墜落による危険を防止するためのネットの経年劣化等を含めた安全基準の作成に資する研究

文献情報

文献番号
202322004A
報告書区分
総括
研究課題名
墜落による危険を防止するためのネットの経年劣化等を含めた安全基準の作成に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22JA1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
日野 泰道(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 大幢 勝利(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 研究推進・国際センター)
  • 高橋 弘樹(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所建設安全研究グループ)
  • 金 惠英(キム ヘヨン)(労働安全衛生総合研究所 建設安全グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
4,284,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
安全ネットは、高所作業時の墜落防止対策の一つとして広く利用されている。この点、厚生労働省では「墜落による危険を防止するためのネットの構造等の安全基準に関する技術上の指針」により、安全ネットの構造、強度および使用方法等が示されている。
ところが指針の作成当時と比較し、現在流通している安全ネットの種類や構造等は変化し、網目の大きさや、結節構造に違いがみられる。また、安全ネットの建設構造物への具体的な取付・固定方法についての基準も定められていない。
 そこで本研究では、日本で現在流通する安全ネット(計4社)を対象とし、安全ネットの固定点数を変えて落下試験を実施し、現在流通する新品の安全ネットを用いた場合における墜落の危険を防止するために必要な固定点数について検討を行った。
 併せて同指針では、安全ネットの廃棄基準が示されておらず、適切な廃棄基準を定めることが必要とされている。実際、経年品のラッセルネットを使用していた際の事故報告もなされている。前年度に実施した上記検討でも、経年品を用いた落下試験を実施したところ、重錘が安全ネットを貫通する事象も確認された。
そこで本研究では、経年品の安全ネット、および安全ネットの網糸の強度を意図的に小さくしたネットを用いて、落下試験を実施し、経年劣化した安全ネットの基本的な性能を把握するための検討を行った。
研究方法
実験に使用した安全ネットは、縦横5mの正方形で、15㎜網目のラッセルネット(新品、経年品、経年劣化モデル)の3種類であり、国内に流通する計4社の製品を対象とした。なお、それぞれの網糸強度は、新品で約460N、経年劣化モデルで約330N、経年品は、5年経過品と9年経過品のもので、それぞれ引張試験の結果、前者が約330N、後者が約250Nであった。重錘の落下高さは3.75mとし、落下位置は、ネット中央部および菱形の網目形状を有する安全ネットの剛性が高い方向の端部1mの箇所とした。実験に用いた重錘の質量は、90㎏および100㎏とした。安全ネットは縦横5mの開口部を有する鉄骨梁にネットクランプを用いて固定した。その固定点数は、8点固定(2.5m間隔)の場合と、20点固定(1m間隔)の場合の2種類とした。
結果と考察
安全ネットに期待する性能として、技術上の指針および仮設工業会の基準では、安全ネットは、労働者の墜落による危険を防止することを目的としている。ところが現場からは、墜落災害のみならず落下物災害の防止を兼用できるネットがあれば利用したいという状況にもある。それに関連してか、技術上の指針制定当時では、50㎜網目や100㎜網目であった安全ネットの網目は、現在ではより小さい網目である15㎜網目が主流となっている。安全ネットは落下物災害の防止を主な目的としたものではないが、これによって、安全ネットに使用される網糸1本あたりの強度が小さいものとなっている。
この点、これまでの実験結果、経年劣化の影響等を踏まえると、現状よりも性能の高い安全ネットが必要とされる可能性がある。しかしながら、例えば単に新品時強度を高める場合は、安全ネットの単価が上がったり、重量が大きくなり施工しにくくなる等の不具合が生じる可能性も考えられる。安全ネットに期待する性能として、まずは墜落防止目的に限定するのか、あるいは落下防止目的も兼ねるのか等、業界全体で最適解を見出す必要があると考えられる。
また安全ネットの構造として、指針類では、安全ネットの構造として、縁綱、仕立て糸、つり綱、試験用糸等を挙げているが、安全ネットの固定には、安全ネットの吊綱というよりは、むしろネットクランプ、あるいは鉄骨梁に事前に溶接したネットフックを用いている。そのため、安全ネットの固定方法に応じた構造、強度等の基準を設ける必要がある。
結論
技術上の指針では、ネットの網目の大きさに応じて、直線補間式により網糸に必要な強度を定めているが、その必要強度は主流である15㎜網目では極めて不十分なものとなっている。仮設工業会の認定基準でも同様である。そのため、メーカーおよびリース業界の協力のもと、一定程度の経年品等を対象とした実験を積み重ねた上で、経年劣化を踏まえた必要強度等を明らかにする必要があると考えられる。
 その必要強度等については、現場の実情を踏まえた落下高さ、ネットの初期垂れ、ネット下部の空き等の基準が必要であり、加えて安全ネットが個人用の墜落制止用器具ではなく、共有物としての安全設備であること等を踏まえた現実的な検討が必要と考えられる。
また、現在流通する安全ネットの特性として、墜落制止を経験したネットであっても、一見して不良品として認識できない場合もあるため、ユーザー以外によって検査することには限界があり、ユーザーとの間で一定程度の情報共有を行う取り組みも有用と思われる。

