幹細胞による次世代の低侵襲軟骨再生治療の開発と臨床応用

文献情報

文献番号
201306001A
報告書区分
総括
研究課題名
幹細胞による次世代の低侵襲軟骨再生治療の開発と臨床応用
課題番号
H23-再生-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
関矢 一郎(東京医科歯科大学 再生医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宗田 大(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 運動器外科学)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学  大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学)
  • 清水 則夫(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 ウイルス治療学)
  • 赤澤 智宏(東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科 分子生命情報解析学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
滑膜幹細胞を集合体に形成することにより移植の操作性および細胞の接着性が向上し、軟骨への分化も良好であることをウサギを用いた研究で確認している。平成25年度は、大動物のマイクロミニピッグで、滑膜幹細胞集合体の有効性を検証することを目的とした。感染症検査システムとして、ウイルス・マイコプラズマを検出するTMDU法を開発した。平成25年度は、マイコプラズマ検査系の感度を検証するバリデーション試験の実施、ウイルス検査系の自動化を目的とした。変異細胞評価システムとして、リン酸化ATM,p53の免疫組織染色、DNA修復応答系AIDの定量、腫瘍化前段階を検出する系としてメチル化p16の定量系を確立した。平成25年度は、滑膜幹細胞および集合体22検体で変異細胞評価をすることを目的とした。組織採取の侵襲やin vitroにおける継代培養の限界のない次世代の軟骨再生治療を目標として、平成25年度は軟骨誘導に適したiPS細胞のスクリーニング、iPS細胞の集合体をラット軟骨欠損部に移植し、移植組織における軟骨分化マーカー等の解析、軟骨再生を検証することを目的とした。
研究方法
1. 大動物を用いた軟骨再生研究
マイクロミニピッグの滑膜より間葉系幹細胞を分離・培養し、hanging drop法で約1mmの集合体(2.5×105 cells/個)を作製した。膝蓋大腿関節の大腿骨側と大腿骨内顆に6×6×1.5mmの軟骨欠損を作製し、自家滑膜幹細胞集合体を16個ずつ移植し、4週後に肉眼的、組織学的解析を行った。また、GFP発現ピッグの滑膜幹細胞集合体を同種移植し、移植後の細胞動態を解析した。
2. 感染症検査システムの検討
日本・欧州・米国の3極薬局方記載の9種類を含む17種類のマイコプラズマをTMDU法にて定量して検出感度を調べた。また、現在汎用されているマイコプラズマ検出キットMycoSEQとTMDU法の比較試験を行った。さらに、13種のウイルスを添加した測定用サンプルからQIAsymphonyでDNAを自動抽出し、TMDU法にてウイルスを定量した。
3. 変異細胞評価システムの検討
滑膜間葉系幹細胞22検体より核酸を抽出し、リアルタイムPCRにてメチル化p16およびAIDを定量した。また、リン酸化ATM,p53の免疫組織染色を行った。
4. iPS細胞での検討
3種のiPS細胞株(A株:MEF由来Nanog GFP/SOX10DsRed-iPSCs, B株:MEF由来Nanog GFP-iPSCs, C株:MEF由来Oct GFP-iPSCs)をペレット培養法によりin vitroで軟骨に分化誘導し、軟骨分化しやすい株を選別した。また、選別したiPS細胞の集合体を作製しラット軟骨欠損部へ移植し、4週後に組織学的解析、遺伝子発現解析を行った。
結果と考察
1. 大動物を用いた軟骨再生研究
移植4週後の肉眼的、組織学的解析の結果、マイクロミニピッグにおいても良好な軟骨の再生が確認できた。今後ヒトへの臨床応用が期待できる。
2. 感染症検査システムの検討
TMDU法は17種類全てのマイコプラズマを5cfu/reactionの感度で検出できた。感度・直線性・特異性に関しては、TMDU法は汎用されているマイコプラズマキットMycoSEQと同等であったが、MycoSEQで見られる偽陽性反応がなく結果の解釈がより簡便であった。また、13種全てのウイルスを10copies/reactionの感度で自動測定が可能であり、10〜104コピーの範囲で直線性のある定量データが得られ、実用化するために十分な性能を持つことが示唆された。
3. 変異細胞評価システムの検討
 滑膜間葉系幹細胞22検体すべてでメチル化P16は陰性、AIDも陰性(1例では検出感度以下の弱陽性)であった。
4. iPS細胞での検討
 3種類のiPS細胞株のうちB株が最も軟骨に分化しやすかった。iPS細胞を集合体にすることによりNanog遺伝子の発現は低下した。iPS細胞B株の集合体をラット軟骨欠損部に移植すると、滑膜幹細胞集合体と同様に良好な軟骨の再生が確認できた。移植組織ではCol2a1,Sox9,Aggrecan遺伝子発現の上昇、Nanog遺伝子発現の低下が確認できた。
結論
