自然免疫細胞リモデリングによるウイルス性肝炎の新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201227009A
報告書区分
総括
研究課題名
自然免疫細胞リモデリングによるウイルス性肝炎の新規治療法の開発
課題番号
H22-肝炎-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大段 秀樹(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 今村 道雄(広島大学病院 消化器・代謝内科)
  • 田原 栄俊(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 田中 純子(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 立野 知世(株式会社 フェニックスバイオ)
  • 伊藤 敬(長崎大学 医歯薬学総合研究科)
  • 渕本 康史(国立成育医療研究センター 臓器・運動器病態外科)
  • 田中 友加(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
21,880,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、自然免疫細胞による抗HCV治療効率を高める目的で、様々な細胞からNK/NKT細胞を効率的に誘導する技術を開発する。本年度は、HCV患者における抗ウイルス効果に関連するNK細胞の受容体および機能関連分子の表出、およびNK細胞療法やIFN治療効果とIL28BSNPとの関連を解析した。また、骨髄CD34+細胞やiPS細胞からNK細胞誘導の確立と改善を行い、HCV感染ヒト肝キメラマウスを用いたin vivo実験を行った。
研究方法
 自然免疫を担うNK細胞の受容体には、活性型であるNCRと、活性型と抑制型の両者が存在するclass Ⅰ受容体のKIRとNKG2familyがあるが、それぞれの表出強度に依存して抗ウイルスを発揮する。また、FasLやTRAILなどアポトーシス誘導分子の表出の程度も抗腫瘍活性と深く関わる。今年度はこれらの受容体およびNK機能関連分子に関して、肝移植施行患者を対象にフローサイトメトリーを用いて網羅的に解析した。
 また、NK細胞療法を受けた細胞レシピエントのIL28B遺伝子多型と生体肝移植後のHCV再感染に対するPEG-IFN/ribavirin併用療法の治療効果あるいはNK細胞移入後のHCV量との関連を解析した。
また、細胞療法を行う上で、必要なタイミングに十分なNK細胞を供給できるよう、CD34+血液幹細胞やiPS細胞からNK細胞をリモデリングする方法の開発を目指した。iPS細胞からの誘導は、臨床応用に向けた外来遺伝子挿入のないiPS細胞の樹立に向けた条件検討と、完全合成培地によるフィーダーを用いないiPS細胞の培養系の確立を行った。また、HCV感染ヒト肝キメラマウスを用いて、新規HCV感染予防剤として期待されるエゼチミブの感染抑制評価とリモデリングNK細胞移入による感染抑制能評価を行った。
結果と考察
 NK細胞では、有意な表出パターンを示す2つの受容体が抽出された。まず、IFN-γ産生能と深く関連する事が知られているNCR familyのNKp46は、末梢血レベルでは正常肝移植ドナーと移植を必要とするHCV感染患者で差を認めないが、肝局所のNK細胞では優位な表出の低下が認められ、Child-Pugh Cではさらなるdown-regulationが確認された。そしてMICA、MICBなどのMHCクラスI様蛋白質を認識して活性を促進するNKG2Dは、IFNαによる抗HCV効果を仲介することが知られているが、肝内在NK細胞の表出はHCV患者では健常ドナーに比べ有意に低下していた。さらに、広島大学での第I/II相試験では、ミラノ基準外肝癌症例で、NK細胞施行例では、同時期に施行した非施行例に比べ有意な無再発生存率の改善を認めた(p<0.05)。HCV感染例においては、IL-28 SNP Major症例において、HCV-RNAの上昇が有意に抑制され、NK細胞療法のレスポンダーであることが確認できたが、その効果は再感染を予防するレベルには至らなかった。次に、肝移植後のHCV再感染に対するPEG-IFN/RBVのSVR率で検討すると、レシピエント・ドナーともIL-28 SNP Major症例で有意な高SVR率を認めた。