骨髄異形成症候群に対する病態解明・治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200936007A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄異形成症候群に対する病態解明・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-難治・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
三谷 絹子(獨協医科大学 内科学(血液))
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉 俊哉(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 小川 誠司(東京大学医学部附属病院 がんゲノミクスプロジェクト)
  • 直江 知樹(名古屋大学医学部 血液・腫瘍内科学)
  • 泉二登志子(東京女子医科大学 血液内科)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学 血液内科)
  • 石川 隆之(京都大学医学部 血液・腫瘍内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨髄異形成症候群(MDS)の新規分子標的療法の開発を目的として分子病態研究を行った。
研究方法
(1) ゲノム異常・miRNA発現異常・蛋白発現異常の網羅的探索:高密度SNPアレイ解析により観察された11q片親性二倍体(UPD)に存在する遺伝子の変異をスクリーニングすることにより、原因遺伝子の同定を行なった。また、定量PCR法によりmiRNAの、二次元蛋白電気泳動法により発現蛋白の解析を行なった。
(2) 変異遺伝子・分子の機能解析: 7q-の責任遺伝子Titanのノックアウトマウスを作製して、発生工学的機能を解析した。また、t(12;17)の原因遺伝子TEL-TAO1rの分子生物学的機能を解析した。
(3) 検体集積事業:京都大学と獨協医大にバンクを設置して、臨床情報を付帯した骨髄検体を集積している。
結果と考察
(1) ゲノム異常・miRNA発現異常・蛋白発現異常の網羅的探索:11q UPDから、 原因遺伝子CBLが同定された。CBL変異は機能獲得型変異であり、変異体発現細胞ではE3ユビキチンリガーゼ活性が低下することにより、サイトカイン受容体の発現が維持されサイトカインへの感受性が遷延することを明らかにした。miRNAの発現解析では、miR-9の発現がMDS及び急性骨髄性白血病(AML)の一部の症例で異常に亢進していることを明らかにした。プロテオミクス解析では、不応性貧血の造血幹細胞/前駆細胞に特異的に発現している蛋白及び病期の進展に伴い発現が変化する蛋白が同定された。
(2) 変異遺伝子・分子の機能解析: Titanノックアウトマウスは高齢になると約半数がMDS、骨髄増殖性腫瘍、AMLを発症した。TEL-TAO1rは野生型TAO1 mRNAに対しアンチセンスRNAとして働く。TAO1蛋白の発現低下は、UV刺激によるp38のリン酸化誘導の減弱をもたらし、DNA損傷刺激に対する反応や細胞周期のチェックポイント制御の異常を誘導する可能性が示唆された。
(3) 検体集積事業:約100症例の検体が集積されている。
結論
MDSの病型分類、予後予測、治療層別化に有用な遺伝子・分子マーカーが同定された。また、これらの異常遺伝子・分子の機能解析の結果は、新規薬剤の開発を目指した低分子化合物のスクリーニングの指標となる。MDSの病態研究の基盤整備を目的として、検体集積事業を展開している。

公開日・更新日

公開日
2010-04-09
更新日
-

文献情報

文献番号
200936007B
報告書区分
総合
研究課題名
骨髄異形成症候群に対する病態解明・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-難治・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
三谷 絹子(獨協医科大学 内科学(血液))
研究分担者(所属機関)
  • 内山 卓(京都大学医学部 血液・腫瘍内科学)
  • 石川 隆之(京都大学医学部 血液・腫瘍内科学)
  • 直江 知樹(名古屋大学医学部 血液・腫瘍内科学)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学 血液内科)
  • 泉二登志子(東京女子医科大学 血液内科)
  • 稲葉 俊哉(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 小川 誠司(東京大学医学部附属病院 がんゲノミクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨髄異形成症候群(MDS)の新規分子標的療法の開発を目的として分子病態研究を行った。
研究方法
(1)網羅的ゲノム変異の解析:高密度SNPアレイを用いてゲノムコピー数異常・アレル不均衡の解析を行なった。
(2) miRNA発現異常の解析:定量PCR法によりRUNX1間連miRNAの発現を解析した。
(3)プロテオーム解析:CD34陽性細胞の蛋白発現を二次元電気泳動法で解析した。
(4)同定された候補分子の機能解析:7q-の責任遺伝子Miki及びTitan、 t(12;17)の原因遺伝子TEL-TAO1rの機能を分子生物学的・発生工学的に解析した。
(5) 治療薬の作用機序の検討:デフェラシロックスの作用機序を検討した。
(6) 検体集積事業:京都大学と獨協医大にバンクを設置して、臨床情報を付帯した骨髄検体を集積している。
結果と考察
(1)網羅的ゲノム変異の解析:11q UPDから原因遺伝子CBLが同定された。CBL変異は機能獲得型変異であり、変異体発現細胞ではサイトカインへの感受性が遷延していた。
(2) miRNA発現異常の解析: miR-9が約2割の症例で過剰発現していることを明らかにした。
(3)プロテオーム解析:不応性貧血の造血幹細胞/前駆細胞に特異的に発現している蛋白及び病期の進展に伴い発現が変化する蛋白が同定された。
(4) 同定された候補分子の機能解析:Mikiは分裂期の中心体分離に必須の役割を担っており、その欠損は核の形態異常をもたらすことが明らかになった。TitanノックアウトマウスはMDSを発症することが確認された。TEL-TAO1rは野生型TAO1 mRNAに対しアンチセンスRNAとして働き、その蛋白発現を低下させた。
(5) 治療薬の作用機序の検討:デフェラシロックスの効果は、REDD発現上昇→TSC誘導→mTOR抑制→S6Kリン酸化抑制によるものであることが明らかになった。
(6) 検体集積事業:約100症例の検体が集積されている。
結論
MDSの病型分類、予後予測、治療層別化に有用な遺伝子・分子マーカーが同定された。また、これらの異常遺伝子・分子の機能解析の結果は、新規薬剤の開発を目指した低分子化合物のスクリーニングの指標となる。MDSの病態研究の基盤整備を目的として、検体集積事業を展開している。

