精神疾患脆弱性遺伝子と中間表現型に基づく新しい診断法・治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200935002A
報告書区分
総括
研究課題名
精神疾患脆弱性遺伝子と中間表現型に基づく新しい診断法・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
武田 雅俊(大阪大学大学院 医学系研究科 情報統合医学講座(精神医学))
研究分担者(所属機関)
  • 岡本 長久(国立精神・神経センター病院 精神医学)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院 医学系研究科 精神医学)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学 医学部 精神医学)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院 医学系研究科 情報統合医学講座(精神医学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、統合失調症およびうつ病の脆弱性遺伝子と中間表現型という成因理論に基づく診断法・治療法の開発を行うことを目的としている。統合失調症のリスク遺伝子としてZNF804A遺伝子を同定し、さらにこの遺伝子のリスク多型が、統合失調症において中間表現型の一つである視覚性記憶の低さと関連することを見出したことが非常に大きな成果だと考えられる。
研究方法
本研究ではゲノム付の中間表現型データの収集が最も重要な点となるが、本年度は統合失調症と健常者において、認知機能、性格検査、脳神経画像、神経生理学的指標について、200例から500例を大阪大学、名古屋大学、藤田保健衛生大学、国立精神・神経医療研究センターで協力して収集した。
結果と考察
ゲノムワイド関連解析により統合失調症のリスク遺伝子としてZNF804Aを同定し、この遺伝子のリスク多型が、統合失調症において中間表現型の一つである視覚性記憶の低さと関連することを見出した。NIRSでは5種類の前頭葉課題時の前頭葉の賦活化を測定することにより、統合失調症にて賦活化の低下が認められる二つの課題を同定し、これらの課題を用いると約80%の感度と特異度にて独立した2つの統合失調症と健常者群を判別することができた。Li増強療法前のSPECTを用いた効果予測因子の検出を試み、Li有効群では無効群と比較して左前頭前野を中心として脳幹、左後頭葉、小脳の血流がLi投与前に高いという結果が出た。抗精神病薬未投与の初発統合失調症患者108名に対してGenome-wideの遺伝子多型を利用しリスペリドン単剤治療による反応性の関連を検討し、リスペリドン投与マウスの脳内のmRNAの発現量の計測を行い、重複する遺伝子を抽出し、最後に疾患感受性にも関連するPDE7B遺伝子を同定した。統合失調症および健常者において左扁桃体のGM体積がBDNFとNRG1のリスクアレルが増えるに従って減少し、女性においてセロトニン受容体の遺伝子多型と人格傾向のうち新規性追求が関連し、損害回避に関してはこの遺伝子と養育体験の相互関係を見出した。
結論
このように本研究において、新たな診断・治療法のシーズとなるものを見出すことに成功した。中間表現型に基づく客観的診断法の確立と新たな治療薬の開発は、医療行政上、大変有意義であり、国民の保健・精神医療において多大なる貢献ができると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-03-01
更新日
-

文献情報

文献番号
200935002B
報告書区分
総合
研究課題名
精神疾患脆弱性遺伝子と中間表現型に基づく新しい診断法・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-こころ・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
武田 雅俊(大阪大学大学院 医学系研究科 情報統合医学講座(精神医学))
研究分担者(所属機関)
  • 岡本 長久(国立精神・神経センター病院 精神医学)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院 医学系研究科 精神医学)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学 医学部 精神医学)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院 医学系研究科 情報統合医学講座(精神医学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、統合失調症およびうつ病の脆弱性遺伝子と中間表現型という成因理論に基づく診断法・治療法の開発を行うことを目的とする。
研究方法
本研究では、神経生物学的な表現型で精神疾患のリスクに関連するものであり、認知機能障害、脳MRIにて測定する脳構造異常、近赤外分光法、脳磁図等による脳機能異常、神経生理学的な指標であるプレパルス抑制テストの障害などの中間表現型データとゲノムの収集が最も重要な点となる。そこで疾患群と健常者群において、認知機能、性格検査、脳神経画像、神経生理学的指標について、約500例を収集した。
結果と考察
