重症低ホスファターゼ症に対する骨髄移植併用同種間葉系幹細胞移植

文献情報

文献番号
201306003A
報告書区分
総括
研究課題名
重症低ホスファターゼ症に対する骨髄移植併用同種間葉系幹細胞移植
課題番号
H23-再生-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
竹谷 健(島根大学医学部附属病院 輸血部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 福田 誠司(島根大学 医学部)
  • 弓場 俊輔(産業技術総合研究所 健康工学研究部門)
  • 大串 始(産業技術総合研究所 健康工学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
21,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 低ホスファターゼ症(HPP)はALPが生まれつき働かないことで正常な骨形成が障害される常染色体優性遺伝性疾患である。特に、生後6か月以内に発症した場合、重篤な骨形成障害により、全身の骨が徐々に菲薄化・消失して、呼吸不全などで乳幼児期に死亡する。これまで、本疾患に対しては有効な治療法がなかった。しかし、この患者に、健常人の骨髄および骨、骨をつくる骨芽細胞や骨芽細胞に分化する間葉系幹細胞(MSC)を移植することによりその提供者の細胞が患者の骨に到達して骨を作り、患者が救命されたことが報告されている。このことから、我々は2004年に当該疾患の患者に骨髄、MSCならびに産業技術総合研究所(産総研)が独自に開発した培養骨の移植を行い、救命することができた経験を持つ。しかし、まだその方法や効果は確立していない。したがって、重症の致死的なHPPの患者を救命するために、骨髄移植(BMT)を行った後、繰り返し間葉系幹細胞移植(MSCT)を行う臨床研究を行った。
研究方法
 致死的なHPPの診断後、ALPが正常なドナーから骨髄を提供していただき、まず患者に骨髄移植を行う。次に、採取された骨髄の一部を用いて産総研で培養増殖したMSCを、患者に移植する。その後、症状および骨の状態などをみながら、繰り返しMSCTを行った。評価項目として、生存率、臨床症状、骨の石灰化および有害事象とした。
 MSCは、島根大学で採取された骨髄を産総研に搬送し、セルプロセッシングセンターで培養した。培養は牛胎児血清を含んでいる液体培地に採取した骨髄を混和し、培養容器を用いて炭酸ガス培養器内で行った。培養期間および継代回数は安全性を考え、1ヶ月以内で継代回数3回までとした。移植当日にMSCを剥離し、PBSに浮遊させた状態で島根大学へ搬送した。移植細胞の安全性は、ドナーのウイルス試験を行い、培養中の無菌検査、マイコプラズマ検査、エンドトキシン検査で確認した。
 また、病態解明のために疾患特異的iPS細胞の樹立を試みた。
結果と考察
 これまで2症例について、主目的である3年生存率は達成できた。臨床症状について、呼吸機能の改善は、MSCT以降は原病の合併症である気管れん縮が起こらないこと、移植により呼吸状態が安定することから、MSCTが呼吸障害の改善に寄与していることが示唆された。しかし、呼吸器からの離脱ができていないこと、気管れん縮が再燃していることから、永続的な効果を得るには至っていない可能性がある。身体発育に関して、間葉系幹細胞移植の回数に関係なく、2歳過ぎてから身長と体重の伸びが停滞していることから、原疾患の症状をこの治療で完全にコントロールすることは困難であるかもしれない。中枢神経合併症である、精神発達遅滞や難聴などは徐々に改善はしているが、年齢相当までは回復していないため、今後注意深い観察が必要である。
 骨の石灰化に関して、どちらの症例もMSCTにより骨の石灰化が改善していたが、移植前の骨の状態によりその改善度が影響する可能性が示唆された。また、どちらの症例ともに骨密度や筋肉量は保たれているが、正常な骨構造に達しておらず、骨面積が低下しているため、今後、慎重な経過観察が必要である。
有害事象に関して、BMTの合併症は予想範囲内であったが、免疫抑制剤抵抗性GVHDはMSCが有効であった。MSCTの有害事象は認めていないため、乳幼児にも安全に行えることが明らかとなった。しかし、どちらの症例においても甲状腺機能低下症およびてんかんを発症した。これが疾患特異的有害事象なのか、現在のプロトコールの有害事象なのか、慎重に判断する必要がある。
なお、患者由来の皮膚繊維芽細胞からiPS細胞を樹立することに成功した。
結論
 致死的で治療法のない重症HPPに関して、BMT併用同種MSCTが骨の石灰化を改善することにより生命予後を改善できることが示唆された。また、この治療により生じた有害事象も対応可能なものであった。しかし、正常な骨構造に到達していないため、根治療法の確立のために、この疾患の病態解明だけでなく、最適なMSCTの確立、MSCの細胞特性(遊走能、増殖能、免疫寛容効果)の向上を行う必要がある。根治療法が確立した場合、生命予後の改善に寄与し、患者およびその家族のQOL・ADLの向上にもつながる。さらに、治療法がない類似疾患や、酵素補充療法しか治療がない他の代謝疾患に対する治療へも応用できる可能性があるため、医療費や社会福祉費の負担軽減にもつながると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

