家族政策および労働政策が出生率および人口に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
199800030A
報告書区分
総括
研究課題名
家族政策および労働政策が出生率および人口に及ぼす影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1973年以来すでに20年以上続く出生率の低下と出生数の減少が今後もなお継続するのか否か全く予断を許さない。出生率が今日の状況のまま低迷するならば、日本は21世紀の半ばには超高齢社会となり、人口急減社会となる。今日、各方面で、この出生率低下にどのように対処すべきか政策的論議が高まっている。本研究は、今日の出率低下の主要な要因と考えられる四つの要因、すなわち、居住コスト、育児コスト、女子労働、ジェンダー関係をとりあげ、それについて理論的、実証的検討を加えるとともに、出生力の総合化モデルを構築することによって、出生率に対する政策変数の効果を測定することを目的とする。
研究方法
本年度は、初年度における各研究分野別委員会、すなわち、居住コスト委員会、育児コスト委員会、女子労働委員会、ジェンダー委員会、総合化モデル委員会の文献サーベイに基づく理論的検討と仮説の構築、実証研究のための準備作業、2年度目の入手可能な官庁統計データを用いた各分野ごとの予備的実証分析をふまえ、各分野ごとに、実証分析をさらに推し進めるとともに総合的な結論を出すように努めた。
結果と考察
1.本年度は、低出生率の4つの要因について、入手可能なデータを用いて統計的分析を行い以下のような分析結果を得た。
1.居住コストと結婚・出生力との関係:(1)居住の安定性を高めること、すなわち、持家あるいは低廉な借家を豊富に供給し、住宅の選択肢を拡げ、(2)居住の間取りや広さについても選択肢を拡げ、(3)親族同居を可能にする間取りや広さの住宅を確保することが出生率を高める可能性がある。
2.子育て費用と出生力の関係:ベッカー流の出生力モデルがある程度当てはまるところから、育児の直接コスト、特に住宅コストを低下させる対策、ならびに育児の機会費用、すなわち女性の仕事と育児の両立負担コストを低下させる対策(例えば保育サービスの拡充)が出生率を高める可能性がある。
3.女子労働と出生力に関する関係:企業の(仕事と育児)両立支援としては、資金面の援助と時間的な自由度を高める援助の2種類があり、第1の資金面の援助については、企業にとっては両立支援策がコストよりもベネフィットが大きければ企業も支援策の採用が容易であり、機会費用は小さくなる(教員訓練費が無駄にならない、優秀な人材が応募するなど)。第2に、時間的な自由度を高める企業サポート、たとえば職業能力の維持・向上措置、労働時間の繰り上げ・繰り下げ措置、フルタイマーからパートタイマーへの転換などは、出生率にとっても継続就業にとっても有利に働く。
4.ジェンダーと出生力に関する関係:「結婚・出産・育児コスト感」の軽減が急務であり、そのためには、第1に出産・医療システムのなかにリプロダクティブライツ/ヘルスの観念を殖えつけ、女性の生涯健康という観点に立ったシステムに組み直す、また地域の実情に則した育児サポート・システムを整備する、第2に「男性は稼ぎ手、女性=主婦」という固定的な性役割を前提としたジェンダーシステムを変革する、第3に、学校教育や市民教育を通じて新しいジェンダー意識やリプロダクティブ・ライツ/ヘルスの懸念を普及させる、などの施策の推進が出生率を高める可能性がある。
結論
出生率に対する各要因ごとの統計的実証分析の結果からは、(1)住宅事情の改善(特に住宅の選択肢を拡げること)、(2)住宅コストの低減と保育サービスの拡充、(3)政府による仕事と育児の両立支援策が企業にとってもメリットがあるようにすること、および企業による労働時間の弾力化、(4)出産医療システムにおいてリプロダクティブ・ライツ/ヘルスの観点を定着させ、「男性は稼ぎ手、女性は主婦」というジェンダーシステムを変革することなどの施策が、出生率の向上に有利に働く可能性のあることが示唆された。

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