発達障害者の生涯発達における認知特性面からの能力評価方法の開発と活用ガイドライン作成に関わる研究

文献情報

文献番号
201317050A
報告書区分
総括
研究課題名
発達障害者の生涯発達における認知特性面からの能力評価方法の開発と活用ガイドライン作成に関わる研究
課題番号
H23-精神-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
上野 一彦(独立行政法人 大学入試センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 信也(筑波大学)
  • 松田 修(東京学芸大学)
  • 繁桝 算男(帝京大学)
  • 石隈 利紀(筑波大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、生涯発達において支援を要するさまざまな人々の実態を客観的に把握するための基本指標の一つとして知的発達に関する国際的な尺度の開発と活用ガイドラインの作成を行うことを最終目的とした。この最終目的を達成するために4つの研究分担グループを編成し、グループごとに研究を進め、統括班がグループ間での研究成果の共有化を図った。
研究方法
本年度の研究方法、手段等についてその経過を、グループごとに述べる。
A班…LDの判断・診断に関する文献と研究協力者の経験をもとに、エキスパート・コンセンサスの方法により、気づき項目と活用手引きを作成した。
B班…①研究1:一般大学生35人と医療機関に通院中の発達障害者10人を対象に、日本版WAIS-Ⅲによる認知評価と発達障害に関連する12領域の行動評価を行い、両者の関連性を分析した。②研究2:482人の子ども(統制群457人、臨床群25人)を対象に、日本版WISC-Ⅳを実施し、統制群と臨床群のデータを二元配置の分散分析(群×得点)によって比較した。
C班…日本版WISC-Ⅳの標準化のためのデータ(5歳から16歳までの各年齢1285名)を対象に、WISCモデルとCHCモデルとを初期モデルとして最適化した結果がどのように異なるかを比較した。
D班…①対象者:視覚、聴覚、運動などに著明な障害がない健常成人でテスターの家族・親戚等ではない16~34歳の321名を対象とした。②テスター:業務で日常的にWAIS-IIIを使用している者54名であり、その多くは臨床心理士の資格を有していた。③検査の実施:テスターは「日本版WAIS-IV(研究版)調査のための実施手引」に基づいて検査を実施した。WAIS-IVは15の下位検査で構成されるが、受検者の負担を考慮し、研究版調査では10の基本検査(「積木模様」「類似」「数唱」「行列推理」「単語」「算数」「記号探し」「パズル」「知識」「符号」)のみを実施した。
結果と考察
A班…①日本では、読み書きに関する標準化された検査がなく、どのような検査を行うかは医師の判断に委ねられ、診断の均質性が保証されていなかった。②52%の高校教員がLD・LD疑いの生徒の担当経験があると回答していたが、他の発達障害との混同も目立った。③チェック項目として、読み書き障害12項目、算数障害10項目を設定し、各項目の説明と判断の仕方に関するガイドラインを作成した。
B班…①WAIS-ⅢのCPI、PSI、WMI、CD、COは学習面や行動面のつまずき(例、計算、社会的相互作用、コミュニケーションの質的問題、こだわり)と関連した。②学習面・行動面のつまずきのある臨床群と非臨床群のWISC-Ⅳの成績を比較すると、WMI、LNの成績で有意差が認められ、差の効果量も大きかった。WMIは学習障害の中核的障害である「読み」、「書き」、「算数」と強く関連した。PSIは「書く」、PRIは「計算」「推論」のつまずきとも関連した。
C班…WISC-Ⅳの標準化データを統計学的に解析した結果、全体的な知的発達指標としての一般知能因子を想定することが妥当であることが明らかになった。WISCが想定する知能モデルとCHC理論が想定する知能モデルの適合度を比較し、発達的な変化を明らかにし、WAIS-Ⅳの基礎モデル構造を確認した。
D班…各下位検査の得点合計(粗点という)の分布を、年齢群ごと、および321名全体で算出し、粗点から評価点への換算表を作成した。作成した換算表に基づき10の下位検査の粗点を評価点に換算し、7つの合成得点(言語理解(VCI)、知覚推理(PRI)、ワーキングメモリー(WMI)・処理速度(PSI)、GAI、CPI、FSIQ))の評価点合計を求めた。さらに合成得点における評価点合計の分布を算出し、評価点合計から合成得点(指標得点、IQ)への換算表を作成した。
 以上の手続きで作成した評価点ならびに合成得点を基に信頼性係数、再検査安定性、因子分析、基準関連妥当性の検討し、信頼性と妥当性が確認された。また短時間で測定したい場合に用いる短縮版の作成を試みた。因子構造、信頼性係数、妥当性係数、実施時間、WISC-IVの短縮版との継続性を総合的に考慮し、WAIS-IV(研究版)の短縮版は、類似、行列推理、数唱、記号探しとした。
結論
