アミロイドイメージングを用いたアルツハイマー病発症リスク予測法の実用化に関する多施設臨床研究

文献情報

文献番号
201311002A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイドイメージングを用いたアルツハイマー病発症リスク予測法の実用化に関する多施設臨床研究
課題番号
H23-認知症-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石井 賢二(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩坪 威(東京大学大学院 医学系研究科)
  • 渡辺 恭良(理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター)
  • 千田 道雄(先端医療センター研究所)
  • 須原 哲也(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)
  • 田代 学(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター)
  • 加藤 隆司(国立長寿医療研究センター 脳機能画像診断開発部)
  • 尾内 康臣(浜松医科大学 メディカルフォトニクス研究センター)
  • 塩見 進(大阪市立大学大学院 医学研究科)
  • 松成 一朗(先端医学薬学研究センター 臨床研究開発部)
  • 百瀬 敏光(東京大学医学部附属病院 放射線科)
  • 佐藤 元(国立保健医療科学院  政策技術評価研究部)
  • 高尾 昌樹(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 今林 悦子(国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
22,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症最大の原因であるアルツハイマー病(AD)に対する病因研究と根本治療薬開発が進む中、病態の進展を反映する客観的指標(サロゲートマーカ)の確立が急務である。本研究は、ADのサロゲートマーカとして、特に発症予測や超早期診断に優れていると期待されるアミロイドイメージング診断法を高精度に標準化し、診断技術の整った施設ネットワーク基盤を整備し、多施設における治験や予防介入研究に備えるとともに、臨床適用の科学的根拠を提供することが目的である。これにより、認知症の特に発症前期から早期の病態理解を促進し、発症の危険因子や保護因子を明らかにし、根本治療薬の実用化を目指した臨床研究や治験を促進する。認知症による要介護者減少のための認知症検診や発症予防法の実用化への道を拓く。
研究方法
本邦でアミロイドイメージングを実施している国内20あまりのPET施設の協力を得て、標準検査法を共有して臨床研究を推進すると共に、撮像等にかかわる技術的問題の解決や診断解析法の開発を行う。J-ADNI研究プロジェクトと連携し技術支援を行うとともに、J-ADNI以外の個別研究で行われているアミロイドイメージング症例を集約的に解析することで、わが国における質の高いエビデンス構築を目指す。アミロイドPETの判定法や定量解析法を開発する。生前同意型ブレインバンクと連携して症例の蓄積をはかり、画像病理対比評価法を標準化し、各施設における剖検評価を支援する。これにより剖検例を蓄積検討し、PETにおける集積の病理学的意義を解明する。また新しい18F標識診断薬や、新しい撮像装置よる臨床研究を実施し、異なる診断薬・撮像法の診断精度や臨床的意義の互換性について検討する。ADとAD以外の認知症疾患におけるアミロイドイメージングの所見とその意義を明らかにし、日常臨床における適用についてのエビデンスを収集し、臨床使用ガイドラインとしてまとめる。
結果と考察
平成26年3月現在、わが国で11C-PiBまたは11C-BF-227を用いてアミロイドイメージングを実施している施設は24施設(11C-PiB 24施設、11C-BF-227 3施設)となった。3施設は両者を実施している。アミロイドPETのための撮像装置の性能評価法を確立した。また、再現性のある評価のため、自動的な画像判定・解析法を開発した。統計画像法を用いる判定法は早期に集積の増加を検出できる可能性が示唆された。J-ADNI研究で収集されたデータから11C-PiB集積量の経時変化を検討した。各臨床区分における11C-PiB集積量は、健常者<MCI<ADの関係があり、それぞれの臨床区分内でApoE4保有者が非保有者に比べて高かった。11C-PiBの集積量の年次変化は、陽性群で2.3%と緩徐な増加であり、カットオフ値(mcSUVR=1.5)からADの平均レベルに到達するのに要する時間は19年程度であると推定された。AD患者脳内のアミロイド蓄積とニコチン受容体(α4β2 nAChR)密度との関係を検討したところ、前頭前野とマイネルト基底核領域においてα4β2ニコチン受容体密度とアミロイド沈着との間に有意な逆相関があることがわかった。タウ蛋白病変診断薬11C-PBB3と11C-PiBの分布を比較したところ、両者の分布は異なり11C-PBB3の集積は認知機能低下と相関していた。PETと病理所見の対比法を確立し、症例を蓄積した。死亡時99歳の超高齢者の剖検例では、生前の11C-PiB PET陽性所見に対応する老人斑密度が病理で観察されたが、それ以外に、レビー小体病理、TDP-34 proteinopathy、進行性核上性麻痺型変化、嗜銀顆粒性疾患など多彩な病理が認められ、高齢者の背景病理の推定は、重複病理を前提に他のバイオマーカーと合わせ判断する必要があることが分かった。アミロイド陽性健常者のフォローにより、認知機能障害発症前に18F-FDG PETで代謝低下が検出されることを認め、発症前診断の可能性が示唆された。様々な認知症疾患におけるアミロイドPET所見の意義を検討し、臨床使用ガイドラインにまとめた。
結論
アルツハイマー病の発症リスク予測法の実用化に向け、多施設臨床研究を推進し、アミロイドイメージングの撮像法、解析法の標準化、撮像装置の性能評価法を確立した。健常者からアルツハイマー病発症にいたるアミロイド沈着の経時変化を明らかにし、ApoE遺伝子型の影響を解明した。剖検例との対比を行い、アミロイドPETの診断的意義を明らかにした。他のバイオマーカーの必要性が明らかになると共に、ADの発症予測の可能性が示唆された。これらの基盤のもとに、今後わが国におけるADの早期病態研究、介入研究が加速化され、認知症の克服、要介護者の減少に結びつくと期待される。

