日本人の食塩摂取量減少のための生体指標を用いた食事評価による食環境整備に関する研究

文献情報

文献番号
201315010A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人の食塩摂取量減少のための生体指標を用いた食事評価による食環境整備に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 敏(東京大学大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
15,788,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 成人を対象として昨年度に実施した、2回の24時間蓄尿と半秤量式食事記録を中心とした調査のデータを整理して集計・解析するともに、成人を対象とする新たな全国調査並びに中学生を対象とする調査を実施し、これらより、食塩摂取量の分布並びに主な食塩摂取源を明らかにすることを目的とした。
研究方法
 本年度は、次の諸研究を実施した。
【成人:研究1】 全国23道府県、20の調査地域の福祉施設に勤務する職員791人を対象として昨年度に実施した調査データを用いて、そのデータ整理(4日間の半秤量式食事記録データ(383人))並びに解析を行った。
【成人:研究2】 全47都道府県(都道府県当たり50人、性・10歳年齢階級ごとに5人)の福祉施設職員(20~69歳)を対象に、随時尿(3回)並びに24時間蓄尿(2回)(一部対象者のみ)、簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)、並びに、食塩摂取量に影響を及ぼす行動要因・社会環境因子を検討するための質問票調査を実施し、2345人が参加した。24時間蓄尿検査を2回とも提出した者は470人、随時尿検査のみ1875人であった。
【中学生】 山口県周防大島町内の中学生を対象として、随時尿ならびに24時間蓄尿を中心とする調査を実施し、278人が参加した。そのうち68人から蓄尿が得られ、208人から随時尿(3回の早朝尿)が得られた。
結果と考察
【成人:研究1】 24時間蓄尿(2回)から習慣的なナトリウム(食塩)およびカリウム摂取量の分布を推定した結果、平均ナトリウム1日摂取量推定値は男性240mmol(食塩相当量14.0g)、女性202mmol(食塩相当量11.8g)、平均カリウム1日排泄量は男性で51.6mmol、女性で47.2mmolであり、 1日摂取量に換算すると男性67.0mmol(2620mg)、女性61.3mmol(2397mg)であった。一方、4日間の秤量式食事調査に基づく1日当たり平均食塩摂取量推定値は男性11.1g、女性9.2gであった。このうち、市販加工食品由来の食塩摂取量は男性で6.4g(58%)、女性で4.9g(53%)であった。若い年代ほど総食塩摂取量は少ないものの、市販加工食品由来の食塩摂取割合は若い年代で高く、食品群別では、調味料および香辛料類に分類される食品からの食塩摂取が男性で6.9g(62%)、女性で5.8g(63%)を占めた。
【成人:研究2】 24時間蓄尿(2回)から習慣的なナトリウム(食塩)およびカリウム摂取量の分布を推定した結果、平均ナトリウム1日摂取量推定値は10.8g(食塩相当量の推定摂取量として12.6g)であった。BDHQを用いた食事調査の結果からは、米飯の摂取の多い者で食塩の摂取量が少ないこと、一方で、魚介類の摂取の多い者で明らかに食塩摂取量が多いことが明らかになり、和食パターンが食塩摂取量の多い食事であると単純には言えない可能性が示唆された。
【中学生】 24時間蓄尿(2回)が得られ、蓄尿が20時間以上できた対象者68人からのナトリウム1日排泄量(食塩相当量)(平均±標準偏差)は男児9.5±2.2g、女児8.8±2.7g(推定摂取量としてそれぞれ10.6±1.2、10.0±2.4 g)、カリウム1日排泄量はそれぞれ1671±452 mg、1738±592mg(推定摂取量としてそれぞれ2195±401、2330±630mg)であった。
結論
 本研究によって、わが国成人並びに中学生学童におけるナトリウム(食塩)並びにカリウムの摂取量の平均値と分布が明らかとなった。この結果は食事摂取基準を中心として、各種の食事・栄養改善に関するガイドラインの作成に強い科学的根拠を与えるものである。同時に、食塩摂取源を明らかとし、特に若年成人で調理加工食品由来のナトリウム(食塩)が多い実態を把握できた。これは、摂取者・調理者など家庭や個人へのアプローチだけでなく、食品産業界において更なる減塩食品の開発と提供を推進することの必要性を裏付ける結果であり、行政的にも、また、食育を推進するうえでも貴重な資料となるものと考えられる。
 さらに、食事記録法では食塩摂取量が2割程度過小に見積もられる傾向にあることも明らかとなった。これは、食塩摂取量に関する調査や研究において食事記録法を用いることの問題点を指摘したことになり、栄養行政が用いる関連資料の作成や評価などに注意喚起を促すものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201315010B
