文献情報
文献番号
201307032A
報告書区分
総括
研究課題名
人工赤血球(ヘモグロビン小胞体)製剤の実用化を目指す研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-創薬総合-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
酒井 宏水(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 化学教室)
研究分担者(所属機関)
- 小田切 優樹(崇城大学 薬学部)
- 東 寛(旭川医科大学 医学部)
- 高瀬 凡平(防衛医科大学校)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人工赤血球(Hb小胞体, HbV)は、現行の献血-輸血システムを補完する新しい製剤として期待されている。平成25年度は、無菌製造のための環境を整備し、繰り返しHbVを製造し工程の評価をするとともに、動物投与試験において、細網内皮系への影響を更に精査すること、外科的手術を伴う出血への投与に対する影響、CO結合体の投与の効果、臓器灌流液としての可能性の追求、次段階に向け産業界へのアピールすること、以上を目的とした。
研究方法
1) 無菌的雰囲気において混錬法による造粒、脱CO操作、脱酸素操作を繰り返し行なった。2) 芽胞を添加し、発芽させてからBPLにより滅菌する方法を検討した。3) 片肺切除出血マウスモデルを用い、HbV投与による蘇生と術後の経過について観察を行なった。4) ラット切断下肢をHbVで灌流、再接着する試験を行った。5)高脂血症モデルとしてApoE欠損マウスにHbVを投与し、体内動態を検討した。6) CO結合HbVを特発性肺線維症モデルマウスに投与した。7) ラットにHbVを投与後、摘出した脾細胞について、サイトカイン・ケモカインを網羅的に測定した。また、マクロファージがHbV貪食後に発現を増強させる遺伝子群を調べた。8) 出血性ショック心臓に対し酸素輸送が有効であることを評価するモデルの作成を試みた。
結果と考察
1) 奈良医大にクリーンブースを新設し、定常的に試験製造できる状態とした。10分程度の混錬操作で約300-400mLのHb小胞体を製造出来る条件を見出し、更なるスケールアップを進めている。2) Hb小胞体に芽胞添加し発芽させてからBPLを添加する方法を検討したが、効果は限定的であった。3) 片肺切除出血マウスモデルを用い、HbVの投与による蘇生と術後の経過について観察を行なった。全例が生存し、食餌量、運動量の回復も比較の赤血球投与と同等であり、アルブミン投与とは対照的であった。臓器のHIF-1α発現量も低いことから、出血時にHbVを投与して組織が酸素化される事が重要と考えられた。4) ラットの切断下肢をHbV分散液で灌流する試験を行った。保存中の血液ガス組成から組織は酸素代謝を維持しており、これにより8時間の保存後の再接合術が可能であることを確認した。5) 高脂血症モデルマウスにHbVを単回大量投与した。健常動物と同様にHbVの大部分は肝臓・脾臓に分布したが、投与後14日目にはほぼ消失していた。生活習慣病である高脂血症時におけるHbVの安全性 (生体蓄積性) を体内動態学的観点より初めて明らかにした。6) CO結合HbVの投与により肺線維化の抑制及び肺機能の維持が確認され、IPFの新規治療薬としての可能性が見出された。7) 一過性のT細胞増殖抑制効果に伴うサイトカイン・ケモカインを網羅的に測定した。産生が増加するものとして、主としてマクロファージが産生する、CC-chemokine, IL-10, TNF-αおよびTh1サイトカインであるIFN-γ, IL-2が明らかになった。産生誘導が認められないものとしてIL-1β, IL-18, Th2 cytokineであるIL-4, 5, 13が明らかになった。また、リポソームを貪食したマクロファージの遺伝子発現プロファイルをコントロールマクロファージと比較し、貪食後に発現の増強を認める遺伝子群を同定した。8) 出血性ショックモデルラットに対し、生理食塩水、5%アルブミンによる蘇生を行なったところ、著明な左心室伝導遅延と興奮伝播・活動電位持続時間不均一性の増大及び心筋組織のconnexin 43発現異常を惹起し、電気的不安定性から致死性不整脈が誘発されると示唆された。赤血球治療はこれら指標の保持と予防効果を有した。このモデルは、HbVの有効性を評価するのに適したものと考えられ、次年度に継続して検討する予定である。
結論
無菌製造できる環境を新たに整備し、HbVの製造を繰り返し支障なく実施できることを確認し、更なるスケールアップを進めている。安全性評価では、先ず遺伝子突然変異誘発性は無いこと、細網内皮系への影響については、高脂血症モデルでは体内動態に異常が無いことや、脾T細胞の増殖抑制の機序について理解が深まっている。機能評価としては、術中出血モデルへの投与で、組織酸素化と予後の回復に効果が確認されたこと、また、切断下肢を人工赤血球で灌流することにより再接着が可能であることを確認した。CO結合HbVの効能も新たに解った。このように、Non-GLP製剤は奈良医大で定常的に製造できる体制となり、これをもとに先見的な動物投与試験を実施し、安全性・有効性を実証している。実施企業への円滑な技術移転・GLP/GMP製造、非臨床/臨床試験の移行に備えている。
公開日・更新日
公開日
2015-03-03
更新日
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