我が国における一類感染症の患者発生時に備えた診断・治療・予防等の臨床的対応及び積極的疫学調査に関する研究

文献情報

文献番号
201225028A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における一類感染症の患者発生時に備えた診断・治療・予防等の臨床的対応及び積極的疫学調査に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 康幸(独立行政法人国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室)
研究分担者(所属機関)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 森川 茂(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 中島 一敏(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 吉川 徹(労働科学研究所)
  • 冨尾 淳(東京大学大学院医学系研究科 公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,556,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年に感染症法が施行されて以来,我が国で一類感染症患者の発生報告はない.しかし,欧米では少なくともこの間に13例のウイルス性出血熱(以下,VHFとする)の発生が報告されている.いずれも渡航者の症例で,我が国においても一類感染症の発生状況として最も可能性が高いと考えられる.患者発生時に現場で参照できる手引きの早急な整備が必要である.
 本研究班では,一類感染症の患者が発生した場合の臨床的対応,および積極的疫学調査に関して手引きを作成するとともに,医療関係者向け研修プログラムを開発する.さらに,第一種感染症指定医療機関のネットワークを作り,我が国における輸入感染症全般の医療・公衆衛生体制を強化しようとするところに特徴がある.
研究方法
(臨床的対応の手引き作成)国外ガイドライン・論文の検討,国内外関連機関の視察を通じて,臨床的対応の手引きを作成する.外部専門家の意見を反映させ,平成25年度にまとめる予定である.
(積極的疫学調査の手引き作成)米国疾病管理センターの関連部門を視察し,専門家との意見交換,情報収集を行った.
(教育プログラム開発)全国の第一種感染症指定医療機関の医師・看護師を対象に質問票調査を行い,デルファイ法により中核能力を定義した.また,パイロット研修の2回目を実施することとした.
(デング熱迅速検査試薬の臨床性能試験)デング熱常在国に滞在後14日以内に発熱が出現し,国立国際医療研究センター病院を受診した患者を対象とした.NS-1抗原,IgM/IgG 抗体を免疫クロマトグラフィ法で検出する迅速検査試薬を PCR 法など従来法と比較した.臨床研究に関する倫理指針を遵守した.
結果と考察
(結果)血液曝露事故発生時の対応マニュアルを整備し,フェースシールドのついた不織布マスク,防水ガウン,二重手袋を診療における標準的個人用防護具として提案した.平成24年秋に国内での患者発生が確認された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について,ウイルス遺伝子検出キットを作成し,検査マニュアルとともに地方衛生研究所に配布した.医療関係者向けの SFTS 診療の手引きを作成し,英国の VHF ガイダンスの翻訳とともに国立国際医療研究センターのホームページで公開し,冊子を全国の第一種感染症指定医療機関等へ配布した.
 一類感染症の対応に必要な能力についての回答は,「当該感染症についての臨床的知識」「重症患者の呼吸・循環・輸液・栄養管理」「使命感を持ち,率先して診療にあたる」といった知識,技術,態度に三分された.研修会には,全国11の第一種感染症指定医療機関から医師12名,看護師13名が参加した.
 一般市民とのリスクコミュニケーションでは,信頼関係,早期公表,透明性などの要素に十分配慮してコミュニケーションを図ることが重要と考えられた.医療機関内のコミュニケーションも同様で,内容の一貫性を保つのが重要と考えられた.
(デング熱迅速検査試薬の臨床性能試験)平成24年6月から25年3月までに99例が登録され,18例のデング熱が診断された.迅速検査試薬の感度,特異度はそれぞれ89%, 96%であった.
 この他に,ウガンダ共和国でエボラ出血熱,マールブルグ病の発生があり,班員が現地調査を行う機会を得た.また,韓国疾病管理センターによる高度安全感染症病室建設プロジェクトチームに協力した.
(考察)エアロゾル発生手技を行う際に推奨される呼吸器保護具の PAPR は,従来のN95マスクに比べて呼吸しやすく,医療従事者の負担軽減につながる.一方で,器具表面の消毒やモーター作動音など解決すべき問題もある.患者血液に曝露した医療従事者の心理的な問題は今後も検討が必要である.
 我が国で初めて発生が報告された SFTS は,中国で医療従事者の職業感染事例が報告されている.診療にあたっては一類感染症の VHF に準じた感染防止策をとる必要がある.
 医療従事者向けの研修会は,全国に41ある第一種感染症指定医療機関のうち,2年間で19施設(46%)から参加を得た.国内ネットワーク構築上も有意義と考えられ,今後,医療従事者の意識調査によるニーズ分析により,内容の改善を図る必要がある.
結論
国内で VHF 患者が発生した際の臨床的対応および積極的疫学調査の手引きを作成するほか,国外ガイドラインの翻訳,医療関係者の研修プログラム開発,国内外関連機関との人的ネットワーク構築,国外 VHF 発生地の現地調査,デング熱迅速検査試薬の評価など,着実に成果をあげつつある.また,我が国で発生した広義の VHF である SFTS についても診療の手引きを作成するなど対応した.国際化時代における日本国民の健康危機管理のために寄与するものと期待される.

公開日・更新日

公開日
2013-06-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225028Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,822,000円
(2)補助金確定額
9,822,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,042,489円
人件費・謝金 471,250円
旅費 3,251,296円
その他 1,791,024円
間接経費 2,266,000円
合計 9,822,059円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-07-05
更新日
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