新しいマテリアル創製を基盤とする運動器疾患治療法の開発

文献情報

文献番号
200921006A
報告書区分
総括
研究課題名
新しいマテリアル創製を基盤とする運動器疾患治療法の開発
課題番号
H19-長寿・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
川口 浩(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 石原一彦(東京大学 大学院 工学系研究科)
  • 高取吉雄(東京大学 医学部附属病院 )
  • 茂呂 徹(東京大学 医学部附属病院 )
  • 三浦俊樹(東京大学 医学部附属病院 )
  • 金野智浩(東京大学 大学院 工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
9,320,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、運動器疾患の新規治療法として、生体適合性と潤滑性に優れた生体内解離性ハイドロゲルを臨床応用するために必要な基礎的検討を完成させることである。このため、今年度は、至適合成条件の検討、関節軟骨保護効果の検討、組織癒着防止効果の検討、関節拘縮防止効果の検討、神経・硬膜外癒着防止効果の検討を行った。
研究方法
至適合成条件の検討では、体外排泄を考慮した合成至適条件を検討した。関節軟骨保護効果の検討では、摩擦試験機を用いて、静摩擦係数、動摩擦係数の経時的な検討を行った。組織癒着防止効果、関節拘縮防止効果、神経・硬膜外癒着防止効果の検討では、それぞれ昨年度までに確立した動物モデルを用い、新規ハイドロゲルの有効性を検討した。
結果と考察
至適合成条件の検討では、MPCポリマーとしては分子量50000以下、PVAとしては低分子量画分を除去した重合度200のポリマーを利用して、それぞれ5 wt%の水溶液を9:5以上で形成するゲルが望ましいことを明らかにした。関節軟骨保護効果の検討では、摩擦試験機での検討を行い、関節面の潤滑機構の改善、関節面の保護機構を効果的に発揮する組み合わせを確認した。組織癒着防止効果の検討では、昨年度確立したウサギの屈筋腱損傷モデルを用い、ゲルが腱組織の修復を阻害することなく周囲組織と腱との癒着を顕著に抑制することを、肉眼、組織学的、力学的な検討等により確認した。関節拘縮防止効果の検討では、昨年度確立した大腿骨骨折モデルの評価系を使用し、ゲルが接合した骨組織の治癒を阻害することなく、効果的に骨折部周囲の癒着を防ぐことを明らかにした。神経・硬膜外癒着防止効果の検討では、昨年度に確立したラット脊椎硬膜外癒着モデルを使用し、MPCポリマーゲルは脊椎硬膜周囲の瘢痕形成を抑制し、癒着を防止すること、ラットの神経を傷害しないこと、を明らかにした。
結論
今年度の研究により、MPCポリマーゲルの至適合成条件を確立するとともに、関節機能改善効果、組織癒着防止効果、関節拘縮防止効果、神経・硬膜外癒着防止効果を確認することができた。以上の成果は、新しいマテリアル創製を基盤とする運動器疾患治療法の開発を推進しうるものであった。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200921006B
報告書区分
総合
研究課題名
新しいマテリアル創製を基盤とする運動器疾患治療法の開発
課題番号
H19-長寿・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
川口 浩(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 石原一彦(東京大学 大学院 工学系研究科)
  • 高取吉雄(東京大学 医学部附属病院 )
  • 茂呂 徹(東京大学 医学部附属病院 )
  • 三浦俊樹(東京大学 医学部附属病院 )
  • 金野智浩(東京大学 大学院 工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、生体適合性と潤滑性に優れた生体内解離性ハイドロゲルを運動器疾患の新規治療法として臨床応用するために必要な基礎的検討を完成させることである。
研究方法
至適合成条件の検討では、MPCポリマー分子構造の規格化、ハイドロゲルの性状変化と解離速度の検討、蛍光分子標識型ポリマーの合成を行った。関節潤滑機構改善効果、組織癒着防止効果、関節拘縮防止効果、神経・硬膜外癒着防止効果の検討では、それぞれ動物モデルを用いた評価系を確立して検討した。
結果と考察
至適合成条件の検討では、MPCポリマーユニットの比率や体外排泄を考慮した分子量、至適混合濃度等を検討した。解離過程についてはポリマー分子内に組み込んだ機能性モノマーと糖分子との可逆的な交換反応によって任意に解離可能であることを明らかにした。関節潤滑機構改善の検討では、摩擦試験機、変形性関節症モデルでの検討を行い、HAとMPCの混合による、関節面の潤滑機構の改善、関節面の保護機構を確認した。組織癒着防止効果の検討では、ラット、鶏、ウサギの筋腱損傷モデルを確立し、これらの評価系を用いてMPCポリマーゲルが腱組織の修復を阻害することなく周囲組織と腱との癒着を顕著に抑制することを、組織学的、生体力学的な検討等により確認した。関節拘縮防止効果の検討では、マウスの大腿骨を骨折させ内固定を行った後に骨折の治癒・関節拘縮を観察する実験モデルを確立し、この評価系を使用し、ゲルが接合した骨組織の治癒を阻害することなく、効果的に骨折部周囲の癒着を防ぐことを明らかにした。神経・硬膜外癒着防止効果の検討では、顕微鏡視下にラットの椎弓切除を行って癒着を誘発する実験系、およびその評価方法を確立し、ゲルが脊椎硬膜周囲の瘢痕形成を抑制し、癒着を防止すること、ラットの神経を傷害しないこと、を明らかにした。また、ゲルは、内部への細胞移動性を抑制することで組織癒着を防止すること、また細胞生存性には影響せずにこの効果を発揮していることを明らかにした。
