低侵襲・ヒト幹細胞デリバリーシステムによる重症心不全治療実用化基盤技術の開発

文献情報

文献番号
201106011A
報告書区分
総括
研究課題名
低侵襲・ヒト幹細胞デリバリーシステムによる重症心不全治療実用化基盤技術の開発
課題番号
H22-再生・若手-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 一真(慶應義塾大学 医学部 外科学(心臓血管))
研究分担者(所属機関)
  • 四津良平(慶應義塾大学 医学部 外科学(心臓血管) )
  • 三好俊一郎(慶應義塾大学 医学部 内科学(循環器) )
  • 五條理志(京都府立医科大学大学院 医学研究科人工臓器・心臓移植再生医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
4,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題は、重症心不全に対するヒト幹細胞移植において、内視鏡下・低侵襲アプローチを応用することで、心筋への細胞移植を受けるレシピエントに侵襲が少なく、安全で効率的な移植システムを構築することを目的としている。
研究方法
1 心不全心に対する内視鏡下低侵襲幹細胞移植法の開発
 全身麻酔下のビーグル犬を用いて、セルディンガー法により心嚢内に内視鏡を挿入し、視野を確保したうえで、各種マニュピュレータープロトタイプを用いて、心嚢内で細胞移植シミュレーションと器具の最適化を行う。左室に青色色素の注入、ビーズの注入、ヒト胎盤由来間葉系細胞の左室20カ所へ移植する。Single portを通じた、内視鏡・細胞移植機構一体型のデバイスを用いる場合とtwo portsで心嚢内視鏡ポートとworking portを分けた場合の二通りを行い、それぞれの長所・短所を検討する。
2 ブタ幹細胞調製法の確立
 ブタ胎児付属物由来間葉系細胞について、採取法から樹立に至るまでの培養法について検証を行い、増殖能や細胞表面マーカーについて検討し、樹立した細胞の特性を明らかにする。
結果と考察
1 心不全心に対する内視鏡下低侵襲幹細胞移植法の開発
 心嚢内視鏡アプローチの検討により、左室の広範な範囲に到達することができ、ターゲットとなる心筋を確認しながら心筋への細胞移植が確実に行えることが確認された。内視鏡先端に超音波診断装置を組み込み、細胞注入針心筋内にあることを確実に見極め、細胞が心腔内に注入されないことを確認できるシステムを構築した。Single port法ではターゲットに対して細胞移植鉗子を確実に誘導することが出来たが、搭載する内視鏡カメラの大きさに制限があり、内視鏡画像の品質改良の余地があった。Two ports法では、内視鏡画像の室に問題はないものの、小さい作業スペースに、内視鏡と作業用鉗子の二つが入るため、互いに干渉して作業を円滑に進める点で難点があった。
2 ブタ幹細胞調製法の確立
 ブタ胎児付属物である胎盤および羊膜を組織学的に分類して採取し、細胞の樹立を試み、各組織より細胞を安定的に樹立する方法をほぼ確立できた。
結論
心嚢内視鏡アプローチが安全・確実に左室に細胞を移植する方法として十分に可能性のある方法であることを確認した。免疫寛容の分子機構解明にむけた検討を行い、免疫寛容と心筋分化能が相関している可能性を示唆するデータを得られたことは、今後の同種移植の実現化にむけた科学的根拠を示すための大きな突破口になるものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201106011B
報告書区分
総合
研究課題名
低侵襲・ヒト幹細胞デリバリーシステムによる重症心不全治療実用化基盤技術の開発
課題番号
H22-再生・若手-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 一真(慶應義塾大学 医学部 外科学(心臓血管))
研究分担者(所属機関)
  • 四津 良平(慶應義塾大学 医学部 外科学(心臓血管))
  • 三好 俊一郎(慶應義塾大学 医学部 内科学(循環器))
  • 五條 理志(京都府立医科大学大学院 医学研究科人工臓器・心臓移植再生医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題は、状態の悪い患者における、心筋への幹細胞移植法システム開発を行い、重症心不全治療への幹細胞移植の導入を近づける試みを行う。
研究方法
