東北地方のがんネットワークによるがん診療連携拠点病院の化学療法の均てん化事業

文献情報

文献番号
201221033A
報告書区分
総括
研究課題名
東北地方のがんネットワークによるがん診療連携拠点病院の化学療法の均てん化事業
課題番号
H22-がん臨床-一般-034
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
石岡 千加史(東北大学 加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 俊介(東北大学 加齢医学研究所)
  • 吉岡 孝志(山形大学 大学院医学研究科)
  • 柴田 浩行(秋田大学 大学院医学研究科)
  • 西條 康夫(新潟大学 大学院医学研究科)
  • 蒲生 真紀夫(大崎市民病院 腫瘍センター)
  • 伊藤 薫樹(岩手医科大学 附属病院)
  • 石田 卓(福島県立医科大学 附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、多角的な方法で東北地方のがん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)の化学療法の均てん化を推進することである。
研究方法
【がん化学療法プロトコル統一事業】東北がんネットワーク化学療法専門委員会に化学療法共通プロトコル審査委員会を設置し、東北6大学の5大がん(乳がん、肺がん、胃がん、大腸がん、悪性リンパ腫)の統一プロトコルを作成した。5大がんの標準的化学療法プロトコルを東北がんネットワークのHP上に公開する。【臨床試験推進事業】東北がんネットワークHPにTumor Board(バーチャル会議)を組織し化学療法を中心にした症例検討会を実施する。標準化学療法レジメンのプロトコル申請・審査画面を構築しがん化学療法プロトコル統一事業との協力体制を整備する。【医療従事者、市民や患者会への啓発活動】市民公開講座を毎年実施する。また、医療従事者を対象とするがん薬物療法の普及に関する研修会を開催する。さらに、がん薬物療法に従事する医療従事者のためのDVDを作成し全国の拠点病院等に配布する。【化学療法に関するアンケート調査】東北6県にあるがん診療連携拠点病院(43病院)を含む計153病院を対象にアンケート調査を行う。【個別化治療推進事業】観察研究「進行転移性大腸がん患者におけるEGFRシグナル伝達関連遺伝子変異の解析」と「進行大腸がん患者を対象とした末梢血液中の腫瘍循環細胞(CTC)の効果予測因子としての可能性に関する研究」を行う。医師を対象に、分子診断に関するアンケート調査を行う。【地域がん診療連携拠点病院における化学療法の標準化】宮城県北地域の3医療圏において、地域がん診療連携拠点病院とその周囲の生活医療圏でがん診療を担っている公立医療機関・2施設、民間医療機関・1施設、計4施設におけるがん薬物療法の実態調査を現地訪問・聞き取りにより施行する。
結果と考察
結果:【がん化学療法プロトコル統一事業】5大がんの統一プロトコルを作成し、東北がんネットワークのHPに公開した。【臨床試験推進事業】Web上に、症例検討を行えるTumor Boardと化学療法プロトコルの審査を行える2つのシステムを構築した。【医療従事者、市民や患者会への啓発活動】がん薬物療法に従事する医師や患者を対象とするDVDとして制作し東北地方の病院や全国の都道府県がん診療連携拠点病院に配布した。市民や患者会への啓発活動として、「知っておきたいがん治療の臨床試験~未来を拓く力に~」(200名以上参加)、「知っておきたい抗がん剤治療」(約280名参加)、「がんと共に生きること」(250名以上参加)を開催した。医療従事者への啓発活動として、「東北がんネット化学療法専門研修会」(約50名参加)を開催した。【がん診療に関するアンケート調査】61病院(全回収率:39.8%)から回答を回収することができた。横断的カンファレンスの実施状況については拠点病院の90%以上で定期的に開催されていたが、中核病院では4割程度にとどまっていた。また中核病院では化学療法レジメン審査・管理体制の整備や副作用対策マニュアルの整備は半数の施設にとどまっていた。これら体制の未整備についての一番の原因は管理をしていく専門スタッフの人員不足が挙げられていた。【個別化治療推進事業】複数の観察研究を実施し更なるバイオマーカー探索研究が必要であることが明らかになった。分子診断に関するアンケート調査では、医療従事者の個別化医療の普及が遅れていること、医師は患者が分子診断の知識について理解不足であると感じていることが明らかになった。【地域がん診療連携拠点病院における化学療法の標準化】地方の生活医療圏の中核病院におけるがん薬物療法施行実態を調査した。地域によりがん種ごとに標準レジメンの整備にばらつきが見られ、潜在的需要に対し供給が不足している実態が明らかになり、一部のがん種で標準化レジメンの共有を進めた。
考察:がん化学療法プロトコル統一事業は東北地方のがん薬物療法の標準化を進める上で重要であり今後も継続する。がん診療に関する実態調査は定期的に施行し、東北地方のがん薬物療法の均てん化の状況を今後も評価し改善のための指標としたい。個別化治療の推進については大学を中心とした研究活動と連携して医療従事者と患者の啓発活動を行う必要がある。
結論
東北地方におけるがん薬物療法の水準を向上するためには、化学療法レジメンの共有化やレジメン審査の体制支援が効果的である。また、がん薬物療法の臨床試験を推進するための医療従事者の教育、情報提供や市民と患者への啓発活動が必要である。さらに、東日本大震災により東北地方の太平洋沿岸部を中心に地域医療が崩壊したため、がん薬物療法に関するネットワークを通じた支援の必要性が高いが、課題を解決するために更なる活動が必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201221033B
報告書区分
総合
研究課題名
東北地方のがんネットワークによるがん診療連携拠点病院の化学療法の均てん化事業
課題番号
H22-がん臨床-一般-034
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
石岡 千加史(東北大学 加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 俊介(東北大学 加齢医学研究所 )
  • 吉岡 孝志(山形大学 医学部)
  • 柴田 浩行(秋田大学 大学院医学系研究科)
  • 蒲生 真紀夫(大崎市民病院)
  • 西條 康夫(新潟大学 医学部)
  • 伊藤 薫樹(岩手医科大学 医学部)
  • 石田 卓(福島県立医科大学 付属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、多角的な方法で東北地方のがん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)の化学療法の均てん化を推進することである。
研究方法
目的を達成するために、以下の目的で個別事業を実施する。1.がん化学療法プロトコル統一事業、2.臨床試験推進事業、3.医療従事者、市民や患者会への啓発活動、4.化学療法に関するアンケート調査、5.個別化治療推進事業、6.地域がん診療連携拠点病院における化学療法の標準化。
結果と考察
結果
1.がん化学療法プロトコル統一事業: 5大がん(乳がん、肺がん、胃がん、大腸がん、肝がん)および造血器腫瘍(悪性リンパ腫)のレジメンを作成した。2012年8月に、東北がんネットワークのHPに公開した。2.臨床試験推進事業:Web上に、症例検討を行えるTumor Boardと化学療法プロトコルの審査を行える2つのシステムを構築した。平成25年度に、本システムを本格稼働させ、東北がんネットワークに参加する施設すべてとともに、化学療法症例検討を開始した。3.医療従事者、市民や患者会への啓発活動:市民や患者会への啓発活動として、「知っておきたいがん治療の臨床試験~未来を拓く力に~」(200名以上参加)や「知っておきたい抗がん剤治療」(約280名参加)などを仙台市内で複数市民公開講座を開催した。「化学療法時における口腔ケアと食事の工夫」などの教材DVDを制作し東北地方の病院や全国の都道府県がん診療連携拠点病院に配布した。4.がん診療に関するアンケート調査:61病院(全回収率:39.8%)から回答を回収するした。5.個別化治療推進事業:観察研究の結果、大腸癌のバイオマーカーの血液検体からの抽出が可能になる方法が見いだされた。また、分子診断に関する知識に関する調査では88.2%の医師は患者が分子診断の知識について理解不足であると感じていた。6.地域がん診療連携拠点病院における化学療法の標準化:地方の生活医療圏の中核病院におけるがん薬物療法施行実態を調査した。