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201311002B
報告書区分
総合
研究課題名
アミロイドイメージングを用いたアルツハイマー病発症リスク予測法の実用化に関する多施設臨床研究
課題番号
H23-認知症-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石井 賢二(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩坪 威(東京大学大学院 医学系研究科)
  • 渡辺 恭良(理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター)
  • 千田 道雄(先端医療センター研究所)
  • 須原 哲也(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)
  • 田代 学(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター)
  • 加藤 隆司(国立長寿医療研究センター 脳機能画像診断開発部)
  • 尾内 康臣(浜松医科大学 メディカルフォトニクス研究センター)
  • 塩見 進(大阪市立大学大学院 医学研究科)
  • 松成 一朗(先端医学薬学研究センター 臨床研究開発部)
  • 百瀬 敏光(東京大学医学部附属病院 放射線科)
  • 佐藤 元(国立保健医療科学院  政策技術評価研究部)
  • 高尾 昌樹(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 今林 悦子(国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症最大の原因であるアルツハイマー病(AD)に対する病因研究と根本治療薬開発が進む中、病態の進展を反映する客観的指標(サロゲートマーカ)の確立が急務である。本研究は、ADのサロゲートマーカとして、特に発症予測や超早期診断に優れていると期待されるアミロイドイメージング診断法を高精度に標準化し、診断技術の整った施設ネットワーク基盤を整備し、多施設における治験や予防介入研究に備えるとともに、臨床適用の科学的根拠を提供することが目的である。これにより、認知症の特に発症前期から早期の病態理解を促進し、発症の危険因子や保護因子を明らかにし、根本治療薬の実用化を目指した臨床研究や治験を促進する。認知症による要介護者減少のための認知症検診や発症予防法の実用化への道を拓く。
研究方法
本邦でアミロイドイメージングを実施している20あまりの施設の協力の下に、標準検査法を共有して臨床研究を推進すると共に、撮像等にかかわる技術的問題の解決や診断解析法の開発を行う。J-ADNI研究プロジェクトと連携し技術支援を行うとともに、J-ADNI以外の個別研究で行われているアミロイドイメージング症例を集約的に解析することで、わが国における質の高いエビデンス構築を目指す。生前同意型ブレインバンクと連携してアミロイドイメージング症例の蓄積をはかり、画像病理対比評価法を標準化するとともに、各施設における剖検評価体制確立を支援する。また18F標識診断薬による臨床研究を実施し、異なる診断薬の診断精度や臨床的意義の互換性について検討する。ADとAD以外の認知症疾患におけるアミロイドイメージングの所見とその意義を明らかにし、日常臨床における適用についてのエビデンスを収集し、臨床使用ガイドラインとしてまとめる。
結果と考察
検査プロトコールの共有化を進め、平成26年3月現在、わが国で11C-PiBまたは11C-BF-227を用いてアミロイドイメージングを実施している施設は24施設(PiB 24施設、BF-227 3施設)となった。3施設は両者を実施している。治験や多施設共同研究のために、判定者に依存しない自動定量解析法を開発した。日米豪3カ国の11C-PiB 380例におけるApoE遺伝子型の影響を解析した結果、ApoE4は遺伝子量依存性に全脳で11C-PiB集積を増加させるのに対し、ApoE2は楔前部と頭頂部における集積を抑制することが分かった。横断的データから推定したアミロイドβ集積過程は、カットオフ値までの過程がきわめて緩徐と考えられた。更に縦断的データの解析から陽性所見となってからADの平均レベルに達するのに約19年の歳月を要することが分かった。ApoE4は集積速度も増加促進させることが分かった。撮像装置の分解能・均一性・コントラストの性能評価法を確立し、多施設研究におけるデータの信頼性の裏付けが可能となった。また、陽性陰性の判定についても、統計画像や人口知能を応用し感度や再現性の向上を目指した。11C-BF-227の評価法も確立するとともに、11C-BF-227によるα-synuclein集積評価の可能性について検討した。18F標識診断薬や新しい撮像装置を用いた画像の意義について検討した。AD以外の認知症疾患(レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、アミロイドアンギオパチーなど)におけるアミロイドβ集積の特徴と臨床的意義について検討した。PETと病理所見の対比法を確立し、定量的免疫染色及びCERAD基準との対比を行い、量的相関があることを確認すると共に、11C-PiB陽性所見はCERAD基準でのアルツハイマー病診断に相当する老人斑密度に対応することを確認した。アミロイド陽性健常者の追跡により、認知機能低下前に画像上の変化を検出できることが分かった。これらの研究成果を踏まえ、アミロイドイメージングの臨床利用ガイドラインを作成した。
結論
本研究を通じて、アミロイドイメージング診断技術の国際的標準化を達成し、国内研究基盤を構築した。撮像法を共有し、視覚的読影法、定量計測法を標準化した。また、多施設臨床研究や治験に必要な撮像装置の性能評価法についても定めた。
アミロイドPETにおける陽性所見は病理診断におけるCERAD基準のmoderate~frequentに相当し、線維型老人斑密度を反映する。
アミロイドPETと関連検査により健常者における発症予測は可能であると考えられた。詳細なリスク評価は今後の課題である。
本研究の成果を土台として、関連学会(日本認知症学会、日本神経学会、日本核医学会)と合同ワーキンググループを結成し、アミロイドイメージング適性臨床使用のためのガイドライン作成作業を行った。

