人工赤血球の臨床応用を目指した至適投与法の策定とGMP製造技術の確立

文献情報

文献番号
201108005A
報告書区分
総括
研究課題名
人工赤血球の臨床応用を目指した至適投与法の策定とGMP製造技術の確立
課題番号
H21-政策創薬・一般-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
堀之内 宏久(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 紘一(慶應義塾大学 医学部)
  • 酒井 宏水(早稲田大学総合研究機構)
  • 高折 益彦(東宝塚さとう病院)
  • 池田 久實(北海道赤十字血液センター)
  • 小田切 優樹(崇城大学 薬学部)
  • 高野 久輝(ニプロ(株) 総合研究所)
  • 菊地 武夫(ニプロ(株) 医薬品研究所)
  • 足立 健(防衛医科大学校 循環器内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
25,720,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工酸素運搬体のヘモグロビン小胞体(以下HbV)の臨床応用へ向けてGMP製造技術を獲得し、最適な投与法を検討する。
研究方法
①医薬品医療機器総合機構(PMDA)の行う戦略薬事相談に参加し、臨床応用にいたるロードマップを作成すること、動物モデルにおいて②持続出血性ショックにおけるHbVの投与法、還元剤による機能寿命延長、③免疫系に与える影響、④虚血心筋機能に与える影響、⑤霊長類を用いたHbVの薬物動態の確認、⑥微小環境におけるHbV投与の影響の確認、レーザー治療の補助剤の可能性の検討、⑦HbVの製造収率向上のための新規製造法の開発、⑧滅菌法及び無菌製造の最終的な考え方、⑨治験第1相試験計画の作成、⑩GMP製剤製造工程の確立を目的とした。。
結果と考察
①戦略薬事相談では事前面談を行い、臨床応用にいたる問題点を明らかとした。②持続出血性ショックで生食分散のままのHbV大量投与が可能。また、還元剤の投与によるメト化鉄分子の還元で、HbVの機能寿命の延長が可能。③HbV投与による一過性の免疫抑制は、細胞周期調整蛋白であるcyclinD3,およびD2の発現抑制が関与しており、空リポソームでも起こる。④ラット摘出潅流心においては心機能の回復を認め、HbVの酸素運搬能力による心機能の回復と考えられた。⑤アカゲザルを用いたHbV1400mgHb/kg投与による体内動態を検討し、一過性のAST,ALTの上昇を認めたが、一過性で、十分な血中滞留性を有していた。⑥マウスの背部皮下細動脈壁における酸素拡散を検討し、HbV投与は酸素拡散、細動脈壁における酸素消費に大きな影響を与えなかった。また、血管腫に対するレーザー治療への応用が可能と考えられた。⑦混錬法によるHbVの新たな製造法を開発し、効率高く製造できる(50-70%)ことが確認された。スケールアップでの検討が必要である。⑧HbVの最終滅菌工程について検討したが、無菌素材を用いた無菌製造法の開発が必要であると結論付けた。⑨第1相治験のプロトコールを策定した。⑩GMP製剤製造のためメトヘモグロビン精製を指標に保存安定性を検討、十分な脱酸素化が長期保存で有効という結果を得た。また、ヘモグロビンの精製工程で安定化と長期貯留保管が可能となるシステムを構築できること、閉鎖系による無菌製剤製造が必要であると考えられた。
結論
HbVの臨床応用では効果、効能、薬理に関しては良好な成績が得られた。GMP製造と臨床応用へ向けた環境整備が重要である。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201108005B
報告書区分
総合
研究課題名
人工赤血球の臨床応用を目指した至適投与法の策定とGMP製造技術の確立
課題番号
H21-政策創薬・一般-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
堀之内 宏久(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 紘一(慶応義塾大学 医学部)
  • 池田 久實(北海道赤十字血液センター)
  • 小田切優樹(熊本大学 薬学部)
  • 高折 益彦(東宝塚さとう病院)
  • 酒井 宏水(早稲田大学 総合研究機構)
  • 大鈴 文孝(防衛医科大学校 内科学教室)
  • 足立 健(防衛医科大学校 内科学教室)
  • 高野 久輝(ニプロ(株)総合研究所 人工臓器開発センター)
  • 甲斐 俊哉(ニプロ(株)医薬品研究所)
  • 菊地 武夫(ニプロ(株)医薬品研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では人工酸素運搬体として開発が進んでいるヘモグロビン小胞体(以下HbV)の臨床応用を目指し、GMP製造が可能となる製造、管理法を明らかにし、臨床治験に向かうために必要条件と問題点を明らかにするとともに、HbVの動物における安全性、有効性、代謝、免疫、微小循環の点でさまざまなモデルを用いて、至適投与法を検討することを目的とした。
研究方法
製剤製造、臨床応用へ向けて①安定的な試料製造、GMP製造法の検証、②最終滅菌法、③PMDAの戦略薬事相談の活用、④臨床第一相治験計画の立案を行った。
動物試験では①血液代替としての適応と投与法の開発、②免疫系への影響、③霊長類も含めた体内動態の解析④心筋保護作用の解析、⑤微小循環における酸素分散、⑥色素レーザーのターゲット物質としての治療法の検討⑦豚での投与時の反応の解析、⑧皮弁における治癒への影響を検討し、
物性の検討では、①電解質成分の透過性、②水溶性高分子(代用血漿剤)との相互作用、③HbVの配位子反応と血管活性④HbVの効率の高い製造法について検討した。
結果と考察
その結果、GMP製造・治験に至るための問題点(特定生物製剤としての基準を満たす、無菌製造工程の確立)が明らかとなった。第一相治験計画も策定した。動物試験では大量、急速投与が可能で、生食分散のままの投与でも効果を期待でき、挫滅症候群での有用性も示された。霊長類を用いた体内動態測定、豚での反応が許容範囲であり、第一相治験計画の実現可能性が期待された。HbVの投与で免疫抑制が認められるが、一過性であった。投与時の微小環境での酸素分子の移動状況が明らかとなり、HbV投与による異常は認められなかった。虚血後の心筋にもHbVの心筋保護効果が認められた。また、レーザー治療のターゲット物質となりうることが示され、また、虚血皮弁の創傷治癒に有用であった。物性の検討で、製剤製造後の分散媒電解質濃度が変化しうること、水溶性高分子を混じると凝集が起こりやすくなるが、剪断力により再分散すること、配位子反応は分子により異なり、これがHbVの血管活性と関係していることが明らかとなった。混錬法による新たな製造法は、効率が良かった。