ゲノムワイド関連解析により統合失調症のリスク遺伝子としてZNF804Aを同定し、この遺伝子のリスク多型が、統合失調症において中間表現型の一つである視覚性記憶の低さと関連することを見出した。神経生理学的指標であるNIRSでは5種類の前頭葉課題時の前頭葉の賦活化を測定することにより、統合失調症にて賦活化の低下が認められる二つの課題を同定し、これらの課題を用いると約80%の感度と特異度にて独立した2つの統合失調症と健常者群を判別することができた。脳画像研究においては、神経成長因子の遺伝子が脳の構造に影響を与えることが判明した。気分障害に関しては、治療抵抗性うつ病のLi増強療法前のSPECTを用いた効果予測因子の検出を試み、Li有効群では無効群と比較して左前頭前野を中心として脳幹、左後頭葉、小脳の血流がLi投与前に高いという結果が出た。人格傾向との関係では、女性においてセロトニン受容体の遺伝子多型と新規性追求が関連することを見出し、統合失調症のリスクになるCHI3L1遺伝子多型が自己超越性と関連していることを見出した。抗精神病薬未投与の初発統合失調症患者108名に対してGenome-wideの遺伝子多型を利用してリスペリドン単剤治療による反応性の関連を検討し、リスペリドン投与マウスの脳内のmRNAの発現量の計測を行い、重複する遺伝子を抽出し、最後に疾患感受性にも関連するPDE7B遺伝子を同定した。
結論
このように本研究において、新たな診断・治療法のシーズとなるものを見出すことに成功した。中間表現型に基づく客観的診断法の確立と新たな治療薬の開発は、医療行政上、大変有意義であり、国民の保健・精神医療において多大なる貢献ができると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-06-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-03-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200935002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、統合失調症およびうつ病の脆弱性遺伝子と中間表現型という成因理論に基づく診断法・治療法の開発を行うことを目的としている。統合失調症のリスク遺伝子としてZNF804A遺伝子を同定し、さらにこの遺伝子のリスク多型が、統合失調症において中間表現型の一つである視覚性記憶の低さと関連することを見出したことが非常に大きな成果だと考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究ではゲノム付の中間表現型データの収集が最も重要な点となるが、統合失調症と健常者において、認知機能、人格検査、脳神経画像、神経生理学的指標について、200例から500例を大阪大学、名古屋大学、藤田保健衛生大学で協力して収集した。このサンプルサイズは日本一であり、今後の日本の精神医学の臨床研究の土台となる重要な成果と思われる。
ガイドライン等の開発
該当ございません
その他行政的観点からの成果
すべての分野の研究の方向性(加速・維持・逓減等)を決める総合科学技術会議において、こころの健康科学分野の代表例の1つとして、本研究がプレゼンテーションされた。具体的な内容は、統合失調症においてハノイの塔課題を行った近赤外線分光法における前頭葉脳賦活の変化が健常者と比べて明確に違っており、統合失調症の病態の解明や客観的診断に資する成果が得られたというものである。
その他のインパクト
中間表現型をという概念を用いて研究を行っていたが、それを超えて向精神薬の治療反応性に関する研究を行った。具体的には、ゲノムワイド遺伝子解析法を用いて第二世代の抗精神病薬の治療反応性に関与する遺伝子を同定した。同定されたPDE7B遺伝子は、cAMPを代謝する酵素であり、この阻害薬が統合失調症の新たな治療薬となる可能性が示唆された。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
79件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
105件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yasuda Y, Hashimoto R, Ohi K 他
Association study of KIBRA gene with memory performance in a Japanese population.
Genes,Brain and Behavior, in press  (2010)
原著論文2
Aleksic B,KUshima I,ItoY他
Genetic association study of KREMEN1 and DKK1 and schizophrenia in Japanese population.
Schizophr Res , 118 (1) , 113-117  (2010)
原著論文3
Azechi M, Iwase M, Ikezawa K 他
Discriminant analysis in schizophrenia and healthy subjects using prefrontal activation during frontal lobe tasks: A near-infrared spectroscopy study.
