発話障害者のためのハンズフリー支援機器の開発とその臨床評価

文献情報

文献番号
201224002A
報告書区分
総括
研究課題名
発話障害者のためのハンズフリー支援機器の開発とその臨床評価
課題番号
H22-身体・知的-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
伊福部 達(国立大学法人東京大学 高齢社会総合研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 敏明(国立大学法人東京大学 先端科学技術研究センター)
  • 上田 一貴(国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 デザインイノベーション社会連携講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,831,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①喉頭摘出者のための手を束縛しない「ハンズフリー人工喉頭」の改良研究を進めるとともに、②筋・神経系疾患による構音障害患者のために実時間で感情表現もできる構音障害支援用の「音声生成器」の開発研究を行うものである。
また、試作済みの①と②の発話支援機器を、他の治療法やリハビリ法を補完するという立場で臨床的な観点から有用性と問題点を評価し、製品化を目指して研究を進める。
研究方法
①ハンズフリー人工喉頭では、振動子と抑揚センサが一体化した「首バンド装着型方式」および人工喉頭用「ポータブル小型拡声器」の開発・改良を繰り返し、実用化に向けて最終モデルのためのユーザビリティ評価を進める。②ウェアラブル音声生成器では、コンピュータのタッチパッドの面を指でなぞった情報で音声を生成する方法の改良化研究を続ける。同時に、生成音の「抑揚センサ方式」および「ポータブル小型拡声器」を開発し、それらをスマートホンで実現できるようにし、その実用化のための評価を行う。評価では、他の治療法やリハビリ法を補完するような利用方法に視点を置く。
結果と考察
①【結果】 人工喉頭では、首バンドの再設計を行うと共に、人工喉頭のトータルシステムを試作した。生体メカニクスの観点から押圧力ベクトルを調べ、首の左右および背面の3点で首バンドが固定されるようにしながら、振動子の押圧力ベクトルを口腔内中心に向かうように設計した。以上から、最終的な首バンドの形状・構造を製作し、数名の被験者によりその有用性を確認した。また、抑揚センサについて、ヒトの押圧力を測定し、その時の押圧力と発声音ピッチ(抑揚)との関係が最適となるように設計した。
①音声生成器では、22-23年度に開発した音声生成プログラムおよび抑揚制御技術をスマートホンでも使えるようにし、その実用器を開発した。まず、ウィンドウズ7で動作する機能をスマートホンで実現し、次に最も普及しているiPhone上でも使えるようにした。
なお、前述のようにハンズフリー人工喉頭で開発した要素技術である押圧センサと小型アンプは共に音声生成器にも利用できることから、この共通となる2つの要素技術をウェアラブル電気喉頭と音声生成器の両方に組み込み、最終的に低価格で利用者に供給できるようにしている。さらに、ハンズフリー人工喉頭は現在、喉頭摘出者団体を通じて臨床的な観点からの評価を依頼しているところであり、音声生成器シフトは平成25年4月15日から利用者がネットを通じてダウンロードできるようになった。
【考察】① 人工喉頭では、(イ)振動子の固定具については、装着具を利用者の首の太さなどに合わせて、その場ですぐに調整できるようにする必要がある。(ロ)マイクについては、マイクの方向によって感度やハウリングの大きさが変わるため、自動的に最適なマイク位置が決まるようにする必要がある。(ハ)振動子とスピーカを一体化したことで、その部分が特に重く、しかも大きくなったので、振動子とスピーカの小型化を図ることが望ましい。(ニ)指押圧抑揚制御については、初心者では語尾で強く押すため語尾が上がる傾向にあり、通常の息を使った発話の場合と逆の抑揚になってしまうことから、通常発声の抑揚に近い制御方式を考える必要があった。
②音声生成器については、(イ)タブレットPCの場合、指が画面に触れてから音が鳴りだすまでの時間と、指が画面から離れてから音が停止するまでの時間とにズレがあったので、そのズレを解消する工夫がいる。(ロ)タブレットPCとスマートホンでは画面の大きさが異なり、ペン入力と指入力でも操作時の腕の動きも異なることから腕の動きを少なくするための最適な操作盤面を決める必要がある。(ハ)母音を出すだけであればだれでも一瞬で操作できる一方で、上手く使いこなすには音素に対する知識や操作方法の習得が必要であることから、初心者でも機器の操作方法を習得できるような操作マニュアルを作成していく必要がある。

結論
以上の発話支援機器は世界的にも存在しないものであり、喉頭摘出者から脳・神経系疾患による発話障害者の全般をカバーできるようになり、所期の目的を達成できたと考えている。今後は、残された技術的な課題を解決しながら、発話支援機器を10台ほど開発し、耳鼻咽喉科医師やSTなどの協力により、従来の治療・リハビリをどこまで補完できるかを評価し、製品化・普及化への道筋を付ける。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224002B
報告書区分
総合
研究課題名
発話障害者のためのハンズフリー支援機器の開発とその臨床評価
課題番号
H22-身体・知的-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
伊福部 達(国立大学法人東京大学 高齢社会総合研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 敏明(国立大学法人東京大学 先端科学技術研究センター)
  • 上田 一貴(国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 デザインイノベーション社会連携講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
代表者らが開発し製品化してきた電気式人工喉頭のユーザから手を使わないで使用できるようにして欲しいという強い要望が続いている。一方、脳・神経系疾患による構音障害患者からは、実時間で感情表現もできる音声生成器を開発してほしいという要望が出ていた。本課題はこれらの目的に応えるために、①「ハンズフリー人工喉頭」の改良化研究を進めるとともに、②構音障害支援のための「ウェアラブル音声生成器」の開発研究を行うものである。
研究方法
①ハンズフリー人工喉頭では、「首バンド装着型方式」、「ポータブル小型拡声器」および「指押圧型抑揚センサ」の3要素技術を開発する。それらを首バンドに取り付けて一体化するとともに、実用化に向けてユーザビリティ評価を行う。
②ウェアラブル音声生成器では、コンピュータのタッチパッドを指でなぞることで音声を生成するソフトウェアの改良化研究を行い、最終的に全ての子音が出せるようにする。また、人工喉頭で開発した「ポータブル小型拡声器」および「指押圧型抑揚センサ」を利用して、抑揚制御ができるとともに十分に大きな音量が得られるようにする。さらに、それらの機能をスマートホンで実現し、利便性の評価を行いながら製品化へ導く。なお、評価では、他の治療法やリハビリ法を補完するような利用方法に視点を置く。

