深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証

文献情報

文献番号
201308005A
報告書区分
総括
研究課題名
深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証
課題番号
H23-医学機器-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石原 美弥(防衛医科大学校 医用工学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 辻田 和宏(富士フイルム株式会社 R&D統括本部 メディカルシステム開発センター)
  • 大谷 直樹(防衛医科大学校 脳神経外科学講座)
  • 堀口 明男(防衛医科大学校 泌尿器科学講座)
  • 藤田 真敬(防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門)
  • 池脇 克則(防衛医科大学校 内科学講座)
  • 津田  均(防衛医科大学校 病態病理学講座)
  • 平沢  壮(防衛医科大学校 医用工学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 光音響画像は現存の画像診断技術ではカバーできない新しい非侵襲的画像診断技術として世界的に着目されている。従来の光画像技術や超音波技術の長所をそのまま活かしつつ,深部を高いコントラストで高精細に画像化できる利点や特徴があることから,本研究事業では,医工連携・産学連携をベースに,世界に先駆けて速やかに画像診断用光音響画像化技術を確立することを目的とする。
研究方法
 その医療価値を見極めるために光音響画像化システムのプロト機を製作し,防衛医科大学校倫理委員会の承認が得られた5件の臨床研究を推進した。
 非侵襲性が確保できる光音響画像は,より早く医療の現場での利用が見込める点で期待が大きい。本研究では,(1)プロト機の改良と性能を検証,臨床研究として,(2)制癌効果を損なわない範囲で勃起神経を温存する前立腺癌摘出術の為の術前評価及び経直腸プローブを導入しての臨床研究,(3)下肢静脈瘤や静脈血栓症を対象とした血管走行の確認観察及び現行の検査法との比較による有用性検証,(4)頚動脈狭窄病変におけるプラーク性状の術前評価を実施した。
結果と考察
 (1)プロト機の改良と性能を検証として,小型で臨床現場へ運搬可能な装置サイズのプロト機として最終的に床面積で60cm×69cmを実現した。専用の照明光学系を設計し超音波診断装置用プローブと一体化させたハンディプローブとしてリニアプローブ,さらに臨床計測分野の拡大に向けて,泌尿器分野での臨床研究に使用可能な経直腸プローブを実現した。従来の超音波診断装置の経直腸プローブとほぼ同等の画像化範囲と使用感を実現できる,光音響経直腸プローブを製作した。
 (2)制癌効果を損なわない範囲で勃起神経を温存する前立腺癌摘出術の為の術前評価及び経直腸プローブを導入しての臨床研究では,根治的前立腺全摘術を施行した前立腺癌症例を対象に,光音響リニアプローブにて摘出直後の検体から光音響イメージングを取得したところ,神経血管束が豊富な前立腺後外側に強いシグナルが認められた。また,光音響経直腸プローブによる術中リアルタイムなモニタリングにおいても,摘出検体と同様に神経血管束と同一部位に強いシグナルが認められ,神経血管束内の微小血管をランドマークとしたイメージナビゲーションの可能性が示された。
 (3)下肢静脈瘤や静脈血栓症を対象とした血管走行の確認観察及び現行の検査法との比較による有用性検証では,健常人の下腿皮下静脈,頚部血管,鼠径部血管を観察した。その結果,脈管特異的な信号を認め,脈管の遠位壁に比して近位壁に信号を強く認めたが,側壁や内腔は無信号であった。また,動静脈間で信号の差はなく2 cm以深では信号の減衰を認めた。光音響による脈管の画像化は,現在使用可能な診断モダリティの欠点を補い,将来の脈管疾患診療の進歩に貢献する可能性を有することが判った。
 (4)頚動脈狭窄病変におけるプラーク性状の術前評価を目的とした臨床研究では,光音響技術による頸動脈プラークの質的診断を目指して,プラークの中でも性状が不安定なものを光学特性により識別する波長を絞り込んだ。
 その他,安全性,性能評価のために動物実験などの基礎実験も実施し,治験開始の準備とした。
以上より,微細な血管網の画像化,超音波画像との重畳など医療ニーズのある機能を検証することができた。臨床研究において症例数を集中的に積み重ねることで光音響画像の有用性が検証できた。
結論
