総合的視覚リハビリテーションシステムプログラムの開発

文献情報

文献番号
201224037A
報告書区分
総括
研究課題名
総合的視覚リハビリテーションシステムプログラムの開発
課題番号
H22-感覚-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西田 朋美(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 飛松 好子(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 小林 章(国立障害者リハビリテーションセンター 学院)
  • 吉野 由美子(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 小田 浩一(東京女子大学)
  • 神成 淳司(慶応義塾大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,266,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、視覚に障害をもつ者の包括的支援と実態調査が同時進行するシステムを開発することである。初年度を中心として、視覚に障害をもつ者の実態調査を行った。このデータをもとに第二年度には、支援対象の属性(原因疾患、各種インペアメント、環境因子など)およびニーズを入力すると有効と思われる支援プロトコールの候補のいくつかが出力されるプログラムを開発し、インターネット上で活用可能なものとした。最終年度となる本年度は、このプログラムを試用し、提案する支援項目別にその正答率を求める。そして、本ソフトウェア『ファーストステップ』を活用することで促進されうる視覚に障害をもつ者の自立支援サービスのあり方モデルを提案する。
研究方法
1) ファーストステップの評価用バージョンを作成する。
2) 実際の対象者に対して、約30問の質問を行い、その結果得られた支援項目の要不要判定とは別に、各評価者は独自の要不要判定を行い、これらの一致率を求める。
3) 視覚に障害をもつ者の自立支援サービスのあり方モデルの中で重要な支援形態となる『中間型アウトリーチ支援』についての現状と将来における実現可能性について、ロービジョンケアを実施していると標榜している眼科320施設と視覚障害者支援を実施している福祉施設100施設に、意向調査を行う。なお、中間型アウトリーチ支援は、視覚に障害をもつ者の家へ行って支援を行うアウトリーチとも、視覚リハビリテーション施設で行われている通所型支援とも異なり、普段よく通う施設(たとえば眼科)に、視覚障害の専門家が出向き相談を受けるという支援形態を意味する。
結果と考察
1) インターネットを活用しての入出力が可能なファーストステップの評価用バージョンを作成し、これを用いた評価を141名に対して行った。
2) ファーストステップの正答率として、本プログラムにおける自動判定の結果とデータ入力に関わった専門家による判定結果との一致率を求めた。その結果、視機能活用支援での一致率は77.9%、動作支援では64.5%、社会活動支援では59.4%、その他の支援では46.7%であった。その他の支援のサブカテゴリで特に低かったのは、心理相談38.8%、娯楽支援38.2%、その他の情報提供32.2%であった。視機能活用支援のカテゴリでは非常に高い正答率を示したが、他のカテゴリ、特にその他の支援では低かった。各カテゴリにおいて情報提供の項目が他に比べ低く、支援内容の具体性が乏しい項目に一致率の低下傾向がみられた。これを改善するためには、プログラムのアルゴリズムの見直しとともに、リンク先解説ページの内容充実を図る必要があると思われた。
3) 中間型アウトリーチ支援の実現可能性に関して行った意向調査アンケートの回答率は、眼科医療施設が62%、福祉施設が74%であった。眼科医療施設のうち、「既に実施」「可能」が各々約3割、「必要と思うが実施は困難」と回答したのは約2割、「不要」と回答したのは1割であった。一方、福祉施設では、約4分の1が「既に実施している」、約3割が「可能」、3割が「必要と思うが実施困難」と答えた。このように、中間型アウトリーチ支援は、すでに59カ所のロービジョンケア実施眼科医療施設で行われていることが判明した。
4) 視覚に障害をもつ者の自立支援サービスのあり方モデルとして、ファーストステップにより、支援ニーズをもつ者が視覚障害の専門家に繋がり、中間型アウトリーチ支援を支援のスタートとするものを提案した。さらに、この中間型アウトリーチを行う施設へのサポートと管理を行うことのできる全国レベルの支援サービスが必要であると思われた。
結論
 今後、中間型アウトリーチ支援の形態が一般化されれば、視覚障害者支援が、より迅速に、よりきめ細やかに行われるようになることが期待できる。したがって、提案した視覚に障害をもつ者の自立支援サービスのあり方モデルの実現とともに、この支援方法をさらに広めるための施策が必要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224037B
