地域共生社会における薬剤師の対物・対人業務の充実に関する調査研究

文献情報

文献番号
202324009A
報告書区分
総括
研究課題名
地域共生社会における薬剤師の対物・対人業務の充実に関する調査研究
課題番号
22KC1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
入江 徹美(国立大学法人 熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 武田 香陽子(北海道科学大学 薬学部薬学科薬学教育学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
3,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤師が地域包括ケアシステムに積極的に貢献するには、対物業務の効率化と対人業務の充実は必須であり、医療安全の確保を前提に薬剤師業務の見直しが必要である。さらに、電子処方箋や電子版お薬手帳等の情報通信技術(Information and Communication Technology, ICT)への対応や業務の機械化が進む中で、医療提供体制の変化に柔軟に対応できる、薬学部における卒前・卒後教育の質保証や生涯研鑽の仕組みの整備が求められる。
令和4年度は、アンケート調査や個別インタビューを通して、国内外における薬剤師・薬局の対物業務および対人業務に関する実態を把握し、薬剤師・薬局の対物業務の効率化に関する標準的な調剤業務様式・管理手順書案を作成した。令和5年度は、前年度に作成した調剤業務様式・管理手順書案を試行的に運用し、対物業務の量的・質的変化を多面的に検証する。必要に応じて提案内容を改善するとともに、対物・対人業務の充実に資する薬学部における卒前・卒後教育や生涯研鑽の充実に必要な教育内容を提案する。最終的に、本研究の内容を広く社会に発信し、国民の理解を深め、幅広い意見を取り入れ、施策等に反映させることで、地域住民への安全・安心な医療の提供に貢献することを目的とした。
研究方法
1. 令和4年度に作成した本ガイドライン(暫定版)に基づき、調剤業務における調製業務の一部外部委託のパイロットスタディ・シミュレーションに協力を依頼する薬局の選定基準、シミュレーションに必要な書類(共通処方内容、手順書等)、検証内容等を準備した。
2. 本ガイドライン(暫定版)に基づくパイロットスタディ・シミュレーションを、医療提供体制の異なる6つの地域で実施した。
3. 調剤業務の一部外部委託には、調剤薬を薬局間(business to business, BtoB)及び薬局-患者間(buisiness to customer, BtoC)で受け渡す業務が含まれるので、物流の専門家から意見を聴取した。
4. この2年間の研究成果の発信と普及を目的として、WEB上で公開シンポジウムを開催した。
5. 令和5年度の検討を踏まえ、本ガイドライン(暫定版)を修正・改善し、調剤業務の一部外部委託における指示・情報の伝達の方法の整理等を行なった。
6. 本ガイドライン(暫定版)の公表後、令和4年度に実施したアンケート調査(薬剤師の時代のニーズに対応する力の調査)に加え、改めて薬剤師を対象に、対物業務の効率化と対人業務の充実に関するニーズ調査を実施した。
結果と考察
本研究では、規制改革実施計画(令和4年6月、閣議決定)や厚生労働省の「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループとりまとめ 〜薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン〜」(令和4年7月)を踏まえ、対物業務の効率化策の一つとして、調剤業務の一部外部委託に関するガイドラインを作成した。令和5年度は、前年度に作成した本ガイドライン(暫定版)に基づくシミュレーションを医療提供体制の異なる複数の地域で実施し、多角的な検証を行った。また、調剤業務の一部外部委託では、薬局-薬局間(business to business, BtoB)及び薬局-患者間(buisiness to customer, BtoC)で調剤薬の受け渡しが行われることから、物流の観点から専門家へのヒアリングを行った。さらに、研究内容の普及・浸透を図るため、公開シンポジウムを開催し、寄せられた意見を踏まえ、内容の精緻化・改善を行い、本ガイドラインを完成させた。また、シミュレーション結果を踏まえ、調剤業務の一部外部委託における指示・情報の伝達の方法について整理し、委託薬局・受託薬局において定める手順書例を作成した。今後、既存の電子データ伝送システムの仕様変更や新システムの開発、調製設備・機器類の性能向上などに伴い、本ガイドラインの改訂が必要となる可能性がある。
結論
薬剤師の対人業務が、対物業務の効率化によって充実すれば、患者や地域住民、多職種の医療関係者と接する時間が増え、おのずと自らの課題と向き合う機会が増えるものと思われる。本研究では、薬剤師の対物業務の効率化策の一つとして、調剤業務の一部外部委託に関するガイドラインを作成した。ガイドラインの作成にあたっては、最終的に恩恵を享受するのは地域住民であることを終始念頭において議論を進めた。本ガイドラインが適切に機能し、地域連携の基軸となり、地域に必要な医薬品の適正配置に寄与することを期待している。今後、薬剤師の対物業務を効率化するための仕組みづくりはもちろん、薬剤師の対人業務を強化するための生涯研鑽の仕組みづくりを、大学や薬学関係の団体・組織が協力して進めていくことが必要になると思われる。

