菌の流入や国内での発生例を監視し、またそれらがどのような耐性メカニズムをもつのかを分子生物学的手法により解析した。そして、それらについて簡便、迅速な検出法、分子疫学解析法を開発した。また、耐性に関与する酵素の構造機能解析を行い、新薬の開発も試みた。サーベイランスに関しては、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)検査部門データを利用した感染症発生数の推定や、サーベイランスの精度向上に関する研究、またサーベイランスデータを臨床現場の感染対策に活用するツール開発を行った。
結果と考察
 国内では、2013年12月の時点までにNDM型カルバペネマーゼ産生菌等の新型耐性菌の分離例が数十例確認された。ほとんどの症例が外国で入院歴のある輸入例だった。これらの他、国内分離株から複数の新型カルバペネム耐性遺伝子を見いだした。これらの菌株や、外国で分離された菌株を用いて、NDM型耐性菌の簡便な検出法を開発した。NDM型以外にも、国内分離株でいくつかの新型耐性菌を発見した。いくつかの耐性菌については、簡便な検出法も開発した。院内感染でしばしば問題となるAcinetobacter属菌については、国内の86の医療機関に協力いただき、臨床分離株998株を収集して解析を行った。Acinetobacter属菌と同定された866株のうち、多剤耐性株は2株のみだったが、臨床上特に多剤耐性化して院内感染を起こしやすいA. baumanniiの流行タイプST2が245株(28%)あることが分かった。薬剤感受性パターンの解析の結果、レボフロキサシンに耐性の株は特に流行タイプST2である頻度が高いことが分かった。MRSAについては、懸念されるバンコマイシンの感受性の低下傾向は認められなかった。肺炎球菌ではテリスロマイシン耐性の増加が懸念されているが、耐性メカニズムが内因性rRNAメチル化酵素の欠損であることを見出した。カルバペネマーゼのうちIMP-1については、結晶構造から新規阻害剤クエン酸モノベンジルエステルの合成に成功した。JANISの精度向上に関する研究については、MRSAとS. maltopholiaで調査したところ、精度管理の改善が必要な医療機関が相当あり、注意が必要であることが分かった。また集計にあたっては、VRE等分離率の低い耐性菌ではアウトブレイクが起きている医療機関のデータを個別に手作業で除外する必要があることが分かった。サーベイランスデータを医療機関の感染対策に活用するツールとして、重要な耐性菌が異常に集積していることを自動で捕捉するソフトウェアを開発した。
結論
 NDM型、KPC型、OXA-48型等の外国で蔓延している新型耐性菌の国内での分離は、海外、特に途上国への渡航者が現地の医療機関に入院し治療を受け、その後帰国して入院した例がほとんどだった。一方で、国内でも全く新型の耐性遺伝子を持つ耐性菌の分離が確認された。Acinetobacter属菌では多剤耐性株は現在のところ多くはないが、フルオロキロノンに耐性のものは今後多剤耐性化しやすい流行タイプであることが多いので注意が必要であることが分かった。研究班で開発した耐性菌の検出法や分子疫学解析法については、今後普及を目指して改良を行う。サーベイランスの研究では、精度向上に関して、医療現場の検査上および感染研におけるデータ集計上の課題が明らかになった。また、サーベイランス結果を臨床現場の感染対策により効果的に生かすため、重要な耐性菌の異常集積を捕捉するシステムを構築した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
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研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
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収支報告書

文献番号
201318032Z