報告書区分
総合
研究課題名
総合的視覚リハビリテーションシステムプログラムの開発
課題番号
H22-感覚-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
仲泊 聡(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西田 朋美(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 飛松 好子(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 小林 章(国立障害者リハビリテーションセンター 学院)
  • 吉野 由美子(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 小田 浩一(東京女子大学)
  • 神成 淳司(慶応義塾大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
視覚に障害をもつ者の包括的支援と実態調査が同時進行するシステムを開発すること
研究方法
初年度には、視覚障害者のニーズ特性を検討するために実態調査を行い、視覚障害重症度・支援ニーズ判定基準を作成した。第二年度には、より広い調査フィールドで取ったデータによりこれを検証し、支援対象の属性およびニーズを入力すると有効と思われる支援カテゴリの要不要を出力するアルゴリズムを模索した。そして、第三年度には、そのアルゴリズムを用いたソフトウェアを開発し、インターネットでの活用を実現し、有効性を検討した。さらに、視覚に障害をもつ者の家へ行って支援を行うアウトリーチとも、視覚リハビリテーション施設で行われている通所型支援とも異なり、普段よく通う施設(たとえば眼科)に、視覚障害の専門家が出向き相談を受けるという支援形態「中間型アウトリーチ支援」についての現状と将来における実現可能性についての意向調査を行い、以上の研究活動を通して、視覚に障害をもつ者の自立支援サービスの在り方モデルを提案した。
結果と考察
初年度の調査から、明・暗順応障害、夜盲、良い方の眼の矯正視力が0.2以下、視野がGoldmann視野計のV/4視標により半径20度以下で、移動支援のニーズが生じていることが明らかとなり、何らかの支援ニーズが発生するのは、良い方の眼の矯正視力が0.7以下、視野がGoldmann視野計のV/4視標により半径20度以下または同名半盲、色覚異常、複視がある場合と推定した。また、第二年度の実態調査でも初年度とほぼ同等の結果が得られ、視力・視野と生活障害・ニーズ発生の関係を検討し、矯正視力としては0.5と0.08に、視野としては半径20度に臨界点がみられた。また、共分散構造分析を用いて視覚モデルの適合度を最適化したところ、視覚関連の日常生活動作・生活の質に対して、視力の約7倍の関与が視野においてみられた。一方、専門家による支援カテゴリの要不要判定を行い、これを教師データとして要不要の自動判定アルゴリズムを模索し、36のnodeを使用して23項目の支援の要不要を判定するアルゴリズムを決定した。第三年度では、本ソフトウェアの評価版を作成し、本プログラムにおける自動判定の結果とデータ入力に関わった専門家による判定結果との一致率を求めた。その結果、視機能活用支援での一致率は77.9%と高かったが、動作支援では64.5%、社会活動支援では59.4%とさほどには高くなく、その他の支援に至っては46.7%とむしろ不一致が多かった。この結果は、まだ、本ソフトウェアには改良の余地があることを示している。また、「中間型アウトリーチ支援」についての意向調査では、調査対象とした眼科医療施設と福祉施設の双方の半数以上から実現可能との回答を得ることができた。最後に、以上の研究活動を通じて視覚に障害をきたした者の自立支援サービスの在り方モデルを提案した。これは、ファーストステップにより支援ニーズをもつ者が視覚障害の専門家に繋がり、中間型アウトリーチ支援を支援のスタートとするもので、この中間型アウトリーチを行う施設へのサポートと管理を行うことのできる全国規模のものであった。
結論
視覚に障害をもつ者とその家族は、近隣の日常生活の中で比較的頻繁に訪れる場所で支援についての相談を希望する。しかし、多くの場合充分な情報が得られず、結果として自宅にこもりがちとなる。このような事態を回避するために、本研究で開発した「ファーストステップ」と「中間型アウトリーチ支援」が有用であると考える。さらに、このシステムを全国に均霑化しようとした場合、個々の施設に任せておくだけでは不十分であり、これを調整する役が必要となり、さらには調整役を統括する機能も必要となる。ここではさらに、ファーストステップを通して集まってくるデータを集積し、視覚障害者の現状とニーズを把握し、これを政策に反映する機能が期待される。そのため今後は、本研究の成果をさらに発展させ、視覚障害者の生活障害をより正確に推定可能な指標を明らかにするとともに、実践的な支援場面での本研究の活用と支援システムの構築を実現していかなければならない。