滑膜幹細胞集合体は移植操作が容易で、ピッグにおいても軟骨再生に有効であった。確立した変異細胞評価システムで滑膜幹細胞22検体を検証した結果、DNA損傷は最小限であり、明らかな腫瘍化の徴候も認められなかった。TMDU法は17種類のマイコプラズマを5cfu/reactionの感度で検出可能であり、QIAsymphonyの導入により自動検査が可能であった。軟骨分化しやすいiPS細胞を軟骨欠損部に移植することにより、次世代の軟骨再生治療も可能である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

文献情報

文献番号
201306001B
報告書区分
総合
研究課題名
幹細胞による次世代の低侵襲軟骨再生治療の開発と臨床応用
課題番号
H23-再生-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
関矢 一郎(東京医科歯科大学 再生医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膝関節の軟骨欠損に対して滑膜由来間葉系幹細胞を欠損部に滴下、10分間静置することにより細胞を接着させ、欠損部の軟骨再生を促進させる再生医療を実施している。本研究では、移植の操作性および細胞の接着性を向上させるため、滑膜幹細胞を集合体に形成して移植する方法を検討する。また、移植に用いる細胞の品質管理・品質保証系を確立するために、感染症検査システム、変異細胞評価システムを確立し、臨床検体および培養細胞で検査し結果を蓄積する。さらに、組織採取の侵襲やin vitroにおける継代培養の限界など、体性幹細胞を用いた軟骨再生治療の問題点を解決するため、iPS細胞を用いた次世代の軟骨再生治療の可能性を検討する。
研究方法
1. 滑膜幹細胞集合体による軟骨再生研究
滑膜幹細胞浮遊液の欠点である、細胞を肉眼的に観察できない、細胞が軟骨欠損部に沈むまでに時間がかかるという問題点を解決するために、滑膜幹細胞をhanging drop法で約1mmの集合体(2.5×105 cells/個)とし、移植の操作性および細胞の接着性を向上させることを検討した。集合体の特性解析として、軟骨分化関連遺伝子等の発現を調べた。また、ウサギおよびマイクロミニピッグの膝軟骨欠損に集合体を移植し、欠損部の軟骨再生が促進されるかを確認する前臨床研究を実施した。
2. 感染症検査システムの検討
17種類のウイルス(HSV1, HSV2, CMV, VZV, EBV, HHV-6, HHV-7, HHV-8, BKV, JCV, HBV,ParvoB19, HTLV-1, -2, HIV-1, -2, HCV)および、日本・欧州・米国の3極薬局方記載の9種類を含む17種類のマイコプラズマを、マルチプレックスPCRにより簡便で短時間に検出するシステム: TMDU法の検出感度、特異性(交差反応性)を検討した。
3. 変異細胞評価システムの検討
腫瘍化前段階を検出する系として、p16メチル化陽性(U2OS)およびメチル化陰性(SaOS2)ヒト骨肉腫細胞からDNAを抽出し、リアルタイムPCRにてメチル化断片を定量する系を確立した。DNA損傷刺激後のATM, p53のリン酸化を免疫染色で検出する系を確立した。また、DNA損傷刺激後の修復応答としてのAIDの誘導をリアルタイムPCRにて定量する系を確立した。
4. iPS細胞での検討
iPS細胞から軟骨細胞への分化プロセスを可視化するために、ColⅡプロモーターにmCherryレポーターを挿入したプラスミドをNanog-GFP iPS細胞にトランスフェクションし、薬剤セレクションにより耐性クローンを分離した。分離したiPS細胞株をペレット培養法によりin vitroで軟骨に分化誘導し、軟骨分化しやすい株を選別した。また、選別したiPS細胞の集合体をラット軟骨欠損部へ移植し、欠損部の軟骨再生が促進されるかを確認した。
結果と考察
1. 滑膜幹細胞集合体による軟骨再生研究
集合体にすることにより移植の操作性が向上した。集合体は浮遊液に比べ、BMP2, Sox5,6,9などの軟骨分化関連遺伝子や、TSG6, STC1などの抗炎症遺伝子の発現が上昇していた。ウサギの軟骨欠損に集合体を移植したところ、10個/25mm2の低密度で移植した群で良好な軟骨再生が確認できた。大動物のマイクロミニピッグでも良好な軟骨の再生が確認できた。これらの前臨床研究の結果、ヒトへの臨床応用が期待できる。
2. 感染症検査システムの検討
TMDU法は全てのウイルスを50copies/reactionの感度で、全てのマイコプラズマを5cfu/reactionの感度で検出できた。特異性の点でも良好であった。臨床検体58検体を検査した結果、滑膜3検体、骨髄5検体、骨組織3検体からEBV、ParvoB19が検出されたが、滑膜幹細胞およびその集合体からはウイルスは検出されず、マイコプラズマに関しては全て陰性だった。
3. 変異細胞評価システムの検討
 滑膜間葉系幹細胞22検体すべてでメチル化P16は陰性、AIDも陰性(1例では検出感度以下の弱陽性)であった。
4. iPS細胞での検討
 未分化な状態で緑、軟骨分化に伴って赤くなるiPS細胞株を樹立した。最も軟骨に分化しやすかったB株: MEF由来Nanog GFP-iPSCsの集合体をラット軟骨欠損部に移植すると、滑膜幹細胞集合体と同様に良好な軟骨の再生が確認できた。
結論