Schizophr Res , 117 (1) , 52-60  (2010)
原著論文4
Ikeda M, Tomita Y, Mouri A 他
Identification of novel candidate genes for treatment response to risperidone and susceptibility for schizophrenia: integrated analysis among pharmacogenomics, mouse expression and genetic case-control association approaches.
Biol. Psychiatry , 67 (3) , 263-269  (2010)
原著論文5
Hashimoto R, Hashimoto H, Shintani N 他
Possible association between the pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide (PACAP) gene and major depressive disorder.
Neuroscience Lett , 468 (3) , 300-302  (2010)
原著論文6
Ohi K, Hashimoto R, Yasuda Y 他
The Chitinase 3-Like 1 gene and schizophrenia: evidence from a multi-center case-control study and meta-nalysis.
Schizophrenia Res , 116 , 126-132  (2010)
原著論文7
Moriwaki M, Kishi T, Takahashi H 他
Prepulse inhibition of the startle response with chronic schizophrenia: A replication study.
Neuroscience Res , 65 (3) , 259-262  (2009)
原著論文8
Hashimoto R, Ohi K, Okada T 他
Association analysis between schizophrenia and the AP-3 complex genes.
Neuroscience Res , 65 (1) , 113-115  (2009)
原著論文9
Hashimoto R, Noguchi H, Hori H 他
Association between the dysbindin gene (DTNBP1) and cognitive functions in Japanese subjects.
Psychiatry Clin Neurosci , 63 (4) , 550-556  (2009)
原著論文10
Hashimoto R, Noguchi H, Hori H 他
A genetic variation in the dysbindin gene (DTNBP1) is associated with memory performance in healthy controls.
The World Journal of Biological Psychiatry , 7 , 1-8  (2009)
原著論文11
Ohi K, Hashimoto R, Yasuda Y 他
TATA Box-Binding Protein gene is associated with risk for schizophrenia, age at onset and prefrontal function.
Genes, Brain and Behavior , 8 (4) , 473-480  (2009)
原著論文12
Ohi K, Hashimoto R, Yasuda Y 他
Association study of the G72 gene with schizophrenia in a Japanese population: a multicenter study.
Schizophr Res , 109 (1) , 80-85  (2009)
原著論文13
Ohi K, Hashimoto R, Yasuda Y 他
No association between the Bcl2-interacting killer (BIK) gene and schizophrenia.
Neuroscience Lett , 463 (1) , 60-63  (2009)
原著論文14
Ikezawa, K, Iwase, M, Ishii R 他
Impaired regional hemodynamic response in schizophrenia during multiple prefrontal activation tasks: a two-channel near-infrared spectroscopy study.
Schizophr Res , 108 (1) , 93-103  (2009)
原著論文15
Tsunoka T, Kishi T, Kitajima T 他
Association analysis of GRM2 and HTR2A with methamphetamine-induced psychosis and schizophrenia in the Japanese population.
Biol Psychiatry  (2010)
原著論文16
Kushima I, Aleksic B, Ito Y 他
Association study of ubiquitin-specific peptidase 46 (USP46) with bipolar disorder and schizophrenia in a Japanese population.
J Hum Genet , 55 (3) , 33-36  (2010)
原著論文17
Kushima I, Aleksic B, Ikeda M
Association study of bromodomain-containing 1 gene with schizophrenia in Japanese population.
Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet , 153 (3) , 786-791  (2010)
原著論文18
Okumura T, Kishi T, Okochi T
Genetic association analysis of functional polymorphisms in neuronal nitric oxide synthase 1 gene (NOS1) and mood disorders and fluvoxamine response in major depressive disorder in the Japanese population.
Neuropsychobiology , 61 (2) , 57-63  (2010)
原著論文19
Tomida K, Takahashi N, Saito S
Relationship of psychopathological symptoms and cognitive function to subjective quality of life in patients with chronic schizophrenia.
Psychiatry Clin Neurosci , 64 , 62-69  (2010)
原著論文20
Okochi T, Ikeda M, Kishi T,
Meta-analysis of association between genetic variants in COMT and schizophrenia: an update.
Schizophr Res , 110 , 140-148  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-