光受容体メラノプシンを制御する光フィルターを用いた早産児発達障害を予防する次世代人工保育器の開発

文献情報

文献番号
200917008A
報告書区分
総括
研究課題名
光受容体メラノプシンを制御する光フィルターを用いた早産児発達障害を予防する次世代人工保育器の開発
課題番号
H20-トランス・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
太田 英伸(国立大学法人 東北大学 東北大学病院)
研究分担者(所属機関)
  • 松田 直(国立大学法人 東北大学 東北大学病院)
  • 池田 智明(国立循環器センター)
  • 小田桐 直子(アトムメディカル株式会社)
  • 本間 直樹(アトムメディカル株式会社)
  • 飯郷 雅之(国立大学法人 宇都宮大学 農学部)
  • 守屋 孝洋(国立大学法人 東北大学大学院 薬学研究科)
  • 仲井 邦彦(国立大学法人 東北大学大学院 医学研究科)
  • 齋藤 潤子(宮城県立こども病院)
  • 渡邉 達也(宮城県立こども病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
27,727,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
早産児が妊娠28週から光を知覚し、常に明るい光環境が体重増加を妨げ、昼夜差がある光環境が発育を促すことが知られている。また新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit: NICU)の不規則な光環境が精神・神経発達に影響することも指摘されている。しかし早産児に救命医療を行うNICUでは治療のための人工照明が夜間必要であり、児の発達に適切な昼夜差がある光環境を選ぶのか、医療行為に適切な恒明環境を選ぶのか、ジレンマが存在する。そこで本研究では医療スタッフは保育器内を観察できる一方で、保育器内の早産児が光を知覚できない特殊な光フィルターを開発し、夜間保育器カバーとして装着する新しいタイプの保育器開発を目的とする。
研究方法
この次世代人工保育器(光フィルター保育器)の効果を検証するため、本研究では、1)光フィルター保育器による人工昼夜の作成、2)人工昼夜により児の生物時計を医工学的に駆動させた際の、身体発達、行動リズム、自律神経活動、成長因子・ストレス関連ホルモンの分泌の評価の確立、3)退院後の発達支援外来における身体精神発達評価の開始、の3段階の研究計画を作成した。早産児のエントリーについては、東北大学病院・国立循環器病センター、宮城県立こども病院の3医療機関において光フィルター保育器を設置し平成21年度までに早産児35名をフォローした(予定症例数の70%)。
結果と考察
1)人工昼夜の作成;平成20年度に光フィルター保育器の開発を終了した。
2)光フィルター保育器の効果判定(NICU入院期間);主要評価項目である身体発達(身長・体重・頭囲・皮下脂肪)及び、副次評価項目である行動リズム、自律神経活動、成長因子、ストレス関連ホルモンの評価を行った。その結果、平成21年度において光フィルター保育器がNICU入院中の早産児の睡眠覚醒の発達を妊娠34週相当の発達段階から促すことを確認できた。
3) 光フィルター保育器の効果判定(NICU退院後);身体発達調査に加え平成21年度より修正7・10ヶ月齢のベイリー式発達検査を参加医療機関で開始した。その結果、現時点で修正3-4ヶ月齢において退院後の体重増加を促進する可能性を確認した。
結論
以上の結果は早産児の発達に対する光フィルター保育器の有効性を示すものであり、今後予定症例数を終了した時点で再度最終的な評価を行う(現時点で予定症例数の70%を終了)。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200917008B
報告書区分
総合
研究課題名
光受容体メラノプシンを制御する光フィルターを用いた早産児発達障害を予防する次世代人工保育器の開発
課題番号
H20-トランス・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
太田 英伸(国立大学法人 東北大学 東北大学病院)
研究分担者(所属機関)
  • 松田 直(国立大学法人 東北大学 東北大学病院)
  • 池田 智明(国立循環器病研究センター)
  • 小田桐 直子(アトムメディカル株式会社)
  • 本間 直樹(アトムメディカル株式会社)
  • 飯郷 雅之(国立大学法人 宇都宮大学 農学部)
  • 守屋 孝洋(国立大学法人 東北大学大学院 薬学研究科)
  • 仲井 邦彦(国立大学法人 東北大学大学院 医学研究科)
  • 齊藤 潤子(宮城県立こども病院)
  • 渡邉 達也(宮城県立こども病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
早産児が妊娠28週から光を知覚し、常に明るい光環境が体重増加を妨げ、昼夜差がある光環境が発育を促すことが知られている。また新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit: NICU)の不規則な光環境が精神・神経発達に影響することも指摘されている。しかし早産児に救命医療を行うNICUでは治療のための人工照明が夜間必要であり、児の発達に適切な昼夜差がある光環境を選ぶのか、医療行為に適切な恒明環境を選ぶのか、ジレンマが存在する。そこで本研究では医療スタッフは保育器内を観察できる一方で、保育器内の早産児が光を知覚できない特殊な光フィルターを開発し、夜間保育器カバーとして装着する新しいタイプの保育器開発を目的とする。
研究方法
この次世代人工保育器(光フィルター保育器)の効果を検証するため、本研究では、1)光フィルター保育器による人工昼夜の作成、2)人工昼夜により児の生物時計を医工学的に駆動させた際の、身体発達、行動リズム、自律神経活動、成長因子・ストレス関連ホルモンの分泌の評価の確立、3)退院後の発達支援外来における身体精神発達評価の開始、の3段階の研究計画を作成した。早産児のエントリーについては、東北大学病院・国立循環器病センター、宮城県立こども病院の3医療機関において光フィルター保育器を設置し平成21年度までに早産児35名をフォローした(予定症例数の70%)。