結論
HbVの臨床応用のために、GMP製造を確立する必要がある。また、臨床応用を行う条件(特定生物由来製剤としての製造システムなど)を満たすことが必要である。動物での適合性は良好で、病的状態を含め有効性が証明された。物性面での解析でも、生体適合性が解明された。高収率の新たな製造法も開発した。今後はGMP製剤製造を行い、臨床治験へ進む体制をとることが必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201108005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヘモグロビン小胞体の臨床応用へ向けた課題は前臨床試験の成績をもとにどのような症例に適用してゆくかということと、GMP製剤製造をどのようにして達成するかということである。
動物試験では、血液代替物としての評価とともに、酸素治療薬としての効果も含め期待された結果を示し、臨床応用に期待が持てると結論した。
物性の検討と新規製造法の開発では日本の高分子集合技術の粋を集めた製剤であり、生体に適合するよう修飾が可能な点でも優れている。
GMP製剤製造及び製造に伴う周辺環境の整備は解決策が得られていない。
臨床的観点からの成果
いまだに前臨床の範疇での検討しか行っていないため、評価は難しい。
血液代替の面からは、血中での半減期が72時間程度と考えられ、緊急時の対応に優れると考えられるため、臨床でのニーズは必ずあると考えられる。
また、酸素治療薬としては、がん組織を酸素化して放射線治療の感受性を更新させる薬剤、脳虚血に対して辺縁領域を減少させうる薬剤、高次脳機能を保持する体外循環時の補てん液としての役割など、応用の幅が広い薬剤なので、一刻も早い臨床応用が望まれる。
ガイドライン等の開発
臨床応用可能なGMP製剤が準備された際に行う臨床第一相治験のプロトコールを策定した。
その他行政的観点からの成果
献血可能年齢人口の減少、輸血対象人口の増加から、献血による輸血用血液の需給状況は今後逼迫の度合いを高めてくると考えられる。
現行の輸血行政を補完する人工赤血球の開発と実用化は必須と考えられ、行政からの一段と強力な支援のもと、日本独自の技術の結晶を世界に先駆けて実現することが日本の福祉に資するものと考えられる。
その他のインパクト
2011年2月11日に平成22年度政策創薬総合研究推進事業の研究成果発表会を財団法人ヒューマンサイエンス財団の主催と血液代替物学会の後援で日赤の血液事業経営会議委員もお招きして慶應義塾大学信濃町キャンパス北里講堂で開催した。当日は雪であったため、参加者が60人弱と少なかったが、10人の演者による講演と熱心な討論が行われた。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
17件
学会発表(国内学会)
28件
学会発表(国際学会等)
32件
その他成果(特許の出願)
4件
「出願」「取得」計6件
その他成果(特許の取得)
2件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
H. Sakai, M. Okamoto, E. Ikeda, et al.
Histopathological changes of rat brain after direct injection of hemoglobin-vesicles (oxygen carriers) and neurological impact in an intracerebral hemorrhage model.
J. Biomed. Mater. Res. , 90 , 1107-1119  (2009)
原著論文2
H. Sakai, H. Horinouchi, K. Kobayashi, et al.
Hemoglobin-vesicles and red blood cells as carriers of carbon monoxide prior to oxygen for resuscitation after hemorrhagic shock in a rat model.
Shock , 31 (5) , 507-514  (2009)
原著論文3
Seishi Y, Horinouchi H, Sakai H, et al.
Effect of the cellular-type artificial oxygen carrier hemoglobin vesicle as a resuscitative fluid for prehospital treatment: experiments in a rat uncontrolled hemorrhagic shock model.
Shock , 38 (2) , 153-158  (2012)
原著論文4
S. Miyake, J. Takemura, M. Takaori.
Determination of electrolyte concentration in serum containing cellular artificial oxygen carrier (HbV).
Artif. Blood , 18 (1) , 3-8  (2010)
原著論文5
S. Miyake, J. Takemura, H. Sakai, M. Takaori.
Measurement of electrolyte concentrations in serum containing liposome vesicles.
Artif. Blood , 18 (3) , 91-95  (2010)
原著論文6
S. Miyake, H. Sakai, M. Takaori.
Effects of crystalloid and colloid osmotic pressure on HbV (liposome encapsulated hemoglobin) membrane.
Artif. Blood , 18 (4) , 128-133  (2010)
原著論文7
T Ikeda, H Horinouchi, Yorato Izumi et al.
Cellular type Hemoglobin-based Oxygen carrier as a resuscitative fluid for Hemorrhagic shock: acute and long term safety evaluation using Beagele dogs
Hemoglobin based ocygen carriers as red cell substitutes and oxygen therapeutics , 1 , 501-524  (2013)
原著論文8
K. Sou, B. Goins, M.M. Leland,
Bone marrow-targeted liposomal carriers: a feasibility study in nonhuman primates.
