気分障害の神経病理学に基づく分類を目指した脳病態の解明

文献情報

文献番号
201122003A
報告書区分
総括
研究課題名
気分障害の神経病理学に基づく分類を目指した脳病態の解明
課題番号
H21-こころ・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 精神疾患動態研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 神庭 重信(九州大学 医学部 精神医学)
  • 山下 英尚(広島大学 医学部 精神医学)
  • 村山 繁雄(東京都健康長寿医療センター研究所 神経病理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
11,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 うつ病は、大きな社会負担、急増する患者数等から社会問題となっているが、双極スペクトラム、非定型うつ病、血管性うつ病など、多様な病型が存在し、その診療には混乱も生じている。本研究の目的は、遺伝要因、早期養育環境、ストレス、加齢、動脈硬化などのうつ病の危険因子によって引き起こされる脳病態を、死後脳研究、脳画像解析、疫学研究、および動物モデルにおける神経科学的解析などによって明らかにし、脳病態に応じた気分障害の分類を目指すことである。
研究方法
 動物実験では、ミトコンドリアDNA変異が脳内に蓄積するモデルマウスを用いて、ミトコンドリアDNA蓄積を指標として、気分障害類似の行動異常と関連する脳の異常を同定すると共に、こうした変化を可視化する技術を開発する。
 また、うつ病の原因脳部位を探索するため、免疫賦活モデルを用いて、行動変化を観察すると共に、ミクログリア活性化の分布と時間経過を観察する。
 脳卒中患者における、定量的MRIを用いて、病変部位と症状の関連を検討する。
 また、高齢者ブレインバンクの登録症例で、気分障害の調査を行うと共に、新たな剖検例について、神経病理学的検索を行う。

結果と考察
 平成23年度は、ミトコンドリアDNA異常を持つモデルマウスにおいて、視床の神経病理学的変化を、免疫組織化学的手法により検討すると共に、人における染色方法を確立した。
 また、脳卒中患者におけるMRI構造画像を用いた検討により、抑うつと関係のある脳領域として、新たに、橋を含む脳幹部、左大脳基底核、左前頭葉皮質が見いだされた。
 うつ病の原因に関わる脳部位を同定するため、免疫賦活によるうつ病モデルを検討し、視床下部において、ミクログリア活性化が遷延していることを見いだした。
 また、高齢者ブレインバンクで蓄積された症例の精神医学的診断を後方視的に行い、11例の大うつ病性障害患者を見いだした。これらの症例では、脳血管障害、神経原線維変化などの神経病理学的変化を認めた。
 これらの結果から、気分制御に関わる脳部位における種々の病変が気分障害の病態に関与していることが示唆された。