結果と考察
1)人工昼夜の作成;平成20年度に光フィルター保育器の開発を終了し、光フィルターを保育器に夜間装着することにより、早産児に人工昼夜を提供できることを光生体工学的に確認した。
2)光フィルター保育器の効果判定(NICU入院期間);主要評価項目である身体発達(身長・体重・頭囲・皮下脂肪)及び、副次評価項目である行動リズム、自律神経活動、成長因子、ストレス関連ホルモンの評価を行った。その結果、現時点で光フィルター保育器がNICU入院中の早産児の睡眠覚醒の発達を妊娠34週相当の発達段階から促すことを確認できた。
3) 光フィルター保育器の効果判定(NICU退院後);修正4ヶ月より調査を開始し乳幼児睡眠発達調査に加え、7ヶ月齢以降は国際標準であるベイリー式発達検査を参加医療機関で行っている。その結果、現時点で修正3-4ヶ月齢において退院後の体重増加を促進する可能性を確認した。
結論
以上の結果は早産児の発達に対する光フィルター保育器の有効性を示すものであり、今後予定症例数を終了した時点で再度最終的な評価を行う(現時点で予定症例数の70%を終了)。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200917008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
早産児が妊娠28週から光を知覚し、恒明環境が体重増加を妨げ、明暗環境が発育を促すことが知られている。また新生児集中治療室NICUの不規則な光環境が精神・神経発達に影響することも指摘されている。しかし救命医療を行うNICUでは人工照明が夜間必要であり、児の発達に適切な明暗環境を選ぶのか、医療行為に適切な恒明環境を選ぶのか、ジレンマが存在する。そこで我々は保育器内を観察できる一方で、早産児が光を知覚できない特殊な光フィルターを開発し、保育器に夜間装着することにより人工昼夜を作成可能とした。
臨床的観点からの成果
この次世代人工保育器(光フィルター保育器)の効果を検証するため、本研究では、1)人工昼夜を保育器に導入した際の入院中の早産児の身体発達、行動リズム、自律神経活動、成長因子・ストレス関連ホルモンの分泌の評価、2)退院後の発達支援外来における睡眠発達・身体精神発達の評価を行った。その結果、光フィルター保育器がNICU入院中の早産児の睡眠覚醒の発達を妊娠34週相当の発達段階から促し、修正3-4ヶ月齢においては退院後の体重増加を促進する可能性を確認し、光フィルター保育器の有効性が示された。
ガイドライン等の開発
光生体工学を用い早産児の光センサー「メラノプシン」の働きを明らかにし、最適なNICU光環境を世界で初めて科学的に定義した。また国際学会を通じてNICU光環境のガイドライン案を発表した。1)Akiyama S,et al.36th Fetal and Neonatal Physiological Society 2009(Arrowhead, USA)Sep.2009.2)太田英伸ら.第6回アジア睡眠学会・日本睡眠学会第34回定期学術集会・第16回日本時間生物学会合同大会2009年10月25日大阪
その他行政的観点からの成果
1) 日本の早産児出生率は増加傾向にあり総出生数の1割にあたる。本研究は光生体工学の視点から新生児集中治療室NICUの保育環境を再評価し、早産児の身体精神障害を予防する光環境を特定することにより、従来の診療水準全般を底上げできる新しいNICU環境を開発した。2) 夜間NICU全体の照明を過度に落とす環境と比較して、光フィルター保育器を使用することにより医療事故の軽減にもつながる(労働安全衛生法では70ルクス以上の照度が奨励されている)。
その他のインパクト
新聞:1) 2008年7月2日,東京新聞,夕刊 「母の食事リズム 胎児に遺伝?」.2) 2008年7月13日,毎日新聞,朝刊,科学欄 「胎児の生物時計、母の食習慣が影響」.
放送:1) 2010年4月1日,日本放送協会,サイエンス・ZERO「時計遺伝子の正体?生命リズムの謎に迫る」.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計8件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hanita T,Ohta H,Matsuda T.et al.
Monitoring Preterm Infants’ Vision Development with Light - only melanopsin is functional.
Journal of Pediatrics. , 155 , 596-596  (2009)
原著論文2
Ohta H, Xu S, Moriya T.et al.
Maternal feeding controls fetal biological clock.
PLoS ONE. , 3  (2008)
原著論文3
太田英伸
早産児・新生児の視覚環境
知覚・認知の発達心理学入門-実験で探る乳児の認識世界 , 121-132  (2008)
原著論文4
太田英伸
光環境が早産児・新生児の脳に与える影響:新しい光受容体「メラノプシン」のもつ意味.
Biophilia. , 4 (1) , 59-62  (2008)
原著論文5
Bastos GN,Moriya T,Inui F.et.al
nvolvement of cyclooxygenase -2 in lipopolysaccharide-induced impairment of the newborn cell survival in the adult mouse dentate gyrus.
Neuroscience. ,  (155) , 454-462  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-