インターネット利用層への行動科学的HIV予防介入とモニタリングに関する研究

文献情報

文献番号
201029035A
報告書区分
総括
研究課題名
インターネット利用層への行動科学的HIV予防介入とモニタリングに関する研究
課題番号
H20-エイズ・若手-013
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
日高 庸晴(宝塚大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村由実子(橋本由実子)(関西看護医療大学 看護学部)
  • 山崎 浩司(東京大学大学院人文社会系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
MSMのネット利用層に行動変容を促すこと、HIV感染リスク行動をモニタリングすることである。今年度はインターネットによるMSMのHIV感染予防に関する行動疫学研究-全国インターネット調査の経年詳細分析-(研究1)、就労成人男性および大学生を対象としたインターネットによる行動科学的HIV予防介入の実施可能性の検討に関する研究(研究2)、MSMによるハッテン場での性交渉と交際相手との性交渉の意味づけ-コンドーム使用との関連における一考察-(研究3)を実施した。
研究方法
研究1:経年分析に用いたデータは2003年(2,062人)、2005年(5,731人)、2007年(6,282人)、2008年(5,525人)であり、MSM施設利用やインターネットの出会い系サイト利用状況に応じた分析と既存のコミュニティベースの予防介入の曝露度合いに応じた分析を主に行なった。
研究2:構造化自記式質問票を用いた横断調査を実施した。対象者とした就労成人男性(570人)はスノーボールサンプリングによるネット調査、大学生は関西圏の講義時の集合調査とした(653人)。
研究3:合目的的層化抽出および機縁法により対面で7人、メールで35人の計42人のMSMにインタビューして得たデータを統合して改めて継続比較法で分析し、文献レビューの知見と絡めて改めて考察した。
結果と考察
研究1:MSM関連施設やゲイダウンの利用状況が明確に変化しており、出会いやセックス機会のパラダイムシフトが示唆されると共に、現在はより細分化多様化されたライフスタイルがあることが窺えた。コミュニティベースの予防介入活動をよく知っている者ほどHIV抗体検査受検経験割合は2倍近く高かった。
研究2:両集団共にネット親和性は高く、ネットによる横断調査や介入は可能であると考えられたが、研究参加者のリクルートにあたっては所属機関の協力を得るなどサンプリングの工夫の必要性が示唆された。
研究3:交際相手との性交渉とハッテン場での性交渉を明確に異なるものとして位置づけていた。前者は相互信頼が意味づけの中心なためそれを脅かしうるコンドーム使用を促すことは困難と示唆され、negotiated safety概念とそれを応用した実際的コミュニケーションスキルが必要であると示唆された。
結論
今後もインターネットによる調査・介入研究の継続的実施によって、わが国のMSMにおける複合的HIV予防対策の実現に寄与することが望まれると共に、同手法の他集団への適用可能性の検討も視野に入れる必要がある。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201029035B
報告書区分
総合
研究課題名
インターネット利用層への行動科学的HIV予防介入とモニタリングに関する研究
課題番号
H20-エイズ・若手-013
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
日高 庸晴(宝塚大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 充代(獨協医科大学 医学部)
  • 山崎 浩司(東京大学大学院 人文社会系研究科)
  • 西村 由実子(関西看護医療大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
MSMのインターネット利用割合の高さが推察され、その親和性の高さがこれまで指摘されてきた。目的は当該集団のHIV感染予防対策に資するために、全国規模でリスク行動やその関連要因を明確化すると共に、ネット介入プログラムを開発してその効果評価を行うことである。そのため3つの研究を行った。
研究方法
研究1:1年目はMSMを対象にネットによる横断調査を実施した。2年目は認知行動理論や行動科学の諸理論を基盤にした予防介入プログラムを開発、無作為化対照試験(wait-list法)によりプログラムの効果評価を行った。3年目は過去に実施したMSM横断調査(累積2万人)のデータを経年的に分析した。
研究2:1-2年目は医中誌やPubMedを用いてHIV予防介入プログラムの構築に有用な情報を収集、比較・検討した。3年目はMSM以外にネット研究の適用可能性について、就労成人男性と大学生を対象に自記式質問票調査を実施した。
研究3:メールと対面による半構造化個人インタビューによりデータ収集を行った。メールインタビューは研究1で実施した横断調査参加者の中から、対面インタビューはスノーボールサンプリングによって研究参加者を募った。
結果と考察
研究1:横断調査ではMSMの生育歴やHIV感染リスク行動の実際が示され、介入研究ではセイファーセックスの認知やコンドーム使用行動の変容に一定の効果があることが示された。経年分析ではMSMのセックス機会やライフスタイルに劇的変化が起こっていることが示唆された。
研究2:文献研究の知見はネット介入プログラムの開発に大いに活用した。成人男性や大学生もネットに対する親和性が高いことが調査を通じて示唆され、MSM以外の集団にもネットを利用したHIV予防のための調査や介入は実施可能と推測された。しかし研究参加者のリクルートにあたっては所属機関の協力を得ることが効果的と考えられた。
研究3:MSMとしての生きにくさやハッテン場での性交渉の意味合い、交際相手とハッテン場とでは性交渉の意味が明確に異なるものとして位置づけていることなど、行動の心理的背景が明らかになった。
結論
本研究は、HIV予防対策において接触困難層であるMSMのHIV感染リスク行動にまつわる様々な情報を提供すると共に、予防介入においてはネット活用のひとつのモデルを提示する先駆的な取り組みである。今後もネットの積極的活用が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201029035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1990年代後半以降のわが国のMSMにおけるHIVの本格的流行と時期を同じくして定期的に実施されてきたインターネットによるモニタリング調査は、詳細な実態を経年的かつ全国的に把握可能であり、加えて、アジアにおいて最大規模の調査という意味においても意義深く、先駆的研究と言えよう。さらに2年目に実施した認知行動理論を用いたMSM対象のインターネットによる予防介入研究は世界的にもほとんど類が無く、新しい予防介入手法として今後発展・応用が期待でき、さらにはその普及が期待されるものである。
臨床的観点からの成果
MSMのリスク行動の背景要因を明確化することは、HIV陽性MSMの支援においても重要な情報となる。
ガイドライン等の開発
厚生労働省エイズ対策研究推進事業(研究成果等普及啓発事業)として「ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート3」を刊行、普及啓発教材を制作した。自治体の研修などで活用可能なように提供している。
その他行政的観点からの成果
第3回エイズ予防指針作業班(平成23年3月31日)において当該研究のデータをもとに情報提供を行った。また、厚生労働省エイズ動向委員会の席上において、研究代表者が委員として随時、調査データの紹介などを行っている。
その他のインパクト
京都新聞、毎日新聞、朝日新聞等において調査結果の一部が掲載された。研究成果等普及啓発事業として研究実施の3年間に6回開催、研修や学術講演など3年間で37回実施した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
12件
インターネット調査で得られた知見をもとに総説や研究ノート等として発表した。
その他論文(英文等)
1件
Internet and Suicideと題された洋書の中でわが国のゲイ男性の健康問題について調査結果を基に概説した。
学会発表(国内学会)
8件
日本エイズ学会、日本公衆衛生学会等で当該研究で得られた知見を発表した。
学会発表(国際学会等)
2件
台北およびマレーシアで当該研究で得られた知見を発表した。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
エイズ予防指針見直し作業において、施策へ調査結果を反映するよう提言を行った。
その他成果(普及・啓発活動)
43件
研究実施の3年間で6回の研究成果発表会(研究成果等普及啓発事業)、37回の講演を実施した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201029035Z