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224037C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 リハビリテーション病院に通院している視覚に障害をもつ者の原因疾患、視覚特性、日常生活動作、生活の質およびニーズについての統計が得られた。そして、これらより、個々の当事者の特性を20数項目入力することで、必要な支援を割り出すとともにマクロな実態調査に使用できるデータを抽出することのできるソフトウェア「ファーストステップ」を開発した。また、得られた視覚特性から、一般的な視覚モデルについて検討し、視力とともに視野・順応・心理的要因の重要性が明白となった。
臨床的観点からの成果
 個々の当事者の特性を20数項目入力することで、必要な支援を割り出すとともにマクロな実態調査に使用できるデータを抽出することのできるソフトウェア「ファーストステップ」は、インターネットを活用し、専門用語解説と主要機関へのリンクを有する。そのため、それを使用する支援者の教育とともに視覚障害者支援専門家への橋渡し機能をも有する。したがって、本成果により、視覚に障害を負った者が、その適切な支援を受けるまでにかかる時間を短縮させることができるものと思われる。
ガイドライン等の開発
 特になし。ただし、初年度のデータ解析から、明・暗順応障害、夜盲、良い方の眼の矯正視力が0.2以下、視野がGoldmann視野計のV/4視標により半径20度以下で、移動支援のニーズが生じていることが明らかになった。また、何らかの支援ニーズが発生するのは、良い方の眼の矯正視力が0.7以下、視野がGoldmann視野計のV/4視標により半径20度以下または同名半盲、色覚異常、複視がある場合であると推定した。
その他行政的観点からの成果
 個々の当事者の特性を20数項目入力することで、必要な支援を割り出すとともにマクロな実態調査に使用できるデータを抽出することのできるソフトウェア「ファーストステップ」は、インターネットを活用し、大規模調査を可能とする。個人情報に関する記録をしないため、重複や意図的操作に対する脆弱性をもつが、この点を考慮したサーベイランス計画を立てれば、視覚障害に関するマクロな実態調査が可能となり、施策立案の根拠となるデータを得ることができるものと思われる。
その他のインパクト
 平成25年3月16日、『視覚リハビリテーションの空白』をテーマに公開シンポジウムを行った。その取材をもとに平成25年4月21日発行の点字毎日点字版(活字版は4月25日発行)に『「支援の専門家を紹介」 ー ネットで判定、ソフト開発 ー』と題して報道された。

発表件数

原著論文(和文)
8件
仲泊が視覚障害者の高齢者特性、機能的自立度評価、ADLと視覚皮質との関連及び本成果物ソフトウエアについて報告した。また、西田が視覚障害関連の調査を報告し、研究協力者の中西、西脇も関連する報告を行った
原著論文(英文等)
1件
西田が、JJO(Japanese Journal of Ophthalmology)に、本研究の予備調査となる60名の眼科医の協力を得て行った約20000冊のカルテ調査について報告した。
その他論文(和文)
1件
仲泊が、2012年度長寿科学研究業績集「 高齢者の視覚障害の実態とリハビリテーション」の中の「高齢者の視覚障害とそのケア」を担当執筆した。
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
47件
仲泊が、各種学会で、視覚障害者の特性と支援のあり方について啓発的な講演を多数行った。また、本研究に付随して明らかになった視覚の本質的な特性について報告した。
学会発表(国際学会等)
1件
西田が、本研究の予備調査となる60名の眼科医の協力を得て行った約20000冊のカルテ調査を行い、米国視覚科学眼科学会にて報告した。
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
西脇友紀
ロービジョンケア開始時に行う問診
日本ロービジョン学会誌 , 11 (1) , 40-47  (2011)
原著論文2
仲泊聡, 西田朋美, 飛松好子, 他
視覚障害者に適合した機能的自立度評価表の改変
臨床眼科 , 66 (4) , 481-485  (2012)
原著論文3
仲泊聡
視覚皮質の機能局在とADL
日本視能訓練士協会誌 , 41 (1) , 7-17  (2012)
原著論文4
西脇友紀, 仲泊聡, 西田朋美, 他
ロービジョンケアおよび視覚リハビリテーション実施状況調査と中間型アウトリーチ支援に関する意向調査
視覚リハビリテーション研究 , 2 (2) , 75-81  (2013)
原著論文5
仲泊聡, 西田朋美, 飛松好子, 他
総合的視覚リハビリテーションシステムプログラム「ファーストステップ」
視覚リハビリテーション研究 , 3 (1) , 印刷中-  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224037Z