 結論として,「造影剤を使用することなく微細な血管網が非侵襲的に画像化できるプロト機の製作及び改良と性能検証」,「医師主体的に実施する複数の臨床研究の推進」,さらに「機能画像としての有効性を検証するための基礎的検討」を中心に実施したことで,3年計画の3年目として重点的に成果があった。構築したシステムは,可搬なシステム,リアルタイム性を確保して,光音響血管画像と形態(解剖)画像を描出する超音波画像を重畳できる,画像取得時間が現行の検査を大幅に増大することがないなど,医療現場で受け入れやすい仕様となっている。すなわち,広範に普及している超音波診断画像に医工学の技術を取り入れて,高コントラストで微細な血管網を重畳できる光音響画像の付加価値を与えることができた。
 本研究事業を実施することで,理想的な医療機器研究開発体制で医療機器研究開発が推進でき,医療ニーズを確実に踏まえたシーズを活かせた。これにより,日本発の革新的な医療機器がいよいよ実現されると実感できる研究成果となった。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201308005B
報告書区分
総合
研究課題名
深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証
課題番号
H23-医学機器-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石原 美弥(防衛医科大学校 医用工学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 辻田 和宏(富士フイルム会社 R&D統括本部 メディカルシステム開発センター)
  • 大谷 直樹(防衛医科大学校 脳神経外科学講座)
  • 堀口 明男(防衛医科大学校 泌尿器科学講座)
  • 藤田 真敬(防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門)
  • 池脇 克則(防衛医科大学校 内科学講座)
  • 津田  均(防衛医科大学校 病態病理学講座)
  • 平沢  壮(防衛医科大学校 医用工学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 光音響画像化技術は,原理的に被ばくがなく,リアルタイムに画像化できる技術であること,小型で可搬な装置になること,従来のモダリティでの実現が難しいcmオーダーの深さで,造影剤などの薬剤を使わずに微細な血管網が画像化できる,超音波画像との重畳ができることなどから,新しい画像診断ツールとして期待されているが,既存するのは研究用途の動物用装置のみで,未だに医療用診断機器として世界で例がない。これらの背景より,本研究事業では,医工連携・産学連携をベースに,世界に先駆けて速やかに画像診断用光音響画像化技術を確立することを目的とする。
研究方法
 光音響画像技術をどこよりも先駆けて実用化するために,本研究では「産学」及び「医工」が密に連携できる研究体制を研究当初から構築し,その連携を最大限機能させ,以下に示す3つの研究項目を有機的かつ効率的に実施した。(1)外来や手術場に持ち込むことができ,造影剤を使用することなく微細な血管網が非侵襲的に画像化できるプロト機の製作,(2)医師主体的に実施する複数の臨床研究の推進,(3)機能画像としての有効性を検証するための基礎的検討としてin vitro動物実験を中心にした実験である。さらに(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)の薬事戦略相談を活用して,研究計画を精査した。
 研究体制としては適材適所を意識して,使い勝手がよい,結果が分かりやすい装置として医療現場のニーズが高い適用に対処できるよう風通しのよい医工連携かつ産学連携を推進した。医師主体の臨床研究では,プロト機の改良とフィードバックをしながら実施した。光音響イメージングのリアルタイム性により,「的確な神経温存前立腺全摘術のための光音響画像化技術の有用性検証」や「脈管疾患における光音響技術の有用性の検証」などの各臨床研究で考案したプロトコルは,現存の検査等に負担のない短時間で出来る内容となっている。
結果と考察
 複数の光音響プローブを用いて得られたデータから,神経血管束内の微小血管をランドマークとしたイメージナビゲーションの可能性や目標性能が得られていること,脈管特異的な信号が認められているなど,得られた性能で光音響画像の強みを活かせる医療ニーズに絞り込めることが確認できた。同時に非侵襲性により,より早く確実に医療の現場での利用が見込める点で期待が大きいことが確認できた。
結論
