統合失調症の多次元生物学的診断法と新たな治療薬の開発をめざした病態解明研究

文献情報

文献番号
201122002A
報告書区分
総括
研究課題名
統合失調症の多次元生物学的診断法と新たな治療薬の開発をめざした病態解明研究
課題番号
H21-こころ・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
功刀 浩(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤典子(国立精神・神経医療研究センター病院 放射線診療部)
  • 石川正憲(国立精神・神経医療研究センター病院 第一病棟部)
  • 沼川忠広(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部 )
  • 尾崎紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科細胞情報医学専攻脳神経病態制御学講座)
  • 岩田仲生(藤田保健衛生大学医学部)
  • 那波宏之(新潟大学脳研究所・基礎生物学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
16,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、最先端の脳科学的手法・生物学的手法を用いて、統合失調症の多次元生物学的診断法の確立を行うとともに、遺伝子研究・機能解析によってバイオマーカーや治療法の開発を行うことを目的とする。
研究方法
統合失調症、うつ病、健常者を対象に詳細な認知機能テストバッテリー(知能検査WAIS-R、ウエックスラー記憶力検査、実行機能など)、簡易認知機能テスト(BACS)、運動機能、感覚情報処理の異常を検出するプレパルスインヒビション、ストレスホルモン系を調べるデキサメサゾン(DEX)/CRH負荷テスト、安定同位体13Cを活用した呼気ガス検査、血液中や脳脊髄液中のタンパク質やモノアミン代謝産物、MRI脳構造画像、プロトンMRSを同一被験者に施行した。鍵分子であるBDNFに注目し、統合失調症症状を惹起することで知られるPCPの培養ニューロンシナプス減少作用におけるBDNFの役割について検討した。リスク遺伝子ニューレグリン1の新生児ラット投与モデルを統合失調症モデル動物として用い、行動薬理学的解析を行った。
結果と考察
①知能検査として汎用されているWAIS-Rの下位項目スコアを指標とし比較的高い感度、特異性で統合失調症とうつ病や健常者とを判別する方法を開発した。②統合失調症では血液や脳脊髄液中のIL-6が増加していることを明らかにした。③統合失調症のリスク遺伝子としてABCA1、インターロイキン1β、NETOを同定した。④安定同位体で標識した13Cフェニルアラニンの呼気ガス検査によって統合失調症におけるフェニルアラニン代謝の低下を明らかにした。⑤MRI画像によって統合失調症とうつ病とを判別する方法を開発した。MRSによるGlx測定が統合失調症の再発のバイオマーカーとなる可能性を示唆する結果を得た。⑥PCPはNMDA受容体を介してBDNFの分泌を抑制し、シナプスを減少させることを見出した。⑥ニューレグリン1の新生児ラット投与モデルは神経発達障害、ドパミン仮説を結び付ける統合失調症モデル動物として有用であることを明らかにした。⑦テアニンが感覚情報処理を改善する可能性を示唆するデータを得た。
結論
多次元生物学的診断法の確立のためのデータベースの構築が大きく進み、鑑別診断法の開発も行った。統合失調症の有力なリスク遺伝子、動物モデル、抗精神病薬候補を見出し治療法の開発につながる知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122002B
報告書区分
総合
研究課題名
統合失調症の多次元生物学的診断法と新たな治療薬の開発をめざした病態解明研究
課題番号
H21-こころ・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
功刀 浩(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤典子(国立精神・神経医療研究センター病院 放射線診療部)
  • 石川正憲(国立精神・神経医療研究センター病院)
  • 沼川忠広(国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第三部 )
  • 尾崎紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科細胞情報医学専攻脳神経病態制御学講座)
  • 岩田仲生(藤田保健衛生大学医学部)
  • 那波宏之(新潟大学脳研究所・基礎生物学部門 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、最先端の脳科学的手法を用いて統合失調症の客観的な多次元生物学的診断システムを開発することを第一の目的とする。また、生物学的データをもつ被験者を対象に遺伝子解析を行い高次脳機能異常の分子基盤を明らかにする。治療標的分子に作用する薬物の前臨床研究や臨床研究によって新たな治療薬を開発することを第二の目的とする。
研究方法
