網羅的統合オミックス解析を用いた難病の原因究明と新規診断・治療法の確立

文献情報

文献番号
201238002A
報告書区分
総括
研究課題名
網羅的統合オミックス解析を用いた難病の原因究明と新規診断・治療法の確立
課題番号
H23-実用化(難病)-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松田 文彦(京都大学 大学院医学研究科附属ゲノム医学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 亮(京都大学 大学院医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 田原 康玄(京都大学 大学院医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 川口 喬久(京都大学 大学院医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 寺尾 知可史(京都大学 大学院医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 佐藤 孝明(島津製作所 基盤技術研究所 ライフサイエンス研究所)
  • 松原 謙一(DNAチップ研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(難病関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
153,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 難病の原因解明や診断・治療法の確立には、ゲノム解析だけではなく、生体内の分子の統合解析が必須である。本課題ではゲノム、代謝物、転写物の網羅的解析を組み合わせた、極めて独創性の高い統合オミックス解析を実施し、疾患の予知、診断、予後予測に加え、治療法の開発や創薬のための情報の統合をおこなう。
研究方法
 事業の二年目である本年度は、各疾患患者の解析を開始した。IgG4関連疾患、混合性結合組織病を含む肺高血圧症、HTLV-1関連脊髄症(HAM)を対象疾患として既存の検体に加え新たにDNA検体の収集を行った。またオミックス解析については、IgG4関連疾患のうち自己免疫性膵炎(AIP)、慢性血栓閉栓性肺高血圧症(CETPH)について治療介入前後の血液検体の時系列での収集を実施した。
 得られたDNA検体は、SNPアレイによるゲノムスキャンをおこない、対照群の結果と比較して、疾患関連遺伝子の同定を試みた。また一部患者DNAのExome解析を実施し、疾患と関連する低頻度の遺伝的変異の同定を試みた。
 オミックス解析については、RNA抽出と発現アレイによる遺伝子発現解析に着手した。また患者血漿を用いたGC-MS法による網羅的代謝物の測定を開始した。
 解析で得られた膨大な生体分析情報の管理、解析のための情報基盤の整備にもつとめ、統合オミックスデータベースを構築した。また解析方法に関しても、GC-MSやFACSの生データを数学的手法によって処理するという、全く新しい手法を導入した。
結果と考察
 本年度は、疾患患者の生体試料の集積と、それを用いた網羅的ゲノム解析を中心に研究を進めた。以下のように、ゲノムスキャン法によって疾患の発症と関連する遺伝子領域が同定された。また、次世代塩基配列決定装置を用いた解析も開始し、HAMにおいては複数の患者に共有される疾患特異的な遺伝子変異の候補が見出されており、さらに検体数を増やして検証を実施している。また、こういった疾患研究の実施基盤として必要不可欠なデータベースの整備、臨床情報登録システムの構築や、統計遺伝学的解析法の開発も順調に進んだ。
【疾患関連遺伝子の探索】
IgG4関連疾患:解析プロトコールに則って患者572例のDNA検体を収集し、まずはAIPの240検体のゲノムスキャンを実施した。対照群3,659検体との関連解析を実施した結果、染色体4番、染色体8番に疾患と関連するゲノム多型が同定された。
肺高血圧症:解析プロトコールに則って患者461例からDNA検体を収集し、356検体にゲノムスキャンを実施し、対照群3,659検体との関連解析で関連領域を3ヵ所同定した。
HTLV-1関連疾患: HAM 454例、ATL 454例、キャリア502例からのDNA検体を収集した。(HAM vs. ATL+キャリア)の関連解析から、2番染色体にHAMと関連するSNPが観察された。他にも、3番染色体と20番染色体に有意なSNPが見出された。
【生体試料の分析・解析】
血漿中の低分子代謝物のGC-MSによる網羅的解析に向けて条件検討を進め、対照群の血漿2,086検体について、GC-MSのスキャンデータを取得し、計119成分の定量解析を行った。また、発現アレイを用いた末梢血RNAの網羅的解析を進め、時系列で収集された遺伝子発現情報の解析手法を確立した。
【統計遺伝学的解析】
網羅的転写物解析データの解析ルーチンの環境整備を行った。また、網羅的代謝物とFACSのデータについては、多次元データの減次元化・機械学習・多様体推定の手法を試験的に適用し、そのパフォーマンスを先行研究とともに検討した。
【バイオインフォマティクス】
ゲノム、転写物、代謝物、FACSの解析データに関して、データ型に応じた正規化、二変数関連解析パイプラインを構築した。臨床情報に関しては、複数の医療機関からの臨床情報を適切に収集するためのWebインタフェースや、検体の二次匿名化を行うための情報基盤を構築した。
結論
 事業は、当初の研究計画に沿って非常に順調に進捗している。本年度は、高い解析能力と豊富な情報基盤を生かして、疾患の患者検体を用いた網羅的ゲノム解析を推進し、疾患関連遺伝子領域を多く見出している。次年度はさらに検体数を増やした解析により、疾患と関連するゲノム変異や疾患の病態・予後と関連するバイオマーカーの同定を目指して研究を推進する。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201238002Z