報告書区分
総合
研究課題名
日本人の食塩摂取量減少のための生体指標を用いた食事評価による食環境整備に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 敏(東京大学大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 日本人(成人・小児)における食塩摂取量の分布を24時間蓄尿を用いて正確に推定するとともに、複数日間秤量式食事記録法と簡易型食事歴法質問票(BDHQ)等を組み合わせて食塩の主たる摂取源別にその分布を明らかにする。
研究方法
 主として、健康な成人(20~69歳)を対象とする観察研究(研究1、研究2)と、中学生を対象とする観察研究を行った。健康な成人を対象とした研究では、福祉施設勤務者(60歳代の一部は勤務者の家族)を対象とした。また、これらの観察研究に先立って、既存の食事記録データを用いて食塩摂取量を摂取源別に推定するための方法論の確立し、調理加工食品に含まれる食塩量のデータベース化の作業を行った。
 研究1では20道府県で合計791(各道府県:およそ40人、性・10歳年齢階級ごとに4人)が参加し、全員が習慣的な各種栄養素量を把握するための質問票(自記式食事歴法質問票)ならびに食習慣の基本的な項目に関する質問票にも答え、一部(383人)は非連続4日間の半秤量式食事記録調査にも応じた。
 研究2では全47都道府県で合計2345人が参加し(各道府県:およそ50人、性・10歳年齢階級ごとに5人)、全員が3回の随時尿を採取し、習慣的な各種栄養素量を把握するための質問票(簡易型自記式食事歴法質問票)、さらに、食塩摂取に関する知識、行動、食環境に関する質問票にも回答した。一部(470人)は2回の24時間蓄尿にも応じた。
 中学生を対象とする観察研究では、山口県周防大島町に居住する中学生278人が参加し、全員が随時尿(3回の早朝尿)を採取し、一部(68人)は2回の24時間蓄尿にも応じた。
結果と考察
 摂取した食塩の尿への排泄率を既報により86%と仮定すると、平均推定食塩摂取量は研究1が13.0g/日、研究2が12.6g/日であり、非常に高食塩摂取の状態であることが明らかとなった。研究1の食事記録から得られた平均食塩摂取量が10.1g/日であったことから、食事記録法では食塩摂取量がおよそ22%過小に見積もられることが明らかとなった。
 この結果より、①食事記録法ではなく、24時間蓄尿から推定される食塩摂取量を減塩政策などに用いる必要があること、②食事記録法によって得られる食塩摂取量は過小に申告されているためにその利用に注意を要することが明らかとなった。また、調理加工食品由来の食塩は男性で58%、女性で53%であったことから、調理加工食品に由来する食塩が総食塩摂取量の半分以上を占めており、特には若年成人や男性で多いことが明らかとなった。これは、減塩政策は、薄味調理の普及だけでなく、調理加工品の栄養成分表示の推進や、低塩の調理加工食品の開発・普及など、食品産業界の役割も大きいことを示している。
 加えて、中学生の平均推定食塩摂取量は10.6g/日であり、小児期からの減塩教育、特に、食育における減塩教育の強化の重要性を示す結果であると考えられた。
結論
 本研究によって、わが国成人におけるナトリウム(食塩)並びにカリウムの摂取量の平均値と分布、並びにナトリウム(食塩)の主な摂取源が明らかとなった。
 特に、全国規模で、かつ標準化された方法を用いて24時間蓄尿を2回行い、これを用いてナトリウム(食塩)並びにカリウムの摂取量を把握し得たことは本邦初であり、食事摂取基準を中心に、各種の食事・栄養改善に関するガイドラインの作成に強い科学的根拠を与えるものである。
 同時に、食塩摂取源を明らかとし、特に若年成人で調理加工食品由来のナトリウム(食塩)が多い実態を把握できたことは、食品産業界において更なる減塩食品の開発と提供を推進することの必要性を裏付ける結果であり、行政的にも、また、食育を推進するうえでも貴重な資料となるものと考えられる。同時に、食事記録法では食塩摂取量が2割程度過小に見積もられる傾向にあることも明らかとし、食塩摂取量に関する調査や研究において食事記録法を用いることへの重要な注意喚起となるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201315010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
■ほぼ全国レベルでの調査を実施し、わが国成人におけるナトリウム(食塩)並びにカリウムの習慣的な摂取量の平均値とその分布を、2回の24時間蓄尿を用いて初めて明らかにすることに成功した。
■一地域のみであったが、中学生において同様の調査に成功した。
■非連続4日間の詳細な半秤量式食事記録調査を実施、食塩の摂取源を特定することに成功した。