文献情報

文献番号
201306003B
報告書区分
総合
研究課題名
重症低ホスファターゼ症に対する骨髄移植併用同種間葉系幹細胞移植
課題番号
H23-再生-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
竹谷 健(島根大学医学部附属病院 輸血部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 福田 誠司(島根大学 医学部)
  • 弓場 俊輔(産業技術総合研究所 健康工学研究部門)
  • 大串 始(産業技術総合研究所 健康工学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 先天性骨系統疾患は確立した治療法がなく、致死的な経過をとるか、著しく日常生活が障害されることが多い。この疾患の病因として、骨芽細胞の起源である間葉系幹細胞(MSC)からの骨化に至るまでの経路が障害されているため、骨化能が正常のMSCによる骨再生医療は有望な細胞治療と考えられる。低ホスファターゼ症(HPP)は、骨の石灰化障害を来たす疾患で、周産期および乳児期に発症した多くの症例は致死的な経過をとる。今回、我々はMSCが骨芽細胞に分化して骨の石灰化が回復し救命することを目的として、致死的HPPに対して、同種骨髄移植(BMT)を行った後、同じドナーからの間葉系幹細胞を移植(MSCT)する臨床研究を行った。
研究方法
 致死的なHPPの診断後、ALPが正常なドナーから骨髄を提供していただき、まず患者にBMTを行う。次に、採取された骨髄の一部を用いて産総研で培養・増殖したMSCを、患者に移植する。その後、症状および骨の状態などをみながら、MSCTを繰り返し行う。評価項目として、主要評価項目は3年生存率、副次的評価項目は、臨床症状、骨の石灰化および有害事象とした。
 MSCは、島根大学で採取された骨髄を産総研に搬送し、セルプロセッシングセンターで、胎児牛血清を含んでいる液体培地に採取した骨髄を混和して培養した。培養期間および継代回数は安全性を考え、1ヶ月以内で継代回数3回までとした。移植当日にMSCを剥離し、PBSに浮遊させた状態で島根大学へ搬送した。
 基礎的研究として、疾患モデルマウスの作成、血液細胞およびMSCのキメリズム解析、Microarray法を用いたMSCおよび骨芽細胞の網羅的遺伝子発現、TNSALP遺伝子変異体の機能解析、疾患特異的iPS細胞の樹立を行った。
 さらに、当該臨床研究を適切かつ順調に遂行するために、外部評価委員会を開催した。また、当該臨床研究に参加した患者さんのご家族にアンケート調査を行った。
結果と考察
 主要評価項目である3年生存率は達成できた。呼吸機能について、MSCTにより呼吸状態が安定したが、呼吸器からの離脱ができていないこと、気管れん縮が再燃している。身体発育に関して、MSCTの回数に関係なく、2歳過ぎてから身長と体重の伸びが停滞している。中枢神経合併症である、精神発達遅滞や難聴は徐々に回復しているが、年齢相当までは回復していない。
 骨の石灰化に関して、MSCTにより骨の石灰化が改善した。また、骨密度や筋肉量は保たれているが、正常な骨構造に達していない。
 有害事象に関して、BMTの合併症は予想範囲内であったが、免疫抑制剤抵抗性GVHDはMSCが有効であった。MSCの有害事象は認めていない。 
 基礎研究において、以下の結果が得られた。
1.疾患モデルマウス;骨形成についての形態学的解析では、ホモ接合体のみならず、ヘテロ接合体にも異常が疑われた。
2.キメリズム解析;ドナー由来造血細胞の生着を確認したとともに、ドナー由来MSCが頻度は少ないが生着していた。
3. 病態の解明;MSCおよび骨芽細胞の遺伝子発現において、正常と患者で異なる遺伝子発現パターンを示す遺伝子群は、骨代謝に関わる遺伝子だけでなく細胞内伝達、炎症、細胞接着に関わる遺伝子、中枢神経系や肺の形成に関わる遺伝子も変動していた。また、TNSALP遺伝子変異解析では、疾患の重症度とALP活性が比例することが明らかとなった。さらに、患者の皮膚線維芽細胞に5つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, Nanog, Lin28)を導入してiPS細胞を樹立することに成功した。
 また、臨床研究に対する外部評価委員会を置くことで、現在のプロトコールを改善し適切にかつ科学的根拠に基づいた臨床研究を行うことができ、また、現在の問題点に対する方策を明らかにすることができた。現治療では根治療法になり得ない可能性が高いため、細胞治療による根治療法を確立するために、MSCの細胞特性を向上させた(骨への遊走能、増殖能、免疫寛容効果に優れた)MSCの分離培養方法の確立および最適なMSCT(骨髄移植、髄腔内投与、臍帯血移植および臍帯由来MSCなど)の樹立を行う必要がある。また、臨床研究に参加して頂いた家族にアンケート調査を行うことで、患者の目線からこの臨床研究を評価されることによって、真の意味で目指すべき当該臨床研究の目標が明らかとなった。