公開日・更新日

公開日
2024-08-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-08-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202324009B
報告書区分
総合
研究課題名
地域共生社会における薬剤師の対物・対人業務の充実に関する調査研究
課題番号
22KC1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
入江 徹美(国立大学法人 熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤師が地域包括ケアシステムに積極的に貢献するには、対物業務の効率化と対人業務の充実は必須であり、医療安全の確保を前提に薬剤師業務の見直しが必要である。令和4年7月に厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループとりまとめ 〜薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン〜」において、調剤業務における調製業務の一部外部委託に係る考え方及び対応方針が示された。本研究では、アンケート調査や個別インタビュー等を通して、国内外における薬剤師・薬局の対物業務および対人業務に関する実態を把握し、薬剤師・薬局の対物業務の効率化に関する標準的な調剤業務様式・管理手順書を作成し、対物・対人業務の充実に資する薬学部における卒前・卒後教育や生涯研鑽の充実に必要な教育内容を提案することを目的とした。
研究方法
(令和4年度)
1. 薬剤師の対物・対人業務の充実に関する公開情報調査
2. 調剤設備・機器供給企業へのヒアリング
3. 薬局薬剤師へのヒアリング・薬局見学
4. 対物業務の効率化を実現する標準的な調剤業務様式・管理手順書(調剤業務における調製業務の一部外部委託における医療安全と適正実施のためのガイドライン(暫定版))の作成
5. 薬剤師の時代のニーズに対応する力の調査
6. 一般市民の薬剤師に対するニーズ調査
(令和5年度)
1. 本ガイドライン(暫定版)を用いた対物業務の効率化に関するパイロットスタディ・シミュレーションの準備
2. 本ガイドライン(暫定版)に基づくパイロットスタディ・シミュレーションの実施
3. 調剤業務の一部外部委託に関連する物流に関するヒアリング
4. 公開シンポジウム開催
5. シミュレーション検証結果等に基づく本ガイドライン(暫定版)の修正、調剤業務の一部外部委託における指示・情報の伝達の方法の整理等
6. 対物業務の効率化と対人業務の充実に関するニーズ調査
結果と考察
令和4年度は、薬剤師の対物・対人業務の充実に関する公開情報調査、調剤設備・機器供給企業関係者や薬剤師へのヒアリングの結果及び「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」の検討結果を踏まえ、調剤業務の一部外部委託に関するガイドライン(暫定版)をとりまとめた。令和5年度は、本ガイドライン(暫定版)に基づくシミュレーションを医療提供体制の異なる複数の地域で実施し、物流専門家へのヒアリング、公開シンポジウムで寄せられた意見を踏まえ、内容の精緻化・改善を行い、本ガイドラインを完成させた。また、シミュレーション検証結果を踏まえ、調剤業務の一部外部委託における指示・情報の伝達の方法について整理し、委託薬局における処方内容から一包化作業内容の決定プロセスや、受託薬局へ作業を指示するプロセスをイメージしやすくするために、「委託薬局による一包化作業内容決定の例」、「作業指示書(書式例・記載例)」及び「電子データで伝送される情報(イメージ)」を作成した。今後、既存の電子データ伝送システムの仕様変更や新システムの開発、調製設備・機器類の性能向上などに伴い、本ガイドラインの改訂が必要となる可能性がある。
令和4年度に一般市民を対象に実施したアンケート調査の結果、薬剤師は自分や家族にとって「不可欠な存在」として認識されていることがわかった。一方、一般市民に認知されていない薬剤師の役割として、「公衆衛生」や「在宅医療/介護」等が挙げられており、今後は健康維持増進や未病、疾病予防等、社会における薬剤師の役割の充実が望まれる。令和5年度に実施した薬剤師を対象としたアンケート調査の結果、対物業務の効率化及び対人業務の充実の必要性が認識されていることが示された。薬局で効率化すべき業務の上位に一包化業務が挙げられたが、本ガイドライン(暫定版)の認知度は低かった。今後、公開シンポジウムや説明会等を通じて、本ガイドラインに関する適切な情報を発信する必要がある。調剤業務における対物業務の効率化・対人業務の充実が進む中、薬剤師がこれまで以上に社会に貢献するためには生涯研鑽が必要であり、そのためには薬学部での卒前・卒後教育の充実や多職種との連携強化が必要であることが示唆された。
結論
本研究では、薬剤師の対物業務の効率化策の一つとして、調剤業務の一部外部委託に関するガイドラインを作成した。ガイドラインの作成にあたっては、最終的に恩恵を享受するのは地域住民であることを終始念頭において議論を進めた。本ガイドラインが適切に機能し、地域連携の基軸となり、地域に必要な医薬品の適正配置に寄与することを期待している。今後、薬剤師の対物業務を効率化するための仕組みづくりはもちろん、薬剤師の対人業務を強化するための生涯研鑽の仕組みづくりを、大学や薬学関係の団体・組織が協力して進めていくことが必要になると思われる。

