ヒト多段階発がん過程におけるエピジェネティックな異常の網羅的解明と臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
200924002A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト多段階発がん過程におけるエピジェネティックな異常の網羅的解明と臨床応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
牛島 俊和(国立がんセンター研究所 発がん研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 金井 弥栄(国立がんセンター研究所 病理部)
  • 豊田 実(札幌医科大学 生化学講座)
  • 伊東 文生(聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科)
  • 松林 宏行(静岡県立静岡がんセンター 消化器内視鏡科)
  • 山田 泰広(岐阜大学 腫瘍病理)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
54,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
DNAメチル化異常は、ヒト発がんに深く関与するが、その誘発要因や誘発の分子機構に関しては不明の点が多い。本研究では、(1) DNAメチル化異常の誘発機構を明らかにすること、(2)ゲノム網羅的なDNAメチル化変化の解析により、がん抑制遺伝子のサイレンシングを含めて、がんでのエピジェネティック異常の全体像を明らかにすること、(3) がんの診断マーカーとして役立つDNAメチル化変化を同定すること、を目的とした。
研究方法
ゲノム網羅的なDNAメチル化解析では、1) 脱メチル化剤処理後、発現マイクロアレイによりスクリーニングする方法、2) BAMCA法またはMCAM法、3) MeDIP-CGIマイクロアレイ法の、3通りの方法を使い分けた。ゲノム領域特異的なDNAメチル化解析としては、非メチル化シトシンを特異的にウラシルに変換するbisulfite処理の後、シークエンス法、MSP法、定量的MSP法、及び、Pyrosequence法により解析した。
結果と考察
DNAメチル化異常誘発の標的遺伝子の決定機構については、遺伝子低転写に加えて、Pol II結合が重要であることを明らかにした。H. pyloriによる胃粘膜でのDNAメチル化異常誘発には、H. pylori自体よりも炎症が重要であることを明らかにした。DNA低メチル化の消化管腫瘍抑制効果は、DNAメチル化が大腸腫瘍細胞の未分化状態および増殖状態の維持に関与することによる可能性が示唆された。胃癌および乳癌におけるmir-34b/cの異常メチル化異常を明らかにした。DNAメチル化により不活化される新規乳がん抑制遺伝子候補NTN4を同定した。次世代シークエンサーを用いて遺伝子転写開始点の網羅的解析を行い、新たなDNAメチル化の標的としてnon-coding RNA遺伝子を同定した。肝発がんリスク評価指標の開発において、Pyrosequence法を用いることで、昨年度までの指標に比し、感度・特異度が向上し、微量の検体にも適用可能となった。胃洗浄廃液でのSOX17のメチル化を用いて、優れた感度と特異度で胃がんの存在を診断できる可能性を示した。神経芽細胞腫の予後診断は臨床試験に伴う診断を継続している。
結論
世界最高水準のゲノム網羅的解析により、診断的に有用性が高いDNAメチル化異常を潤沢に同定し、臨床的有用性が真に高いものについては臨床開発へとつなげている。また、DNAメチル化異常誘発の機構を解明することで、疾患予防を目指した基礎研究を展開している。今後も臨床的に重要な問題に関して、エピゲノム解析を行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200924002B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト多段階発がん過程におけるエピジェネティックな異常の網羅的解明と臨床応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
牛島 俊和(国立がんセンター研究所 発がん研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 金井 弥栄(国立がんセンター研究所 病理部)
  • 豊田 実(札幌医科大学 生化学講座)
  • 伊東 文生(聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科)
  • 松林 宏行(静岡県立静岡がんセンター 消化器内視鏡科)
  • 山田 泰広(岐阜大学 腫瘍病理)
  • 柳岡 公彦(和歌山県立医科大学 第二内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
DNAメチル化異常は、ヒト発がんに深く関与するが、その誘発要因や誘発の分子機構に関しては不明の点が多い。本研究では、(1) DNAメチル化異常の誘発機構を明らかにすること、(2)特にゲノム網羅的なDNAメチル化変化の解析により、がん抑制遺伝子のサイレンシングを含めて、がんでのエピジェネティック異常の全体像を明らかにすること、(3) がんの診断マーカーとして役立つDNAメチル化変化を同定すること、を目的とした。