考察
がん化学療法プロトコル統一事業の結果、各施設のプロトコルを解析することにより、各施設の先進部分や問題点など特徴が明らかとなった。レジメンを施設毎ではなく、地域で統一する必要性が明らかとなった。臨床試験推進事業の結果から、東北地区広域にわたる地域がん連携拠点病院間で、症例ベースで意見交換を行うCancer Boardが順調に運用されれば、従来治療に難渋していた症例に関する情報を持ちあう事で化学療法の診療能力の均てん化が図られると考えられた。医療従事者、市民や患者会への啓発活動の結果、この地域ではがん専門医等の医療従事者が少ないため、医療従事者の研修会やセミナーへのニーズは継続的に高く、今後も継続する必要性が明らかになった。また、同時に、今後も東北がんプロフェッショナル養成推進プランと連携するなどして、がん薬物療法専門医の養成を一層推進する必要があると考えられた。アンケート調査の結果、東北地方における医療過疎はがん診療にも影響を与えていることが判明した。これについて、他の研究分担者と行っている均てん化事業、特にWEB上の腫瘍ボードやプロトコル統一化事業は、院内の横断的カンファレンスやレジメン登録・管理体制が未整備な中核病院にとって大変有効な解決策になりうると考えられた。個別化治療推進事業の結果、遺伝子検査の施行状況や臨床的意義や解釈についても、さらなる検討が必要であることが示唆された。地域がん診療連携拠点病院における化学療法の標準化の研究から、人口密度が低い広域の地方における、地域がん診療連携拠点病院と生活医療圏ごとの中核的医療機関の、がん薬物療法の施行実態が明らかになった。地域のがん医療の水準向上のために、限られた人的リソースを最大限に活用するがん診療システム構築が必要であり、がん薬物療法専門医を配置している地域がん診療連携拠点病院において医療者間の相談窓口を創設し、診療方針のコンサルトに応じる連携システムは有効であると考えられた。今後持続可能な体制整備が求められる。
結論
総じて、東北地方におけるがん薬物療法の水準を向上するためには、化学療法レジメンの共有化やレジメン審査の体制支援が効果的である。また、がん薬物療法の臨床試験を推進するための医療従事者の教育、情報提供や市民と患者への啓発活動が必要である。さらに、東日本大震災により東北地方の太平洋沿岸部を中心に地域医療が崩壊したため、東北地方の広域活動を特徴とする本事業により、がん薬物療法に関するネットワークを通じた支援の必要性が高いが、課題を解決するために、辞意財要請を含めた更なる活動が必要である。

