入院患者への看護の必要性を判定するためのアセスメント(看護必要度)項目の妥当性に関する研究

文献情報

文献番号
201205008A
報告書区分
総括
研究課題名
入院患者への看護の必要性を判定するためのアセスメント(看護必要度)項目の妥当性に関する研究
課題番号
H24-特別-指定-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
筒井 孝子(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋森 好子(東京都看護協会)
  • 田中 彰子(山梨県立大学 看護学部)
  • 西川 正子(国立保健医療科学院 研究情報支援センター)
  • 東野 定律(静岡県立大学 経営情報学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 現在、一般病棟では、「一般病棟用の重症度・看護必要度」を用いて、患者の状態を看護師が毎日、測定を行っており、これらの測定結果から得られた得点を基に、A項目2点以上かつ、B項目3点以上の患者の入院患者に占める割合が10%以上の医療機関には、7対1入院基本料を算定できるとの基準が用いられてきた。H24の診療報酬改定では、この患者割合を15%以上とし、算定基準をはじめて見直したところである。このため、この影響についての検証が求められている。
 一方、この影響だけでなく、せん妄や認知症などの患者に対する看護を評価する項目が含まれていないため、看護の手間が反映されていないといった中医協委員からの意見があり、これらを勘案した新たな測定項目、あるいは、基準の検討もすべきとされ、この検証が求められている。
 そこで本研究では、これらの7対1の届け出病院等における患者の実態を明らかにし、とくに、現行の看護の必要量に影響を与えている高齢患者の属性や、医療的処置の有無、認知症に対するケアの実際についての基礎資料を提供することを目的とした。
研究方法
 本研究では、第1に、いわゆる一般急性期病棟における患者の看護必要度データ及び患者情報(状態像)を個人を特定できない電子データとして収集し、これらをデータベース化した。
第2に、これらのデータベースから、とくに、7対1、10対1の病棟等の患者の状態や、提供されている処置の測定結果に関する統計学的分析を実施した。
第3に、これらのデータベースから任意の患者群に対して、看護職員が提供している看護、介護時間を測定したデータを収集し、患者の属性データと連結し、看護必要度の評価項目と看護師が提供した時間との関連性を検討した。
 第4に、これらのデータベースに含まれていた認知症を併発して入院していた患者について看護師が提供したケア内容とその時間を認知症状が発症していない患者と比較し、その差異を統計学的な手法を用いて分析した。
 第5に、これらの調査を実施した病院の看護師の勤務状況等のデータを収集し、患者に対応していた看護師の勤務実態との関係を分析し、患者の状態と看護師の提供ケア量との整合性を検討した。
 第6として、本研究では、現在、測定されている看護必要度の評価項目や、これに関連する看護管理システムについて、臨床家らの意見を聴取し、専門家や学識経験者から組織される委員会において詳細な検討を行った。
結果と考察
現行の診療報酬に用いられている看護必要度におけるアセスメント項目の追加・削除項目について項目を見直した結果、「一般病棟用重症度・看護必要度評価指標」に対しての追加・削除の項目(案)が示された。その内容は、以下の通りであった。

【追加項目】(案)
A項目
・蘇生術の施行,広範・複雑なスキンケア,酸素飽和度の持続モニタリング,専門的な治療・処置2,特殊な治療法等2

B項目
・床上安静の指示,移動方法,他者への意思伝達,診療・療養上の指示が通じる,危険行動,身体的な症状の訴え,計画に基づいた10分間以上の指導,計画に基づいた10分間以上の意思決定支援,その他(緊急入院の有無、個室管理の有無)

【削除項目】(案)
A項目 時間尿測定,B項目 なし

 また、同時に統計学的な手法を用いてA・B項目の妥当性について検討を行った結果、処置が「あり」の頻度が非常に少なく頻度が1%未満のA項目として、「動脈圧測定」、「中心静脈圧測定」、「特殊な治療法」、「肺動脈圧測定」は、患者の重症度との関連性は低く、これらの項目が削除されても現行の判定には、影響がないことが推察された。
 一方、B項目については、能力の順序関係の影響を勘案し、縮約をすることが可能との結果を得た。ただし、臨床的には、B項目として、コミュニケーションに係る項目等を増やしてほしいとの強い要望があった。このため、今後、評価する項目をどのように縮約あるいは、追加していくかについては、さらに大規模データの分析等の検討が必要である。
 さらに、認知症に係る看護必要度のアセスメント項目を追加してほしいとの臨床的意見は少なくなかった。しかし、すでに「重症度・看護必要度」では、A得点と同様に、B得点においても認知症あり群のほうで有意に得点が高いことが明らかにされており、すでに患者の認知症の有無を反映していると考えられた。
結論
 本研究の結果は、今後、厚生労働省保険局医療課が実施している患者調査やDPCに係る調査結果と共に、看護の必要量に関する見直し資料として、入院医療等調査・評価分科会資料に反映されることになる。また今後、中医協で議論がなされる予定の急性期入院医療や慢性期医療の在り方を議論する際の資料として、提供される予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-07-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201205008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
看護必要度を用いた適正な傾斜配置のための各病院の取り組み状況からは、看護必要度データを分析し、これを看護管理に用いることは、実効性が高い病棟運営に寄与できていることが改めて示された。しかし、看護必要度の評価の根拠となる記録の考え方については、今後、適切な記録の在り方に関して標準化とその記録方法を定着させるための指導・研修が必要なことが示された。
臨床的観点からの成果
急性期病院における看護・介護ケア時間の分析結果からみた認知症看護に関するアセスメント項目については、認知症で、これに加えて急性増悪の状態となっていた高齢患者においては、A、B共に看護必要度の評価項目によって、その状態の悪さを弁別できることが、その看護必要度得点からわかることが示されており、認知症の患者の状態は、看護必要度の得点に反映されていないという意見は、根拠のないものであったことが明らかにされた。
ガイドライン等の開発
平成25年6月の中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会)において、本研究の成果が参考資料として提出された。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果は、今後、厚生労働省保険局医療課が実施している患者調査やDPCに係る調査結果と共に看護の必要量に関する見直し資料として、入院医療等調査・評価分科会資料に反映された。平成26年度診療報酬改定時に中医協で議論がなされたの急性期入院医療や慢性期医療の在り方を議論する際の資料としても活用された。また、平成28年度の診療報酬改定にむけた調査において、本研究成果が基礎資料として活用されている。
その他のインパクト
認知症の看護に関する研究結果については、現在、国家戦略としてすすめられている入院患者における介護技術の新たな在り方を検討する際の資料とされた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-23
更新日
2018-05-23

収支報告書

文献番号
201205008Z