結論
 本研究によって、BMT併用同種MSCTは安全に行うことができ、骨形成に寄与し、生命予後だけでなく患者およびその家族のQOL・ADLの改善につながることが明らかとなった。しかし、正常の骨構造には到達していないため、今後、根治療法に向けた更なるtranslational researchが必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201306003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全身骨が障害されている低ホスファターゼ症の細胞治療は、局所投与では不十分なため、経静脈的全身投与により正常な間葉系幹細胞へ置換され、長期に生着する必要があるが、骨髄移植併用同種間葉系幹細胞移植により、ドナーの間葉系幹細胞が生着して骨の石灰化が回復していることから、他の先天性骨系統疾患への応用が期待される。この治療は国内では我々の試みだけであり、再生医療そのものの新たな基盤技術へ発展する。
臨床的観点からの成果
重症低ホスファターゼ症に対して、骨髄移植を行った後、間葉系幹細胞移植を繰り返し投与することによって、骨の石灰化が回復して、呼吸状態は安定して、主目的である、3年生存を達成できた。骨髄移植の副作用である、移植片対宿主病に対して間葉系幹細胞が有効であった。また、間葉系幹細胞移植の有害事象は生じていない。よって、骨髄移植併用同種間葉系幹細胞移植は、乳幼児でも安全に行うことができる、骨の石灰化を回復させることにより生命予後を改善できる治療法である。
ガイドライン等の開発
この治療法は、島根大学および産業技術総合研究所の倫理委員会の承認を受けた後、厚生労働省・「ヒト幹細胞に用いる臨床研究に関する指針」において平成22年6月21日に厚生労働大臣の認可を得てから、行った。
その他行政的観点からの成果
致死的で治療法のない重症低ホスファターゼ症に関して、骨髄移植併用同種間葉系幹細胞移植が骨の石灰化を改善することにより生命予後を改善できることにより、患者およびその家族のQOL・ADLの向上だけでなく社会への貢献にもつながった。また、病院から在宅への移行が可能となっているため、医療費や社会福祉費の負担軽減にもつながった。
その他のインパクト
再生医療学会、国際骨代謝学会などでの講演を行うことができた。患者の目線から、この治療への効果がマスコミに取り上げられた。治療法がない類似疾患や、酵素補充療法しか治療がない他の代謝疾患に対する治療へも応用できる可能性が示唆された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Taketani T, Onigata K, Kobayashi H, et al.
Clinical and genetic aspects of hypophosphatasia in Japanese patients.
Arch Dis Child , 99 (3) , 211-215  (2014)
10.1136/archdischild-2013-305037
原著論文2
Taketani T, Kanai R, Abe M, et al.
Therapy-related Ph+ leukemia after both bone marrow and mesenchymal stem cell transplantationfor hypophosphatasia
Pediatr Int , 55 (3) , e52-e55  (2013)
10.1111/ped.12012
原著論文3
弓場俊輔,竹谷健
間葉系幹細胞を用いた先天性骨代謝疾患の治療
血液フロンティア , 23 (4) , 487-493  (2013)
原著論文4
Taketani T, Oyama C, Mihara A, et al.
Ex Vivo Expanded Allogeneic Mesenchymal Stem Cells With Bone Marrow Transplantation Improved Osteogenesis in Infants With Severe Hypophosphatasia.
Cell Transplant. , 24 (10) , 1931-1943  (2015)
10.3727/096368914X685410

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-05-21

収支報告書

文献番号
201306003Z