文献情報
文献番号
201312011A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-Ⅰ母子感染予防に関する研究:HTLV-Ⅰ抗体陽性妊婦からの出生児のコホート研究
課題番号
H23-次世代-指定-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
板橋 家頭夫(昭和大学 医学部小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
- 齋藤 滋(富山大学大学院医学薬学研究部 産科婦人科学)
- 田中 政信(公益社団法人日本産科婦人科医会 )
- 池ノ上 克(宮崎大学医学部付属病院)
- 木下 勝之(公益社団法人日本産科婦人科医会 )
- 福井 トシ子(公益社団法人日本看護協会)
- 米本 直裕(国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナルメディカルセンター)
- 森内 浩幸(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 小児科学)
- 根路銘 安仁(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 離島へき地医療人育成センター)
- 杉浦 時雄(名古屋市立大学大学院医学研究科 小児科)
- 伊藤 裕司(国立成育医療研究センター 周産期診療部新生児科)
- 水野 克己(昭和大学医学部 小児科学講座)
- 田村 正徳(埼玉医科大学総合医療センター 小児科)
- 楠田 聡(東京女子医科大学母子総合医療センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
29,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HTLV-1感染症の多くが母乳を介した母子感染として成立する。感染した児はキャリア化し、成人後に成人T細胞白血病やHTLV-1関連脊髄炎等の重篤な疾患を発症する可能性がある。そのため、母子感染を予防することが最も基本的な対策となる。HTLV-1母子感染を効果的に予防しながら、子どもが健やかに成長できるようにするための乳汁栄養法を提示することを目的としてコホート研究が開始された。
研究方法
各都道府県の周産期母子医療センターや中核病院に研究協力を依頼し、倫理委員会の承認が得られた施設を研究協力施設とした。研究の対象は、HTLV-1抗体スクリーニング検査で陽性と判定され、さらに確認検査として行われたウエスタンブロット(WB)法で陽性あるいは判定保留となった妊婦のうち、本研究参加の同意が得られた妊婦およびその子どもである。研究協力施設において十分な説明を受けた後同意が得られた妊婦は、自らの意志で原則として人工栄養、短期母乳栄養(90日未満)、冷凍母乳栄養を選択する。なお、90日以上の母乳栄養については、さらに十分に意思を確認することとした。分娩後は研究協力施設あるいは分娩施設において選択された乳汁栄養をできるだけ遂行できるように指導した。対象妊婦から出生した児のフォローアップは生後1か月、3か月、6か月、その後3歳まで追跡し、3歳時点の抗体検査により母子感染の有無を判定する。フォローアップの内容は、疾病の有無や発育・発達、栄養状況である。なお、母親のエジンバラ産後うつ病評価尺度(EPDS)は1か月、3か月時に、育児ストレスインデックステストは12か月時に実施することとした。
結果と考察
①HTLV-1スクリーニング検査が陽性でかつWB法による確認検査で陽性あるいは判定保留となった妊婦のうち、全国85の研究協力施設でコホート研究の同意が得られた妊婦は、平成24年2月~26年2月初旬までで447名(WB法陽性338名[76%]、判定保留109名[24%])であった。②WB陽性者338名のうち乳汁選択法まで登録されていた妊婦が270名で、乳汁選択の内訳は短期母乳が56%、人工栄養が35%、冷凍母乳7%、長期母乳2%の順であった。③判定保留妊婦63名にPCR法が実施され陽性率は約20%であったが、いずれもproviral loadは極めて低値であった。④登録された妊婦すべてが分娩に至っていないが、短期母乳がされた児に対してより長期間母乳が与えられた例が認められた。⑤170名の母親にEPDSが評価されたが、乳汁栄養法による影響はみられなかった。⑥特定の地域の検討では、産科医と小児科医の連携不足や、短期母乳の長期化の関与が否定できない母子感染例、母子感染対策協議会の問題点などが報告された。
結論
①本研究の登録状況は当初の予測に比べて十分とはいえず、登録者数を増やすことが喫緊の課題である。登録者が思うように伸びない背景には研究協力施設の数が十分ではなく、フォローアップの利便性が悪い点があげられた。HTLV-1キャリア妊婦に対する心理的支援や科学的説明を行うためには所定のトレーニングが必要であることから研究協力施設での集約化を企図したが、今後は現在登録された妊婦から出生した児の高いフォローアップ率を維持するための柔軟な対応が迫られている。そのためには、産科医や小児科医、コメディカルスタッフに対するHTLV-1スクリーニング検査の目的、キャリアへの対応についてのさらなる普及・啓発とともに、HTLV-1母子感染対策協議会を中心とした地域の実情に応じた体制作りが必要である。②WB法陽性妊婦が選択した乳汁栄養法の50%以上が短期母乳を選択していたが、登録者が最も多い鹿児島県を除いた検討では、人工栄養と短期母乳を選択した割合は同率であった。③短期母乳栄養を選択したにもかかわらず3か月以上の母乳を継続してしまう例がみられるため、短期母乳栄養を選択した場合には十分なサポートが欠かせない。④WB判定保留者に実施されたPCR法の陽性率は20.6%で、陽性者のproviral load (%)は極めて低値であった。⑤WB法判定保留者への対応に地域差が認められており、今後さらなる標準化が必要である。⑥現時点では登録された妊婦から出生した児は3歳に達しておらず、引き続き高いフォローアップ率を維持していく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2014-08-27
更新日
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