滑膜幹細胞集合体は移植操作が容易で、ウサギ、ピッグにおいて軟骨再生に有効であった。ウイルス・マイコプラズマ検査のTMDU法、メチル化P16、AID定量による品質管理を確立できた。軟骨分化しやすいiPS細胞を軟骨欠損部に移植することにより、次世代の軟骨再生治療も可能であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201306001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 滑膜幹細胞を集合体にすることにより、移植の操作性や細胞の接着性が向上し、ウサギおよびマイクロミニピッグを用いた前臨床試験で良好な軟骨再生が確認できた。再生医療製品の安全性を評価する方法を確立し、臨床検体および滑膜幹細胞を検証した結果、滑膜・骨髄液・血液のウイルス・マイコプラズマ検査ではPVB19, EBV, VZVが検出される例があったが、培養中にウイルスは増殖しないことが確認できた。軟骨再生に適したiPS細胞をスクリーニングし移植することにより、iPS細胞による軟骨再生医療も視野に入った。
臨床的観点からの成果
軟骨欠損に適用される自家培養軟骨細胞は、正常軟骨を採取する点、切開手術で骨膜被覆を要し手術侵襲が小さくない点で改善の余地がある。これに対し、滑膜幹細胞およびその集合体移植は、正常軟骨を犠牲にすることなく、手術も関節鏡視下で行える低侵襲なものであり、本研究で実施した前臨床試験で軟骨再生の有効性も確認できた。軟骨再生の新たな治療法として期待できる。
ガイドライン等の開発
 研究代表者の関矢は、経産省の「医療機器等の開発・実用化促進のためのガイドライン策定事業」平成24年度再生医療分野(組織[軟骨]再生における性能評価技術)開発WG委員であり、第1回開発WG委員会(平成24年11月29日開催)および第2回開発WG委員会(平成24年12月20日開催)において、品質管理・非臨床評価、参考資料とする臨床評価に関して討議し、軟骨再生の性能評価技術の開発ガイドラインの策定に関与した。
その他行政的観点からの成果
 分担研究者の森尾は、厚生労働省の科学技術部会ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会審議会の委員として、ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の改正案策定に関与した。
その他のインパクト
 滑膜幹細胞で膝関節軟骨を修復する再生医療は、軟骨再生の新たな治療法としてメディアでも紹介された。平成23年3月4日の読売新聞医療ルネサンス「欠けた軟骨 幹細胞で修復」、平成25年8月19日の読売新聞医療ルネサンス「進む再生医療・軟骨(2)膝に幹細胞 年単位で治療」等の記事で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
48件
その他論文(和文)
22件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
84件
学会発表(国際学会等)
67件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
19件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki S, Muneta T, Tsuji K et al.
Properties and usefulness of aggregates of synovial mesenchymal stem cells as a source for cartilage regeneration.
Arthritis Research & Therapy , 14 , 136-148  (2012)
原著論文2
Nakamura T, Sekiya I, Muneta T et al.
Arthroscopic, histological and MRI analyses of cartilage repair after a minimally invasive method of transplantation of allogeneic synovial mesenchymal stromal cells into cartilage defects in pigs.
Cytotherapy , 14 , 327-338  (2012)
原著論文3
Ichinose S, Tagami M, Muneta T et al.
Comparative sequential morphological analyses during in vitro chondrogenesis and osteogenesis of mesenchymal stem cells embedded in collagen gels.
Med Mol Morphol , 46 , 24-33  (2013)
原著論文4
清水則夫
細胞治療のウイルス安全性確保に関する取り組み
医薬品の品質管理とウイルス安全性(文光堂) , 102-111  (2011)
原著論文5
清水則夫
病原微生物の網羅的検出法の開発と応用
医薬品の品質管理とウイルス安全性(文光堂) , 287-294  (2011)
原著論文6
関矢一郎, 宗田 大
滑膜間葉幹細胞を使った軟骨再生
再生医療叢書 第6巻 骨格系(朝倉書店) , 38-51  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201306001Z