公開日・更新日

公開日
2016-08-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201221033C

成果

専門的・学術的観点からの成果
21世紀になってからのがん化学療法の進歩は目覚ましいが、標準治療を提供する地域の医療機関格差はむしろ以前より拡大している。日常診療の現場での標準治療に関する化学療法の均てん化は、質の高い臨床試験を地域で行う上で重要である。このため、地方で医療機関のネットワークをつうじて化学療法の均てん化と臨床試験を推進することはわが国の化学療法の更なる進歩のために重要である。この事業では東北地方に於ける化学療法の均てん化が推進された。
臨床的観点からの成果
専門医(とりわけ日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医)が不在の病院では、化学療法の院内の管理体制が不十分である場合が多く、レジメンの審査体制や登録制が遅れているほか、電子化が遅れているため、治療の質や安全性の担保に課題がある。このような病院が利用できるような代表的ながんの治療レジメンを作成して東北がんネットワークのHPに公開したほか、症例検討会で個々の患者の治療戦略を専門医がアドバイスできる仕組みを構築したことは大きな成果である。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本事業での成果である、統一レジメンの公開、症例相談が可能なバーチャルな仕組みの構築、医療従事者や患者・市民への啓発活動、個別化医療推進のための試みやアンケート調査による実態把握は、国のがん対策基本法やがん対策推進基本計画で求められているがん治療、とりわけ化学療法の医療水準の向上と均てん化に貢献するものである。また、第2期宮城県がん対策推進計画の策定に調査結果が採用された。
その他のインパクト
市民公開講座で市民に化学療法に関する知識のみならず臨床試験の啓発を行ったほか、医療従事者や患者向けの化学療法に関するDVDを作成し教材として全国のがん診療連携拠点病院に送付したことは、全国のがん医療水準の均てん化に貢献する成果である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
57件
その他論文(和文)
43件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
116件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
第2期宮城県がん対策推進計画に調査データ(地域のがん専門医療従事者数)が採用された。
その他成果(普及・啓発活動)
8件
市民公開講座や医療従事者研修会など

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2016-06-17

収支報告書

文献番号
201221033Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,500,000円
(2)補助金確定額
9,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,899,035円
人件費・謝金 2,675,688円
旅費 426,690円
その他 2,498,691円
間接経費 0円
合計 9,500,104円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-08-05
更新日
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