Nanomedicine (Lond) , 5 , 41-49  (2010)
原著論文9
H. Sakai, N. Okuda, A. Sato, et al.
Hemoglobin encapsulation in vesicles retards NO- and CO-bindings and O2-release when perfused through narrow gas-permeable tubes.
Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol , 298 , 956-965  (2010)
原著論文10
Fujihara M, Takahashi D, Abe H, Sakai H, Horinouchi H, Kobayashi K, Ikeda H, Azuma H., et al.
Primary and secondary immune responses to keyhole limpet hemocyanin in rats after infusion of hemoglobin vesicle, an artificial oxygen carrier.
Artif Organs , 38 (3) , 234-238  (2013)
10.1111/aor.12148.
原著論文11
Taguchi K, Maruyama T, Iwao Y, et al.
Pharmacokinetics of single and repeated injection of hemoglobin-vesicles in hemorrhagic shock rat model.
J Control Release , 136 , 232-239  (2009)
原著論文12
Taguchi K, Ogaki S, Watanabe H, et al.
Fluid resuscitation with hemoglobin vesicles prevents Escherichia coli growth via complement activation in a hemorrhagic shock rat model.
J Pharmacol Exp Ther. , 337 (1) , 201-208  (2011)
原著論文13
E. Tsuchida, K. Sou, A. Nakagawa,
Artificial oxygen carriers, hemoglobin vesicles and albumin-hemes, based on bioconjugate chemistry.
Bioconjugate Chem. , 20 , 1419-1440  (2009)
原著論文14
H. Sakai, N. Miyagawa, H. Horinouchi,
Intravenous injection of Hb-vesicles (artificial oxygen carriers) after hemodilution with a series of plasma expanders (water-soluble biopolymers) in a rat repeated hemorrhage model.
Polymers Adv. Technol. , 22 , 1216-1222  (2011)
原著論文15
K. Taguchi, M. Miyasato, H. Ujihara, et al.
Hepatically-metabolized and -excreted artificial oxygen carrier, hemoglobin-vesicles, can be safely used under conditions of hepatic impairment.
Toxicol. Appl. Pharmacol. , 248 , 234-241  (2010)
原著論文16
K. Taguchi, Y. Iwao, H. Watanabe, et al.
Repeated injection of high dose of hemoglobin encapsulated liposomes (hemoglobin- vesicles) induces accelerated blood clearance in a hemorrhagic shock rat model
Drug Metab. Dispos. , 39 , 484-489  (2011)
原著論文17
K. Taguchi, M. Miyasato, H. Watanabe, et al.
Alteration in the pharmacokinetics of hemoglobin-vesicles in a rat model of chronic liver cirrhosis is associated with Kupffer cell phagocyte activity.
J. Pharmaceut. Sci. , 100 , 775-783  (2011)
原著論文18
D. Takahashi, H. Azuma, H. Sakai, et.al
Phagocytosis of liposome particles by rat splenic immature monocytes makes them transiently and highly immunosuppressive in ex vivo culture conditions.
J. Pharmacol. Exp. Therap , 337 (1) , 42-49  (2011)
原著論文19
J. Nakajima, M. Bessho, T. Adachi, et al.
Hemoglobin vesicle improves recovery of cardiac function after ischemia-reperfusion by attenuating oxidative stress in isolated rat heart.
J. Cardiovasc. Pharmacol. , 58 (5) , 528-534  (2011)
原著論文20
M. Yamamoto, H. Horinouchi, Y. Seishi, et al.
Fluid resuscitation of hemorrhagic shock with Hemoglobin vesicles in Beagle dogs: pilot study.
Artif. Cells Blood Substitutes Biotechnol. , 40 , 179-195  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2016-01-28

収支報告書

文献番号
201108005Z