骨髄CD34+細胞からNK細胞誘導効率は、適切なタイミングで4種類のサイトカイン(Flt3-L, SCF, IL-15, IL-7)を添加培養後、培養最終段階の4週間後にIL-12とIL-18を同時に添加することで、NK細胞にNKG2DやKNp46やTRAILが表出し、かつIFN-γ産生能が亢進することを確認し、HCVレプリコン含有肝癌細胞株を標的とした培養実験では、CD34+幹細胞由来のNK細胞に強い抗HCV増幅抑制効果を観察できた。iPS細胞からの誘導では、培養14日にCD34+造血幹細胞分画が、32日にはNK細胞分画が確認されたが、誘導効率の改善を必要とした。  HCV感染ヒト肝キメラマウスを用いたエゼチミブの感染予防評価では、HCV感染前からの薬剤経口投与により、非投与群に比べ有意な感染阻害効果が得られた。CD34+幹細胞由来のリモデリングNK細胞を用いたin vivo HCV感染抑制実験では、有意なHCV感染抑制能が得られた。
結論
 HCV感染患者の肝NK細胞の活性化型受容体NCRとclass I受容体のKIRとNKG2 familyの表出を解析し、肝移植後NK細胞療法の抗HCV効果とIL28B遺伝子多型の関連を解析した。また、骨髄CD34+細胞およびiPS細胞からNK細胞誘導効率を改善した。CD34+幹細胞から誘導したNK細胞のin vivoおよびin vitroでのHCV複製抑制効果を得た。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201227009B
報告書区分
総合
研究課題名
自然免疫細胞リモデリングによるウイルス性肝炎の新規治療法の開発
課題番号
H22-肝炎-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大段 秀樹(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 茶山 一彰(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 今村 道雄(広島大学病院 消化器・代謝内科)
  • 田原 栄俊(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 田中 純子(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
  • 立野 知世(株式会社フェニックスバイオ)
  • 伊藤 敬(長崎大学医歯薬学総合研究科)
  • 渕本 康史(国立成育医療研究センター 臓器・運動器病態外科)
  • 田中 友加(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 一般に、ウイルスが感染するとNK細胞の非特異的応答によりウイルスは排除される。しかし、HCV感染ではHCVのE2蛋白とNK細胞上のCD81分子の結合によってNK細胞機能が抑制され、高頻度に持続感染に移行する。我々は、NK/NKT細胞をIL-2/抗CD3抗体存在下で培養した場合、CD81を介した抑制機構に抵抗性を示し、強いHCV複製抑制効果を誘導し得た。本研究は、末梢血造血幹細胞やiPS細胞から誘導したリモデリングNK/NKT細胞の移入療法により、HCVがE2蛋白/CD81結合によって自然免疫応答を巧妙に回避し持続感染に移行する機構を断ち切ることで、HCV肝炎の根治を図ることを目的とする。
研究方法
 研究内容は、末梢血成熟リンパ球、CD34+幹細胞、あるいは人工多機能幹(iPS)細胞から増殖性NK/NKT細胞を分化後にリモデリングして抗HCV活性を誘導することと、独自に開発したHCV感染ヒト肝細胞キメラマウスに移入し抗HCV効果を解析することに大別される。NK/NKT細胞リモデリング技術の開発については、各種サイトカインや増殖因子を含めた培養系の確立とフローサイトメトリーによる表面抗原と機能分子解析および、HCVレプリコン保持肝細胞株(Huh-7)を用いたHCV感染抑制能の評価を行った。iPS細胞からの誘導については、増殖能力を保持したNK細胞を分化誘導するためテロメラーゼ遺伝子(hTERT)導入-iPS細胞の樹立とフィーダー細胞を用いない培養系の確立をめざした。また、ヒト肝細胞キメラマウスを用いた抗HCV効果解析では、リモデリングNK/NKT細胞の抗HCV効果解析とIL28B遺伝子多型と肝内ISGs発現量の関連を検討し、さらに、臨床に類似したアニマルテスティングを目的としたヒト肝細胞/類洞内皮細胞キメラマウスの作製を実施した。臨床においてのリモデリング細胞療法との相乗的な抗HCV治療に対して、肝移植後のHCV再感染に対するPEG-IFN/RBV併用療法(PR)の治療成績とIL28B遺伝子多型の関連性解析とNK細胞の受容体および機能関連分子の解析を行った。またマイアミ大学で肝移植後NK細胞療法の臨床試験を開始した。
