食品添加物等における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究

文献情報

文献番号
201131009A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
能美 健彦(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 青木康展(国立環境研究所 環境リスク研究センター)
  • 續 輝久(九州大学大学院 医学研究院)
  • 安井 学(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 山田雅巳(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 松田知成(京都大学大学院 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般に発がん物質は、遺伝毒性に基づき発がん性を示す遺伝毒性発がん物質物質と、ホルモン作用のように非遺伝的なメカニズムで発がんを促進する非遺伝毒性発がん物質に分類され、遺伝毒性発がん物質については、その作用には閾値がないと考えられている。だが、ヒトはさまざまな生体防御機能(解毒代謝、DNA修復、損傷部位の乗り越えDNA合成等)を備えており、これらが低用量での遺伝毒性物質の作用を抑制し「実際的な閾値」を形成する可能性が考えられる。本研究では、生体防御機能の「実際的な閾値」形成への関与の可能性を検討することを主な目的とした。
研究方法
解毒代謝能を欠損したNrf2欠損マウス、DNA修復能を欠損したMutyh欠損マウス、TLS活性に関わるDNAポリメラーゼζを欠損したヒト細胞を用いて、生体防御機能が「実際上の閾値」形成に寄与する可能性を検討することを主な目的とした。また1分子の酸化DNA損傷をヒト染色体の特定箇所に導入する手法を開発することにより、1分子のDNA損傷が変異に結びつくか否かを検討した。
結果と考察
小麦粉の改良剤として使用されている臭素酸カリウム(KBrO3)を、Nrf2欠損マウスと野生型マウスに飲水投与し、Nrf2欠損マウスが高い致死感受性を示すことを確認した。Mutyh欠損マウスのKBrO3に対する発がん感受性を低用量域において検討し、用量効果関係を検討することにより、Mutyh以外にもKBrO3に対する「事実上の閾値」に関与している因子がある可能性を示唆した。またTLS活性を欠損したPolζ欠損ヒト細胞が多様な遺伝毒性発がん物質に対して高い感受性を示すことを明らかにした。さらに1分子の8-オキソグアニンをヒト染色体の特定箇所に導入する手法を確立し、閾値の可能性について論議した。これらの研究成果を国内外に発信し、討論を深めるため、平成23年11月23日に東京において「第二回遺伝毒性発がん物質の閾値に関する国際シンポジウムを開催した。
結論
解毒代謝(Nrf2)、DNA修復(Mutyh)、TLS(Polζ)に関与する遺伝子を不活化させたマウスあるいはヒト細胞を用い、遺伝毒性物質に対する感受性を検討し、それぞれが感受性要因として重要な役割をはたし、遺伝毒性発現に関する「事実上の閾値」形成に関与している可能性を示唆した。