結論
 これまでのうつ病研究では、抗うつ薬の作用機序などに注目される場合が多く、脳のどのような病理学的異常が生じるのかは、わかっていなかった。
 本研究の結果、気分障害に気分制御にかかわるさまざまな脳部位における、脳血管病変、変性など、種々の病変が関与していることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122003B
報告書区分
総合
研究課題名
気分障害の神経病理学に基づく分類を目指した脳病態の解明
課題番号
H21-こころ・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 精神疾患動態研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 神庭 重信(九州大学 医学部)
  • 山下 英尚(広島大学 医学部)
  • 村山 繁雄(東京都健康長寿医療センター研究所 神経病理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、うつ病の脳病態を明らかにし、脳病態に応じた気分障害の分類を目指すことである。
研究方法
 動物実験では、モデルマウスを用いて、気分障害と関連する脳の異常を同定する。
 また、うつ病の原因脳部位を探索するため、抗うつ薬投与によりc-fos反応が変化する脳部位を探索する。さらに、免疫賦活モデルを用いて、ミクログリア活性化の分布を観察する。
 地域疫学研究では、うつ病と耐糖能異常や認知機能障害との関係を調べる。
 脳卒中患者における、定量的MRIを用いて、病変部位と症状の関連を検討する。
 また、高齢者ブレインバンクの登録症例で、気分障害の調査を行うと共に、新たな剖検例について、神経病理学的検索を行う。
結果と考察
 ミトコンドリアDNA異常を持つモデルマウスにおいて、前頭辺縁系、視床室傍核などにおけるミトコンドリアDNA蓄積を見出すとともに、これを免疫組織化学的手法により確認した。さらに、人においてこうした病変を可視化する免疫組織化学的方法を確立した。
 ストレスおよび免疫賦活によるうつ病モデルでは、前頭辺縁系および視床下部等の諸部位がうつ病の症状発現に関連すると考えられた。
 疫学研究では、男性で、メタボリック症候群がうつ病の危険因子となることが示唆された。
 また、脳卒中患者におけるMRI構造画像を用いた検討により、抑うつと関係のある脳領域として、新たに、橋を含む脳幹部が見いだされた。
 また、高齢者ブレインバンクで蓄積された症例の精神医学的診断を後方視的に行い、11例の大うつ病性障害患者を見いだした。これらの症例では、脳血管障害、神経原線維変化などの神経病理学的変化を認めた。
結論
 この3年間の研究によって、気分障害において、気分制御に関わる脳内諸部位(脳幹部モノアミン神経核、視床下部、視床、前頭葉など)における、種々の神経病理学的変化(脳梗塞等の脳血管病変、神経原線維変化などの神経病理学的変化、ミクログリアの活性化、ミトコンドリア異常など)がその病態に関与していることが示唆された。
 現状では、精神疾患患者の剖険例は少なく、死後脳集積はほとんど行われていないが、本研究の結果は、今後、気分障害を初めとする精神疾患患者の死後脳を集積するブレインバンクを設立し、研究を推進することが必要であることを示している。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
気分障害に関する神経病理学的研究のプロジェクトは希有なものと思われるが、本研究の成果により、気分障害の一部では、既知の神経病理学的変化を伴う場合があるが、障害される部位には特徴がある可能性があることが示唆された。
臨床的観点からの成果
気分障害でも、神経変性、脳血管障害などの病変を持つケースがあることは、今後、気分障害患者の剖検を推進し、神経病理学的検索をしっかりと行う必要があることを示している。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果により、気分障害患者の死後脳を調べることは、生物学的研究のためのみならず、適正な診療のためにも不可欠であることが示された。現在、気分障害患者は多くの場合、剖検されておらず、我が国では気分障害患者死後脳の神経病理学的な検索は、ほとんど行われていない。今後、気分障害を初めとする精神疾患患者の死後脳集積を組織的に推進する事業の展開が必要であることが示された。
その他のインパクト
朝日新聞2011年12月9日人脈記「100万人のうつ」で、我々の気分障害研究の状況が、精神疾患死後脳研究の重要性と合わせて取り上げられた。
2010年12月24日日経産業新聞「躁鬱症状抑える物質」として我々の気分障害研究の成果が報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
18件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sugawara H, Iwamoto K, Bundo M, et al.
Effect of mood stabilizers on gene expression in lymphoblastoid cells.
J Neural Transm.  (2010)
原著論文2
Ishibashi K, Saito Y, Murayama S, et al.
Validation of cardiac (123)I-MIBG scintigraphy in patients with Parkinson's disease who were diagnosed with dopamine PET.
Eur J Nucl Med Mol Imaging.  (2010)
原著論文3
Kubota M, Kasahara T, Iwamoto K, et al.
Therapeutic implications of down-regulation of cyclophilin D in bipolar disorder.
Int J Neuropsychopharmacol.  (2010)
原著論文4
Fuke S, Kubota-Sakashita M, Kasahara T, et al.
Regional variation in mitochondrial DNA copy number in mouse brain.
Biochim Biophys Acta.  (2010)
原著論文5
Yamashita H, Fujikawa T, Takami H, et al.
Long-term prognosis of patients with major depression and silent cerebral infarction.
Neuropsychobiology.  (2010)
原著論文6
Ishibashi K, Kanemaru K, Saito Y, et al.
Cerebrospinal fluid metabolite and nigrostriatal dopaminergic function in Parkinson's disease.
Acta Neurol Scand.  (2010)
原著論文7
Hama S, Yamashita H, Yamawaki S, et al.
Post-stroke depression and apathy: Interactions between functional recovery, lesion location, and emotional response.
Psychogeriatrics.  (2011)
原著論文8
Sawa M, Yamashita H, Fujimaki K, et al.
Depressive symptoms and apathy are associated with psychomotor slowness and frontal activation.
Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci.  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201122003Z