研究方法
ゲノム網羅的なDNAメチル化解析では、1) 脱メチル化剤処理後、発現マイクロアレイによりスクリーニングする方法、2) BAMCA法またはMCAM法、3) MeDIP-CGIマイクロアレイ法の、3通りの方法を使い分けた。ゲノム領域特異的なDNAメチル化解析としては、bisulfite処理の後、シークエンス法、COBRA法、MSP法、定量的MSP法、Taqman法及び、Pyrosequence法により解析した。
結果と考察
がんではDNAメチル化異常に遺伝子特異性が存在し、その機構として、正常細胞における低転写、特定のヒストン修飾およびPol II結合が重要であることを示した。H. pylori感染は胃粘膜でのDNAメチル化異常誘発の原因であること、誘発にはH. pylori自体よりも炎症が重要であることを明らかにした。マウスモデルで低メチル化は、胃、舌発がんを抑制することを示した。ラット前立腺がんでTgfbr2遺伝子のサイレンシングを見出した。がん抑制的に働くと考えられるMiR-124a及びMiR-34b/cのヒト各種がんにおけるメチル化サイレンシングを見出した。新規乳がん抑制遺伝子候補NTN4を同定した。肝細胞がんの発がんリスク、各種臨床病理学的性質、及び再発リスクの診断において優れた感度と特異度で判定可能なDNAメチル化マーカーを同定した。胃洗浄液でのMINT25およびSOX17のメチル化を用いて、胃がんを診断できる可能性を示した。RASD1のメチル化により、骨髄腫のデキサメサゾン感受性が低下することを示した。神経芽細胞腫の予後診断は臨床試験に伴う診断を継続している。
結論
世界最高水準のゲノム網羅的解析により、診断的に有用性が高いDNAメチル化異常を潤沢に同定し、臨床的有用性が真に高いものについては臨床開発へとつなげた。また、DNAメチル化異常誘発の機構を解明することで、疾患予防を目指した基礎研究を展開している。今後も臨床的に重要な問題に関して、エピゲノム解析を行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(成果)発がん因子曝露によるDNAメチル化異常の誘発には標的遺伝子特異性があることを示し、その機構としてPol II結合がメチル化抵抗性を与えることを世界で初めて明らかにした。また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染がDNAメチル化異常誘発の原因であること、かつ、菌自体よりも炎症が重要であることを明らかにした。各種の診断マーカーのシーズを同定した。 (意義)研究成果は学術的新規性が高く、国際的学術誌・国際学会で発表されている。また、新しいがん予防・診断法の基礎となると考えられ、社会的にも意義深い。
臨床的観点からの成果
(成果)世界最高水準のゲノム網羅的解析により、診断的に有用性が高いDNAメチル化異常を潤沢に同定し、臨床的有用性が真に高いものについては臨床開発へとつなげた。 (意義)本研究班の成果を元に、世界に先駆けてDNAメチル化異常を用いた発がんリスクマーカーが実用化に向かっており、その臨床的・国際的・社会的意義は非常に大きい。今後も臨床的に重要な課題を解決すべく、エピゲノム解析を行う必要がある。
ガイドライン等の開発
本研究での成果に基づき、ヒトエピゲノムコンソーシアム発足に協力した。
その他行政的観点からの成果
現時点では直接行政施策として反映されてはいないが、本研究の臨床的インパクトから、がんの予防・診断・治療の向上を通じて行政的にも貢献できる。
その他のインパクト
エピジェネティクスは近年社会的にも注目されており、本研究班の研究者もマスコミ等での認知度の向上に貢献した。本研究班は、がんエピジェネティクス研究において我が国をリードしており、その影響は大きい。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
60件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
日本癌学会学術総会Mauvernay賞受賞講演を含む
学会発表(国際学会等)
50件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計7件
その他成果(特許の取得)
0件
国内5件、海外2件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Niwa T, Tsukamoto T, Ushijima T, et al.
Inflammatory processes triggered by H. pylori infection cause aberrant DNA methylation in gastric epithelial cells
Cancer Res , 70 , 1430-1440  (2010)
原著論文2
Fujikane T, Toyota M, Tokino T, et al.
Genomic Screening for genes upregulated by demethylation identified novel targets of epigenetic silencing in breast cancer
Breast Cancer Res Treat  (2010)
原著論文3
Suzuki H, Itoh F, Toyota M, et al.