統合失調症、気分障害患者、健常者を対象に、一連の高次脳機能検査として、WAIS-R(知能)、JART (病前知能)、WMS-R(記憶)、WCST (前頭葉機能)、これらを総合的に評価する簡易認知機能検査BACS、PPI (情報処理)等を施行した。デキサメタゾン抑制試験による神経内分泌的検討、安定同位体を用いた呼気ガス検査を行い、MRI画像、プロトンMRSを撮像した。血中サイトカイン濃度や、脳脊髄液中のモノアミン代謝産物やサイトカインを測定し、タンパク分析を開始した。遺伝子解析により、統合失調症のリスク遺伝子を探索した。グルタミン酸誘導体のテアニン(緑茶成分)の抗精神病様効果について、前臨床・臨床研究を行った。
結果と考察
統合失調症の認知機能では、記憶力、視覚ー運動処理能力、視覚性全体把握の低下が著しく、WAIS-Rの下位項目スコアを用いると、統合失調症とうつ病をおよそ80%の的中率で鑑別できた。BACSのデータベースを構築し(N=510)、統合失調症の異常を効率的に捉えられることを明らかにした。MRIによる脳構造体積と拡散テンソル画像によって、統合失調症とうつ病を80%の的中率で鑑別する方法を見出した。PPIは1100人のデータベースを構築し、統合失調症での異常を明らかにした。呼気ガス検査では、統合失調症患者でフェニルアラニン代謝の低下を見出した。血中や脳脊髄液でサイトカインIL-6が上昇していた。SEMA3D やABCA1などの有力なリスク遺伝子を見出した。テアニンが抗精神病薬作用や感覚情報処理障害改善作用をもつことを示唆する結果を得た。
結論
統合失調症における多次元の生物学的異常について膨大なデータベースを構築して明らかにし、うつ病との鑑別法の開発も行った。生物学的な方法による客観的診断システムの構築に結び付く有用な所見である。また、統合失調症の有力なリスク遺伝子や抗精神病薬候補を見出し治療法の開発につながる知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、統合失調症の認知機能の詳細な解明、安定同位体を用いた呼気ガス検査の開発を含む生化学的マーカーの発見、最先端のMRI画像解析法を用いた脳構造・機能異常の解明を行い、多次元生物学的診断法確立に資する多数の成果を得た。新たなリスク遺伝子の発見、統合失調症モデルマウスの確立、テアニンの治療薬としての有効性を示す所見も得た。これらはMol Psychiatry, Biol Psychiatry, Crebr Cortex , J Psychiatr Resなど質の高い学術誌に発表された。
臨床的観点からの成果
認知機能障害、生化学的マーカー、生理機能検査所見や脳画像解析所見等に関する結果は、統合失調症の新たな診断法や類型化のためのバイオマーカーとなることが期待でき、それによって発病ハイリスク者の同定(早期発見法)にも役立つ知見である。動物モデルの確立は統合失調症の病理的研究や創薬に役立つ。テアニンは統合失調症に対する有効な薬物であることが示され、今後、新たな治療薬として有望であることを示した。
ガイドライン等の開発
統合失調症の検査法やそれを用いたうつ病等との鑑別法として、簡易認知機能スケール日本語版(BACS-J)、知能検査WAIS-R、MRI脳画像、MRS、感覚情報処理障害をみるプレパルスインヒビション、安定同位体を用いた呼気ガス検査などの施行法について確立した。これらの精神疾患の脳科学的検査法に関する標準的施行法の一部は、「精神疾患診断のための脳形態・機能検査法」として出版した(2012年、新興医学出版)。今後、生物学的診断法と類型化のガイドラインを開発する予定である。
その他行政的観点からの成果
行政施策上示唆的な知見が多数得られた。統合失調症では治療を受けて「安定している」患者においても重い認知機能障害があり、その基盤となる脳構造異常も明らかになった。これは、現在の治療体系では根本的治療が困難であることや、統合失調症患者の社会復帰や就業が現実には困難であることを改めて浮き彫りにする。本研究によって、統合失調症の診断・治療・予防に結びつく知見が得られ、今後、早期発見法や予防法、根本的治療法が開発されれば、統合失調症患者数の減少、入院患者や入院期間の減少などにつながることが期待できる。
その他のインパクト
分担研究者の岩田らが行ったゲノムワイド研究においてNOTCH4がリスク遺伝子として同定され、その後サンプル数を増やした解析で確認され、NHKなどの各種テレビ、新聞で報道された(H24年5月30日)。テアニンの向精神作用に関する研究やPCPによるBDNFへの影響に関する研究はプレスリリースを行った。H22年度、23年度に日本統合失調症学会で学術賞、H24年4月に国際統合失調症学会の奨励賞などの受賞。「精神疾患の脳科学講義」として本研究の成果を啓蒙書として発表予定(印刷中)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
95件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
94件
学会発表(国際学会等)
37件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ninomiya M, Numakawa T, Adachi N,他
Cortical neurons from intrauterine growth retardation rats exhibit lower response to neurotrophin BDNF.
