ゲノム情報に基づいた個体発生と発がん・進展に関連する新規遺伝子の同定およびその機能的意義の解明と臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
200924006A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報に基づいた個体発生と発がん・進展に関連する新規遺伝子の同定およびその機能的意義の解明と臨床応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
中川原 章(千葉県がんセンター がん先進治療開発研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 上條 岳彦(千葉県がんセンター 発がん制御研究部)
  • 尾崎 俊文(千葉県がんセンター がん治療耐性克服研究室)
  • 竹永 啓三(島根大学医学部 生命科学講座)
  • 古関 明彦(理化学研究所 免疫器官形成研究グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
22,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
19、20年度に引き続き、ゲノム情報に基づいて、個体発生と発がん・進展に関連する新規遺伝子を同定及び機能解析し、それを臨床応用することを目的とした。また、個体発生に関連する遺伝子のなかで、既に発がんの制御に関わることが明らかになっている重要な遺伝子に関して機能解析も行う。
研究方法
アレイCGH用チップは、2464 BACクローンを搭載したチップまたはAffimetrix社のSNPsアレイ、およびアジレント社の44Kチップを用いた。ALK遺伝子変異検索には、腫瘍DNAまたは腫瘍由来cDNAを用いた。また、定量的mRNA発現測定はリアルタイムPCR法にて行った。プロモーター活性はルシフェラーゼレポーターアッセイで、SP1/SP3の発現はウェスタンブロットで、活性はゲルシフトアッセイ及びクロマチン免疫沈降法により解析した。
結果と考察
1)神経芽腫343例の解析から、最終的に日本人におけるALK異常は、点突然変異率4.7%、増幅率1.5%で、総変異率は6.2%であり、欧米の頻度よりやや低かった。網羅的ゲノム異常パターンと組み合わせ、神経芽腫の新しい臨床ゲノムリスク分類を作製した。2)酵母two-hybrid system法を用いて、染色体 1p36 欠失領域に見出した新規がん抑制遺伝子産物 KIF1Bβ に結合する蛋白質のひとつは、ミトコンドリア経由アポトーシスを誘導し、その融合を制御するものであった。同じく 1p36 にマップされる RUNX3 はp53と結合し、Ser15リン酸化のコファクターとして機能していた。さらに、神経芽腫 cDNA プロジェクトから同定した新規依存性受容体 UNC5D は、p53/p73 により直接転写制御されたが、カスパーゼで切断された細胞内断片は核に移行し、細胞死を増強することを見出した。3)ミトコンドリア活性酸素種がPI3K/Akt/PKC/histone deacetylaseシグナル伝達経路を介してHIF-1α遺伝子の転写を活性化した。また、肺がん患者のND遺伝子のミスセンス変異は、原発巣よりも転移巣で有意に高かった。
結論
ゲノム情報から日本人神経芽腫ALK遺伝子の増幅・点突然変異の頻度が欧米人に比べやや低いことが分かり、染色体1p36のKIF1Bβ、RUNX3等発がんと治療薬開発に重要な新規ドライバー遺伝子の機能が明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2010-07-16
更新日
-

文献情報

文献番号
200924006B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム情報に基づいた個体発生と発がん・進展に関連する新規遺伝子の同定およびその機能的意義の解明と臨床応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
中川原 章(千葉県がんセンター がん先進治療開発研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 上條 岳彦(千葉県がんセンター 発がん制御研究部)
  • 尾崎 俊文(千葉県がんセンター がん治療耐性克服研究室)
  • 竹永 啓三(島根大学医学部 生命科学講座)
  • 古関 明彦(理化学研究所 免疫器官形成研究グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性がんの克服を目的として、個々のがんが由来する正常組織の発生生物学的特性に注目し、個体発生過程において機能する重要な遺伝子を、ゲノム情報に基づいて網羅的に同定し、それらを分子標的とした治療法開発を目指すことを本プロジェクトの要とした。
研究方法
網羅的ゲノム異常解析は、BACアレイまたはAffimetrix社のSNPsアレイ、アジレント社の44Kチップを使用した。また、in-house cDNA microarrayは、小児がん組織に由来するcDNAライブラリーから作成した。また、分子生物学的解析には、ノザンブロット、ウエスタンブロット、免疫沈降法、ChIPアッセイ、などを用いた。
結果と考察
1)網羅的ゲノム解析情報から、1p36がん抑制遺伝子KIF1B-βとTAp73, RUNX3を同定した。KIF1Bβ に結合する蛋白質の1つは、ミトコンドリア経由アポトーシスの誘導に関与した。また、RUNX3 はp53と結合し、Ser15リン酸化のコファクターとして機能した。17q gainに新規non-coding RNAであるncRANはoncogene機能を有する。さらに、11q loss候補遺伝子としてTSLC1を同定したが、神経芽腫においてはメチル化以外のエピジェネティックな制御を受けていると思われた。2)神経芽腫343例の解析から、日本人ALK異常は、点突然変異率4.7%、増幅率1.5%で、総変異率は6.1%で、欧米の頻度よりやや低かった。ALK異常と網羅的ゲノム異常パターンを組み合わせ、神経芽腫の新しい臨床ゲノムリスク分類を作製した。3)MYCNがBmi1を転写ターゲットし、Bmi1の標的としてKIF1BβとTSLC1を同定した。また、H3K27のトリメチル化が見られる遺伝子として約3200遺伝子を明らかにした。4)ミトコンドリアND6遺伝子中の病因性変異が、活性酸素種(ROS)の産生を介してHIF-1αの発現を亢進し、転移能も亢進させた。また、ROSがPI3K/Akt/PKC/histone deacetylaseシグナル伝達経路を介してHIF-1αの転写を活性化した。
結論
個体発生と関連の深い神経芽腫を主な対象として、網羅的なゲノム解析情報に基く発がん候補遺伝子の探索を行い、治療薬開発の標的にもなりうるALK, KIF1Bβを含む多数の重要遺伝子を同定し、臨床応用への道を明確にできた。

公開日・更新日

公開日
2010-07-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924006C