1 心不全心に対する内視鏡下低侵襲幹細胞移植法の開発
1.1 ピオグリダゾン活性化骨髄間葉系幹細胞移植(開胸アプローチ)
 雑種イヌ骨髄採取後、左側開胸にて心筋梗塞を作製、2週間の間に間葉系幹細胞を培養増殖させる。細胞を移植しないMedium群、骨髄間葉系幹細胞3-5x107個を移植するMSC群、pioglitazoneを2週間添加して培養したMSC群(pio-MSC)に無作為に振り分け、2週間後開胸し細胞を心筋梗塞部位に移植する。
1.2 心嚢内視鏡アプローチ
 ビーグル犬を用いて、心嚢内に内視鏡を挿入して心嚢内の視野を確保する。ビーグル犬の左室に青色色素の注入、ビーズの注入、ヒト胎盤由来間葉系細胞の左室20カ所への移植を試みた。完結的動脈圧ラインや心電図の解析により、手技中の血行動態の変化をモニタリングする。
2 ヒトおよびブタのにおける幹細胞調製法の確立
 ヒトおよびブタの胎児付属物由来間葉系細胞について、採取法から樹立に至るまでの培養法について検証を行う。
結果と考察
1 心不全心に対する内視鏡下低侵襲幹細胞移植法の開発
1.1 ピオグリダゾン活性化骨髄間葉系幹細胞移植(開胸アプローチ)
 MSC移植群に比して、pio-MSC移植群では有意に心筋梗塞サイズの低下を認めた。心筋梗塞周辺部では、EGFP陽性細胞に、alpha actinin陽性細胞が免疫組織化学的検討で観察され、明瞭な横紋が観察され、心筋への分化も確認された。
1.2 心嚢内視鏡アプローチ
 内視鏡先端に超音波診断装置を組み込み、細胞注入針心筋内にあることを確実に見極め、細胞が心腔内に注入されないことを確認できるシステムを構築した。
2. 幹細胞調製法の確立
 ヒト及びブタの胎児付属物である胎盤および羊膜を組織学的に分類して採取し、細胞を安定的に樹立する方法をほぼ確立できた。
結論
心嚢内視鏡アプローチは安全・確実に左室に細胞を移植する方法として十分に可能性のある方法であり、デバイス開発や手術手技の改善により、安全な手技として低侵襲細胞移植システムの整備が可能である。今後期待される多能性幹細胞(ES細胞, iPS細胞)を念頭にした移植医療への基盤研究へとつながることも期待できる。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201106011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 重症心不全治療における低侵襲細胞移植技術は、胸腔鏡アプローチ・心嚢内視鏡アプローチともに安全・確実に左室に細胞を移植する事が可能であることを確認した。胎児付属物は医療用廃棄物であるため倫理的な規制が低く細胞移植ソースとして有用であり、今回安定的に細胞を得られる方法ならびに細胞を維持培養するシステムを構築できた。
 本研究での内視鏡下・低侵襲アプローチによる移植技術と胎児付属物由来細胞の有用性とを結びつけることで、低侵襲心不全治療へとつながる基盤ができたといえる。
臨床的観点からの成果
心嚢内視鏡アプローチは全く新しいアプローチであり、技術自体が開発途上であるが、臨床応用が具体化しつつある。左心室に対する作業を行う方法として、Single port法とTwo Ports法を試たが、心嚢の作業スペースの狭さを考えるとSingle port法による移植システムの構築を軸に臨床応用を図るのが現実的である。問題点として、心嚢内への侵入時にtrauma tapにより心臓を傷つけ、出血を来すことが挙げられ、ヒトへの臨床応用を考える際には解決しなければならない。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
脳死心臓移植手術の件数が伸び悩む本邦において、重症心不全治療における切り札として心筋への細胞移植治療に寄せられる期待は大きい。その侵襲の大きさから臨床応用が進んでこなかった細胞移植治療のブレークスルーとして心嚢内視鏡アプローチによる低侵襲幹細胞移植システムとヒト胎児付属物由来間葉系細胞の組み合わせによる細胞移植医療の構築は重症心不全治療の一翼を担う治療法となり得る。本研究は厚生労働省・文部科学省が連携して行う「再生医療の実現化ハイウェイ」研究において継続して行う。
その他のインパクト
第15回日本心筋・血管新生療法研究会および第25回日本心臓血管内視鏡学会で心嚢内視鏡による低侵襲治療の試みについて学会報告し、大きな注目を浴びた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201106011Z