公開日・更新日

公開日
2012-05-23
更新日
-

文献情報

文献番号
201131009B
報告書区分
総合
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
能美 健彦(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 青木康展(国立環境研究所環境リスク研究センター)
  • 續 輝久(九州大学大学院医学研究院)
  • 安井 学(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 )
  • 山田雅巳(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 )
  • 松田知成(京都大学大学院工学研究科)
  • 本間正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 )
  • 長尾美奈子(慶応義塾大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
規制科学の分野において、発がん物質は、遺伝毒性作用の有無により、遺伝毒性発がん物質と非遺伝毒性発がん物質に分類される。遺伝毒性発がん物質とは、DNAと反応し突然変異を誘発することによりがん化を促進する物質であり、遺伝毒性発がん物質の作用には閾値がないとされ、どのように低用量であってもヒトに発がんリスクを負わせるものとして規制が行われている。しかし、ヒトには、さまざまな生体防御機構が存在しており、遺伝毒性発がん物質であっても、低用量であればその作用を低減し、「実際的な閾値」を形成する可能性が考えられる。本研究班では、遺伝的に改変されたマウス、ヒト細胞を用い、遺伝毒性物質の実際的な閾値形成のメカニズムを検討することを主な目的とした。
研究方法
解毒代謝(Nrf2遺伝子)、DNA修復(Mutyh遺伝子)、トランスリージョンDNA合成に関わるDNAポリメラーゼκ(Polκ)あるいはDNAポリメラーゼζ(Polζ)に遺伝的修飾を加えたマウスあるいはヒト細胞株を用いてメカニズムの面から遺伝毒性の閾値について検討を加えた。また、1分子の8-オキソグアニン(8-oxo-Gua)をヒト染色体の特定箇所に導入し、その変異原性を精査した。
結果と考察
Nrf2欠損マウスは、酸化ストレスを誘発する臭素酸カリウム(KBrO3)に対し高い致死感受性を示した。Mutyh 欠損マウスは、KBrO3の発がん作用に対して高い感受性を示したが、低用量域では腫瘍数の有意な増加は観察されず、Mutyh以外にも酸化ストレス発がん物質の閾値形成に関与する因子のあることを示唆した。Polκ 欠損細胞は過酸化水素に高い感受性を示し、Polζ 欠損細胞は、KBrO3をはじめ多様な遺伝毒性発がん物質に感受性を示した。ヒト細胞に導入した8-oxo-Guaの約80%は変異を誘発せず、この原因としてはDNA修復や8-oxo-Guaの向かい側に正しいシトシンを挿入する誤りのないトランスリージョンDNA合成が考えられた。これらの研究成果を討論するため、平成23年11月に東京において「第二回遺伝毒性発がん物質の閾値に関する国際シンポジウムを開催した。
結論
遺伝毒性発がん物質の閾値の形成には、生体防御機能(解毒代謝、DNA修復、トランスリージョンDNA合成)が関与している可能性が示唆された。1分子の8-oxo-Guaをヒト細胞に導入することにより、遺伝毒性発がん物質に「絶対的な閾値」はないこと、また、全ての8-oxo-Guaが突然変異に結びつくわけではないことが示された。国際シンポジウム開催により国内外の閾値に関する意見が集約された。