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201311002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アミロイドイメージング撮像法の標準化を行うと共に、24施設で標準プロトコルによる検査を実施し、装置の性能評価法、定性及び定量解析評価法を開発した。これにより国際性に互換性のあるデータの収集と解析が可能になった。10剖検例を蓄積し、PET-病理対比法を確立し、PETにおける集積の意義を明らかにした。ApoE遺伝子型のアミロイド集積量・分布への影響を解明した。健常者の追跡例を解析し、健常者における発症前病態進展が検出可能であることを確認した。
臨床的観点からの成果
健常者、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)におけるアミロイド陽性頻度とApoE4のアミロイド蓄積促進効果を明らかにした。また、AD以外の認知症疾患におけるアミロイドPETの臨床的意義を検討した。これらに基づき、根本治療薬が実現していない現状で、日常診療におけるアミロイドイメージングの適正使用の方向性を整理した。また、早期病態研究や根本治療薬治験におけるアミロイドイメージングの役割を明確にした。
ガイドライン等の開発
上記成果の元に、日本認知症学会、日本神経学会、日本核医学会と合同のワーキンググループを組織し、「アミロイドPETイメージング剤合成装置の適正使用ガイドライン」を作成し、2015年4月20日に公開した。本ガイドラインは、臨床適用に加え、薬剤製造、撮像、読影、検査依頼に関する資格要件を定め、適正使用を促す枠組みとなっている。現在日本核医学会のホームページで公開されている。
その他行政的観点からの成果
アミロイドPETイメージング剤の院内製造を行う合成装置が薬事承認されているが、「「アミロイドPETイメージング剤合成装置の適正使用ガイドライン」に沿った適正使用が指導されている。また、ガイドラインに定められた、薬剤製造、撮像、読影にかかる資格要件は日本核医学会がこれに関する認証制度や研修制度を定めて運用を行っている。
その他のインパクト
研究成果は、日経メディカル(23年9月10日)、テレビ東京(23年10月4日)、Medical Tribune(23年10月20日)、JSTニュース(23年11月)、読売新聞(24年12月13日)、NHK(24年9月26日、25年10月7日)、朝日新聞(25年11月2日)、サンデー毎日(25年12月10日)、週刊新潮(25年12月25日)などで報道された。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
70件
その他論文(和文)
87件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
115件
学会発表(国際学会等)
60件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
アミロイドイメージング適正臨床使用ガイドラインの作成
その他成果(普及・啓発活動)
82件
学会・研究会における教育講演・解説的講演