結果と考察
【結果】①ハンズフリー人工喉頭については、人工喉頭の振動子音が直接マイクロホンに入らず、しかもハウリングを起こさずに声の音量を大きくすることができた。また、拡声器、スピーカ、振動子、および本体(制御部と電源)を首バンドに取り付けられ、総重量を220グラムと軽量にすることができた。
②全ての子音がタッチパッドをなぞることで生成できるようになり、そのソフトウェアをタブレット型PC上に実装した。さらに、音声生成プログラムをWEBからダウンロードし、スマートホン(iPhone)でも使えるようにした。また、同時にダウンロードされる訓練マニュアルに従って誰もが容易に操作できるようにした。
【考察】
①人工喉頭では、(イ)装着具を利用者の首の太さなどに合わせて、その場ですぐに調整できるようにすること、(ロ)自動的に最適なマイク位置が決まるようにすること、(ハ)振動子とスピーカの小型化・軽量化を図ること、(ニ)通常発声に近い抑揚が生成されるように制御方式を改良すること、などが課題として残された。
②音声生成器については、(イ)タブレットPCの場合、指が画面に触れてから離れるまでの時間と音が鳴っている時間間隔との間のズレを少なくすること、(ロ)タブレットPCとスマートホン、およびペン入力と指入力では操作する腕の動きも異なることからそれぞれの最適な操作盤面を決める必要があること、(ハ)さらに初心者でも多様な音声を出せるように、機器の操作方法を記した操作マニュアルを作成していくこと、などの課題が残された。
結論
本課題で開発した2つの支援機器で喉頭摘出者から脳・神経系疾患による発話障害者の全般をカバーできるようになり、所期の目的を達成できた。今後も、他の治療法やリハビリ法を補完するという立場で臨床的な観点から有用性と問題点を評価し、普及化を目指して研究を進めたい。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本課題では、第一に、装置全体を首バンド内に収めることにより手を使わないで操作できる電気式人工喉頭のハンズフリー化を行った。その過程から、喉頭摘出者の喉に与える振動を効率よく声道に伝えるための首バンドと振動子の最適な設計法が確立された。第二に、構音障害者のために指の動きで操作する音声合成器を開発する過程から、音声が正しく認識される上で必要な音声合成パラメータについて多くの新知見を得た。
臨床的観点からの成果
電気式人工喉頭をハンズフリー化することにより、喉頭摘出者が仕事をしたり食事をしたりしながら音声を生成できるようになり、QOLの向上に大きく貢献した。また、構音障害者のための音声合成器をスマートホンで実現したことにより、当事者が手軽に入手できるようになった。その結果、当事者からの評価のフィードバックが得られやすくなるとともに、失語症や認知症など多くの人たちへの適用の道が拓かれるようになった。
ガイドライン等の開発
ハンズフリー人工喉頭が平成27年度NEDO 課題解決型産業技術開発費助成金(課題解決型福祉用具実用化開発支援事業)制度で審議され、「ハンズフリー型ウェアラブル電気式人工喉頭の開発(第一医科株式会社)」として採択され、現在、製品化に向けた開発が進められている。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
研究成果はスマートホンの音声生成アプリ「ゆびで話そう」として(株)電制より製品化され、平成26年度に北海道福祉のまちづくりコンクール で「北海道福祉のまちづくり賞」を受賞した。また、ハンズフリー人工喉頭は、朝日放送のテレビ番組である「大改造!劇的ビフォーアフター『難聴の父が一人で暮らす家』(平成25年8月4日、午後7-9時)」で紹介された。なお、本課題は代表者の著した「福祉工学への招待」(ミネルヴァ書房、平成26年)および「福祉工学の基礎」(コロナ社、平成28年)で詳しく紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
【著書・伊福部達】福祉工学の招待(ミネルヴァ書房、2014)福祉工学の基礎(コロナ社、2016)
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
2件
音声生成装置およびその制御プログラム,電気式人工喉頭:国内 2件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
音声生成装置およびその制御プログラム
詳細情報
分類:
特許番号: 5224552
発明者名: 伊福部達,橋場参生,須貝保徳
権利者名: 伊福部達,橋場参生,須貝保徳
取得年月日: 20130322
国内外の別: 国内
特許の名称
電気式人工喉頭
詳細情報
分類:
特許番号: 4940408
発明者名: 伊福部達,泉隆,橋場参生,須貝保徳
権利者名: 伊福部達,東海大学,(独)北海道立総合研究機構,(㈱電制
取得年月日: 20120309
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
薮謙一郎 伊福部達
発話障害者支援のための連続タッチ平面で操作する音声生成器 -子音改善のための基礎的検討ー
電子情報通信学会, 信学技報, SP, 音声 , 110 (220) , 41-46  (2010)
原著論文2
藪謙一郎 伊福部達
拡声器能を備えたウェアラブル電気式人工喉頭の設計
日本バーチャルリアリティ学会誌 , 21 (2) , 295-301  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224002Z