食品中残留農薬等の試験法開発における課題の解決に向けた研究

文献情報

文献番号
202428007A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中残留農薬等の試験法開発における課題の解決に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA1009
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
田口 貴章(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究分担者(所属機関)
  • 志田 静夏(齊藤 静夏)(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
  • 穐山 浩(星薬科大学 薬学部 薬品分析化学研究室)
研究区分
食品衛生基準科学研究費補助金 分野なし 食品安全科学研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
7,898,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品の残留農薬等検査において、我が国の公示試験法は精製度が高いため、夾雑成分の影響を受け難く測定装置への負担も少ないが、操作時間が長い、溶媒等の使用量が多い等の難点がある。残留農薬等検査では、分析結果の信頼性の向上が求められている一方、検査の効率化、迅速化、コスト削減も望まれている。本研究では、農薬等の検出を困難にする夾雑物を含む食品や、特定の食品に含まれると検出困難な農薬等について高感度かつ高精度な測定法等を確立すると共に、分析結果の信頼性向上及び検査の迅速化を目的とする。
研究方法
【課題1 残留農薬等分析における試料調製方法の検討】
 「農産物における試料調製方法及び試料の均質性が分析結果へ与える影響」では、試料の均質性の指標を得ることを目的に、管理された圃場で農薬を散布して栽培したブロッコリーを用いて粗大な固形物が残存する粗粉砕試料、固形物が微細な微粉砕試料及び凍結粉砕試料を調製し検討を行った。「畜水産物における試料調製方法の検討」では、牛及び豚の肝臓に農薬等を添加後、常温磨砕法または凍結粉砕法により試料調製し、回収率を比較することで、凍結粉砕法による農薬等の減少抑制効果を検証した。
【課題2 公示試験法の精製操作の簡便化・迅速化及び自動化に向けた検討】
 残留農薬等検査において使用頻度が高い通知一斉試験法「LC/MSによる動物用医薬品等の一斉試験法Ⅰ(畜水産物)」の精製操作について、簡便化、迅速化、自動化を検討した。より夾雑成分の除去効果の高い方法へ改良し、牛筋肉、牛肝臓、牛脂肪及び牛乳を用いて、52化合物を対象に添加濃度0.01 ppmで妥当性を確認した。
【課題3 前処理と分析装置のオンライン化を目指した半自動分析法の確立】
 我が国からの食品輸出促進のための食品の衛生管理手法の国際調和及びその推進のため、本年度は、大豆中のグリホサート(Gly)、グルホシネート(Glu)及び代謝物の5成分一斉分析法のオンライン化を行った。またほうれんそうを対象として、LC-MS/MSを用いたネオニコチノイド系農薬17成分を一斉分析する方法を開発し、実試料への適用を試みた。
結果と考察
【課題1】農産物の検討では、均質化が不十分で粗大な固形物を多く含む試料での分析値は相対的に低くなった。特にマラチオンでは、他の均質化試料と比較して顕著に低くなった。この傾向は、トマト及びホウレンソウを供試試料とした研究結果とも一致することから、不十分な均質化が分析結果に与える影響は、農薬の種類によって異なることが確認された。各均質化試料の篩通過率から、微細に均質化した試料の約90%が目開き1 mm篩を通過することが確認されたことから、これが十分微細に均質化された試料の目安と位置付けた。牛及び豚の肝臓を対象とした検討の結果、凍結粉砕法による試料調製を行うことにより、農薬等によっては、これらの減少を抑制できることが示された。ただし、凍結粉砕のみでは減少を十分に抑制できない化合物も存在することから、留意が必要である。
【課題2】通知一斉試験法に従って調製した抽出液を、自動前処理装置を用いてC18ミニカラム(充填剤量50 mg)で2段階精製し、夾雑成分を除去した後、LC-MS/MSで測定する方法を確立した。本法は、8割以上の化合物で妥当性評価ガイドラインの目標値を満たした。これは、抽出効率に起因する分析値の差異は生じず、規格基準への適否判定に用いることができる方法である。
【課題3】大豆中のGly等5成分一斉分析法のオンライン化により、半自動で迅速、簡易に分析可能になった。また、開発したネオニコチノイド系農薬17成分を一斉分析する方法は真度、併行精度、室内再現精度ともに概ね目標値に収まり、市販ほうれんそうに適用し分析を行った結果、ほうれんそう中のネオニコチノイド系農薬の分析法として適用可能であると示唆された。
結論
【課題1】農薬が残留したブロッコリーを用いた調査から、微細に均質化した試料の約90%が目開き1 mm篩を通過することが確認されたことから、これが十分微細に均質化された試料の目安と位置付けた。牛及び豚の肝臓を対象とした検討の結果、凍結粉砕法による試料調製を行うことにより、農薬等によっては、これらの減少を抑制できることが示された。
【課題2】「LC/MSによる動物用医薬品等の一斉試験法Ⅰ(畜水産物)」の精製操作を改良し、簡便かつ迅速な分析法を確立した。本分析法は、抽出方法を変更していないため、通知一斉試験法と同等と認められ、規格基準の適否判定に用いることができる方法である。
【課題3】大豆中のGly等5成分一斉分析法をオンライン化した。LC-MS/MSを用いたネオニコチノイド系農薬17成分を一斉分析する方法を開発し、実試料への適用可能であると示唆された。