 結論として,3年間を通して「造影剤を使用することなく微細な血管網が非侵襲的に画像化できるプロト機の製作及び改良と性能検証」,「医師主体的に実施する複数の臨床研究の推進」,さらに「機能画像としての有効性を検証するための基礎的検討」を中心に実施し成果があった。具体的には,前立腺における神経血管束の描出,下腿皮下静脈,頚部血管及び鼠径部血管の可視化などを確認した。構築したシステムは,可搬なシステム,リアルタイム性を確保して,光音響血管画像と形態(解剖)画像を描出する超音波画像を重畳できる,画像取得時間が現行の検査を大幅に増大することがないなど,医療現場で受け入れやすい仕様となっている。すなわち,広範に普及している超音波診断画像に医工学の技術を取り入れて,高コントラストで微細な血管網を重畳できる光音響画像の付加価値を与えることができた。加えて,光音響画像研究を促進するための「光超音波画像研究会の活動概要」,研究成果を紹介する「本研究事業の研究成果紹介のホームページ」などの啓蒙活動を実施した。
 3年間継続して本研究事業を実施することで,理想的な医療機器研究開発体制で医療機器研究開発が推進でき,医療ニーズを確実に踏まえたシーズを活かせた。これにより,日本発の革新的な医療機器がいよいよ実現されると実感できる研究成果となった。継続的な研究の重要性が明確であり,実用化にむけて,GLPに準拠した非臨床試験などの実施,治験開始のための準備を種々の公的資金を活用して推進したい。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201308005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
造影剤を使用することなく非侵襲的にドプラ画像と比較して微細な血管ネットワークが3次元撮像出来る性能を有する光音響画像撮像システムをコンパクトに装置化した。専用の照明光学系を設計して超音波診断装置用プローブと一体化させたハンディプローブを実現した。さらに医師が見慣れた超音波画像と重畳表示できる機能を創出した。医師主体的に実施する臨床研究として防衛医科大学校倫理委員会の承認を得て5件実施し,光音響画像化技術の有効性,すなわち臨床価値を明確にした。
臨床的観点からの成果
光音響画像の強みは,超音波検出の技術的弱点を光でカバーして造影剤を使用することなく高コントラストで微細な血管網を画像化できる点と,広範に普及している超音波診断画像に重畳出来るという点である。研究期間を通してシステム全体の高速化や医師が使用しやすい画像表示を検討することで,医師主体的に実施する臨床研究が活発にできた。同時期に複数の臨床科で臨床研究を実施したため,得られた成果のフィードバックと技術的な精査が効率よく実施できた。
ガイドライン等の開発
本研究事業ではガイドラインの作成などを目的としていないため、ガイドライン等の開発は特にないが,光音響画像の啓蒙を目的として立ち上げた日本超音波医学会 光超音波画像研究会第1回(平成25年8月2日 公開)にて,安全性,特にレーザー安全について議論した。これにより,非侵襲的な画像診断法として理解を深めた
その他行政的観点からの成果
切れ目の無い承認申請までのロードマップの作成のために,PMDAによる薬事戦略相談を実施し,光音響画像の臨床応用と非臨床試験の充足性の確認について相談した。PMDAからは光音響画像表示機能と超音波画像表示機能について,それぞれの有効性と安全性を示す必要性と従来技術との比較の必要性に関する助言があり,これを受けて動物実験や臨床研究にて検証した。以上の一連の成果より,出口戦略が明確で早期実用化を確実にする医療機器開発として世界に先駆けた光音響画像診断装置の実現可能性を実証した。
その他のインパクト
日本における光音響画像の研究を促進し,日本全国の研究者間交流の組織づくりとして日本超音波医学会 光超音波画像研究会を立ち上げ活動した。また本研究事業及び研究成果の紹介のため「深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証 研究成果公表サイト www.photoacoustic-imaging.jp」を作成した。社会に発信するツールとして関連研究の情報収集や光音響画像の啓蒙に役立った。H26革新的がん医用実用化研究事業,H27~H29AMED医療機器開発推進研究事業の両研究課題へつながった。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
石原美弥, 堀口明男, 大谷直樹, 他
深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証
平成23年度~25年度総合研究報告書 , 1-286  (2014)
原著論文2
石原美弥, 池脇克則, 津田均, 他
深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証
平成25年度総括・分担研究報告書 , 1-104  (2014)
原著論文3
Hirasawa T, Okawa S, Fujita M, et al.