「ウェクスラー知能検査(研究版WAIS-Ⅳ)とその活用ガイドライン」「高等学校におけるLD(読み書き・数学の困難)への気づきのための手引き」が完成した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201317050B
報告書区分
総合
研究課題名
発達障害者の生涯発達における認知特性面からの能力評価方法の開発と活用ガイドライン作成に関わる研究
課題番号
H23-精神-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
上野 一彦(独立行政法人 大学入試センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 信也(筑波大学)
  • 松田 修(東京学芸大学)
  • 繁桝 算男(帝京大学)
  • 石隈 利紀(筑波大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ICFの考え方に立てば、障害の様態は個人の特性と環境との間で変化する。発達障害者に対する理解と対応を考えるとき、教育、医療、労働、福祉等の諸領域で一貫した支援を提供する環境の整備が急務である。障害の程度や認知的能力を、客観的かつ経年的に評価することは重要な課題といえる。そこで本研究では、発達障害者の能力を認知特性面から評価する方法を開発し、開発した認知評価方法を活用できるガイドラインを作成する。
研究方法
4つの研究班の方法は以下の通りである。
A班:①日本を含む6カ国のLDの評価基準に関する資料研究を行った。②高等学校教員361名を対象に発達障害への対応に関する調査研究を行った。③エキスパート・コンセンサスにより高等学校教師が使用可能なLDチェック項目と活用ガイドラインを作成した。
B班:WAIS-ⅢとWISC-Ⅳの活用法に関する2つの臨床研究を行った。
C班:本研究グル-プが有するWISC-Ⅳの標準化データについて統計学的検討を行った。
D班:日本版WAIS-Ⅳ研究版作成に向けて、項目の翻案化、パイロット調査、本調査を実施した。
結果と考察
A班:①欧米諸国では、読み書きに関する標準化された検査を用いる点は共通していたが、LDの判断基準は国により異なっていた。日本では、標準化された検査がなく、どのような検査を行うかは医師の判断に委ねられており、診断の均質性が保証されていない状況が判明した。②52%の教員がLD・LD疑いの生徒の担当経験があると回答し、高校でもLDへの認識が高いことがうかがわれた。一方、LDへの理解度は、教師経験10年以下の教員が有意に高く、経験21年以上の教員では他の発達障害との混同が目立った。③チェック項目として、読み書き障害12項目、算数障害10項目を設定し、各項目の説明と判断の仕方に関するガイドラインを作成した。
B班:ウェクスラー第四世代の知能尺度の臨床的解釈の基礎を得るために、WAIS-ⅢとWISC-Ⅳを用いて検討した。その結果、①WAIS-ⅢのCPI、PSI、WMI、CD、COは学習面や行動面のつまずき(例、計算、社会的相互作用、コミュニケーションの質的問題、こだわり)と関連した。また、②学習面・行動面のつまずきのある臨床群と非臨床群のWISC-Ⅳの成績を比較すると、WMI、LNの成績で有意差が認められ、差の効果量も大きかった。WMIは学習障害の中核的障害である「読み」、「書き」、「算数」と強く関連した。PSIは「書く」、PRIは「計算」「推論」のつまずきとも関連した。以上の結果から、ウェクスラー知能検査は、発達障害者の支援方針の決定に有用な尺度といえる。
C班:WISC-Ⅳの標準化データを統計学的に解析した結果、全体的な知的発達指標としての一般知能因子を想定することが妥当であることが明らかになった。WISCが想定する知能モデルとCHC理論が想定する知能モデルの適合度を比較し、発達的な変化を明らかにし、WAIS-Ⅳの基礎モデル構造を確認した。
D班:日本版WAIS-Ⅳ研究版(プロトタイプ)を作成するために、4つの作業グループを編成し、項目翻案化を終了した。言語・文化差のため原版WAIS-Ⅳから修正が必要な項目を中心に、パイロット調査の結果を基に使用する項目を決定した。各種マニュアルの翻訳、検査用具の作成を完了し、研究版作成のデータ収集を、8月までに終了し、統計解析をおこない、その統計特性を明らかにした。
結論
 本研究の成果は大きく二つにまとめられる。
 一つは、近年児童期における理解と対応に焦点があてられてきたLD等の発達障害について、成人期の判断に関する基礎調査を行ったことである。
 他の一つは、ICFなどを背景とする障害の捉え方を強く意識し、その理解のための科学的な知的尺度を開発したことである。そのために世界的な尺度として知られるWAIS-IVを原版作成者の了解を正式に得たうえで、その研究版を完成し、ガイドラインを完成させた。これは今後の日本版作成、短縮版完成にむけて科学的土台をなすものである。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201317050C