公開日・更新日

公開日
2012-05-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201131009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遺伝毒性発がん物質の閾値形成に、生体防御機能(解毒代謝、DNA修復、トランスリージョンDNA合成)が関与している可能性を示した。DNA修復、解毒、トランスリージョンDNA合成に関与する遺伝子を欠損させたマウス、ヒト細胞が閾値メカニズムの解明に有用であることを示した。国際シンポジウム開催により国内外の閾値に関する意見を集約した。
臨床的観点からの成果
本研究は臨床研究ではなく、臨床的観点からの成果はない。
ガイドライン等の開発
OECD遺伝毒性試験ガイドラインのイントロダクション部分に、遺伝毒性発がん物質の閾値に関する記載(遺伝毒性物質であっても「事実上の閾値」が存在する可能性があること)を追記するように提言し、原案の英文をオランダの担当者へ送付した。
その他行政的観点からの成果
高用量で遺伝毒性陽性の結果を示しても低用量では陰性となる物質については、ヒトに対する遺伝毒性上の懸念が低い場合のあることを示唆した。遺伝毒性により発がん性を示す物質は、食品添加物、農薬、動物用医薬品としてはADI(一日許容摂取量)が設定されないため、発がん標的臓器で遺伝毒性を検出する試験法に対する行政的な需要が高くなっており、本研究の成果が重要性を増している。
その他のインパクト
平成25年7月2日に韓国ソウルで開催された「国際トキシコロジー学会(IUTOX2013)」において「遺伝毒性発がん物質の閾値に関するシンポジウム」を開催した。また平成25年11月にブラジル、イグアスで開催された国際環境変異原学会(ICEM)において閾値シンポジウムを開催し招待講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
62件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
10件
学会発表(国内学会)
128件
学会発表(国際学会等)
60件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
平成23年11月23日に東京において「第二回遺伝毒性発がん物質の閾値に関する国際シンポジウム」を開催した。英国環境変異原学会の閾値シンポジウムで講演した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
N. Niimi, A. Sassa, A. Katafuchi et al.
The steric gate amino acid tyrosine 112 is required for efficient mismatched-primer extension by human DNA polymerase kappa
Biochemistry , 48 , 4239-4246  (2009)
10.1093/nar/gkp1095
原著論文2
A. Katafuchi, A. Sassa, N. Niimi et al.
Critical amino acids in human DNA polymerases η and κinvolved in erroneous incorporation of oxidized nucleotides
Nucleic Acids Res. , 38 , 859-867  (2010)
10.1093/nar/gkp1095
原著論文3
N. Toyoda-Hokaiwado, T. Inoue, K. Masumura et al.
Integration of in vivo genotoxicity and short-term carcinogenicity assays using F344 gpt delta transgenic rats: in vivo mutagenicity of 2,4-diaminotoluene and 2,6-diaminotoluene structural isomers
Toxicol. Sci. , 114 , 71-78  (2010)
10.1093/toxsci/kfp306
原著論文4
M. Yamada, K. Matui, A. Katafuchi et al.
Development of tester strains deficient in Nth/Nei DNA glycosylases to selectively detect the mutagenicity of oxidized DNA pyrimidines
Genes and Environ. , 31 , 69-79  (2009)
原著論文5
A. Sassa, N. Niimi, H. Fujimoto et al.
Phenylalanine 171 is a molecular brake for translesion synthesis across benzo[a]pyrene-guanine adducts by human DNA polymerase kappa
Mutat. Res. , 718 , 10-17  (2011)
10.1016/j.mrgentox.2010.11.002
原著論文6
K. Masumura, Y. Sakamoto, M. Ikeda et al.
Antigenotoxic effects of p53 on spontaneous and UVB-induced deletions in the epidermis of gpt delta transgenic mice
Environ. Mol. Mutagen. , 52 , 244-252  (2011)
10.1002/em.20610
原著論文7
A. Katafuchi and T. Nohmi
DNA polymeraseds involved in the incorporation of oxidized nucleotides into DNA: the efficiency and template base preference
Mutat. Res. , 703 , 24-31  (2010)
10.1016/j.mrgentox.2010.06.004
原著論文8
A. Yamamoto, Y. Sakamoto, K. Masumura et al.
Involvement of mismatch repair proteins in adaptive responses induced by N-methyl-N’-nitro-N-nitrosoguanidine against γ-induced genotoxicity in human cells
Mutat. Res. , 713 , 56-63  (2011)
10.1016/j.mrfmmm.2011.05.014
原著論文9
N. Toyoda-Hokaiwado1, Y. Yasui, M. Muramatsu et al.
Chemopreventive effects of silymarin against 1,2-dimethylhydrazine plus dextran sodium sulfate-induced inflammation-associated carcinogenicity and genotoxicitiy in the colon of gpt delta rats
Carcinogenesis , 32 , 1512-1517  (2011)
10.1093/carcin/bgr130
原著論文10
T. Nohmi, M. Yamada and K. Masumuraa
in vivo approaches to identify mutations and in vitro research to reveal underlying mechanisms of genotoxic thresholds
Genes and Environ. , 34 , 146-152  (2012)
10.1093/nar/gkp1095
原著論文11
T. Nohmi, M. Honma, M. Yamada et al.
2nd International symposium on genotoxic and carcinogenic thresholds
Genes and Environ. , 34 , 141-145  (2012)
10.1093/nar/gkp1095
原著論文12
M. Yamada, M. Shimizu, A. Katafuchi et al.
Escherichia coli DNA polymerase III is responsible for the high level of spontaneous mutations in mutT strains
Mol. Microbiol. , 86 , 1364-1375  (2012)
10.1111/mmi.12061

公開日・更新日

公開日
2016-04-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201131009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,000,000円
(2)補助金確定額
20,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,462,244円
人件費・謝金 1,535,692円
旅費 1,849,981円
その他 7,153,399円
間接経費 0円
合計 20,001,316円

備考

備考
預金利息

公開日・更新日

公開日
2016-07-04
更新日
-