結論
以上の結果は、新規運動器疾患治療法の開発への推進を得るに十分な結果であった。本研究開発によりこれらの新規治療法の有効性が証明できれば、高齢者の生活の質(QOL)の維持・改善とともに支援介護費用までも含めた医療費の削減、労働力という社会資本の確保、当該分野での国際競争力の獲得に多大な貢献が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200921006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の目的は、生体適合性と潤滑性に優れた生体内解離性ハイドロゲルを運動器疾患の新規治療法として臨床応用するために必要な基礎的検討を完成させることである。至適合成条件の検討では、ポリマー分子構造の規格化、ハイドロゲルの性状変化と解離速度の検討、蛍光分子標識型ポリマーの合成を行った。関節軟骨保護効果、組織癒着防止効果、関節拘縮防止効果、神経・硬膜外癒着防止効果の検討では、それぞれ動物を用いた疾患モデルを確立してゲルを投与し、疾患の治癒を妨げることなく癒着・拘縮を防止することを明らかにした。
臨床的観点からの成果
高齢社会となったわが国において、支援や介護を要する高齢者が急激に増加傾向を示している。この傾向は国外でも同様であり、2000年からWHOが「運動器の10年」の世界運動を行うなど、運動器疾患を克服し、終生健やかに身体を動かすことができる生活の質(QOL)が保証される社会の実現を目指す気運が高まっている。本研究の成果は、これまで有効な治療方法を確立しえなかった骨・関節・筋肉(腱)・神経の疾患、外傷・手術後の合併症に対する画期的な治療法の創出するものであり、高齢者の自立喪失を防ぐことが期待できる。
ガイドライン等の開発
本研究開発は基礎研究であり、現時点では本項目に該当する内容のものはない。今後の実用化研究は、厚生労働省医薬審発第0213001号「医療用具の製造承認申請に必要な生物学的安全性試験の基本的考え方について」のガイドラインに従って推進する。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果は、組織癒着や関節拘縮防縮など、現時点で有効な治療法が確立されていない新規運動器疾患に対する治療法の開発への推進を得るに十分な結果であった。今後、本研究成果を実用化することができれば、高齢者の健康寿命の延伸、生活の質(QOL)の維持・改善が期待できる。また、これらの運動器疾患は高齢者のみならず、世界中の中壮年者、関節リウマチ患者においても深刻な疾患となっており、支援介護費用までも含めた医療費の削減、労働力という社会資本の確保、当該分野での国際競争力の獲得に多大な貢献が期待できる。
その他のインパクト
本研究に関連した内容は2008年9月16日付け化学工業日報で報道された。今後、本研究成果を学会発表・学術論文として、引き続き学術的に国内外に公開していく。また、本基礎研究成果の実用化を進めていく過程においては、これまでの医薬品、医療機器への臨床応用研究・実用化の経験をいかし、プレスリリース、公開シンポジウムの開催、ホームページの利用等を通じ、広く社会に情報発信をしていく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
38件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
135件
学会発表(国際学会等)
65件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishiyama N, Moro T,Kawaguchi H, et al.
The prevention of peritendinous adhesions by a phospholipid polymer hydrogel formed in situ by spontaneous intermolecular interactions.
Biomaterials , 31 (14) , 4009-4016  (2010)
原著論文2
Ishiyama N, Moro T, Ohe T, et al.
Reduction of peritendinous adhesions by hydrogel containing biocompatible phospholipid polymer MPC for tendon repair.
J Bone Joint Surg Am , 142-149  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-