公開日・更新日

公開日
2010-04-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ゲノム解析技術の進歩(CGHアレイ・SNPアレイ)により、コピー数の変化のみならずアレル不均衡に関する情報も得られるようになった。本班では世界に先駆けて7q-及び11qUPDより骨髄異形成症候群(MDS)の原因遺伝子の同定に成功している。前者はTitan, Kasumi及びMikiであり、後者はCBLである。これらの遺伝子の機能を分子生物学的・発生工学的に検討し、細胞分裂の異常及びサイトカイン感受性の変化がMDSの病像形成に関与していることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
MDSは造血幹細胞移植以外に治癒を望める治療手段が存在しないため、支持療法が重要である。輸血に伴う鉄過剰症は深刻な臓器障害を引き起こす合併症であるが、近年経口鉄キレート剤が臨床応用されている。本班ではその治療効果の判定のために心臓MRIが有効であることを明らかにした。これは鉄過剰症の臨床管理上重要な知見である。また、経口鉄キレート剤の分子生物学的機能を解析することにより、本剤には抗腫瘍効果が期待できることを明らかにした。経口鉄キレート剤の臨床的役割が再検討される可能性がある。
ガイドライン等の開発
「特発性造血障害に対する調査研究班」(小澤敬也班長)と合同で活動を行なっているが、平成22年度が前回小峰光博班長のもとで作成された「不応性貧血(骨髄異形成症候群)診療の参照ガイド」(臨床血液47, 47-68, 2006)の改訂年に当たるので、本班も前回同様ワーキンググループに入り貢献する予定である。

その他行政的観点からの成果
本班ではエビデンスレベルの高い分子病態研究を推進する基盤を整備する目的で前班より「骨髄異形成症候群の検体集積事業と遺伝子解析研究」を走らせている。これは「特発性造血障害に対する調査研究班」(小澤敬也班長)との合同で「骨髄異形成症候群の前方視的症例登録、セントラルレビュー、追跡調査」とリンクさせることにより、臨床情報を付帯する検体を集積するものである。難病及び希少疾患の検体を集積することは行政上も極めて重要である。
その他のインパクト
日本のMDS分子病態研究は世界をリードするものであり、内外から注目を集めている。本年度の日本血液学会学術総会ではヨーロッパ血液学会との公式合同シンポジウム「MDSの分子病態と治療」が企画されている。

発表件数

原著論文(和文)
15件
原著論文(英文等)
250件
その他論文(和文)
189件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
454件
学会発表(国際学会等)
140件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
6件
その他成果(普及・啓発活動)
80件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamagata T, Nakamura Y, Mitani K.
Low expression of ETV6/TEL found in patients with myelodysplastic syndrome.
Int J Hematol , 86 , 282-285  (2007)
原著論文2
Tokita K, Maki K, Mitani K.
RUNX1/EVI1 that blocks myeloid differentiation inhibits CCAAT-enhancer binding protein a function.
Cancer Sci , 98 , 1752-1757  (2007)
原著論文3
Ishikawa T, Tohyama K, Nakao S, et al.
A prospective study of cyclosporine a treatment of patients with low-risk myelodysplastic syndrome: presence of CD55-CD59-Blood cells predicts platelet response.
Int J Hematol , 86 , 150-157  (2007)
原著論文4
Yamamoto G, Nannya Y, Kato M, et al.
Highly sensitive method for genomewide detection of allelic composition in nonpaired, primary tumor specimens by use of affymetrix single-nucleotide-polymorphism genotyping microarrays.
Am j Hum Genet , 81 , 114-126  (2007)
原著論文5
Sanada M, Uike N, Ohyashiki K, et al.
Unbalanced translocation der(1;7)(q10;p10) defines a unique clinicopathological subgroup of myeloid neoplasms.
Leukemia , 21 , 992-997  (2007)
原著論文6
Sasaki K, Yamagata T, Mitani K.
Histone deacetylase inhibitors trichostatin A and valproic acid circumvent apoptosis in human leukemic cells expressing the RUNX1 chimera.
Cancer Sci , 99 , 414-422  (2008)
原著論文7
Tasaka T, Tohyama K, Kishimoto M, et al.
Myelodysplastic syndrome with chromosome 5 abnormalities: a nationwide survey in Japan.
Leukemia , 22 , 1874-1881  (2008)
原著論文8
Eguchi-Ishimae M, Eguchi M, Maki K, et al.
Leukemia-related transcription factor TEL/ETV6 expands erythroid precursors and stimulates hemoglobin synthesis.
Cancer Sci , 100 , 689-697  (2009)
原著論文9
Furuhata A, Murakami M, Ito H, et al.
GATA-1 and GATA-2 binding to 3' enhancer of WT1 gene is essential for its transcription in acute leukemia and solid tumor cell lines.
Leukemia , 23 , 1270-1277  (2009)
原著論文10
Park J, Ohyashiki K, Akata S, et al.
Evaluation of cardiac iron overload in transfusion-dependent adult marrow failure patients by magnetic resonance imaging.
Leuk Res , 33 , 756-758  (2009)
原著論文11
Sanada M, Suzuki T, Shih LY, et al.
Gain-of-function of mutated C-CBL tumour suppressor in myeloid neoplasms.
Nature , 460 , 904-908  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-