Quantification of optical attenuation coefficient based on continuous wavelet transform of photoacoustic signals measured by a focused broadband acoustic sensor
Proceedings of SPIE , 8943 , 89435Z-1-89435Z-8  (2013)
doi:10.1117/12.2041676
原著論文4
Hirasawa T, Fujita M, Okawa S, et al.
Quantification of effective attenuation coefficients using continuous wavelet transform of photoacoustic signals
Applied Optics , 52 (35) , 8562-8571  (2013)
doi:10.1364/AO.52.008562
原著論文5
石原美弥
光音響信号の周波数成分が画像性能に与える影響
電気学会研究会資料光・量子デバイス研究会資料 , OQD-13-047 , 27-29  (2013)
原著論文6
堀口明男, 淺野友彦.
前立腺癌に対する光音響イメージングを用いた局在診断の可能性
日本レーザー医学会誌 , 34 (1) , 19-23  (2013)
原著論文7
石原美弥, 堀口明男, 大谷直樹, 他
深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証
平成24年度総括・分担研究報告書 , 1-185  (2013)
原著論文8
Hirasawa T, Fujita M, Okawa S, et al.
Improvement in quantifying optical absorption coefficients based on continuous wavelet-transform by correcting distortions in temporal photoacoustic waveforms
Proceedings of SPIE , 8581 , 85814J-1-85814J-7  (2013)
doi:10.1117/12.2006305
原著論文9
辻田和宏
光音響イメージングの医療応用に向けて −光音響画像と超音波画像の融合 −
レーザー医学会誌 , 33 (4) , 380-385  (2013)
原著論文10
櫛引俊宏, 平沢壮, 大川晋平, 他
3次元培養細胞観察のための光音響イメージング顕微鏡の創製
日本レーザー医学会誌 , 33 (3) , 318-318  (2012)
原著論文11
石原美弥
光音響画像の現状
電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) , 132 (8) , 1287-1290  (2012)
原著論文12
石原美弥
光と超音波のハイブリッドモダリティとしての光音響画像
医学のあゆみ , 240 (6) , 487-497  (2012)
原著論文13
石原美弥, 池脇克則, 津田均, 他
深部機能画像診断のための光音響画像化技術の有用性検証
平成23年度総括・分担研究報告書 , 1-205  (2012)
原著論文14
Hirasawa T, Ishihara M, Tsujita K, et al.
Continuous wavelet-transform analysis of photoacoustic signal waveform to determine optical absorption coefficient
Proceedings of SPIE , 8223 , 822333-1-822333-7  (2012)
doi:10.1117/12.908088
原著論文15
Irisawa K, Hirota K, Tsujita K,
Influence of laser pulse width to the photoacoustic temporal waveform and the image resolution with a solid-state excitation laser
Proceedings of SPIE , 8223 , 82232W-1-82232W-8  (2012)
doi:10.1117/12.907714

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-06-07

収支報告書

文献番号
201308005Z