IGFBP7 is p53 responsive gene specifically silenced in colorectal cancer with CpG island methylator phenotype
Carcinogenesis , 31 , 342-349  (2010)
原著論文4
Yamada Y, Aoki H, Hara, A, et al.
Rest promotes the early differentiation of mouse ESCs but is not required for their maintenance
Cell Stem Cell , 6 , 10-15  (2010)
原著論文5
Nakajima T, Yamashita S, Ushijima T, et al.
The presence of a methylation fingerprint of Helicobacter pylori infection in human gastric mucosae
Int J Cancer , 124 , 905-910  (2009)
原著論文6
Takeshima H, Yamashita S, Ushijima T, et al.
The presence of RNA polymerase II, active or stalled, predicts epigenetic fate of promoter CpG islands
Genome Res , 19 , 1974-1982  (2009)
原著論文7
Terada K, Okochi-Takada E, Ushijima T, et al.
Association between frequent CpG island methylation and HER2 amplification in human breast cancers
Carcinogenesis , 30 , 466-471  (2009)
原著論文8
Yamashita S, Hosoya K, Ushijima T, et al.
Development of a novel output value for quantitative assessment in methylated DNA immunoprecipitation-CpG island microarray analysis
DNA Res , 16 , 275-286  (2009)
原著論文9
Arai E, Ushijima S, Kanai Y, et al.
Genome-wide DNA methylation profiles in both precancerous conditions and clear cell renal cell carcinomas are correlated with malignant potential and patient outcome
Carcinogenesis , 30 , 214-221  (2009)
原著論文10
Arai E, Ushijima S, Kanai Y, et al.
Genome-wide DNA methylation profiles in liver tissue at the precancerous stage and in hepatocellular carcinoma
Int J Cancer , 125 , 2854-2862  (2009)
原著論文11
Nojima M, Toyota M, Shinomura Y, et al.
Genomic screening for genes silenced by DNA methylation revealed an association between RASD1 inactivation and dexamethasone resistance in multiple myeloma
Clin Cancer Res , 15 , 4356-4364  (2009)
原著論文12
Watanabe Y, Toyota M, Issa JP, et al.
Sensitive and specific detection of early gastric cancer with DNA methylation analysis of gastric washes
Gastroenterology , 136 , 2149-2158  (2009)
原著論文13
Baba S, Yamada Y, Hara A, et al.
Global DNA hypomethylation suppresses squamous carcinogenesis in the tongue and esophagus
Cancer Sci , 100 , 1186-1191  (2009)
原著論文14
Abe M, Watanabe N, Ushijima T, et al.
Identification of genes targeted by CpG island methylator phenotype in neuroblastomas, and their possible integrative involvement in poor prognosis
Oncology , 74 , 50-60  (2008)
原著論文15
Yamashita S, Takahashi S, Ushijima T, et al.
Methylation silencing of transforming growth factor-beta receptor type II in rat prostate cancers
Cancer Res , 68 , 2112-2121  (2008)
原著論文16
Arai E, Ushijima S, Kanai Y, et al.
Genetic clustering of clear cell renal cell carcinoma based on array-comparative genomic hybridization: its association with DNA methylation alteration and patient outcome
Clin Cancer Res , 14 , 5531-5539  (2008)
原著論文17
Yamamoto E, Toyota M, Shinomura Y, et al.
LINE-1 hypomethylation is associated with increased CpG island methylation in Helicobacter pylori-related enlarged fold gastritis
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev , 17 , 2555-2564  (2008)
原著論文18
Maruyama R, Toyota M, Tokino T, et al.
Cytoplasmic RASSF2A is a proapoptotic mediator whose expression is epigenetically silenced in gastric cancer
Carcinogenesis , 29 , 1312-1318  (2008)
原著論文19
Watanabe Y, Toyota M, Itoh F, et al.
PRDM5 identified as a target of epigenetic silencing in colorectal and gastric cancer
Clin Cancer Res , 13 , 4786-4794  (2007)
原著論文20
Tomita H, Yamada Y, Mori H, et al.
Development of gastric tumors in ApcMin/+ mice by the activation of the ß-catenin/Tcf signaling pathway
Cancer Res , 67 , 4079-4087  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-