わが国における飲酒の実態ならびに飲酒に関連する生活習慣病、公衆衛生上の諸問題とその対策に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200926008A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国における飲酒の実態ならびに飲酒に関連する生活習慣病、公衆衛生上の諸問題とその対策に関する総合的研究
課題番号
H19-循環器等(生習)・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
石井 裕正(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター)
  • 上島 弘嗣(滋賀医科大学社会医学講座福祉保健医学 福祉保健医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、我が国のアルコール関連問題の低減に資するための基礎資料作成を目的とした。
研究方法
成人の飲酒実態と生活習慣に関する実態調査研究では、飲酒運転の実態と大量飲酒・アルコール依存症との関係について検討した。多量飲酒者に対する治療的介入手法の開発とその効果評価に関する研究では、ブリーフ・インターベンションを用いた介入の長期の効果を検証した。日本人一般男性における飲酒習慣と冠動脈の潜在性動脈硬化度の関連を断面調査成績より、耐糖能異常・糖尿病者での飲酒習慣と死亡との関連を検討した。また、肝細胞癌、重症型アルコール性肝炎、アルコール性の急性膵炎および慢性膵炎などの実態を調査した。
結果と考察
飲酒運転の理由はアルコール依存症の中核症状そのものであり、これらを克服するためには、依存症の治療によらなければならないことが明らかとなった。多量飲酒者に対するブリーフ・インターベンションを用いた介入では、対照群でも飲酒様態の改善がみられたが、介入群ではそれを明らかに上回る改善を認めた。1日2合以上の飲酒は冠動脈石灰化に危険因子として働き、1合までは予防的に働くが、基礎疾患有病者では飲酒量の増加に伴い虚血性疾患の発症率は有意の増加し、20g/日前後の少量の飲酒習慣であってもメタボリックシンドロームや動脈硬化の進展に悪影響を及ばしていることが示唆された。飲酒パターンの内臓肥満に及ぼす影響についての検討では、内臓肥満発生に対する危険因子として、22g/日以上の飲酒が危険因子として抽出された。肝細胞癌症例の検討では、アルコール性が7%を占めた。アルコール性では発癌年齢が若く女性の頻度が低く肝硬変合併頻度が高かった。肥満・2型糖尿病の合併が、一般人口より多く、肝癌発症の危険因子と考えられた。重症型アルコール性肝炎(SAH)については、生存率は62.9%であった。急性膵炎および慢性膵炎についての検討では、アルコール性が急性膵炎患者の29.5%、慢性膵炎患者の64.9 %を占め、依然として主要な成因であることが明らかになった。女性の平均年齢は、男性に比べて若かく、かつ短い飲酒期間で膵炎を発症していた。急性膵炎から慢性膵炎への移行や膵機能不全への進行を防止するためにも、膵炎加療後の禁酒指導が特に重要と考えられた。
結論
飲酒運転者には、アルコール依存症としての治療的介入が必要と考えられる。多量飲酒者に対するブリーフ・インターベンションを用いた治療的介入手法の有効性が確認された。また、アルコール飲料の有害使用による生活習慣病としての循環器疾患、肝膵疾患、消化管癌の実態では、一部の循環器疾患を除く飲酒の負の影響が確認された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200926008B
報告書区分
総合
研究課題名
わが国における飲酒の実態ならびに飲酒に関連する生活習慣病、公衆衛生上の諸問題とその対策に関する総合的研究
課題番号
H19-循環器等(生習)・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
石井 裕正(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター)
  • 上島 弘嗣(滋賀医科大学社会医学講座福祉保健医学 福祉保健医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、我が国のアルコール関連問題の低減に資するための基礎資料作成を目的とした。
研究方法
わが国の成人人口を代表するサンプルに対して、飲酒状況、アルコール関連問題の実態について検討した。多量飲酒者に対する治療的介入手法の開発とその効果評価に関する研究では、ブリーフ・インターベンションを用いた介入の長期の効果を検証した。日本人一般集団の男性を対象とした疫学調査成績を用いて、飲酒習慣と循環器疾患との関連を検討した。また、アルコール性の肝硬変、肝細胞癌、重症型アルコール性肝炎、急性膵炎および慢性膵炎などの実態を調査した。
結果と考察
飲酒率は、男性83.1%、女性は60.9%であったが、20-24歳で男女の逆転が見られ、女性の飲酒割合が上回った。多量飲酒者に対する治療的介入手法の開発とその効果評価に関する研究では、ブリーフ・インターベンションを用いた介入の長期の効果を検証した。その結果、対照群でも飲酒様態の改善がみられたが、介入群ではそれを上回る改善を認めた。