成果

専門的・学術的観点からの成果
学習障害(LD)、注意欠如多動症(ADHD)、自閉症スペクトラム症(ASD)等の発達障害のあるものへの学術的関心が高まるなか、特に教育的概念として浸透してきたLDの成人期におけるわが国での判断基準は成熟しておらず、その先駆けをなす成果が得られている。
また、その際のアセスメント尺度として世界的に普及しているウェクスラー知能検査の最新研究版を完成させたことは、発達障害に限らず生涯発達を知的側面から明確にする認知尺度としての学術的活用度を考えると高い成果といえる。
臨床的観点からの成果
発達障害のあるものの生涯発達はさまざまな観点から捕捉していかなければならない。障害が環境と個体の相互作用のなかで変化する実態、なかでも知的発達の量的、質的発達像の変化は、臨床的観点からも特に重要といえる。そうした側面のアセスメントについて、
高い信頼性と妥当性に基づく標準化を行っているとともに、高齢者むけに活用度の高い短縮版も同時に開発しており、臨床的な有用性は極めて高い。
ガイドライン等の開発
本研究では、ウェクスラー知能検査第4版(WAIS-Ⅳ:基本検査10、補助検査5)の全実施・採点マニュアルの作成、基本検査の標準化による尺度化、並びに短縮版の開発を行いその活用ガイドラインを提示した(研究版の完成)。現在、使用されている日本版WAIS-Ⅲの後継として、代替・実用化するための日本版WAIS-Ⅳの完成を目指し、目下進行中である。
その他行政的観点からの成果
現在、心理職の国家資格化(「公認心理師」法案」)が進行中であるが、心理アセスメント領域の発達分野において、ウェクスラー知能検査は世界的な代表的尺度であり、医療、教育、福祉、司法、産業の各領域において、その最新版の開発(短縮版を含む)は、行政的観点から見ても喫緊の課題である。
その他のインパクト
本研究成果のこれまでの経過課題から、ウェクスラー知能検査の統計的特性、臨床的妥当性等について、日本LD学会、日本テスト学会などにおいて発表を重ねてきている。また、その一部は、テクニカルレポートとして公開されているだけでなく、米国に向けても発信されている。

発表件数

原著論文(和文)
13件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201317050Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,120,000円
(2)補助金確定額
3,120,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,918,672円
人件費・謝金 49,330円
旅費 88,740円
その他 343,525円
間接経費 720,000円
合計 3,120,267円

備考

備考
預金利息267円

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-