被災地のアルコール関連問題・嗜癖行動に関する研究

文献情報

文献番号
201224096A
報告書区分
総括
研究課題名
被災地のアルコール関連問題・嗜癖行動に関する研究
課題番号
H24-精神-一般(復興)-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松下 幸生(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
  • 村上 優(独立行政法人国立病院機構琉球病院)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター)
  • 尾崎米厚(鳥取大学医学部環境予防医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は飲酒行動、嗜癖行動やアルコール関連問題に震災の及ぼす影響について実態を把握し、効果的予防方法や対策を検討することを目的とする。具体的には以下の研究を実施する。
1.災害と飲酒行動やアルコール関連問題に関する既存の研究のレビュー
2.東日本大震災における飲酒行動、アルコール関連問題および嗜癖行動の実態調査
3.被災地の支援および予防方法や対策に関する研究
研究方法
本年度は住民調査結果について報告する。
A. 調査票
調査票は面接調査用と自記式の調査票から成り、面接調査用の調査票はDSM-4のアルコール依存症、アルコール乱用の診断基準に関する質問項目が中心である。自記式の質問票には嗜癖関連の以下のスクリーニングテストが含まれる。アルコール関連問題(AUDIT、CAGE)、ニコチン依存(FTND、TDS)、インターネット依存(IAT)、ギャンブル依存(SOGS)、ベンゾジアゼピン系薬物依存(BDEPQ)。
B. 標本抽出
層化2段無作為抽出法により、岩手県、宮城県の沿岸部、内陸部の90地点から20歳以上の男女3600名を抽出し、両県で一斉に調査を実施した。調査対象者に対しては、趣旨、内容、方法を説明して書面による同意を得て実施した。
結果と考察
1978名から有効回答を得た。回答者の平均年齢は沿岸部の男性が58歳、女性が57歳、内陸部の男性が54歳、女性が52歳であった。
1沿岸部と内陸部の比較
1)被災状況について
沿岸部では2割以上が震災で失業した。また、約9割が家屋を失い、ほとんどの住民がプレハブ型仮設住宅に居住していた。
2)飲酒パターン
毎日飲酒すると回答した男性は沿岸部でやや多い。1回あたり純アルコール換算で60グラム以上飲酒する多量飲酒者は、沿岸部の男性では5.8%なのに対して内陸部では2.7%と沿岸部で多い。
3)アルコール関連問題のスクリーニングテスト
AUDITの結果は男女とも有意差を認めない。
4)アルコール依存症・乱用のDSM-4診断基準
対象者全体では過去に乱用の基準に該当したことがあるのは男性9.2%、女性1.3%であった。一方、男性の4.2%、女性の1.1%が最近1年間にアルコール依存症の基準に該当していたが、沿岸部と内陸部で違いはなかった。
5)喫煙・ニコチン依存
喫煙者の割合は男女とも沿岸部で有意に高い(男性、45.0% vs 31.5%;女性、17.2% vs 7.1%)。FTND高得点は男女とも沿岸部で多い(男性、7.4% vs 4.0%;女性、2.2% vs 0.6%)。
6)他の嗜癖行動
IAT40点以上の者の割合は内陸部に多く、SOGSで5点以上の者の割合には差がなかった。
7)睡眠薬の使用とベンゾジアゼピン依存
睡眠薬の使用は沿岸部の女性で頻度が高く、ほぼ毎日服用しているのは沿岸部の10.6%に対して内陸部では5.2%であった。
BDEPQの23点以上の者の割合は、沿岸部の女性で5.4%、内陸部は2.4%と沿岸部で高い。
2被災状況との関連
男性は震災で失業した者は仕事に変化のなかったものと比べて多量飲酒者の割合が高く(29.3% vs 8.3%)、AUDITで8点以上の割合が有意に高かった(30.4% vs 15.2%)。
DSM-4の基準の該当者割合と被災状況との関連は男女ともなかった。
ニコチン依存について男性では関連はないが、女性はニコチン依存と仮設住宅居住が関連していた。
インターネット、ギャンブル行動とは関連を認めなかった。
睡眠薬の使用頻度との関連について男性は関連を認めないが、女性では仮設住宅の居住者で毎日使用する者の割合が自宅より高かった(10.5% vs 5.2%)。また、仮設住宅に居住する女性はBDEPQの23点以上の者の割合が有意に高かった(5.4% vs 2.3%)。
結論
1)過去の研究は災害が飲酒量を増やし、アルコール問題を悪化させる可能性を示唆する。
2)岩手県、宮城県の住民調査の結果、沿岸部では男性で多量飲酒者が多く、男女とも喫煙率が高く、女性でニコチン依存が多い。また、沿岸部では女性の睡眠薬の使用頻度が高く、ベンゾジアゼピン系薬物依存が疑われる割合が高い。
3)被災状況との関連では、男性は震災による失業と多量飲酒が相関し、AUDIT8点以上の割合が高い。一方、女性は 仮設住宅居住とニコチン依存、睡眠薬使用、ベンゾジアゼピン系薬物依存が相関した。
4)被災地では仮設住宅などの住環境の変化によってアルコール問題が顕在化しやすい傾向が指摘されている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224096Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
30,000,000円
(2)補助金確定額
27,441,243円
差引額 [(1)-(2)]
2,558,757円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,062,344円
人件費・謝金 664,477円
旅費 2,995,843円
その他 20,718,579円
間接経費 0円
合計 27,441,243円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-12-22
更新日
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