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202322004B
報告書区分
総合
研究課題名
墜落による危険を防止するためのネットの経年劣化等を含めた安全基準の作成に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22JA1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
日野 泰道(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 大幢 勝利(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 研究推進・国際センター)
  • 高橋 弘樹(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所建設安全研究グループ)
  • 金 惠英(キム ヘヨン)(労働安全衛生総合研究所 建設安全グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
安全ネットは「墜落による危険を防止するためのネットの構造等の安全基準に関する技術上の指針(大臣公示)」により、技術的な観点から基準が示されているが、作成当時と比較して、安全ネットの種類等は変化している。とりわけ、安全ネットの経年劣化の影響は明らかでなく、経年劣化に起因したとみられる死亡災害も発生している。そこで本研究では、経年劣化の影響を踏まえた安全ネットの構造・強度・使用方法・管理方法について、安全基準を作成するための基礎資料を得ることを目的とする。
研究方法
まず技術上の指針と、その背景となる研究報告の内容を吟味し、現在主流となっている無結節編地のラッセルネットへの適用の可否などについて検討を行った。次に「安全ネットの構造等に関する安全基準と解説(仮設工業会)」で定める実験方法およびその評価方向に基づき、ラッセルネットの基本性能について実験的に検討を行った。実験対象は、縦横5mの正方形で、15㎜網目のラッセルネット(新品、経年品、経年劣化モデル)の3種類であり、国内に流通する計4社の製品を対象とした。安全ネットは縦横5mの開口部を有する鉄骨梁にネットクランプを用いて固定し、その固定点数は、8点固定の場合と、20点固定の場合の2種類とした。
結果と考察
令和4年度においては、現在流通している主な安全ネットの材質・構造、ユーザーの現場での使用・管理方法について調査を行った。その結果、技術上の指針が作成された当時と比較して、現在使用されている安全ネットの材質や基本構造が全く異なっており、その抜本的な見直しが必要であることがわかった。次に、現在流通している安全ネットの基本性能とその適切な評価手法を明らかにすることを目標として実験的検討を行った。その結果、技術上の指針で定める方法で安全ネットを使用した場合、墜落阻止が出来ずに墜落に至る可能性があることが判明した。具体的には、安全ネットの固定点数および網糸強度の基準を改める必要性が明らかになった。
令和5年度においては、まず日本で現在流通する安全ネットを対象として。安全ネットの固定点数を変えて落下試験を実施し、新品ネットを用いた場合における墜落の危険を防止するために必要な固定点数について検討を行った。その結果、8点固定の場合、いずれも網目が大きく破損し中波ないし大破した。一方、ネット網目を全マス通しとした安全ネットを1m間隔で固定した場合、安全ネットの損傷は軽微な損傷にとどまり、墜落の危険を防止する措置を講ずることができた。次に経年品および経年劣化モデルを用いた実験を実施した。ここでは新品と経年品等の網糸強度に着目し、墜落制止性能について検討を行った。その結果、本実験の範囲では、墜落の危険を防止することが確認できたのは新品ネットのみであり、それは450N以上の網糸強度を有するものであった。そして経年劣化モデルや経年品の安全ネットの実験結果を踏まえると、少なくとも350N程度以上の網糸強度が必要であることが推測された。つまり本実験の範囲では、安全ネットの網糸強度は、350Nから450Nの間に必要強度が存在すると考えられる。
結論
安全ネットは、墜落災害のみならず落下物災害の防止を兼用できるネットを利用したい要望があり、現在ではより小さい網目が主流となっている。その結果、安全ネットは落下物災害の防止を主な目的としたものではないが、これによって、安全ネットに使用される網糸1本あたりの強度が小さいものとなっている。
本研究の実験の結果、経年劣化の影響等を踏まえると、現状よりも性能の高い安全ネットが必要とされる可能性がある。この問題については、安全ネットに期待する性能として、まずは墜落防止目的に限定するのか、あるいは落下防止目的も兼ねるのか等、業界全体で最適解を見出す必要があると考えられる。
 この点、また技術上の指針では、ネットの網目の大きさに応じて、直線補間式により網糸に必要な強度を定め、網目が小さくなるに従って、必要強度が小さくなるものとなっている。そのため、当該補間式から求められる15㎜網目の必要強度は、20Nに満たないものであり、これまでの実験結果からすると、墜落の危険を防止することは困難である。そのため、経年品等を対象とした実験を積み重ねて、経年劣化を踏まえた必要強度等を明らかにする必要がある。その際は、現場の実情を踏まえた落下高さ、ネットの初期垂れ、ネット下部の空き等の基準が必要であり、加えて安全ネットが個人用の墜落制止用器具ではなく、共有物としての安全設備であること等を踏まえた現実的な検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202322004C

収支報告書

文献番号
202322004Z