Neurosci Lett , 476 (2) , 104-109  (2010)
原著論文2
Hori H, Teraishi T, Ozeki Y,他
Schizotypal personality in healthy adults is related to blunted cortisol responses to the combined dexamethasone/corticotropin-releasing hormone test.
Neuropsychobiology , 63 (4) , 232-241  (2011)
原著論文3
Fujii T, Uchiyama H, Yamamoto N,他
Possible association of the semaphorin 3D gene (SEMA3D) with schizophrenia
J Psychiatr Res , 45 (1) , 47-53  (2011)
原著論文4
Hori H, Ozeki Y, Teraishi T,他
Relationships between psychological distress,coping styles, and HPA axis reactivity in healthy adults.
J Psychiatr Res , 44 (14) , 865-873  (2010)
原著論文5
Yoshimi A, Aleksic B, Kawamura Y,他
Gene-wide association study between the methylenetetrahydrofolate reductase gene (MTHFR) and schizophrenia in the Japanese population, with an updated meta-analysis on currently available data.
Schizophr Res , 124 (1) , 216-222  (2010)
原著論文6
Ikeda M, Tomita Y, Mouri A,他
Identification of novel candidate genes for treatment response to risperidone and susceptibility for schizophrenia: integrated analysis among pharmacogenomics, mouse expression, and genetic case-control association approaches.
Biol Psychiatry , 67 (3) , 263-269  (2010)
原著論文7
Ikeda M, Aleksic B, Kirov G,他
Copy number variation in schizophrenia in the Japanese population.
Biol Psychiatry , 67 (3) , 283-286  (2010)
原著論文8
Ikeda, M., B. Aleksic, Y. Kinoshita, T.他
Genome-wide association study of schizophrenia in a Japanese population.
Biol Psychiatry , 69 (5) , 472-478  (2011)
原著論文9
Kato T, Kasai A, Mizuno M,他
Phenotypic characterization of transgenic mice overexpressing neuregulin-1.
PLoS One , 5 (12) , 14185-  (2010)
原著論文10
Shibuya M, Komi E, Wang R,他
Measurement and comparison of serum neuregulin 1 immunoreactivity in control subjects and patients with schizophrenia: an influence of its genetic polymorphism.
J Neural Transm. , 117 , 887-895  (2010)
原著論文11
Adachi N, Numakawa T, Kumamaru E,他
Phencyclidine-Induced Decrease of Synaptic Connectivity via Inhibition of BDNF Secretion in Cultured Cortical Neurons.
Cereb Cortex  (2012)
原著論文12
Ota M, Ishikawa M, Sato N,他
Glutamatergic changes in the cerebral white matter associated with schizophrenic exacerbation.
Acta Psychiatr Scand  (2012)
原著論文13
Sasayama D, Hori H, Teraishi T,他
Possible association between interleukin-1β gene and schizophrenia in a Japanese population.
Behav Brain Funct , 7 , 35-  (2011)
原著論文14
Hori H, Teraishi T, Sasayama D,他
Relationships between season of birth, schizotypy, temperament, character and neurocognition in a non-clinical population.
Psychiatry Res , 195 (1) , 69-75  (2012)
原著論文15
Sasayama D, Wakabayashi C, Hori H,他
Association of plasma IL-6 and soluble IL-6 receptor levels with the Asp358Ala polymorphism of the IL-6 receptor gene in schizophrenic patients.
J Psychiatr Res , 45 (11) , 1439-1444  (2011)
原著論文16
Hattori K, Tanaka H, Wakabayashi C,他
Expression of Ca²⁺-dependent activator protein for secretion 2 is increased in the brains of schizophrenic patients.
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry , 35 (7) , 1738-1743  (2011)
原著論文17
Hori H, Teraishi T, Sasayama D, 他
Elevated cortisol level and cortisol/DHEAS ratio in schizophrenia as revealed by low-dose dexamethasone suppression test.
The Open Neuropsychopharmacology J , 5 , 18-24  (2012)
原著論文18
Numakawa T, Yamamoto N, Chiba S,他
Growth factors stimulate expression of neuronal and glial miR-132
Neurosci. Lett. , 505 , 242-247  (2011)
原著論文19
Kato T, Abe Y, Sotoyama H,他
Transient exposure of neonatal mice to neuregulin-1 results in hyperdopaminergic states in adulthood: implication in neurodevelopmental hypothesis for schizophrenia.
Mol Psychiatry. , 16 , 307-320  (2011)
原著論文20
Sotoyama H, Zheng Y, Iwakura Y,他
Pallidal hyperdopaminergic innervation underlying D2 receptor-dependent behavioral deficits in the schizophrenia animal model established by EGF
PLoS One , 6 (10) , 25831-  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122002Z