分娩を取り扱う医療機関等の費用構造の把握のための研究

文献情報

文献番号
202306035A
報告書区分
総括
研究課題名
分娩を取り扱う医療機関等の費用構造の把握のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23CA2035
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
野口 晴子(早稲田大学 政治経済学術院)
研究分担者(所属機関)
  • 片岡 弥恵子(聖路加国際大学大学院 看護学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
3,120,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では,正常分娩を取り扱う医療機関等を対象に,出産等の費用構造等の実態を把握することを目的として,2024年度に予定されている大規模悉皆調査に向け,パイロット調査を実施し,その結果を基に,調査の内容や方法についての検討を行う基礎資料を作成した.
研究方法
 パイロット調査では,①第167回社会保障審議会医療保険部会(令和5年9月7日開催) に基づき,平均出産費用が高・中・低程度の地域からそれぞれ5都道府県ずつ計15都道府県を対象に, ②病院・診療所については『令和4年度病床機能報告』に基づく年間の分娩件数(300件以上/300件未満),③施設機能(特定機能病院/病院(産科単科含む)/有床診療所/助産所),④経営主体(公立/公的/民間)別に分娩取扱施設を分類し,無作為抽出を行うことで,169施設を調査対象施設として選定した.
結果と考察
 調査概要や有効回答数(率)に係る検証では,第1に,記述統計量や回帰分析の結果から,分娩施設の機能,及び,当該施設が所在する市区町村の財政状況や二次医療圏の競争環境により,回答率に偏りが発生することがわかった.第2に,個別の調査項目に対する回答率の結果から,構造設備・体制・分娩取扱実績等にグルーピングされた調査項目については,比較的回答率が高い一方で,患者票・タイムスタディや時間投資を反映する各職種のエフォート率や兼務状況・収益等の調査項目については回答率が低い傾向にあった.
 患者票,及び,タイムスタディに係る検証では,機能別に見ると,妊婦の概要・分娩の概要・医療行為・入院中の助産ケア・付帯サービス・新生児関連・費用の全てにおいて,病院における分散が最も大きく,助産所における分散が小さい傾向にあった.正常分娩,異常・搬送分娩,そして,様々な点で分散の大きいことがわかった無痛分娩と,取り扱うケース,及び,受け入れる妊婦属性の多様性に対応するため,人的・時間的資源の投入量を最適化する必要性に迫られている特定機能病院又は特定機能以外の病院の実態が伺える.同時に,妊婦が高齢化し,高齢の初産婦が増加しつつある中で,初産における異常・搬送ケースの確率が高く,在院日数が長期化するリスクがあること,高齢の妊婦による無痛分娩の選択が増加傾向にあること,そして,母親の年齢と初産が助産師の時間投入量の増加要因であること等が明らかとなった.
 収益に係る検証では,第1に,昨今における出生数の減少を反映して,助産所を除けば,分娩取扱施設での収益や損益差額が下落傾向にある. 第2に,医療・介護費用の内訳を見ると,機能にかかわらず,人件費である給与費の比率が最も高いことから,分娩が労働集約的な医療サービスであることが伺える.第3に,流動比率やキャッシュフローの結果を見ると,短期的な債務の返済能力が十分にあり,また,積極的に投資活動を行っていることから,少なくとも,今回のパイロット調査に回答したこれらの病院の経営状態は良好であった.
結論
 以上の結果から,第1に,2024年度に実施される調査において,一部,標本調査を実施する場合は,分娩施設の機能や地域属性等に配慮したoversampling等の抽出方法をとる必要があることを示唆している.第2に,比較的回答率の高かった調査項目については悉皆での調査を行うとして,既に公開されている情報を収集する等して調査対象施設の負担を軽減するとともに,調査対象施設の負担が起因すると考えられる回答率が低い調査項目については,抽出調査への移行を検討すべきかもしれない.但し,標本調査を実施するに当たっては,データの代表性を確保出来るよう,十分留意する必要がある.
 第2に,患者票やタイムスタディ等の結果から,出産に際し,医師・看護師・助産師等の医療職ばかりではなく,付帯サービスを提供する職種による,分娩の現場での人的・時間的資源の投入が求められていることが示唆された.
 最後に,収益票からは,経営状態の良い分娩取扱施設のみが回答するという選択バイアスが発生する可能性が示唆される.仮に,経営状態も含め,ある一定の特性をもった分娩施設のみが自発的に回答をすれば,代表性が担保されず,実態が正確に把握されないことになってしまう.したがって,2024年度に実施される調査方法については,選択バイアスに対応する手段を講ずる必要があるだろう.

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202306035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1) 成果:本研究では,2024年度に実施予定の出産等の費用構造等の実態を把握するための大規模調査へ向けたパイロット調査を行い,調査の内容や方法に対する検討資料を作成した.
(2) 意義:本研究の意義は,施設や地域の属性による回答バイアスの可能性を明らかにし,代表性を確保するための示唆を得たこと,また,国際的に見て周産期における医療や助産ケアに係る情報が稀少な中,少ない観測数ながらも,施設機能や分娩状況による患者属性や医療者の投入時間等について,周産期ケアの現状を明らかにした点である.
臨床的観点からの成果
(1) 成果:分娩施設の機能別に見ると,妊婦や分娩の概要・入院中の助産ケア等全調査項目で,病院の分散が最も大きく,助産所が小さい傾向にあった.また,高齢の初産婦が増加する中,初産での異常・搬送や在院日数長期化のリスクが高く,無痛分娩の選択確率が高いこと,母親の年齢と初産が助産師の時間投入量の増加要因であること等が明らかとなった.
(2) 意義:本研究により,分娩に際し医療職のみならず多様な職種による人的・時間的資源の投入の必要性が示唆されたことは,周産期ケアの検討を行う上で,重要な意義を持つ.
ガイドライン等の開発
本研究では,ガイドライン等の開発は行っていない.
その他行政的観点からの成果
本研究での成果は,2024年度に設置された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」での検討に活用され,第1回検討会(2024年6月26 日)での資料として提示された.当該検討会での審議を経て,2024年度に実施予定の分娩取扱施設を対象とする大規模調査に係る調査の内容や方法に対する方向性が決定される予定である.
その他のインパクト
正常分娩に対する保険適用の是非を検討するためにも,今後の少子化対策に係るあらゆる政策立案・評価においても,周産期に係る「代表性」のあるデータベースの構築は必須である.「出産なび」(2024年5月30日公開) や,本研究で実施される2024年度調査を契機に,世界的に見て,最大規模かつ高い質の医療・介護情報である,NDB・介護DB・DPC等の大規模行政管理情報の収集・構築・情報提供のノウハウを生かし,周産期データベースが収集・構築されることが期待される.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
202306035Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,056,000円
(2)補助金確定額
4,056,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 993,860円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 2,126,140円
間接経費 936,000円
合計 4,056,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
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