■上記の両者(蓄尿の調査と食事記録調査)を組み合わせることによって、食事記録調査における食塩摂取量の見積もり誤差(系統誤差≒過小申告)の実態を明らかにした。
臨床的観点からの成果
■日本人成人のナトリウム(食塩)並びにカリウムの習慣的な摂取量の分布を提出できた。このような基礎データは、食塩摂取量の管理が臨床上の大きな課題である高血圧症や慢性腎疾患などの領域において極めて有用な資料である。
■食事記録調査によって食塩の摂取源を特定できた。これは、減塩を必要とする患者の食事療法をより具体的・実践的に行うための基礎資料となる。この価値は大きい。
ガイドライン等の開発
■食事摂取基準を中心に、高血圧、慢性腎疾患、糖尿病などの治療ガイドラインに至るまで、今回の結果(特に、日本人成人のナトリウム(食塩)並びにカリウムの習慣的な摂取量の分布)は、減塩対策の指針を策定し、提案するうえで基本となる資料であり、極めて大きなインパクトを与えるものである。
■小児におけるデータが乏しかったわが国において中学生の資料が得られたことは、この点でもこれらガイドラインへの寄与は大きいものと考えられる。
その他行政的観点からの成果
■食事記録法では食塩摂取量が2割程度過小に見積もられる傾向にあることが明らかとなった。これは、食塩摂取量に関する調査や研究において食事記録法を用いることの問題点を指摘したものであり、栄養行政が用いる関連資料の作成や評価などに注意喚起を促すものと考えられる。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Asakura K, Uechi K, Sasaki Y et al.
Estimation of sodium and potassium intake assessed by two 24-hour urine collections in healthy Japanese adults: a nation-wide study.
Br J Nutr , 112 , 1195-1205  (2014)
原著論文2
Asakura K, Uechi K, Masayasu S et al.
Sodium sources in the Japanese diet: difference between generations and sexes.
Public Health Nutr  (2015)
原著論文3
Katagiri R, Asakura K, Uechi K et al.
Adequacy of iodine intake in three different Japanese adult dietary patterns: a nationwide study.
Nutr J , 14 , 129-  (2015)
原著論文4
Sugimoto M, Asakura K, Masayasu S et al.
Relationship of nutrition knowledge and self-reported dietary behaviors with urinary excretion of sodium and potassium: comparison between dietitians and non-dietitians.
Nutr Res , 36 , 440-451  (2016)
原著論文5
Fujiwara A, Asakura K, Uechi K et al.
Dietary patterns extracted from the current Japanese diet and their associations with sodium and potassium intakes estimated by repeated 24 h urine collection.
Public Health Nutr  (2016)
原著論文6
Uechi K, Asakura K, Sasaki Y et al.
Usefulness of conventional simple questions in assessment of salt intake behavior: comparison with two 24-hour urinary sodium excretions in Japanese adults.
Asia Pac J Clin Nutr  (2016)
原著論文7
Uechi K, Asakura K, Ri Y et al.
Advantage of multiple spot urine collections for estimating daily sodium excretion: comparison with two 24-h urine collections as reference.
J Hypertens , 34 , 204-214  (2016)

公開日・更新日

公開日
2015-04-30
更新日
2018-06-12

収支報告書

文献番号
201315010Z