結果と考察
 ヒト末梢血由来および骨髄由来CD34+造血幹細胞から効率的なNK細胞の分化・誘導に成功し、フェノタイプおよび細胞傷害性マーカー(NKG2D, CD226,TRAIL等)の解析を終了し、抗HCV作用をin vitroアッセイで確認した。さらに、u-PA Transgenic/SCIDマウスにヒトの肝細胞を移植し、HCV RNA高値患者の血清を移入してHCV肝炎モデルを作製した。このアニマルモデルを用い、末梢血およびCD34+造血幹細胞から増殖したCD56+細胞が有意な抗HCV効果を発揮することを確認し、免疫細胞療法として今後臨床応用し得る可能性が示唆された。抗HCV効果の相乗効果を目的として、HCV感染阻害が期待できる新規の治療手段を検討するために、ヒト肝細胞キメラマウスを用いてIL28B遺伝子多型と肝内ISGs発現量の関連と新規薬剤(DNA polomerやNPC1L1拮抗薬Ezetimibe)によるHCV感染抑制能の検討を実施した。また、ヒト線維芽細胞由来iPS細胞からNK細胞への分化・誘導に成功した。臨床に類似したアニマルテスティングを目的に、ヒト肝細胞/類洞内皮細胞キメラマウスを作製した。肝移植後NK細胞療法の抗HCV効果とIL28B遺伝子多型の関連を解析した。HCV感染患者の肝NK細胞の活性化型受容体NCRとclass I受容体のKIRとNKG2 familyの表出を解析した。マイアミ大学での肝移植後NK細胞療法の実施症例数は現在まで13例で、全て無再発生存中で安全性が確認された。
結論
 本研究は、自然免疫細胞であるNK/NKT細胞による抗HCV治療効率を高める目的で、末梢血CD56+細胞、CD34+造血幹細胞あるいはiPS細胞から、NK/NKT細胞を効率的に誘導する技術を開発し、HCV複製抑制効果を確認した。今後、広島大学において、CD34+幹細胞から誘導したNK細胞移入療法の臨床試験を開始する予定である。さらに、iPS細胞からのCD56+NK細胞のリモデリング法を確立した。今後、臨床使用のためのiPS細胞由来NK細胞の誘導効率改善を図る。また、HCV感染阻害が期待できる新規の治療手段を検討してきたが、その中でDNA polymerやNPC1L1拮抗薬Ezetimibeなど有望なHCV感染阻害薬であることが検証された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201227009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
一般に、ウイルスが感染するとNK細胞の非特異的応答によりウイルスは排除される。しかし、HCV感染ではHCVのE2蛋白とNK細胞上のCD81分子の結合によってNK細胞機能が抑制され、高頻度に持続感染に移行する。我々は、NK/NKT細胞をIL-2/抗CD3抗体存在下で培養した場合、CD81を介した抑制機構に抵抗性を示し、強いHCV複製抑制効果を誘導し得た。本研究は、末梢血造血幹細胞やiPS細胞から誘導したリモデリングNK/NKT細胞の移入療法により、HCV肝炎を根治する可能性を示した。
臨床的観点からの成果
HCV性肝硬変は国内外において肝移植の最も頻度の高い適応疾患の一つであるが、移植後C型肝炎の再発が高率に起こり、また肝炎の進行も移植患者以外と比較すると急速である。免疫抑制療法がHCVの増勢を助長するためと理解されている。本研究は、現在使用されている免疫抑制剤に抵抗性を示すNK/NKT細胞を用いた養子免疫療法によるHCV感染の制御法を開発したものである。米国FDAの承認を得て、マイアミ大学で肝移植後NK細胞療法の臨床試験を開始した。
ガイドライン等の開発
HCV性肝硬変に対する肝移植後のアロ免疫応答と抗HCV応答のクロストーク機構を解析した結果、肝内に浸潤したアロ応答CD4T細胞から産生されるIL-2により、肝内在のNK/NKT細胞が活性化し、近傍のHCV感染肝細胞内でのHCV複製をIFN-γ依存性に抑制することが明らかとなった。この新知見に基づき、本研究では拒絶反応や組織障害を引き起こすことなくIFN-γ産生NK/NKT細胞を肝臓に誘導し、HCV肝炎を根絶し得る新規免疫細胞療法の開発を目指したもので、ガイドラインへの引用等は今後の課題である。
その他行政的観点からの成果
末梢血造血幹細胞やiPS細胞からリモデリングしたNK/NKT細胞の移入する免疫細胞療法が臨床導入できれば、HCV性肝硬変に対する肝移植後のHCV肝炎の再発予防が可能となる。行政的観点からの成果としては、研究期間中に開始した臨床試験の結果を待たなくてはならない。
その他のインパクト