公開日・更新日

公開日
2024-08-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2024-08-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202324009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
薬剤師と一般市民を対象としたアンケート調査の結果から、調剤業務における対物業務の効率化や対人業務の充実が進む一方で、薬剤師が社会に貢献するためには生涯研鑽が必要であり、そのためには薬学部における卒前・卒後教育の充実や多職種との連携強化が必要であることが示唆された。本研究成果は、今後の薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂や薬剤師業務の質確保に必要な生涯研鑽に関する取り組みに寄与することが期待される。
臨床的観点からの成果
薬剤師の対人業務が、対物業務の効率化によって充実すれば、患者や地域住民、多職種の医療関係者と接する時間が増え、おのずと自らの課題と向き合う機会が増えるものと思われる。本研究の成果を公開シンポジウム等を通じて広く社会に発信することで、地域包括ケアシステムにおける薬剤師・薬局の役割について理解を深め、地域住民への安全・安心な医療の提供に貢献することが期待される。
ガイドライン等の開発
本研究では、薬剤師の対物業務の効率化策の一つとして、「調剤業務における調製業務の一部外部委託における医療安全と適正実施のためのガイドライン」を作成した。本ガイドラインが適切に機能すれば、地域連携の基盤となり、地域に必要な医薬品の適正配置に寄与することが期待される。本研究の成果は社会的意義が高く、多くのマスメディアに取り上げられた(記事数30本以上)。
その他行政的観点からの成果
本研究で作成したガイドラインは、2023年12月25日に開催された「第1回薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」をはじめとする厚生労働省の各種会議の資料として活用された。また、「厚生労働省関係国家戦略特別区域法第二十六条に規定する政令等規制事業に係る省令の特例に関する措置を定める命令の一部を改正する命令」(2024年3月29日)及び「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業の実施要領」(2024年5月9日)に活用された。
その他のインパクト
本研究の成果を報告した公開シンポジウム(2024年3月3日)には、532 名の事前登録があり、当日の模様は、2024年3月8日~3月22日までオンデマンドで配信された。公開シンポジウムの内容は多くのマスメディアに取り上げられた(記事数5本以上)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
公開シンポジウム
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ガイドライン作成1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
公開シンポジウム1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kayoko Takeda Mamiya, Kiyoshi Takahashi, Tatsuyuki Iwasaki, et al
Article Japanese Pharmacists’ Perceptions of Self-Development Skills and Continuing Professional Development
Pharmacy , 11, 73 , 1-10  (2023)
https://doi.org/10.3390/pharmacy11020073

公開日・更新日

公開日
2024-08-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
202324009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,000,000円
(2)補助金確定額
3,897,303円
差引額 [(1)-(2)]
102,697円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 645,137円
人件費・謝金 56,965円
旅費 1,611,101円
その他 661,100円
間接経費 923,000円
合計 3,897,303円

備考

備考
シミュレーション協力薬剤師・薬局への謝金・消耗品の支払いて手続きが年度末になり、間に合わなかったため、差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2024-08-09
更新日
-