飲酒量が22gを超える場合、内臓肥満のリスクが高くなり、その結果、生活習慣病や脂肪肝を引き起こす可能性があると考えられた。5合未満の飲酒で肝硬変に至った群では、糖尿病、肥満などのアルコール性肝硬変進展促進因子の合併が多く、肝硬変進展に関与していることが示唆された。女性のアルコール性肝硬変は男性と比較し少ない飲酒量かつ短期間で進行。肝細胞癌症例では、アルコール性が7%であった。アルコール性は発癌年齢が若く女性の頻度が低く肝硬変合併頻度が高かった。肥満・2型糖尿病の合併が、一般人口より多く、肝癌発症の危険因子と考えられた。重症型アルコール性肝炎(SAH)の実態と予後についての研究では、生存率は62.9%であった。アルコール性が急性膵炎患者の29.5%、慢性膵炎患者の64.9 %を占め、依然として主要な成因であることが明らかになった。女性の平均年齢は、男性に比べて若かく、かつ短い飲酒期間で膵炎を発症していた。急性膵炎から慢性膵炎への移行や膵機能不全への進行を防止するためにも、膵炎加療後の禁酒指導が特に重要と考えられた。
結論
飲酒運転者には、アルコール依存症としての治療的介入が必要と考えられる。多量飲酒者に対するブリーフ・インターベンションを用いた治療的介入手法の有効性が確認された。また、アルコール飲料の有害使用による生活習慣病としての循環器疾患、肝膵疾患、消化管癌の実態では、一部の循環器疾患を除く飲酒の負の影響が確認された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200926008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
若年者、女性の飲酒問題、飲酒運転などの飲酒に伴う社会問題の実態も解明され、今後の介入の方向性を示すものと考えられ、女性や問題飲酒者への指導が重要であることが示唆された。
多量飲酒者に対する介入手法開発と有効性評価に関する研究では、ブリーフ・インターベンションを用いた介入の長期の効果を検証し、ブリーフ・インターベンションの有効性が特に職域のサンプルから明らかになった。
臨床的観点からの成果
既に基礎疾患を有しかつ頸動脈における中膜内膜複合体肥厚を有する者においては、20g/日前後の少量の飲酒習慣であっても、それがメタボリックシンドロームや動脈硬化の進展に悪影響を及ばしていることが示唆された。
アルコール性肝硬変、大酒家肝細胞癌においてでも肥満・2型糖尿病の合併が多く、肝線維化、肝癌発症の危険因子と考えられた。急性膵炎および慢性膵炎についての検討では、アルコール性が急性膵炎患者の29.5%、慢性膵炎患者の64.9 %を占め、依然として主要な成因であることが明らかになった。
ガイドライン等の開発
多量飲酒者に対する介入手法開発と有効性評価に関する研究では、ブリーフ・インターベンションのための資料を作成し、それを用いた介入の長期の効果を検証し、ブリーフ・インターベンションの有効性が特に職域のサンプルから明らかになった。
「食道癌リスク検診」の問診票を作成した。50歳以上の男性を対象に食道癌の超高危険者を簡単に特定でき、リスク上位6-10%に相当する高危険群の内視鏡検診から2.3%-4.7%の高頻度で食道癌が診断されることが明らかとなった。
その他行政的観点からの成果
飲酒運転の実態と大量飲酒・アルコール依存症との関係について検討し、飲酒運転の理由として挙げられた項目は、アルコール依存症の中核症状そのものであり、これらを克服するためには、単に本人の自覚によるのではなく、依存症の治療によらなければならないことが明らかとなり、今後の行政指導の在り方を見直す資料となった。
その他のインパクト
平成21年11月7日に、慶應義塾大学 信濃町キャンパスにて、「酒と健康」―アルコールとの上手なつきあい方―と題した、研究成果等普及啓発事業の成果発表会を行った。講師は。石井裕正 慶應義塾大学名誉教授、上島弘嗣 滋賀医科大学教授、加藤眞三 慶應義塾大学看護医療学部教授、福永龍繁 東京都監察医務院院長、樋口進 久里浜アルコール症センター副院長、狩野卓也 (株)酒文化研究所で、アルコールの有害使用による健康および社会への負の影響を低減するための計画策定について、参加された市民に伝える機会となった。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
43件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
41件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
堀江義則、山岸由幸、菊池真大、他
飲酒の肝硬変への影響 -C型肝炎とアルコール性肝硬変の関係について- 
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 44 , 38-42  (2009)
原著論文2
堀江義則、菊池真大、梅田瑠美子、他
アルコール性肝硬変の進展に関与する因子の検討
アルコールと医学生物学 , 28 , 86-93  (2009)
原著論文3
堀江義則、石井裕正、山岸由幸、他
わが国におけるアルコール性肝硬変の実態とその進展因子に関する検討
肝臓 , 11 , 507-513  (2009)
原著論文4
堀江義則、山岸由幸、梅田瑠美子、他
血漿交換は重症型アルコール性肝炎の治療に有効か?
アルコールと医学生物学 , 29 , 33-40  (2010)
原著論文5
Horie Y, Kikuchi M, Yamagishi Y, et al
Effect of a herbal medicine on fatty liver in rats fed ethanol chronically.
Jpn. J. Alcohol & Drug Dependence , 44 , 636-648  (2009)
原著論文6
Nakamura Y, Ueshima H, Kadota A, et al
Alcohol intake and 19-year mortality in diabetic men: NIPPON DATA80
Alcohol , 43 (8) , 635-641  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-10-07
更新日
-