遺伝子不安定性の機能解析及び遺伝子変異推測モデルの構築による乳癌卵巣癌ハイリスクキャリアーの同定と発症予防法の確立

文献情報

文献番号
200924016A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子不安定性の機能解析及び遺伝子変異推測モデルの構築による乳癌卵巣癌ハイリスクキャリアーの同定と発症予防法の確立
課題番号
H19-3次がん・一般-016
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲一(新潟大学 教育研究院医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 井ノ上 逸朗(東海大学 )
  • 佐伯 俊昭(埼玉医科大学国際医療センター )
  • 八幡 哲郎(新潟大学 教育研究院医歯学系)
  • 関根 正幸(新潟大学医歯学総合病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
UPD:Uniparental Disomyの詳細な解析を散発性卵巣癌組織との比較で実施、BRCA1陽性腫瘍における悪性度、抗がん剤に対する感受性等の病態の特異性を理解する。BRCA1キャリアーの正常検体でのCNV解析を行い、未発症者、発症者間での比較により、BRCA1キャリアーの中でのハイリスクグループの抽出、これらの理解を通して、発症予防管理システムの構築に結びつける。
研究方法
1.BRCA1陽性卵巣がん組織におけるUPD解析:BRCA1 陽性上皮性卵巣がん8例、孤発性卵巣がん28例(漿液性腺がん)よりDNA を抽出、Affymetrix SNP array 6.0 によるCNV変化を測定、腫瘍組織に存在するUPD 領域を選びだした。
2.BRCA1キャリアーにおけるGerm line CNV解析:正常組織より得られたDNAを用いてゲノムワイドにコピー数変化解析を行い、アレル特異的データを取得した。
3.乳がん組織のCNV解析を行った。

結果と考察
全体としては孤発症例でUPD領域が多い傾向を示した。BRCA1陽性腫瘍特異的なUPD領域 は3か所認められた。孤発卵巣がん症例に比較して、BRCA1陽性腫瘍にUPD領域が集積する傾向を認めた。
BRCA1陽性1家系から1症例、計44症例、正常健常人49人、孤発性卵巣がん症例44人のCNV解析を実施した。その結果、CNV 領域が50個以上認められる症例はBRCA1陽性症例で31.8%、正常コントロールで32.7%孤発性卵巣がん症例で95.5%認められた。BRCA陽性で卵巣がん症例39家系51症、未発症のキャリアー16家系30症例、健常人49症例、孤発性卵巣がん症例44症例を対象としにしてCNV 解析を行ったところ、BRCA1陽性症例に特異的に観察される欠失領域、卵巣がん発症例に共通して認められるCNV変化等BRCA1特異的な遺伝子数変化が認められた。