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sugimoto A, Koyama S, Midorikawa A, et al.
Is this a new type of primary prosopagnosia, both progressive and apperceptive?
Neuropsychiatric Disease and Treatment , 8 , 169-173  (2012)
原著論文2
Sakurai Y, Ishii K, Sonoo M, et al.
Progressive apraxic agraphia with micrographia presenting as corticobasal syndrome showing extensive Pittsburgh compound B uptake.
J Neurol , 260 , 1982-1991  (2013)
原著論文3
Mori T, Shimada H, Shinotoh H, et al.
Apathy correlates with prefrontal amyloid β deposition in Alzheimer’s disease.
J Neurol Neurosurg Psychiatry , 85 (4) , 449-455  (2014)
原著論文4
Shimada H, Shinotoh H, Hirano S, et al.
β-amyloid in Lewy body disease is related to Alzheimer’s disease-like atrophy.
Mov Disord , 28 (2) , 169-175  (2013)
原著論文5
Sengoku R, Matsushima S, Murakami Y, et al.
11C-PiB-PET imaging of encephalopathy associated with cerebral amyloid angiopathy.
Int. Med. , 53 (17) , 1997-2000  (2014)
原著論文6
Ishibashi K, Miura Y, Oda K, et al.
Alzheimer’s disease-like pattern of 18F-FDG uptake during a hyperglycemia state and negative 11C-PiB binding in a patient with mild cognitive impairment.
J Alzheimer's Dis. , 42 (2) , 385-389  (2014)
原著論文7
Hatsuta H, Takao M, Ishii K, et al.
Amyloid β accumulation assessed with 11C-Pittsburgh compound B PET and postmortem neuropathology.
Curr Alzheimer Res , 12 (3) , 278-286  (2015)

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
2016-06-21

収支報告書

文献番号
201311002Z