公開日・更新日

公開日
2025-10-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-10-14
更新日
-

文献情報

文献番号
202428007B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中残留農薬等の試験法開発における課題の解決に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KA1009
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
田口 貴章(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究分担者(所属機関)
  • 志田 静夏(齊藤 静夏)(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
  • 穐山 浩(星薬科大学 薬学部 薬品分析化学研究室)
研究区分
食品衛生基準科学研究費補助金 分野なし 食品安全科学研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品の残留農薬等検査において、我が国の公示試験法は精製度が高いため、夾雑成分の影響を受け難く測定装置への負担も少ないが、操作時間が長い、溶媒等の使用量が多い等の難点がある。残留農薬等検査では、分析結果の信頼性の向上が求められている一方、検査の効率化、迅速化、コスト削減も望まれている。本研究では、農薬等の検出を困難にする夾雑物を含む食品や、特定の食品に含まれると検出困難な農薬等について高感度かつ高精度な測定法等を確立すると共に、分析結果の信頼性向上及び検査の迅速化を目的とする。
研究方法
【課題1 残留農薬等分析における試料調製方法の検討】
 「農産物における試料調製方法及び試料の均質性が分析結果へ与える影響」では、試料の均質性の指標を得ることを目的に、農薬を散布して栽培した農産物(トマト、ホウレンソウ、ブロッコリー)を用いて試料の均質性が分析結果に与える影響を検討した。「畜水産物における試料調製方法の検討」では、畜水産物(牛の筋肉、牛の脂肪、牛の肝臓、豚の筋肉、豚の脂肪、鶏の筋肉、あゆ、えび、うなぎ及びさけ)を対象に凍結粉砕による試料調製法を確立した。加えて、凍結粉砕法による試料調製中の農薬等の減少抑制効果を検証するため、検体に農薬を添加し、常温磨砕法及び凍結粉砕法で試料調製を行って回収率を比較した。
【課題2 公示試験法の精製操作の簡便化・迅速化及び自動化に向けた検討】
 残留農薬等検査において使用頻度が高い公示試験法(通知一斉試験法等)である「LC/MSによる農薬等の一斉試験法Ⅰ(農産物)」、「GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)」及び「LC/MSによる動物用医薬品等の一斉試験法Ⅰ(畜水産物)」の精製操作について、簡便化、迅速化、自動化を検討した。
【課題3 前処理と分析装置のオンライン化を目指した半自動分析法の確立】
 我が国からの食品輸出促進のための食品の衛生管理手法の国際調和及びその推進のため、グリホサート(Gly)、グルホシネート(Glu)および代謝物の5成分を、はちみつから抽出し誘導体化せずLC-MS/MSで分析する方法、ならびに大豆から抽出し簡便で迅速な固相誘導体化を行いLC-MS/MSで分析する方法を開発した。後者はオンライン化し、輸入大豆飼料への適用を検討した。また、ほうれんそうを対象として、LC-MS/MSを用いたネオニコチノイド系農薬17成分を一斉分析する方法を開発し、実試料への適用を試みた。
結果と考察
【課題1】農産物の検討では、均質化の程度が不十分で粗大な固形物を多く含む粗粉砕試料と、固形物が微細になるまで十分に均質化した微粉砕試料を調製し分析値を比較した結果、粗粉砕試料では分析値が相対的に低くなった。不十分な均質化が分析結果に与える影響は、農薬の種類によって異なることが確認された。「畜水産物における試料調製方法の検討」では、畜水産物を対象に凍結粉砕による試料調製法を確立した。加えて、常温磨砕法では酵素や試料成分との反応等により減少しやすい農薬等においても、凍結粉砕法を用いることで減少を抑制できる場合があることが示された。
【課題2】検討した三試験法それぞれについて、精製操作を改良し、簡便かつ迅速な分析法を確立した。確立した分析法はいずれも、通知一斉試験法と抽出条件が同一であるため、抽出効率に起因する分析値の差異は生じず、規格基準への適否判定に用いることができる方法である。
【課題3】開発した分析法はいずれも良好な選択性と直線性が得られ、真度、併行精度、室内再現精度ともに概ね目標値に収まる良好な結果が得られた。加えて、大豆中のGly等分析法は輸入大豆飼料の分析に、ネオニコチノイド系農薬分析法は市販ほうれんそうに適用可能であると示唆された。
結論
【課題1】農産物の検討では、いずれの作物においても、均質化状態の評価方法として「目開き1 mmの篩に負荷した際の通過率」を指標とする手法を提案し、「通過率90%以上」を十分微細に均質化された試料の目安と位置付けた。「畜水産物における試料調製方法の検討」では、畜水産物を対象に凍結粉砕による試料調製法を確立した。
【課題2】規格基準の適否判定に用いることができる方法を開発した。本精製操作は自動前処理装置で行うことができるため、検査担当者の熟練度等による個人差が生じにくく、検査の効率化が期待できる方法と考えられた。
【課題3】LC-MS/MSを用いたはちみつ中または大豆中Gly等5成分の分析法、およびほうれんそう中のネオニコチノイド系農薬の簡易で迅速な分析法を開発した。大豆中Gly分析法はオンライン化を達成した。これにより試験者が熟練操作を習得する必要なく、高感度で高精度な分析が可能となり、食品の輸出額の増加につながることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2025-10-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-10-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202428007C

収支報告書

文献番号
202428007Z