結論
CNV 解析の結果、BRCA1陽性腫瘍で孤発性卵巣がんとは異なる遺伝子不安定性の存在することが示唆された。また正常組織のCNV 解析では同一家系内でも発症、未発症でCNV 領域が異なり、BRCA1キャリアーの発症予知、予防理に重要な知見がえられた。他方、乳癌ゲノムは、卵巣癌のそれと比し、癌ゲノム特異的構造変化領域の頻度(度数)が低い傾向を示し、癌種によって、染色体構造変化の度合いが異なる可能性を認めた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
200924016B
報告書区分
総合
研究課題名
遺伝子不安定性の機能解析及び遺伝子変異推測モデルの構築による乳癌卵巣癌ハイリスクキャリアーの同定と発症予防法の確立
課題番号
H19-3次がん・一般-016
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲一(新潟大学 教育研究院医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 井ノ上 逸朗(東海大学 )
  • 佐伯 俊昭(埼玉医科大学国際医療センター )
  • 八幡 哲郎(新潟大学 教育研究院医歯学系)
  • 関根 正幸(新潟大学医歯学総合病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人独自のBRCA変異推測モデルを構築すると同時に腫瘍組織、Germ lineの遺伝子不安定性の解析を行い、乳癌・卵巣癌発症の危険性を有するハイリスクグループを抽出する。
研究方法
乳がん・卵巣がん癌患者に対し、第2度近親者までの血縁者に関する乳癌、卵巣癌の罹病調査を実施した。
BRCA1 陽性および孤発性卵巣がん、乳がん症例を対象にAffymetrix SNP array 6.0 によるCNV(Copy Number Valiant)解析を腫瘍組織および正常組織両者で施行した。同時に卵巣がん組織ではUPD(Uniparental Disomy)解析と発現プロファイル解析を行った
結果と考察
家族歴アンケートの結果、家族内の乳がん、卵巣がんの頻度は卵巣がんは欧米と同様、乳がんでは低い傾向であり、BRCA1キャリアーで若年発症および遺伝要因による発がんが強い傾向が認められた。
乳癌ゲノムの解析より、癌ゲノム特異的CNVの頻度が低い傾向を示し、癌種によって染色体構造変化の度合いが異なるのを認めた。
BRCA1変異卵巣がんのUPD解析の結果、特徴的なUPD領域が認められた。
Germ LineにおけるCNV変化は孤発性卵巣がん患者で高頻度に認められるが、BRCA1 陽性卵巣がん患者、BRCA1未発症者、健常人では低く、同程度であった。BRCA1陽性卵巣がん発症者に共通して認められるCNV変化、Anticipationに伴ったCNVの延長等が観察された。
卵巣がんの遺伝子発現とCNV変化により、コピー数が増加している20q13.13領域の14遺伝子でコピー数の増加に伴った遺伝子発現の亢進と生存率の延長が観察された(logrank test 0<0.05)。
結論
アンケート結果をBRCA1遺伝子変異推測モデルに当てはめたところ、欧米と一致した値をしめし、ミリアドモデルが日本人でも有効であることが示された。
BRCA1陽性腫瘍, 孤発性卵巣がん、乳がんでのゲノムワイドCNV UPD解析の結果、BRCA1変異、癌種によって染色体構造変化が異なる可能性を認めた。さらに遺伝子コピー数の増加が遺伝子発現の増加等、病態形成に影響を与えていることが示された。Germ LineにおけるCNV変化は癌発症、未発症で異なり、BRCA1キャリアーの発症予知、予防管理に重要な知見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腫瘍組織でのゲノムワイドCNV 解析の結果、BRCA1陽性腫瘍組織でBRCA1 遺伝子以外に孤発性卵巣がん組織とは異なる遺伝子不安定性の存在することおよび、遺伝子コピー数の増加が遺伝子発現の変化等腫瘍組織の病態形成に影響を与えていることが示唆された。また正常組織のCNV 解析では同一家系内でも発症、未発症でCNV 領域が異なり、BRCA1キャリアーの発症予知、予防管理に重要な知見がえられた。
臨床的観点からの成果
 BRCA1陽性キャリアー対する、分子病理学的知見に基ついた発症予知法はいまだ確立されてなく、一律的な予防的卵巣が摘出、ピルの投与等が行われているのが現状である。今回の我々の知見を踏まえ、高リスク群に対しては予防的手術療法が適応となり、低リスク群では経過観察で充分となる。
ガイドライン等の開発
本研究の結果を踏まえ、家族歴のある卵巣がん患者に対する取り扱いに関するガイドラインを立案中であり、出来上がった際には日本産科婦人科学会などへ申請を考慮する。
その他行政的観点からの成果
BRCA1キャリアー女性のリスクファクターが解明できれば、妊孕性の確保につながり、卵巣摘出による更年期障害等の副作用に苦しむ必要もなくなると同時に医療経済の効率化あるいは我が国における少産少子の解消にも寄与することは確実である。米国で本疾患に対する解析が進んでいるとはいえ、日本人特有の解析及び情報が我が国のBRCA1キャリアー女性を卵巣がんから救うためには必須である。

その他のインパクト
家族性性卵巣がんを含めた卵巣がん一般の遺伝子発現と予後について新潟日報社の取材を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
38件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshihara K, Tajima A, Yahata T etal.
Gene expression profile for predicting survival in advanced-stage serous ovarian cancer across two independent databases.
PLoS ONE , 5 , 9615-  (2010)
原著論文2
Yoshihara K, Tajima A, kamata D. et al.
Gene expression profiling of advanced-stage serous ovarian cancers distinguishes novel subclasses and implicates ZEB2 in tumor progression and prognosis.
Cancer Sci , 100 (8) , 1421-1428  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-