肝細胞癌に対する肝移植後の再発予防治療として、NK細胞療法の臨床試験をマイアミ大学で開始したが、その1例目の成功をMiami Heraldに掲載された(2010/12/1)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanaka Y, Ohira M, Tashiro H, et al.
Impact of alloimmune T cell responses on hepatitis C virus replication in liver transplant recipients.
Hum Immunol. , 75 (12) , 1259-1267  (2014)
10.1016/j.humimm.2014.09.006.
原著論文2
Morimoto H, Ide K, Tanaka Y, et al.
Bile CXC motif chemokine 10 levels correlate with anti-donor cytotoxic T cell responses after liver transplantation.
Transplant Proc. , 46 (3) , 790-793  (2014)
10.1016/j.transproceed.2013.11.092.
原著論文3
Abe T, Onoe T, Tahara H, et al.
Risk factors for development of new-onset diabetes mellitus and progressive impairment of glucose metabolism after living-donor liver transplantation.
Transplant Proc. , 46 (3) , 865-869  (2014)
10.1016/j.transproceed.2013.12.027.
原著論文4
Banshodani M, Onoe T, Shishida M, et al.
Adoptive transfer of allogeneic liver sinusoidal endothelial cells specifically inhibits T-cell responses to cognate stimuli.
Cell Transplant. , 22 (9) , 1695-1708  (2013)
10.3727/096368912X657738.
原著論文5
Tanaka Y, Tashiro H, Onoe T, et al.
Optimization of immunosuppressive therapy based on a multiparametric mixed lymphocyte reaction assay reduces infectious complications and mortality in living donor liver transplant recipients.
Transplant Proc. , 44 (2) , 555-559  (2012)
10.1016/j.transproceed.2012.01.038.
原著論文6
Kajitani K, Tanaka Y, Arihiro K, et al.
Mechanistic analysis of the antitumor efficacy of human natural killer cells against breast cancer cells.
Breast Cancer Res Treat. , 134 (1) , 139-155  (2012)
10.1007/s10549-011-1944-x.
原著論文7
Doskali M, Tanaka Y, Ohira M, et al.
Possibility of adoptive immunotherapy with peripheral blood-derived CD3-;CD56+ and CD3+CD56+ cells for inducing antihepatocellular carcinoma and antihepatitis C virus activity.
J Immunother. , 34 (2) , 129-138  (2011)
10.1097/CJI.0b013e3182048c4e.

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
2018-03-20

収支報告書

文献番号
201227009Z